響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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おみくじ

 このお祭りの名前の元となった、(あがた)神社は、そこまで大きい神社では無い。

 隣には10円玉で有名な平等院鳳凰堂があり、その影に隠れる様な小さな神社なのだ。

 しかし、そんな神社もお祭りの日になれば賑わいを見せる。境内には、屋台通りと同じく沢山の人が見られる。

 そして、賽銭箱の前では、、2人して手を合わせている男達が居た。

 

 「何お願いした?」

 

 「世界平和」

 

 滝野がそう聞くと、忍はざっくりとそう返す。どうやら壮大なお願いを神様にした様だ。

 

 「世界平和って……オーディション上手く行きますようにとかじゃ無いの?」

 

 「オーディションは自分の実力でなんとかなるでしょ?こう言うのは、自分が叶えられないお願いをするもんなんですー」

 

 ケラケラと笑って、忍はそう言う。それに滝野は、「アッキーらしいな」と、それだけ返した。

 

 「じゃあ、次はおみくじタイムー。一番運勢が悪かった人は、景品の荷物持ちね」

 

 「おー!良いねー!」

 

 「えー!?」

 

 忍の提案に、凛花は食い付き、さやかは困惑した声を上げる。妹である凛花と、付き合いの長い滝野は慣れているが、さやかはこの忍の自由奔放さに振り回されていた。

 

 「……でも、素敵……」

 

 だが、それぐらいでへこたれる彼女では無かった。恋は盲目と言うが、それに近い状態に、さやかはなっていたのである。

 しかし、恋慕ではなく、憧れに近い感情ではあった。

 

 100円玉を箱の中に入れ、おみくじを各自一枚引く。折り畳まれた白い紙が、紐で結ばれている。

 それを4人一斉に解いて、中身を確認する。

 

 「お、やたっ、私大吉」

 

 凛花は大吉。

 

 「あ、私末吉」

 

 さやかは末吉。

 

 「げ、俺凶じゃん……」

 

 そして、滝野は残念ながら凶を引き当てた様だ。

 それに続く様に、忍も中身を確認する。

 

 「お、中吉」

 

 紙を開くと、上の方に大きな文字で"中吉"と書いていた。その下には、金運やら仕事運やら様々なアドバイスが書いてある。

 

 「という事で、タッキーがビリだねー。じゃあ、よろしく」

 「はい………」

 

 そして、忍は問答無用で滝野にトランペットケースを除いた荷物を預ける。それを見て、凛花とさやかも無遠慮に滝野に荷物を預けた。

 

 「……あのー、自分これじゃあおみくじ読めないんですけど……」

 

 滝野が悲壮感を漂わせた顔でそう言うと、忍は滝野が右手に握っていたおみくじを取る。

 

 「俺が呼んであげるよ。何から聞きたい?」

 

 「……恋愛」

 不服そうな顔で滝野がそう言うと、忍はおみくじに書いてある内容を読み上げる。

 

 「待人、来ず。しばし待たれよ。だってさ」

 

 「ファック!!!!」

 

 忍がそう言うと、心底恨めしそうな顔で、滝野はそう叫んだ。

 

 「さやかちゃんはどう?」

 

 「私は、こんな感じ。凛花ちゃんは?」

 

 隣では、この数時間ですっかり仲良くなったさやかと凛花が、おみくじを見せ合って居る。

 それを見て忍も、自分の引いたおみくじに目を落とした。

 

 願望 油断する事なかれ。足元を掬われぬ様注意すべし。

 学問 危機感を持つべし。

 失物 出る、気長に待つべし。

 

 そんな、ありきたりな事が書いてあった。そして、忍の目に一つのアドバイスが留まる。

 

 

 待人 自ら行くべし。相手は待っている。

 

 

