響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
祭りが始まる。
当日、宇治駅の周辺は人でごった返していた。元々観光地の側面が強いので人は多い方なのだが、今日は特別だ。
祭りの熱に充てられた屋台通りは、カップルや家族連れ、友達同士などでごった返している。
「いくぞー、凛花」
「ちょ、ちょっと待って兄ちゃん!」
秋川家の玄関で忍がそう言うと、凛花が慌てて2階から降りてくる。
「ペット持った?」
「もちろん!」
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お祭りだと言うのに、二人の手にはトランペットケースが握られていた。
忍がそう聞くと、凛花はニッコリと笑ってケースを忍に見せつける。
「じゃ、行くべや」
「行くべやー」
準備が出来たことを確認すると、忍は玄関の扉を開ける。そして、普段より何処か賑やかな街に、二人は繰り出して行った。
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「遅いぞアッキー。10分遅刻」
「そりゃ、隣のに言ってくれ」
宇治川の河川敷、先に待っていた滝野にそう言われると、悪びれもせずに忍はそう返した。
「こんにちはー。妹の凛花ですー。兄がいつもお世話になってますー」
そして、凛花が滝野に対し挨拶をする。自由過ぎる兄を持ったからだろうか、礼儀はしっかりしていた。
「こんにちは。俺はアッキーと同じトランペットパートの滝野純一っす。……で、こっちが……」
滝野も軽く自己紹介をすると、続けて隣に居た少女に目線を移した。
「た、滝野さやかです!に、西中の吹奏楽部でトランペット吹いてます!」
緊張の面持ちで、さやかと名乗った人物は自己紹介した。
「おー、君がタッキーの妹さんかー。トランペット吹いてんだねー。凛花と同じじゃん」
興味津々に、忍は滝野の妹であるさやかを見つめる。
結局、忍は滝野の言う通り、滝野の妹と会うことにした。男2人女1人ではバランスが悪いと言うことで、さやかと同い年である凛花も一緒にお祭りに行こうと言う流れになり、今に至る。
「あ、秋川忍さんですよね!北宇治の!」
すると、もう一度確認する様にさやかが忍に対してそう聞く。
「うん、紛れもなく忍です」
忍がそう言うと、さやかは詰め寄る様に忍に近づいて行った。
「去年のソロコン、すっごい良かったです!!私もあんな吹き方したいって、そう思いました!!柔らかくて、優しくてあったかい……今までで一番感動した演奏でした!!」
そして、目を最大限に輝かせて、さやかは忍の演奏について熱弁する。
「おー、そりゃ光栄なこって。てか、よく俺の事なんか知ってたね?」
「当たり前です!ここら辺でトランペットを吹いている人で、秋川さんを知らない人は居ないですから!!一年生でソロコンの最優秀賞を受賞するなんて、出来る事じゃないですから!!」
なおも、少し鼻息を荒くしながら、さやかは忍について熱弁する。少々熱が入り過ぎてしまっていたのか、流石の忍も苦笑いになっていた。
「そ、そりゃ良かった。取り敢えず、屋台とか回ってみる?」
「さんせー」
「だな」
忍がそう提案すると、凛花と滝野からも了承の声が返ってくる。
「はい……」
そして、さやかは何処か熱っぽい声でそう返した。
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「射的って、コツがあるんよなー。大きいのを狙うんなら、技術が必要なんすよ」
場所は射的屋。忍と滝野、2人して射的の銃にコルクを詰めながら、しみじみと忍はそう言う。
「なんか、プロっぽい事言ってんなー」
それに、滝野は半笑いになってそう返した。
「ホントだってー。俺は射的には一番自信があんだよ。と言う訳でお嬢さん、何か取って欲しいリクエストとかありますかな?」
気分は西部劇のガンマン。ハードボイルドに銃口を息で吹きかける仕草をして、後ろで控えていた凛花とさやかに、忍はそう聞く。
「はいはーい!私、あのチューバ君が欲しー!」
「わ、私は、トロンボーンのトロンちゃんが……」
凛花は元気よくチューバ君を、さやかは少し控えめにトロンちゃんをリクエストして来た。
「りょーかい。じゃあ、タッキーはチューバ君を、俺はトロンちゃんを狙うわ」
「えー?なんで俺が……」
すると、忍に巻き込まれた滝野は、少し渋る仕草をした。
「麗かな乙女達が、俺たちの勇姿を見ているのだ……ここで決めなきゃ、男じゃ無いってもんでしょ?」
