響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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パート練

 「なあ、タッキー。俺、放課後部活に顔出すわ」

 

 「ぶふっ!!!」

 

 翌日の昼休みの教室。滝野と一緒に昼を食べていた秋川がそう宣言すると、ストローでコーヒ牛乳を飲んでいた滝野が噴き出した。

 

 「うおっ、きったないなー。かかったらどうしてくれんのよー」

 

 自分の机ではなくて助かったが、滝野の惨状を見た秋川が少し顰めっ面になる。

 

 「ゲホっ!ゲホっ!!……悪い。あまりにも突然だったから。……と言うかアッキー、それ本気か?」

 

 まるで正気を疑う様な目で、滝野は秋川を見つめてそう言う。

 

 「?、本気も何も、少し顔出すだけたけど?」

 

 対して、何が悪いのかと言う雰囲気を出し、秋川はそう返す。すると、滝野は周りに聞こえない様に秋川にの耳に顔を近づけた。

 

 「……今はただでさえ部活の雰囲気が悪いんだ。そんな状態でアッキー来たら、益々混乱するだろーが」

 

 「……そうかな?、案外、みんなもう"あの事"なんて忘れてそうだけど?」

 

 周りに聞こえない様耳打ちする滝野に対し、秋川も小声で返す。普通なら辞めた部員が再び部活に顔を出しても何も思われないのだが、秋川には少々特別な事情があった。

 

 「忘れるもんか。小笠原先輩なんか未だにトラウマでその話題になると落ち込むんだから」

 

 「……俺は、気にしてないんだけどなぁ……」

 

 「アッキーが気にして無くても周りが気にするんだよ。……現に、お前が退部してから、俺や後藤以外の吹奏楽部員に話しかけられたか?」

 

 「………吉川」

 

 少し考える素振りをして一言、秋川はそれだけ呟いた。

 

 「あいつは例外。ともかく、今アッキーに来られちゃ非常に不味い」

 

 滝野がそう言うと、秋川は困った様な顔になる。と言うのも、既に滝先生に合奏を見に来るよう誘われたのだ。ここで部活に顔を出さないと言う選択肢は無い。

 それに、あの面白い先生がどうやってあの軍団をまとめ上げるのかも、秋川としては気になっていたのだが。

 

 「……どうしてもダメ?」

 

 気になる事がありすぎて諦め切れない。秋川がそう聞くと、滝野は少しバツの悪そうな顔になった。

 

 「……正直、今の吹部はアッキーに負い目を感じてる奴らばっかだ。なんせ、お前が辞めたタイミングが悪すぎたからな」

 

 すると、ありがた迷惑と感じたのか、滝野の言葉に対し秋川は顰めっ面になる。

 

 「それはあの吹部がつまんなかったから辞めたわけで、皆に負い目を感じて貰う必要はないんだけどなぁ」

 

 「中にはそう思わない人も居るって訳だ」

 

 そして困った様に笑って滝野はそう返した。かく言う滝野もあの事件に対して少しながら秋川に負い目を感じている。

 なので、彼は一つの提案をした。

 

 

 「………どうしてもって言うなら、ペットのパート練にだけなら顔を出しても良いぞ?」

 

 

 「パート練?今そんな事やってんの?」

 

 部活に所属してた時は、ただの駄弁りの事を指していたその言葉に、秋川は首を傾げる。

 

 「ああ、滝先生が課題曲を出したんだ。その曲のパート練。もっとも、本気でやってる人なんて何人居るのやら」

 

 滝野は苦笑いになって、そう言い捨てる。彼の言い草からして、まだあの時とあまり変わってないのが秋川にも分かった。

 

 「よし、じゃあお邪魔しよっかな?久しぶりに香織先輩達にも挨拶したいし」

 

 しかし、あの先生が来てどんな雰囲気になっているのか、秋川も気になったのでそんな理由付けをして、部活に顔を出す事にした。

 

 

 ___________

 

 

   

 北宇治高校吹奏楽部のパート練習と言うのは、名ばかりのものでその実、割り当てられた教室で話し込む雑談会でしか無い。

 それはここ、トランペットパートも例外では無く、まともに練習してる人間なんざ1人も居なかった。

 1人、この教室から離れて個人練をしている生徒もいるが、そんな事を気にする素振りを見せる人は、誰も居ない。

 今日とて、各々会話に花を咲かせる筈だったのだが……

 