 恋愛運の欄には、そんな事が書いてあった。

 それを見て、忍は周りをキョロキョロ見渡す。一体、何を探しているのか。

 縣神社は、小さな神社だ。境内は狭く、周りを見回せば何処に誰が居るのかがはっきりと分かる。

 待人なんて、すぐに見つかる様な場所だ。

 

 「……居た」

 

 忍が何度か境内を見回すと、遂に目立つ大きなリボンを頭に付けた、1人の少女が忍の目に入った。なぜか1人、ベンチに座りスマホの画面に顔を落としている。

 

 

 「………タッキー、ちょっと行ってくるわ」

 

 「え?、何処に?」

 

 そして滝野の疑問に返事を返す事なく、忍は足早にその少女の元に向かって行く。

 

 「おー、待人、来たるだって!さやかちゃん、良いの引いたねー」

 

 対して、こちらは妹達。感心した様に凛花がそう言うと、さやかは何処かもじもじとし出す。

 

 「そ、そうかな?……じゃ、じゃあ、忍先輩と……」

 

 そして、恋愛運が良かった事をダシに、何処か恥ずかしそうな顔でさやかが忍の方向へと顔を向ける。

 

 「……あれ?」

 

 しかし、そこにはもう忍の姿は無かった。

 

 

 __________

 

 

 

 「おねーさん、1人?良かったら、一緒に屋台でも周らない?」

 

 祭りの空気に充てられて、こうしてナンパが起こる事は、珍しくは無い。

 それは今、吉川優子の身に起こっていた。

 吉川は、けっこうモテる。小さい身長とその可愛らしい見た目は、男子の目線を惹き付けやすい。なので、この様にナンパされる事も、初めての経験では無かった。

 

 「あ、ごめんなさーい。今、友達と待ち合わせをしていてー」

 

 慣れた様に、猫撫で声でそう返して、仮面の笑顔を張り付けてそのナンパ師の方向へと顔を向ける。

 しかし、その顔は一瞬で無表情に変わった。

 

 「……なんだ、アンタか……」

 

 心底面白く無い顔をして、吐き捨てる様に吉川はそう返す。

 

 「なんだよー?せっかく一人ぼっちのところを話し掛けてやったのにー」

 

 そのナンパ師の名は、秋川忍と言った。忍はすぐさま吉川の隣に座る。

 

 「何?迷子?」

 

 「んな訳無いでしょ?夏紀と友恵が願い事するって言うから、ここで待ってんのよ」

 

 そう言って、吉川は賽銭箱の前の行列を指差す。そこには、言葉通り中川と加部の姿があった。

 

 「吉川は行かないの?」

 

 「神頼みって、あんま好きじゃ無いのよね」

 

 忍がそう聞くと、吐き捨てる様に吉川がそう返す。妙にリアリストな部分があるらしい。

 

 「……で、なんでアンタは1人なのよ?場違いなトランペットケースまで持って」

 

 「んー、迷子?」

 

 すると、逆に吉川から質問され、忍は肩をすくめてそう返す。それを聞いて、吉川は心底呆れた顔になった。

 

 「迷子なのアンタの方じゃない。……はぁ、アンタと一緒に行動していた奴に同情するわ」

 

 どこか馬鹿にするような顔で、吉川はそう言い放つ。

 

 

 「……で、何の用よ?」

 

 

 すると、吉川が真っ直ぐ忍の目を捉え、そう聞いてくる。何かを期待する様な、そんな目。

 それを、忍も感じ取っていた。

 忍は、おみくじに書いてあった事を思い出す。

 

 自ら行くべし。相手は待っている。

 

 中吉のおみくじに赤文字で書かれていた、恋愛へのアドバイス。忍は、そこまでスピリチュアルなものを信じるタチでは無い。しかし、今のところあのおみくじ通りに事が進んでいる。

 

 ならば、今は都合よくそれに背中を押してもらおう。

 

 おみくじという免罪符を貰った忍は、薄く笑って吉川にある提案をする。

 

 

 「なあ、吉川。今から2人きりになろっか?」

 

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