響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
部活の雰囲気が、少し変だ。
オーディションの発表後、各パートでは、とある話題で持ちきりだった。
「高坂さんって、そんな上手かったっけ?」
「香織はともかく、アッキーが落ちるなんてねー」
トランペットのオーディション結果である。ソロパート、三年の中世古が落ちた。2年の忍が落ちた。
そして、1年の高坂が受かった。
オーディションは、実力勝負だ。忖度は無い。良い演奏をすれば受かるし、悪い演奏をすれば落ちる。
しかし、しかしこの結果は、北宇治高校吹奏楽部に衝撃をもたらした。
"去年のソロコン最優秀賞受賞者が、ソロパートを吹かない"
その事実は、今の2、3年生を中心に、大きな波紋を呼んでいる。
秋川忍には、実績がある。実力も、誰もが認めている。部長の小笠原も、田中も、中世古も、そして、1年の高坂も。
しかし、忍はソロを吹かない。なまじ実績がある以上、このオーディション結果に納得してない者は多かった。
「お、タッキー見ろ。もうすぐ出来上がるぞ……!」
そんな中でも、忍はいつも通りだった。昼休み中にトランプタワーを、真剣に作っている。
「……相変わらずだな、アッキーは」
そんな忍に対し、複雑そうな顔で滝野はそう返す。かく言う滝野も、オーディションの結果に何処か納得してなかった。
同じクラスメイト。同じトランペットパート。1番近くで忍を見てるのは、ある意味この男なのだ。
「タッキーは、納得いってない?」
すると、そんな滝野の心中を察したのか、トランプタワーに視線を向けながら、忍は滝野にそう聞く。
「……そりゃ、こっちの台詞だ。アッキーは納得してんのか?」
「してるよ。俺はオーディションで全力を出したし、結果受かった。ソロは落ちたけどねー」
相変わらずひょうきんに、いつも通りに忍はそう返す。対して滝野は、尚も納得してない顔をしていた。
「でも、お前は……」
「去年、ソロコンの賞取ったって、言いたいの?」
滝野が次の言葉を言う前に、ズバリと忍が言い当てる。心を読まれた滝野は、バツの悪そうに「……ああ」と、それだけ返して顔を背けた。
「……タッキー。ソロコンの選曲って、自分で出来るのは知ってるよね?」
すると、視線をトランプから滝野に移し、忍がそんな事を言い始める。それに滝野は、無言で頷いた。
「それってつまり、"自分の得意な曲のジャンルで戦える"って事なんだよねー。トランペットのソロコン曲って言っても、色々あるし」
「……それが、どう関係してんだよ?」
忍の言わんとしてる事が滝野には分からないのか、そう返すと忍は困った様に笑った。
「もー、鈍いなータッキーは。ソロコンは"自分が曲を決めれる"。コンクールの曲は"顧問の先生が決める"。こう言えば分かる?」
忍がそう言うと、ようやく滝野はハッとした表情になった。
去年のソロコン、忍は圧倒的な演奏を披露した。それは滝野も知っている。しかし、それは忍が、"自分の音楽性に合った曲"を選んだからだ。
温かみを感じる、そんな選曲をしていた。自分の最高の"音楽性"が出せる曲を選び、それを研ぎ澄まして圧倒的なパフォーマンスを見せた。
しかし、今回の三日月の舞はどうか?
滝先生の"音楽性"は、どうなのか?
そのソロパートは、どんな"音楽性"を持っているのか?
そして、その曲の"音楽性"と忍の"音楽性"は合っているのか?
答えは、"相性"。それに尽きた。
「分かった?まあ、今回は運が無かったのかなー?。俺もあのソロパートの意味を毎日毎日考えたけど、結局分かんなかった。そして、高坂さんはそれを理解出来た。それがこのオーディションの結果でしょ?」
滝野は唖然として、忍の言葉に耳を傾けていた。
ハイレベル過ぎる。技術が云々とかでは無い。技術の上の、心の部分。そこを徹底的に理解して、あのソロパートを吹けているかどうか。
練習で、忍がしきりに『何か違う』と言っていた理由が、この言葉で滝野はようやく理解出来た。
「……でも、ウチの吹奏楽部員に、そこまで考えられている奴が居るとは思えないぞ?」
しかし、懸念が一つ。
忍は実績を持っている。それも、眩し過ぎる実績を。
そんな目先の実績に目が眩んで、本質が見えてない部員が沢山いる。寧ろ、それが過半数だ。
だからこそ、1年の高坂がソロパートを吹く事に納得の行ってない者が多い。
「そうなんだよねー。どうしよっか?……あ!」
忍がそう言うと、今まで必死に積み上げて来たトランプタワーが崩れる。
それはまるで、土台の緩い北宇治高校吹奏楽部を表しているかの様な、不吉なものだった。