 「………なんでアンタが居んのよ?」

 

 開口一番、明るい髪と頭に大きなリボンを着けているのが特徴的な女子生徒が、悪態を吐く様にそう呟く。

 

 「えー?、良いじゃんー。久しぶりにどんなもんか見に来ようと思ってー」

 

 しかし、秋川はどこ吹く風。軽い口調でそう返す。他の2年生と3年生は心底驚いた様な表情をしている。

 いつも通りなのは、何も知らない1年生の吉沢と言う女子生徒と、事情を知っている滝野。そして……

 

 「来るんなら一言言いなさいよ。いきなり来たら皆んなビックリしちゃうじゃない」

 

 先程から秋川に話し掛けている、吉川優子と言う2年の女子生徒だった。

 

 「あれ?、今日の昼休みにタッキーに行くって伝えたけど?」

 

 秋川がそう言うと、吉川は滝野の方をキッと睨め付ける。何故こんな大事な事を言わなかったのかと。対して滝野は、思いっきり目線を逸らしていた。

 

 「で?なんの用?アタシ達、これからパート練習なんだけど?」

 

 そして吉川は秋川の方へ向き直り、そんな事を聞く。

 

 「そのパート練の見学。新しい顧問になったから、どんなもんかと思って」

 

 「残念ながらあまり変わって無いわよ?そもそも顧問としてまだ全然顔を出してないんだから、変わる筈ないじゃ無い?」

 

 「おー、確かに」

 

 淡々とそう述べる吉川に、納得した様な表情を浮かべる秋川。どこか小慣れている様にも見えるやり取りだった。

 そして、秋川は吉川から目線を外し集まっているトランペットのパートメンバーを見やる。

 

 「メンバーは変わってないなー。タッキーから聞いたっすけど、パートリーダーは香織先輩になったんすね。お久っす」

 

 その中の一人。ショートカットに髪を切り揃えた、優しい雰囲気を纏った美人さんに対して秋川は挨拶をする。

 「う、うん。久しぶり、秋川君。元気そうで良かったよ」

 

 唐突に秋川に話しかけられ、美人さんも少しぎこちなく挨拶を返す。

 

 「もちろん元気っす。香織先輩も元気してたっすかー?」

 

 「うん、ぼちぼちかな?」

 

 彼女の名は、中世古香織。3年生で、その優しさと可憐な雰囲気を漂わせる整った容姿から、"吹奏楽部のマドンナ"と呼ばれる存在だ。

 彼女には秋川も一年生の頃からお世話になっているので、良く懐いていた。

 

 「それで?どうする?久々に吹いてくの?」

 

 すると、吉川がそんな事を聞いて来た。

 

 「いや、今日はペット持って来てないから、見るだけにするよ。本当は他パートも見て回りたかったんだけどねー」

 

 「そんな事したら、あすか先輩にぶん殴られるわよ?」

 

 「ははっ、だよねー。見つからない様に大人しくしときますわ」

 

 雰囲気は、悪くない。滝野がトランペットのパート練だけ顔を出して良いと言ったのは、これが理由だ。

 今のトランペットメンバーは1年を除いてある程度秋川の事を知っている。なのでギクシャクする可能性が少ないと踏んでいた。

 結果、お通夜みたいな空気は避けられている。

 

 「で、話は変わるんだけど新しく入った一年生って、その子だけ?」

 

 すると、秋川は話題を変えて、唯一この場にいる一年生の吉沢を指して、吉川にそんな事を聞く。

 

 「あともう一人居るわよ。……今日もパート練には来てないけど」

 

 「今日も?」

 

 意味深な言い方をする吉川に対し、秋川は首を傾げる。

 

 「いっつも一人で個人練してんのよ。なーんか"あなた達とは違いますから"みたいな空気出されて、好きじゃないのよね」

 

 少し顔を顰めて、吐き捨てる様にそう言う吉川。なるほど、この吹奏楽部にも、まともに練習してる人間はほんの少しだが存在する様だ。

 

 「……へぇ」

 

 対して秋川は、興味津々と言った表情で返事を返す。

 此処では珍しいタイプのその個人練をしてる子に、少なからず興味が湧いたようだ。

 

 

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