響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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ダブルデート

 

 「はい。と言うわけでこれからダブルデートを開催いたします」

 

 「こう言うのって宣言するもんなの?」

 

 高らかな中川のデート宣言に、忍がツッコむ。六地蔵の駅の前では2人組の男女。男子は忍、滝野。女子は優子、中川と言った組み合わせだ。部活終わりなので4人とも制服を着ており、正に学校帰りといった様相だ。

 

 「もー、ノリ悪いなぁ、アッキーは。こう言うのはちゃんと楽しまないとー」

 

 相変わらず中川はヘラリとした笑みを浮かべてそう言う。急遽決まったダブルデート。中川と滝野は楽しそうだが、忍と優子に関しては突然の事であまり乗り切れていない様子だった。

 

 「たまには息抜きも必要って事でよ、中川が企画してくれたんだ」

 

 そんな2人を見てフォローする様に滝野がそう言う。それはそれで嬉しい事なのだが、優子としては気掛かりな事が一つあった。

 

 「……アンタらって、付き合ってたの?」

 

 中川と滝野の関係である。何となくお互いに気があるのかなとは思っていたが、付き合ったと言う話は聞いていなかったので、このデートの組み合わせには彼女も少々驚いていた。

 

 「んー、どうかなー?滝野はアタシたちって、付き合ってると思う?」

 

 中川が揶揄う様に滝野に目配せしてそう言うも、

 

 「……ふーん、デートに誘ってくれた時はあんなに緊張してたのになー」

 

 「ば、バカ!そう言う事は言わないでよ!デリカシー無いなあ!」

 

 滝野から綺麗なカウンターを喰らい、少し顔を赤らめる中川。……なるほど、そう言う距離感かと、優子は意地の悪い笑みを浮かべた。

 

 「……へぇー、ふーん。そう言う感じかぁー……」

 

 「………誘ったの間違いだったかな……」

 

 優子の顔は完全に新しいオモチャを見つけた時のそれだ。目を薄めて薄ら笑いを浮かべている。散々忍の件で揶揄われてきたのでここいらで仕返しをするつもりなのだろう。中川もそれを感じ取ったのか居心地の悪そうな表情をしている。

 

 「そいで、デートって言ってもどこ行くの?」

 

 少しズレたが、忍が本題へと戻す。駅まで来たと言う事は、電車に乗ると言う事だろうか?

 

 「ああ、楽器屋行こうと思ってな」

 

 思い出したかの様に、滝野がそう言う。

 「楽器屋?なら反対方向だけど」

 

 「いつものとこじゃなくて、市内の楽器屋。デートらしく偶には違うとこも行ってみようって事だよ」

 

 「なるほど。京都駅まで出れば色々あるもんねー」

 

 「そう言う事。時間余ったら周りで時間も潰せるしな」

 

 どうやらプランについても色々考えて来てくれた様だ。中川と打ち合わせでもしていたのだろう。それならば、存分に甘えさせて頂こう。

 

 「それじゃあ、今日のエスコートはなつきちとタッキーに任せちゃおうかな?」

 

 

 

 __________________________

 

 

 

 

 「うおっ、広いなー」

 

 「いつものところより色んなものがあるわね」

 

 楽器屋に入り、感心した様に忍と優子は感想を漏らす。木目調の落ち着いた店内には様々な楽器が飾ってあり、その中でも管楽器の種類はピカイチで、様々な楽器がショーケースに飾られていた。

 

 「うわすっご。めっちゃ種類あんじゃん」

 

 楽器を愛する者としてこの環境に興奮しない訳もなく、目を輝かせて忍はすぐさまショーケースに飛びつく。着いてくる様に優子も同じく楽器を一緒に見始めた。

 

 「へぇー。あんまり見ない楽器とかもあるのね」

 

 展示されている楽器の種類が示す様に、北宇治には無いものもちらほら見かける。優子の方も興味津々で、2人して楽しそうに楽器を眺めていた。

 

 「お!?見てみろ優子、コルネットがあんぞ!」

 

 「ちょ、ちょっと!?あんま大きい声出すんじゃないわよ!?」

 

 少々はしゃぎ過ぎな気もするが。

 

 

 「……場所は正解だったかな?」

 

 「そうだな。まあアッキーが楽器オタクってのもあるけど」

 

 そんな光景を見て、このデートを企画した2人も安心した様に微笑む。

 

 「……いい息抜きになったなら、良かったかな?」

 

 ポツリと、前の2人に聞こえない様に中川がそう呟く。

 

 「……それ、吉川本人に言ってやれば?」

 

 「絶対ヤダ」

 

 デートを企画する程に気が効くのにこう言うところは素直では無いらしい。それも彼女らしいと言えば良いだろうか。

 でも、そんな優しさも中川の魅力の一つなのだろう。そう思うと、滝野も自然と笑顔になる。

 

 「……ちょっとー、何笑ってんのー?」

 

 「いや、なんか中川らしいなって思って」

 

 「は?何それ?」

 「優しい奴だなって」

 

 「………うっさい」

 

