響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
最近、学校の空気ががどこか浮き足立っている。理由は数日後に行われる祭りがあるからだろう。
"あがた祭り"
毎年、6月5日から翌日6日まで行われる宇治市の祭りだ。通りには屋台も出るので、街が一様にイベントの空気になる。
そして、春多き高校生達は、この時期になると突然ソワソワし出す。
「なあ、アッキー。5日って何してんの?」
昼休み、購買で買ったパンを食べながら、滝野が秋川に対しそう聞く。それはこの北宇治高校でも例に漏れず、何処か落ち着かない雰囲気を醸し出していた。
「何って、部活だよ」
対して、弁当のタコさんウィンナーを頬張りながら、秋川はそう返す。
「ちげーよ、その後だよ。あがた祭り。もう予定入ってんのか?」
滝野がそう言うと、秋川は興味なさそうな表情から、怪訝そうな顔に変化させる。
「……なに?、タッキー。もう女の子誘うの諦めたの?」
少し小馬鹿にした様な、挑発する様な笑みを浮かべて秋川はそう言う。
彼も地元民。この祭りの重要さは理解している。恋人のメッカとまでは行かないが、それでも異性を意識するには十分なイベントだった。
「ぐっ!!、余計なお世話だっつーの!……実はなあ、俺の妹が、お前に会いたいって言ってんだよ」
図星を突かれたのか、滝野が誤魔化す様にそう言う。対して秋川は首を傾げた。
「妹?タッキー。妹居たんだ」
「ああ、2個下のな」
「てか、なんで俺に会いたがってんの?タッキーの妹さん、俺会ったこと無い筈だけど……」
秋川は色々思い出そうとするが、滝野の妹に会った記憶など、頭の中に存在しなかった。
と言うか、滝野に妹が居る事さえ、今知ったぐらいである。
「去年のソロコンの最優秀賞受賞者が、どんな人か会ってみたいんだってさ」
「へぇー、そんな事知ってるなんて、光栄ですなぁ。うーん、確か予定は入ってなかったと思うけど……」
秋川は考える様にしてそう言う。すると、滝野は意外そうな顔になった。
「あれ?、ホントに入って無かったのか?てっきり吉川と行くもんだと思ってたけど」
「………なんで吉川なんだよ」
吉川の名前が滝野の口から出た途端、バツが悪そうに秋川は顔を背ける。
それを見て滝野は困った様に苦笑いを浮かべた。
「あのなぁ……素直じゃ無いってのは、後々損するぞ?」
「……タッキーに言われたくないかなーって」
「なんだ?この」
バカにする様な秋川の発言に、滝野は少し顔を顰める。
しかしこれ以上言っても無駄だと感じたのか、諦める様に「はぁ……」と一つため息をつく
「相変わらず素直で無い様で。……まあ、良いや。とりあえず、他の予定が入ったら断っても良いから、考えといてくれよ」
「だから、予定無いって」
何処か含みを持たせた滝野のその発言に、鬱陶しそうな顔をして秋川はそう返した。
_____________
祭りの雰囲気に充てられているのは、この吹奏楽部も例外では無い。
「はい。では、今日はここまでです。各自、今日言われた事をクリアする様にして下さい」
「「「「はい」」」」
いつもの様に滝先生がそう言うと、今日の部活が終了する。すると、トランペットを持ったまま、すぐさま吉川が中世古に近づいて行った。
「香織せんぱーい!あがた祭り、一緒に」
「ごめーん、その日はもうあすかと晴香と約束しちゃった」
「えー!?」
が、一瞬にして振られた。ご愁傷様である。
「あ、あの!秋川先輩!!」
すると、今度は少し離れた場所で秋川が1年に話しかけられた。
「君は、……えーっと」
見慣れない顔だったので、秋川は必死に思い出そうとする。
「ふ、フルート一年の高橋です!」
高橋と名乗った少女が自己紹介をすると、秋川は合点が行ったかの様な顔になる。
「おー、姫先輩にいっつもイジられてる……」
姫先輩とは、フルートのパートリーダーの姫神の事だ。秋川に変な覚え方をされていた高橋は、少し困った様な顔になった。
「は、はい。その高橋で合ってます……」
しかし、事実でもあったので、渋々と言った感じで高橋は肯定する。
「で、どしたの?」
秋川がそう聞くと、高橋は何処か言いにくそうに、体をソワソワさせる。
そして、一つ深呼吸をした後、意を決した様に口を開いた。
「あ、あの!あがた祭りの日って、空いてますか!?」
「祭りの日?」
秋川がそう聞き返し、高橋は一つ大きく頷く。と言う事は、彼女から誘ってくれていると言う事だろう。
普段の奇行が目立ち過ぎて、霞みまくっているが、秋川はイケメンと言える顔立ちだ。
177センチの高めの身長に、シュッとしたスタイル。そして、そのひょうきんな性格。
人気が出る要素は揃っている。
「あー、そーねぇー………」
対して、秋川は考える。確かに、滝野は予定があったら断っても良いと言っていた。
確かに女の子とのデートは楽しい。だが、それ以上に……
「…………」
秋川は、吉川の方を無意識に見つめていた。中世古に振られて、しょげているところを加部に慰められている。
「………ダメ、ですか?」
秋川から返事が無かったからか、痺れを切らした高橋がおずおずとそう聞いてきた。
「ん?、ああ、そうだねぇ……遠慮しとくよ。その日は、予定入ってるからさ」
「そ、そうですか……失礼します……」
秋川に振られると、高橋は目に見えて落ち込み、その場を去る。
「……ありゃ、悪いことしちゃったかな?」
トボトボと、悲壮感を漂わせた高橋の背中を見ると、秋川は聞こえない声でそう呟いた。
そして気を取り直し、しょげている吉川の方へと向かう。
「お、なに吉川?、香織先輩にまた振られたー?」
「……何?、冷やかしなら帰ってちょうだい」
いつも通り、小馬鹿にする様に秋川がそう聞くと、吉川は不機嫌な顔を隠そうともせずに、低めの声で秋川に対しそう返す。
いつも通りのやり取りだ。秋川がおちょくり、吉川が鬱陶しそうに返す。
「いやはや、これで何連敗か……記録更新したんじゃない?」
「うっさいわねぇ、アンタはどうなのよ?」
すると、吉川の反撃が来た。秋川は少し考える素振りをすると、続いて薄く笑う。
「そうだねぇ、"まだ"予定は無いかな?」
そして、何処か含みを持たせた様に、そう言い放った。
「なによ、アタシと同じじゃない」
「そうだね。吉川と同じだ」
秋川がそれだけ返すと、二人の間に沈黙が走る。ここで祭りの話題を先に出してはダメだ。そんな頑固な気持ちが、二人の中に共通してあった。
「……ねえ、秋川」
「……なに?」
そして、最初に口を開いたのは、吉川の方だった。
「………やっぱ何でもない!早く片付けしなさいよ!そこに居られると邪魔なの!!」
「あでっ!!」
しかし、いつも通り秋川に突っ掛かる様にして、タイキックを喰らわす。対して秋川は、「へいへい」と、気怠そうに返事をして、楽器の片付けを始めた。
「バーカ………」
その言葉を呟いたのは、果たしてどちらなのか。それは当人達にしか分からない。