響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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 各々オーディション結果に不安があっても、練習は滞り無く進む。

 何故なら北宇治高校吹奏楽部は、全国を目指しているからだ。だから演奏中は他の事を気にする暇も無い。自分の出す音だけに集中しないと、直ぐに滝先生から注意が飛ぶ。

 

 「吉川さん。また音がブレてます。ここはトランペットの主旋律。ミスをすればかなり目立ちます」

 

 「………はい」

 

 そんな中、吉川は集中力が切れていた。今日何度目かの滝先生注意を受け、しょぼくれて返事を返す。

 

 「あなたはコンクールメンバー。落ちた人達の為にも、全力を尽くさねばなりません。分かりますね?」

 

 「……はい」

 

 皆、吉川の集中力が切れている理由は分かっている。

 オーディションの事だ。

 吉川優子は、先輩である中世古の事を誰よりも尊敬している。崇拝してると言ってもいい。

 彼女が一年生の頃から、いつもベッタリ。まるで子犬の様にくっついて離れない。

 その中世古がソロパートを吹けないとなり、吉川は本人以上に落ち込んでいると。

 

 「……では、次は全体通しで演奏します」

 

 「「「「はい!」」」」

 

 そしていつも通り、淡々と練習が進む。

 

 

 ________________

 

 

 

 「はい、では今日はここまでとします。全員、今の感覚をしっかりと忘れずに、お願います」

 

 「「「はい!」」」

 

 滝先生がそう告げると、今日の練習が終わる。

 

 「あのー、先生、このリストに書いてある毛布って……」

 

 すると、部員の1人がスケジュール表を持って、滝先生にそう聞いて来た。

 

 「毛布です。皆さん、家にある使ってない毛布を貸して欲しいんです」

 

 滝先生が部員達に向かってそう言うと、「「「はい」」」と返事が返ってくる。

 

 「毛布?それ持って来て、何するんですか?」

 

 すると、ペットパート1年の吉沢が、忍に向かってそう聞いて来た。

 

 「地獄の泊まり込み演奏。干からびるまで吹かされるぞー?」

 

 「えぇー!?」

 

 相変わらずひょうきんに忍がそう言うと、吉沢は困った様な顔になる。

 

 「だっははは!、冗談冗談、まあ、当日までお楽しみって事で」

 

 「えー?気になりますよー」

 

 そんな吉沢を揶揄う様に、笑って忍はそう返すと、吉沢はさらに困った様な顔になる。

 やはり、今日も忍はいつも通りだった。

 

 

 「この音が上手く行かないんだよねー」

 

 「テンポが急に変わるところだからねー」

 

 一方、こちらはトランペットの三年生組、笠野と中世古。

 2人で楽譜を見合わせ、笠野の苦手な部分を中世古がアドバイスしている。

 

 「…………」

 

 そして、その光景を吉川は1人見つめていた。

 見た目は、いつも通りだ。中世古が落ち込んでいる様子はない。

 

 「香織ー!、パーリー会議!」

 

 「あ、うん!ごめん、また後でね?」

 

 すると、小笠原から呼ばれ、中世古はパートリーダー会議のために一度音楽室から出て行く。

 

 その隙を見計らって、吉川は中世古の楽譜を何枚かめくった。

 

 「……っ!!」

 

 そして、とあるページの端。吉川はその文字を目撃してしまう。

 

 "ソロオーディション

 絶対吹く!!"

 

 そんな文字が、書かれていた。

 それを見て、吉川の目が少し霞む。やはり彼女も、ソロパートを吹きたかったのだろうと。

 

 

 「高坂って、ラッパの?」

 

 「はい、ララ、聞いちゃいました」

 

 

 すると、吉川の耳に、そんな会話が入って来た。その話し声の方向を見てみると、ホルンパートの何人かが会話をしていた。その話題をしていた一年生は、吉川と目が合うとバツが悪そうに視線を逸らす。

 

 「………ちょっといいかな?」

 

 そして吉川はその集団に近寄り、そう言い放った。

 

 

 ___________

 

 

 

 「はい、では、今日の練習はここで終了です」

 

 「「「「ありがとうございました!」」」」

 

 今日もいつも通りに滝先生がそう告げると、いつも通りに部活が終了する。

  

 「塚もっさんや、この後暇かえ?」

 

 すると、忍がトロンボーンパートに近寄り、塚本にそんな事を聞いて来た。

 

  「この後ですか?」

 

 それが予想外だったのか、塚本は少し驚いた顔になっている。

 

 「うん、駅前の楽器屋でグリス買うんだけど、一緒に行かんかい?」

 

 「楽器屋っすか?……そうっすね。ちか、瀧川も連れていいっすか?」

 

 「テナーサックスの?いいよ。じゃあこっちはタッキーも誘ってみるわ」

 

 どうやら楽器屋への誘いらしい。忍がそう言うと、滝野を誘いに再びトランペットパートの場所へと戻って行く。

 

 

 「秋川」

 

 

 すると、吉川から声をかけられた。忍は顔を吉川の方へと向ける。

 なんだか真剣な、それでいて思い詰めている様な表情をしていた。

 

 「……何?」

 

 そんな吉川の雰囲気を感じ取ったのか、忍は怪訝そうな顔でそう返す。

 

 「この後、暇?」

 

 吉川は尚も真剣に、端的にそう聞く。どうやらデートのお誘いと言う感じでは無さそうだ。

 しかし、これから重要な話をされるのだろうと言うのは、忍にも分かった。

 

 「………良いよ。大事な話なんでしょ?」

 

 忍がそう言うと、吉川は黙って一つ頷いた。それを確認すると、忍は踵を返して再びトロンボーンパートの方へと向かう。

 

 「悪いねー、塚もっさん。ちょっと今、先約が今入った」

 

 「なんで俺らより遅く先約が入るんすか」

 

 片手で謝るポーズを取って忍がそう言うと、塚本は苦笑いになってそうツッコミを返す。

 

 「まあ、ちょっと急用って事で。代わりに後日なんか飲みもん奢ってあげるから、許してな」

 

 「そこまでしなくて良いっすよ?」

 

 塚本がそう返すと、忍は少し苦笑いになる。

 

 「もー、先輩の厚意は素直に受け取っときんさいな。じゃあ、この埋め合わせはまた後日でー」

 

 そう言うと、忍は塚本に向けて手を軽くひらひらさせて、吉川の方へと再び戻って行った。

 

 

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