響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
「おーっし、久々に晴れたな!」
秋川が音楽室から空を覗き、言葉通り晴れやかな表情でそう言う。
ここ数日続いた曇天も遠慮してくれたのか、久方ぶりに見る青空だった。
「やっぱり晴れはいいですなー。塚もっさんや」
声色もいつもの様に戻り、秋川は隣に居た塚本に対してそう言う。
「俺は、曇りも好きですけどね」
同じく空を見上げ、秋川の隣に居た塚本はそう返す。
「でも、どっちかって言うと?」
「そりゃまあ、晴れの方が好きですけど……」
こんなどうでもいいやり取りは、男子特有と言ったものだろう。
「みゆきも喜んでおられる」
「またそれですか」
ともかく、曇り空の頃とは打って変わって、いつも以上にテンションの高い秋川だった。
「昨日は休んでしまってすみませんでした。体調も戻ったので、今日からまた頑張ります」
教壇に戻って来た小笠原がそう言うと、周りから拍手が起きる。それに、「拍手するところじゃ無いって……」と、恥ずかしげにそう言った。
「これからは皆勤賞で頼むよー?私はー、楽器と戯れる為にここに居るんだからー」
すると、田中が手を挙げておちょくる様にそう言った。
「分かってるよ。じゃあ、チューニング。ヒロネから」
小笠原がそう言うと、いつもの様に練習が始まる。しかし、テナーサックスの席を見ると、ポッカリと穴が開いた様に一つの空席が目立った。
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「何か、違うんよなー……」
ここは、トランペットパートの練習教室。ソロパートを吹き終えた秋川が、微妙そうな顔付きでそう呟いた。
「違うって?フツーに上手かったじゃん?」
対して滝野が、何処が悪かったんだ?と言う風に、秋川にそう返す。
「違うんよ、タッキー。ここは何って言うか、こう、もっと"孤高"な感じを出さなきゃいけないんですよ……」
そして考え込む様にして、秋川は唸る。
「孤高って、どゆこと?」
それに反応したのは、2年の加部だった。曖昧な秋川の発言に首を傾げる。
「このソロパートは、三日月の照りつける草原で、ヒロインが優雅に、そして孤高に踊っているシーン。それを表現するには、俺の技術じゃまだ足りない……」
身振り手振り、オーバーな体の動きをして秋川はそう説明する。
「そんなストーリーあったっけ?」
「無い。今俺が考えた」
加部の問い掛けに秋川はあっけらかんと返し、パートメンバーは一様にズッコケる。
何とも自由人らしい秋川の考え方だった。
「もう一回ソロ吹いてみるから、聞いてみ?」
そう言ってもう一度姿勢を正し、秋川はトランペットを構える。
______♪ーーーー、♪、♪♪ーーー……_____
やはり上手い。誰が聴いても、そう思う様な音色。パートメンバーも秋川の音に耳を傾けるが、誰一人何が違うのか見当も付かなかった。
そして、柔らかい音と共に、ソロパートを吹き終える。
「……ふぅ、……どう?」
「やっぱ、何が違うのか分かんねーよ」
滝野が、微妙な顔つきになって秋川の演奏にそう評価を下した。
「だーかーらー。違うんだってー。……はぁ……俺、個人練行ってきます……」
期待した感想では無かったのか、がっくしと肩を落とすと、秋川は個人練の為に教室から出て行った。
「……何か、分かる気がするな?」
秋川が教室を出て少し経つと、今度は中世古がそう呟いた。
「分かるって、アイツの言ってる事がですか?」
そんな中世古の言葉に反応したのは、吉川だった。彼女は分かっていないのか、首を傾げている。
「うん、なんとなくだけど、音の性質が違うって言うか、すっごく上手なんだけどね?でもそれが曲に合ってるかどうかは、別の話で……」
中世古も何処か迷ってる様に、そう呟く。
「気分屋だから、テキトーな事言ってるだけじゃ無いですかぁ?」
すると、吉川が馬鹿にしたような顔でそう言い放った。
「もー、そんなこと言わないの。優子ちゃんだって、秋川君の音に対するこだわりは知ってるでしょ?」
「そりゃ、知ってますけど……」
そんな吉川に、困ったように笑ってそう返す中世古。それに吉川は、面白くない様な顔になった。
______♪ーーーー、♪、♪♪ーーー……_____
すると、先程のか秋川が吹いた場所と同じフレーズが聞こえて来る。
もう秋川が個人練を始めたのか。……いや、違う。
「……高坂さんだね」
今日も一人で個人練習をしている、高坂麗奈だ。
一人、中世古が、何か思い詰めた様な表情でそう呟く。空を切り裂き、全てを置き去りにする様な、"孤高"の音だった。
「……うん、私も、個人練行ってくるね?」
「え?、あ、はい……」
そして、譜面台と椅子を持って、中世古も足早に教室から出て行く。
残されたパートメンバーは、その光景を何処か複雑そうな面持ちで見つめていた。