響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
「おー、でっけー」
走る車の窓の外。見えるのは、世界最大の吊り橋である明石海峡大橋。宇治から高速で2時間ほど。もうそろそろ淡路島へ上陸と言ったところだ。
「へえー、思ったより大きいのね」
車内、忍と優子は橋の大きさにそれぞれの関心を寄せている。忍は少年のように橋の大きさに心躍り、優子はその壮大さに感動している様だった。
「あと30分程で着くぞ。2人とも準備を怠らない様に」
そして引率の松本先生は運転手だ。ハンドルを両手で握りながら、いつもの凛とした口調でそう言う。
「俺、淡路島初めてだわ。やっぱなんか宇治とは違うっぽい?」
「私は家族と何回か来たことあるわ。冬に来るのは初めてだけど」
「えー、いいなー。なんか雰囲気もバカンスって感じ」
「まあ、南国っぽいのはそうかもね」
しかし言われた当の2人は、これから合宿だと言うのに緊張感の欠片も無かった。会話の内容は遊びに来たそれだ。
「………貴様ら、遊びに来てるんじゃ無いんだぞ」
なんだか浮ついた雰囲気に、再度松本先生が締めるようにそう言う。普段音楽には真摯に向き合ってはいるが、こう言うところはまだ子供っぽい。
「分かってますよー。てかそっちの方が俺は楽しみですわ」
ケラケラと笑い飛ばしながら、忍がそう返す。あいも変わらず自由なこの男に、早くも軽いため息の出る松本先生だった。
「そう言えば、合宿って結局何人くらいでどんな楽器の人が来るんです?」
すると、今度は優子の方から先生に質問が来る。合同で合宿をするのはいいが、事前情報としてそれは知っておきたい。
「最終的には16人になったな。楽器は同じトランペットから木管、打楽器とそれぞれだ。それと、今回は特別顧問として外部の先生を呼んでいる」
「「特別顧問?」」
この合宿で初めて聞く言葉に、忍と優子の声が重なる。外部から人を呼ぶとは、随分と大掛かりだ。
「ああ。もう引退なさった方だがな。元々は強豪校で吹奏楽部の顧問もしていた名のある先生だ」
松本先生の説明に忍は納得した様に頷く。と言うことは……
「へぇー。じゃあ"色んな音を知ってる"って感じの人かー」
忍としては初めて会うタイプの指導者だ。中学、高校と吹奏楽部の顧問は"経験が浅い"か"指導力に乏しい"指導者しか居なかった。この様な場に呼ばれると言うことはそのどちらも兼ね備えている先生と言う認識で間違いないだろう。
「場数も多く踏んで来ている方だ。そう言う意味では滝先生よりも学べる事が多いだろう。貴重な時間だ。今のうちに聞きたい事を整理しておくといい」
松本先生も教育者としてその重要性を理解していた。この合宿での目的、外部からの吸収と言う意味ではこれ以上に無いチャンスだ。
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「着いたぞ。入り口の前に車を停めるから先に荷物を下ろしておけ」
島に入ってから20分ほど。着いたのは、小高い丘の上の合宿所。外観だけ見れば多少の古さは感じるが、大きさは申し分ない建物だった。
松本先生に言われるがままに、忍と優子は荷物を下ろす。
「私は車を駐車場に停めてくる。あまり遠くには行くなよ?」
そう言って先生は再び車を走らせる。遠くに行くなとは言ったもののそう言われてこの男が素直に従うわけが無い。2人して周辺の景色を軽く散策する。ふと、見通しの良い場所に出ると、この島らしい光景が広がっていた。
「おー!優子!海見えんぞ!!」
「あ、ホントね。良いじゃない、ここ」
ここは島の高台だ。視界が開ければ景色は良い。宇治では海とは無縁が故に、新鮮な気持ちになる。こう言う環境を変える事も、合宿の醍醐味だろうか。
「なんや、エライ遅かったやないか」
すると、背後から特徴的な関西弁の声が聞こえる。2人して振り向くと、見覚えのある顔があった。
「あ、まさっち。やっぱ合宿参加すんだね」
忍の従兄弟でもある、篠田正和。彼も大阪大会を勝ち残ってきた実力者だ。そして忍と同じくトランペット吹きでもある。
「まあな。別に俺は参加せんでも良かったんやけどな。顧問と部長が行っとけ言うから、仕方なくや」
「そう言う割には楽しそうに見えるけど?」
「アホ、そう言うフリや。こう言うんはしばらく乗ってから指摘するもんやで」
相変わらず快活で関西人っぽい男だ。変わらない従兄弟の姿に忍も軽く笑う。すると、篠田は横で固まってる優子の方に視線を移した。
「ほいで。そっちの子は?」
「俺の伴奏者。合宿に参加してもいいって話だったでしょ?」
忍の説明に、納得の表情を浮かべる篠田。
「あー、そういやそうやったな。俺は伴奏は外部からやけん、そう言う意味では忍が羨ましいわ。ほいで、名前は?」
「どうも、吉川優子です」
軽く一礼して、行儀良く挨拶する優子。そんな彼女を見て、篠田は困った様に頭を掻いた。
「あー、いらんいらん。そう言うの。同い年やろ?もっと雑でええわ。敬語やとこっちも調子が出やんわ」
「あ、そう?じゃあ遠慮なく。よろしくね」
秒で掌を返した様に態度を変える優子に対し一瞬驚いた後、篠田は大きく笑う。
「あっははは!!ええなー、アンタ!気に入ったでその図太さ!俺は篠田正和。
まだ出会って間もないが、どうやら優子の事を随分と気に入った様子だ。
「コラそこ!!さっさと中に入るぞ!!」
すると、今度は遠くから声が聞こえる。どうやら松本先生が車を置いて戻って来た様だ。それぞれ返事を返し、そそくさと合宿所の入り口に戻って行く。
「そういや忍、お前"特別顧問"の話、聞いとるか?」
すると、篠田が思い出した様に忍に話しかける。
「うん、聞いてるよ。引退した有名な先生だってね」
車の中で松本先生が話していた外部からの特別顧問。忍はその情報しか知らないが、篠田は何かその先の情報を知ってる様だ。ニンマリと、嬉しそうに微笑む。
「あれな、"源ちゃん先生"らしいで」