響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

144 / 144
確信犯

 

 クリスマス

 

 世の紳士淑女が良き思い出を残そうと一念発起するこの日は、街中に男女2人で溢れ返る。

 カップル、アベック、パートナー、恋人など様々な呼び方があるが、お互いに矢印が向き合っていてこそ、この12月25日の最重要イベントは成功する。

 北宇治高校も例に漏れず、校舎内は落ち着かない男女ばかり。滝先生も気を利かしてか、今日の吹部は幾分か早く終わったのだが、音楽室ではまだ音が響いていた。

 

 「………今日って、クリスマスよね?」

 

 窓の外から帰って行く生徒達を見ながら、優子は死んだ目でそう呟く。

 

 「そうだけど?」

 

 対して忍は怖いぐらいにいつも通り。先程の演奏のポイントをまとめてるのか、スコアにメモを取っている。

 優子とて多感な女子高生。クリスマスのこの日が如何に大事かは理解している。

 今日とて、部活終わりに忍から話しかけられた時は、それはもう気分ブチ上がり。どんな言葉で忍に返事をしようか。そればかりを考えていた。

 

 

 『優子、今日は16小節からのところ重点的にやんべ』

 

 『…………………はい?』

 

 

 しかし、その期待はあっけなく崩れ去った。忍の発言に信じられない顔を見せたのは優子だけでは無く、そこに残っていた他の部員でさえも同じ様な反応をしていた。ただ一人、中川だけは笑うのを必死に堪えている様子だったが。

 ともかくもこの特別な日にやってる事はいつもと変わらないと言うのが、吉川優子の目を死なせている一番の要因だった。

 家族には今日は帰るの遅いともう伝えているのに、どうすれば良いのか。

 

 「………忍、今日ってなんで部活が早く終わったのかしらね?」

 

 「そりゃ、クリスマスだからでしょ?」

 

 「そうね。そこは分かるんだね。すごいね」

 

 「何当たり前な事言ってんの?」

 

 優子の渾身の皮肉も通じず、首を傾げる忍。限界が近づいているのか、優子の額には青筋が浮かんでいる。

 

 「……今日って、男の子と女の子で二人っきりで過ごす日よね?」

 

 「おう、良かったな。今俺ら二人きりじゃん」

 

 しかし忍のその返しに、遂に優子の怒りは限界を迎えてしまった。物凄い顔をしてカツカツと忍の方に詰め寄る。

 

 「ちょ、ちょっと、優子さん?よ、様子がおかしくあられまして?」

 

 あまりの剣幕に変な口調になりながら後退りをする忍。そして壁まで詰め寄ると、逃がさまいと優子は両手で忍を囲む様に壁を強く叩く。

 壁ドンだよ。ドキドキするね。

 

 「……私ねぇ……今日さぁ……親に“帰るの遅くなる”って言ってるのよねぇ……秋川さんにはこれがどう言う事か分かりますぅ?」

 

 互いの鼻先が引っ付きそうな程の距離感で、優子が詰め寄る。こんなの、もっとドキドキしちゃうね。

 

 「えぇ?えーっと、そうですね?……おめでとうございます?」

 

 「おめでてーのは貴様の頭じゃああああああ!!!!!」

 

 怒りに任せた叫び声を上げながら、忍は優子に襲われる。神聖な音楽室にあるまじき光景がそこにはあった。

 

 「ごめんごめんごめん!!冗談!冗談だから!!だからそこは触んなって!!ああっ!!ダメダメダメ!!!」

 

 どんな光景かは割愛させて頂くが、そうされても仕方ないムーブをかましたのは事実。しっかりとお仕置きを食らう忍だった。

 

 

 _____________

 

 

 

 「別に、何も考えてなかった訳じゃ無いって」

 

 「ふんっ、じゃあ最初からそう言っときなさいよ」

 

 茶番も落ち着き、もう陽も沈みかけている。優子の方はまだ少し怒っている様子だった。まあクリスマスにこの様なおちょくり方をされれば誰だって怒る。

 

 「別に部活終わりでそのまま一緒に帰っても良かったんだけどさー、それじゃあ二人っきりになれないじゃん?」

 

 「……そう言うのを先に言っとけって言ってんのよ!」

 

 相変わらず言葉が足りない忍に、優子のカミナリが落ちる。意図的に自主練に誘って二人きりの空間を作ってくれたのは良いが、やり方がやり方だ。明日からまたあられも無い噂が吹部内で流れると思うと、早くも頭痛のする優子だった。

 

 「……うーん、生徒ももうほとんど帰ってるねぇ」

 

 窓の外を見ながら、忍はそう言う。優子の心労を加味しなければ、この二人きりになる作戦は成功な様だ。

 

 後は、この二人がどうするか。

 

 

 「………こ、この後はどうすんのよ?」

 

 

 緊張気味に、しかし期待を滲ませながら、優子がそう聞く。そしてその言葉に、待ってましたと言わんばかりに忍は微笑んだ。

 

 

 

 「俺ん家、行こっか?」

 

 

 

 「…………え?」

 

 

 

 それは、優子にも予想出来なかった提案。

 今日は、12月25日、クリスマス。世の紳士淑女が、良き思い出を作ろうと一念発起する、特別な日。

 

 そんな日に、好きな人から家に来ないかと言われたら。

 

 

 

 「〜〜〜〜っ!!!!」

 

 

 

 顔を真っ赤に染め、声にならない叫び声を上げるしか無いのだ。

 

 

 

 ________________________

 

 

 

 北宇治高校から秋川家へは、自転車で20分ほど。

 坂道を下り、南に走らせ、宇治橋を渡って数分のところに、彼の家がある。いつもなら5分ほどで駅に着くのだが、今日は20分。荷台に二人乗りをする事になる。

 