 どうも褒められるのは苦手な様で、滝野の褒め言葉に素っ気なく返す中川。しかしその顔は少し赤く染まっていた。

 

 「せっかく来たんだから、俺らも楽しもうよ」

 

 そう言って、滝野は手を差し伸べる。こんな良い女性なら、喜んでエスコートしたい。

 

 「……なーに?らしく無い事しちゃって?」

 

 大胆な滝野に少し驚くも、中川は揶揄う様にそう返す。

 

 「じゃあ、辞める?」

 

 「いーや、辞めない」

 

 そう言って、中川は差し伸べられた手を素直に繋いだ。

 

 

 _______________________

 

 

 

 「いやー、満足満足。ナイスチョイスであったぞ?タッキー。褒めてしんぜよう」

 

 「何でそんな偉そうなんだよ」

 

 場所は変わって、市内のファミレス。満足度は忍の顔に存分に出ていて、ツッコむ滝野も満更でも無さそうだった。

 

 「ちょっとはしゃぎ過ぎよ!店員さんに『良かったら試しに吹いてみますかー?』って言われた時なんてすごい恥ずかしかったんだから!」

 

 対して優子は少し怒っている。あの楽器屋で忍が一番惹かれたのはコルネットで、まるで手の届かない楽器を見つめ続ける少年の様にずーっと食い入る様に見ていたら、店員さんに声を掛けられたのだ。中身は高校2年生だが。

 

 「でもなー、吹いてみたかったよなー……」

 

 唯一の心残りと言えば、マウスピースを持って来て無かったので試奏が出来なかった事だろう。わざとらしく落ち込んでいる。

 

 「そんなに良いの?あの楽器」

 

 あまりにも落ち込んでいる様子なので中川がそう聞く。見た目としては普通のb管トランペットとさほど変わらないが、そこから少し太らした様なものだった。

 

 「まあね。俺のお母さんも好んで吹いてたし。見た目は結構似てて音もまあ似てるんだけど実際吹いてみると結構違うんだよー?」

 

 「ふーん。どんな違いがあんの?」

 

 「そうだねぇ……b管が優子ならコルネットはなつきちって感じ」

 

 「全然分かんないって」

 

 楽器を人に例える独特の感性で忍は説明するが、中川には伝わって無かった様だ。どう説明しようかと忍は再度腕を組んで考える。そして面白がる様な顔になって口を開いた。

 

 「b管は派手さはあるけどやかましいって感じだけど、コルネットは柔らかくて包み込む様なイででででで!!」

 

 「誰がやかましいよ」

 

 忍が皆まで言う前にすぐさま耳を引っ張る優子。間違いなく確信犯だ。ただまあ、似ている様で中身は全然違うと言う部分では的を得ていると言えるだろう。

 

 「あははっ!そっかー。アタシは優しくて包み込む様な感じで、優子はやかましくて落ち着きが無いって感じかー」

 

 「悪いところを誇張してんじゃ無いわよ!!」

 

 そして案の定忍の悪口に中川が乗っかる。2人ともこの音の出るオモチャを存分に楽しんでいる様だ。

 

 

 

 ______________

 

 

 

 「じゃあ、俺らこっちだから。タッキーもちゃんとなつきち送りなよ?」

 

 「アッキーこそ途中で吉川置いて帰んなよ?」

 

 「俺そんなに酷い人間って思われてる?」

 

 デートも終わり、後は互いを家まで送るだけ。駅の改札を出た忍がそう言うと、返す刀で滝野もそう返す。時刻はもう夜もいい時間で、流石に女性1人ではと言う時間帯だった。

 

 「今日は楽しかったわ。ありがとう、2人とも」

 

 すると、優子の方から素直な言葉が出る。こう言うところは彼女らしいと言えるだろう。直接的な言葉に中川と滝野も照れる様な仕草をしている。

 

 「お前ら忙しかっただろうからな。ちょっとでも気分転換できたんなら良かったよ」

 

 照れながらも、滝野がそう返す。ここ数日、少しながら強張っていた忍と優子の表情は、今日で随分とほぐれた様に思えた。それだけでも、このデートを企画した甲斐があったと言うものだ。

 

 「じゃあ、また明日な」

 

 「じゃあねー」

 

 そして各々別れの挨拶を告げ、帰路に着く。冬の夜は冷え込んでいて、マフラーをしていても身を窄める程に寒かった。

 

 「じゃあ優子、帰んべ」

 

 駐輪場から自転車を引き出すと、いつもの様に台車を叩きながら忍がそう言う。そしてこちらも慣れた様に台車に座ると、ゆっくりと走らせる。

 

 「ねえ、忍?」

 

 「何?」

 

 「次は、私たちがどこに行くか決めよっか?」

 

 「……そうだね」

 

 背中に確かな温もりを感じながら、この女性を選んだのは間違い無かったなと、再確認する忍だった。

 

 

 




なんか微妙にお気に入り増えてるなーって思ったら一瞬だけランキングに載ってたっぽいです。ランキングってすごいね。

お陰でお気に入りも1000件突破。ありがたい限りです。終わりまであと少しなのでもうしばしお付き合いして頂ければと思います。
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