「そうだぞー!」
「……兄さん、カッコ悪い……」
すると、忍の発言に乗っかる様にして、凛花とさやかが続いた。
「分かった!分かったよ……じゃあ俺がチューバ君で、アッキーがトロンちゃんな?」
困った様に滝野がそう言うと、忍は満足そうな顔になる。
「よーし!じゃあ、さやかちゃん、見ていてくれ……華麗に、そして豪快にトロンちゃんを堕として見せる……」
「か、カッコいい………」
キザったらしくそう言う忍に対し、さやかは熱っぽい声でそう返した。
なんだ?この茶番劇は。
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すっかり日も暮れ、祭りの雰囲気にも各々慣れて来た。祭りという事で、遊びに遊びまくった4人の両手には、戦利品がたんまりある。
金魚掬いで取ったスーパーボール、水風船。射的の景品。
特に忍と凛花は肩にトランペットケースを背負って居るので、中々の光景になっていた。
「大分遊んだし食ったな。もう大体回ったかな?」
ついさっき買ったわたあめを頬張りながら、忍はそう呟く。
「そうだなー。じゃあ、神社の方にでも行ってみる?」
すると、滝野がそんな提案をして来た。
「お、いいねー。じゃあ、おみくじで運試しでもしますか」
忍も乗り気の様で、滝野の提案に賛成する。
「あ、秋川君、滝野君」
すると、前から見知った顔が3人、歩いて来た。中世古と、田中、小笠原の三年生組だ。
「おー、香織先輩、あすか先輩、それと部長じゃ無いっすか」
「それとって何だよ」
忍にオマケの様な扱いをされた小笠原が、すぐさまツッコミを入れた。
「あははっ、君達は随分お祭りを楽しんでる様だねー。スーパー帰りの主婦みたいになってるよー?」
4人の光景を見て、田中が大きく笑ってそんな指摘をする。
「そりゃもう、大漁ですわ。これから神社でおみくじ引いて、もう一発景気付けです」
「おー?そりゃいいねーアタシ達も神社の帰りなんだー」
そんな田中に、忍も全力の笑顔で返す。
「あれ、後ろの2人は?」
すると、中世古が忍と滝野の後ろに着いて来ていた妹達に触れる。
「俺らの妹です。右がタッキー。左が俺のっす」
「へえー、2人とも妹さん居たんだね。こんにちは」
「「こ、こんにちは……」」
中世古に挨拶され、凛花とさやかも緊張の面持ちで挨拶を返す。流石に3つも離れた先輩には、緊張する様だ。
「ふふっ、緊張しなくていいよ?私は中世古香織、北宇治のトランペットパートのリーダーをしてます」
中世古がそう言って一礼すると、それに見惚れる様に凛花とさやかはボーッと彼女を見つめる。
これは、マドンナの魔性にやられたか?
「あ、よ、よろしくお願いします!!」
そして、我に返った凛花が、少し顔を赤らめて慌てて礼を返した。どうやら彼女はやられたらしい。
晴れてカオリストの仲間入りだ。吉川にたっぷり可愛いがられろ。
「先輩達は、これからどうするんですか?」
すると、忍がそんな事を聞く。
「アタシ達ももう大分回ったからねー。もうすぐ解散かな?」
そう返したのは、田中だった。
「そうですか。じゃあ、また明日、部活で会いましょう」
「うん、じゃあ、まったねー」
田中がそう言って軽く手を振り、忍の横を通り過ぎる。
「またね。それとアッキー。あんまり部活で問題行動起こさないでよ?」
続いて、釘を刺す様に、部長らしく小笠原が忍に対してそう言う。
「はっはー。善処しますー」
「もー、ホントに分かってんだか」
適当にそう返す忍に対し、小笠原は困った様になった。
「じゃあ、私達そろそろ行くから。じゃあね、秋川君、滝野君。……オーディション。お互い頑張ろうね?」
そして、最後に中世古が2人に激励をくれた。
「はい、先輩も」
「は、はい!頑張るっす!」
それに、2人も各々の返事を返す。
「あ、そうだ」
すると、何かを思い出した様に、中世古はそう呟く。そして、少し意地悪そうな顔をして、忍の方に近づく。そして左手で口を隠す様にして、顔を忍の耳にまで持って来た。
「優子ちゃん、まだ神社に居たよ?」
「え?」
いきなりの発言に、忍は驚いた顔になって聞き返してしまう。それを見て満足そうな表情になると、中世古は今度こそその場から離れて行った。
「じゃあ、頑張ってね?秋川君!」
最後に、いい笑顔で中世古は忍に対してそう言う。
その頑張っては、果たしてどんな意味で言ったのやら。
凛花が出て来てややこしくなって来たので、これから秋川は地の文では忍呼びで統一しようと思います。