 「おー、おー。どっちを見てもカップルまみれですなぁ」

 

 「………そうね」

 

 道中はいつも途絶える事のない会話を続けている二人だが、今日は少し雰囲気が違う。いつもより長く二人乗りをしているからなのか、それともこの後の事を想像しているのか。

 宇治橋の周辺はいつもより人が多く、そのほとんどが男女のペアの様に見える。

 

 「……私たちも、そう見えてるんじゃない?」

 

 宇治橋の上。少し緊張した様な声色で、優子がポツリと呟く。

 

 「えー?なんだってー?」

 

 しかし橋の上で風切り音がうるさいのか、忍の耳に届く事は無かった。

 

 「………うっさいバカ!!」

 

 「うおっ!優子!強すぎだって!!」

 

 照れを隠す様に、優子は強く忍の腰を抱き締める。ついでに真っ赤になった顔を隠す様に、忍の背中に顔を埋めていた。

 

 

 _____________

 

 

 

 「……着いたよ」

 

 宇治橋を越えて数分。荷台から降りて、優子は秋川家の外観を見る。至って普通の2階建の一軒家。一度風邪のお見舞いで来た事があるが、その時よりも何倍も緊張する。

 なんだか既視感があるなと思ったら、花火大会の時と状況が似てる。あの時も当日に急遽吉川が家に誘ったのだ。……ならば、この状況は忍が仕組んだものではないか?

 

 「………ねえ、忍が今日家に誘ったのって、花火大会の時のお返し?」

 

 「お、よく分かったじゃん。あの時はめっちゃ緊張したかんねー。優子にもその気持ち味わって貰おうと思って」

 

 意地悪そうに忍がそう言うと、吉川の鼓動が少し早くなる。

 

 確かあの時は、両親が居ないタイミングを狙って忍を誘ったのだ。

 

 そして忍がそのお返しをすると言う事は、“そう言う状況”も十二分に考えられる訳で。

 

 

 

 「……ねえ忍?……今日って、家に家族居るの?」

 

 

 

 震えた声で、優子はそう聞く。そして忍はやっと聞いて来たかと意地悪そうな笑顔を優子に向ける。

 

 

 

 「いや、俺たちだけだよ?」

 

 

 

 この状況、どうやら確信犯らしい。

 




甘すぎ注意報(遅い)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

想いを音色に乗せて(作者:猫柳/nekoyanagi)(原作:響け!ユーフォニアム)

▼ 両親を早くに亡くし、バイトと勉学、音楽の両立に四苦八苦しながら北宇治高校吹奏楽部で己の理想の音色をトランペットで表現しようと頑張る男の子の物語。▼ 原作終了後、大学以降の物語も書きたいなぁと思っております。▼ クロスオーバーは迷っているので念の為です。原作の間に出すことは恐らくないです。▼ キャラタグ一旦消去させていただきます。▼ 青のオーケストラ要素ち…


総合評価:1842/評価:8.96/連載:18話/更新日時:2026年03月09日(月) 19:00 小説情報

いつか途切れた、音の続きを(作者:いつかの音色)(原作:響け!ユーフォニアム)

 中学二年生のあの時、私は間違えた。私の行動一つで部が崩壊してしまうと、あの時の私は知らなかった。そして、私は逃げてしまった。▼ 周囲への気配りが足りなかった。みんなが何を考えているか、なんて全然考えていなかった。何より、心が弱かった。▼ もう二度と、同じ過ちは繰り返さない。私はもう絶対に、逃げたりしない。▼ ▼△▼ 南中出身、音楽チートの主人公を黄前世代に…


総合評価:3578/評価:8.98/連載:22話/更新日時:2026年06月21日(日) 20:00 小説情報

北宇治のまえせつさん(作者:コーヒーまめ)(原作:響け!ユーフォニアム)

矢田明宏、15歳。和歌山の孤児院から引き取られ京都は北宇治へ。そんな未踏の地で織りなす高校生活とは。▼以前投稿していた『黒江真由との短編──或いは、こんな居場所──』という作品を長編として練り直し投稿したものです。


総合評価:1651/評価:8.92/連載:28話/更新日時:2026年06月05日(金) 18:02 小説情報

ダブルリードの苦労人(作者:桜紅月音)(原作:響け!ユーフォニアム)

北宇治高校吹奏楽部に所属する彼こと鈴木拓哉は苦労人である。▼部長である小笠原晴香や同じダブルリードのパートリーダーである喜多村来南、同級生の吉川優子を始めとした吹奏楽部のメンバーに苦労している。▼更には、部活の雰囲気も変わって更に苦労が…▼分岐ルートは、原作、アニメが混ざっております。▼ご視聴の際はご注意願います。▼*投稿済みの話を順次進行形で修正中▼久美子…


総合評価:385/評価:7.93/連載:126話/更新日時:2026年06月16日(火) 00:00 小説情報

音と共にある人生(作者:Taku-One)(原作:響け!ユーフォニアム)

▼ 現代日本で物理学の研究にのめり込んでいた主人公は、ある日突然、自身の研究が世界のノーベル賞の最終選考にノミネートされるという栄誉を得る。▼ 当然ノーベル賞を獲得するなんてことは期待していないが、候補に残っただけでも嬉しいことで、その日は研究メンバーで馴染のバーで仲間とお祝いをしたのであった。▼ しかし調子に乗って飲み過ぎてしまったことでアル中で死んでしま…


総合評価:4681/評価:8.88/連載:20話/更新日時:2025年07月23日(水) 03:58 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>