響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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悪口

 

 「ソロコンですか。確か秋川君は、去年も出てましたよね」

 

 「え、何で知ってるんですか?」

 

 とりあえず調べてみるから待っといてくれと職員室に招かれ、秋川は滝先生のデスクの隣に座っている。

 やっぱり優しそうな先生だなと言うのが、秋川が持つ彼への第一印象だった。

 

 「松本先生から聞いたんです。吹奏楽部の説明を聞いている時に、去年唯一ソロコンに出た生徒が居たと」

 

 「あー、なるほどー。まあ、確かに松もっさんには手続きでお世話になりましたからねー」

 

 滝先生はパソコンでソロコンの事を調べてくれているのか、キーボードをカタカタと打ちながら、そんな事を話す。

 

 

 「でも、凄いですね。ある意味、ソロコンで賞を取る事はコンクールで金賞を取るより難しいとされてますから」

 

 

 すると、滝先生は感心した様にそう言う。

 

 「へぇー、そんな事も知ってるんですか?こりゃ、光栄な事ですなー」

 

 対して秋川は、ケラケラと笑ってそう返した。

 

 何を隠そう、秋川は去年のソロコンテスト、トランペットで最優秀賞を受賞していた。

 ソロコンテストとは、集団で演奏する吹奏楽とは違い、1人のみの演奏での大会だ。そこにあるのは、ピアノの伴奏と、己の実力のみ。

 総合力が試されるのが吹奏楽コンクールだとしたら、このソロコンテストは正に自身の実力のみの勝負。周りに自分の技術不足をカバーしてくれる人間は居ない。誤魔化しが全く効かない厳しい条件で最優秀賞を取るのは、並大抵の実力では不可能なのだ。

 それはつまり秋川忍と言う奏者が、並外れた実力を持っていると言う事に他ならない。

 

 「うーん、そうですね。秋川君の条件だと、学校エントリーで参加できそうです」

 

 そして一通り調べ終わると、滝先生はパソコンを閉じ、薄く微笑んで秋川の方を見やった。

 

 「お、ホントすか?」

 

 秋川としてはダメ元での相談だったのだが、それなら都合がいい。しかし、次に滝先生が発した言葉に、秋川は困惑する事となる。

 

 

 「ええ、なにせ、秋川君はまだ吹奏楽部に所属してる事になってますから」

 

 

 「……え?」

 

 意地悪そうに笑ってそう言う滝先生に対し、目を丸くする秋川。

 

 「そんな筈無いですよ?去年、前の顧問に直接辞めるよう言いましたから」

 

 「その時、退部届は出しましたか?」

 

 滝先生の問いに、秋川は腕を組んで記憶を手繰り寄せる。確かに口では辞める事を伝えたが、退部届は……

 

 「……出してないですね……」

 

 ほぼ辞めたみたいなものだが、正式な手続きはして無い。それはつまり、秋川がまだ吹奏楽部に形式上だけだが所属している証拠だった。

 

 「なら、一度部活を辞めてください。そうしたら個人エントリーでしましょう」

 

 すると、滝先生が淡々とそんな事を言ってきた。個人エントリーとなると、手続きを自分でしなきゃいけないので面倒なのだが……

 

 「えー?、まだ一応吹奏楽部に居るんですから、学校エントリーになりませんかね?」

 

 駄々をこねる様に秋川はそう言う。

 

 「なりません。形式上だけでも所属してるなら、部活に顔を出してない人をソロコンに出させる訳にはいきませんから」

 

 しかし、ピシャリと滝先生にそう言い切られた。

 すると秋川は、わざとらしく膨れっ面になる。

 優しい先生から、融通の効かない先生へと、秋川の中で滝先生への認識が変わりつつあった。

 

 「秋川君には、二つ選択肢があります。このまま部活を辞めて個人エントリーするか、それともこれから部活に顔を出して、学校エントリーするか」

 

 すると、滝先生がそんな事を提案して来た。秋川は少し考える。

 

 

 「うーん、あの部活にいても、面白い事なんて一つも無いからなぁ……」

 

 「面白く無い?」

 

 一言、秋川がそう言うと、滝先生の眉がピクンと跳ねた。

 

 「先生は、吹奏楽部の演奏をもう聞きました?」

 

 そして、今度は秋川の方から逆に質問される。滝先生はどう言おうかと少し迷った後、「ええ」と、一言だけ返した。

 

 

 「聞いた感想、どうでしたか?面白さも何も無かったでしょ?」

 

 

 あまりにもストレートな秋川の一言。まだ赴任したばかりだが、それでも目の前の人物が顧問を担当する部活の悪口を言ったのである。

 しかし、滝先生はそれに怒るどころか、「そうですね」と冷静に秋川の悪口に対してそう返した。

 

 「面白さ以前に、演奏として成り立ってませんでした」

 

 そして、そんな秋川より更にキツイ言葉を言い放つ。なるほど、笑顔が眩しい先生ではあるが、相当良い性格をしているらしい。

 優しい顔をして、口から出る言葉は毒が強すぎる。

 

 「……おー、言いますねー。ともかく、そう言う事なんであんまりあの部活に戻る気がしないんですよねー」

 

 そんな滝先生に対し、困った様に笑って秋川はそう言う。それはつまり、遠回しにあの部活の内部が腐っていると言ってるようなものだった。

 すると、滝先生は中指で眼鏡を直し、体を秋川の方へと向ける。

 

 

 「……なら、それが変わったとしたら、どうしますか?」

 

 

 優しく微笑む顔から、挑戦的な笑みに変わり、滝先生は秋川を見つめる。そこには、自分があの部活動を変えると言う、明確な信念があるように秋川は感じた。

 

 「……もちろん、面白かったら戻りますよ?」

 

 そんな滝先生に対して、文字通り面白がる様な表情を浮かべて秋川はそう返す。

 

 この秋川忍と言う男は、単純明快。吹奏楽部に入ったのも面白そうだからと言う理由で、辞めたのも、つまらなくなったからと言う理由で去って行った。

 そして、この目の前にいる滝昇という男。口も悪く、イケメンでいけすかない男だが、秋川はこの先生の事を"面白い"と感じていた。

 

 だって、普通なら顧問に就任したばかりの部活を批判されたら、誰だって怒る筈である。

 

 しかし、この先生は怒る素振りを見せるどころか、秋川に同調して更にキツイ言葉を言い放ったのだ。

 

 「数日後、恐らく音楽室で合奏をやります。そこに秋川君も来て貰えますか?」

 

 すると、滝先生からそんな提案をされた。

 

 「良いんですか?ほぼ部外者の様なもんですよ?」

 

 秋川が遠慮がちにそう言うと、滝先生は更に口角を上げる。

 

 

 「ええ、曲がりなりにも私が顧問をする部活の悪口を言われたんです。見返したくもなるものですよ」

 

 

 滝先生がそう言い放つと、秋川は大きく目を見開いた。

 

 「ははっ!、良いですねぇ!そう言う事なら、喜んでお邪魔します!!」

 

 やはりこの先生は面白い。

 

 秋川の滝先生に対する評価が、この短いやり取りで固まった。

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