響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
「あれ、今日部長居ないの?」
翌日、音楽室に小笠原の姿が無かったので、秋川がそう聞く。
「おー、体調不良で休みだって」
対して、滝野が楽譜の準備をしながらそう返した。
「ふーん。で、あすか先輩があそこに居るって訳?」
いつもなら滝先生か小笠原がいる音楽室の教壇の上には、副部長の田中の姿があった。
「まあ、昨日あんな事があったからな。部長は斎藤先輩と仲良かったし、相当堪えたんだろ」
まるで他人事かの様に、滝野はそう答える。まあ、実際殆ど話した事がないので他人の様なものなのだが。
「はいはーい。じゃあ、チューニングから始めるよー」
「「「「はい!!」」」」
田中が掛け声をかけると、一様に演奏の準備をする。教壇に立つ人間が変わっただけで、やる事は変わらない。
こうして、なんだか慣れない田中あすかの主導による練習が始まった。
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「はい、ここまで。今日の合奏はここまでとします。各自、今日は何処か気の抜けた演奏でしたよ?明日までには気を引き締めて下さい」
「「「「はい」」」」
滝先生がそう告げると、いつもの様に返事が返ってくる。何処か空虚。そんな感想を抱く合奏練習が終了した。そして、合奏の片付けが始まる。
各々自分の楽器を片付ける中、トランペットパートの一人が遠い目で天井を見つめている。
「あー……やる気が起きん……」
練習が終わっても、秋川は未だに絶不調だった。
「相当だな。アッキーが滝先生に注意されてるところなんて、初めて見たぞ?」
合奏後の片付けをしながら、椅子にダラけた姿勢で座る秋川に対し、滝野がそう返して来る。
今日は、秋川も滝先生に注意を受けていた。『注意力が散漫』、『音がいつもより適当過ぎる』。そんな事を言われていたのだ。
「この時期はどうも気が乗らんのよねー。……はぁ、どうしよっか?タッキー?」
「んなもん俺に聞かれても分かるかっつーの。ほら、椅子片付けるからさっさと立て」
個人的な相談をする秋川に対し、滝野はそう一蹴する。こう言うところは、男友同士っぽいやり取りだった。
「あー、無理。このままじゃ廃人になる……」
「何でもいいけど、今日は俺らペットパートが片付け係なんだから、アッキーも早く片付けろ」
そして、ゆっくり椅子から立ち上がると、渋過ぎる顔で秋川も片付けを始めた。
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雨が降っている。空を見上げると、こっちまで陰鬱になって来そうな厚い雲が、すぐそこまで迫って来ている。
こんな状況で良い演奏をする方が無理だと、何処か秋川は開き直っていた。
なので学校に残って吹く気にもなれなかった秋川は自宅に帰り、リビングのソファーの上でダラけた体勢をして、ボーッとテレビを見つめていた。
「あれ?兄ちゃん今日早いじゃん」
すると、ソファーの後ろから、女性の声が聞こえる。
秋川に話し掛けたこの少女の名は、秋川凛花(あきかわりんか)。黒髪のショートカットにサイドテールを加えた髪型。ぱっちりとした目と忍とは対照的な小さめの身長が特徴の、彼の2個下の妹だ。
「やる気が起きんで帰ってきた」
対して忍はテレビから目線を離さず、凛花に対しそう返す。そんな兄を見て、凛花は一つの溜息をついた。
「はぁ、まあ、この時期に兄ちゃんがやる気無くすのは、いつもの事だもんね。じゃあ、アタシのトランペット聴いてよ」
「外雨降ってんのに、何処で聴くんだよ」
「予報ではもう直ぐ止むの。したら、河川敷に行こ?」
ダラけてテレビを見ている忍の肩を揺らし、凛花はそうお願いする。
彼女も、忍と同じトランペッター。こうして実力のある忍に音を聞いてもらおうとする事は、しばしばあった。
「……チューニング、ちゃんとやっとけよ?」
「やたっ」
忍がそう言うと、凛花は小さくガッツポーズをする。彼女はもう中学三年生。それにしては、兄にベッタリな感じだった。
「それで、兄ちゃん。最近どうなの?」
「どうって、何が?」
すると、唐突に凛花に話題を変えられ、忍は疑問の声を返す。
「部活、復帰してもう結構経つでしょ?」
興味津々にそう聞いてくる凛花に対し、なんだ、そんな事かという風に、「ああ」と忍は呟く。
「俺はどうって事ないけど、顧問が変わって、周りの部員の意識も変わったかな?面白い人が増えてきた」
「へぇー、兄ちゃんが"面白い"って言うなんて、ベタ褒めじゃん」
「実際、面白いぞ?」
ニヤリと笑って、凛花の方を向いてそう言う忍。そんな顔を見て、凛花は少し驚いた顔になった。
「……おー、こりゃ想像以上みたいですな。何?北宇治ってそんなところだったっけ?」
「そんなところになったんだよ。一回、演奏の見学でもしに来れば?」
「あははっ、そこまでは遠慮しておくよ。……でもそっか、北宇治かぁー……」
そう言って、何か考え込む様な仕草をする凛花。
「……北宇治って、頭良かったっけ?」
すると、続けて凛花がそんな事を聞いて来た。
「中の上ぐらい。何?、お前北宇治受験すんの?」
凛花ももう中学三年生。そろそろ進路について考えなければならない時期だ。
忍がそう聞くと、凛花はニヤリと笑って、
「うん、今、選択肢の中に入った」
不敵な笑みを浮かべながら、そう言い放った。
この作品で、忍以外の初めてのオリキャラです。