響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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公園で

 いつもより早く学校から帰る時と言うのは、変な違和感を感じる。

 ここ最近、練習詰めで帰るのが毎日夕方になっていた吉川にとって、今日の様に明るいうちから帰るのは、久々のことだった。

 どこかボーッとして、明るい街を見ながら帰宅をする。

 その景色は、どこか知らない場所に来た様な錯覚を覚え、不安な様な、そして何処か冒険心をくすぐられる様な、そんな感覚に吉川もなっていた。

 

 "アッキーは、いい男だよ。逃したら、もう2度と会えない様な、そんな人だと思う"

 

 吉川は、そんな街の景色を見ながら、中川に言われた事を思い出していた。

 それは、彼女自身が一番知っている。忍と一番距離が近いのは、紛れなく吉川だ。

 

 「……はぁ……何話せば良いのよ……」

 

 ため息をついて、少し俯いて吉川はそう呟く。

 忍の事を一番理解してるのは、吉川だ。だからこそ、あの時忍が怒った理由を一番よく解ってるのも、また彼女だった。

 確かに女性を叩いた忍の罪は大きいが、そうされても仕方が無い事をしたのだと、吉川もどこかで納得している。

 だからこの様に何処か会いにくそうな顔をしているのだ。

 

 

 _______♪、♪ーー♪♪、♪ー♪_______

 

 

 すると、ある方向から楽器の音が聞こえる。トランペットの音だ。こんなところで誰が?

 吉川は、その音色に聴き覚えがあった。それがなんだか気になって音の方へと歩みを進めると、それは公園で鳴らしている事が分かった。

 

 そして、バレない様に木陰からその光景を覗く。そこには、子供たちに囲まれた、一人の男の姿があった。

 

 「おー!!すげー兄ちゃん!!!ラピュタじゃん!!パズーじゃん!!」

 

 「ばっかお前、パズーなんかより全然上手いだろーが」

 

 興奮した小学生ぐらいの男の子にそう言われて、男は冗談めいてそう返す。

 

 吉川の目に映ったその男は、紛れもなく忍だった。

 

 彼はいつも通り、楽しそうにして、子供達の相手をしている。……相手にしていると言うよりかは、一緒にに遊んでいると言った方が正しいのだが。

 

 「もう一回!もう一回吹いて!!」

 

 すると、別の男の子がもう一度と、忍に催促する。

 

 「えー?、またー?、しょーがないなー」

 

 口調は面倒臭そうだが、顔は満面の笑みで忍はそう返す。

 そして、姿勢を正しマウスピースを口につけて、再び忍は演奏を始めた。

 

 ______ ♪、♪ーー♪♪、♪ー♪_______

 

 聴こえてきたメロディは、『ハトと少年』と言う曲。"天空の城ラピュタ"と言う、とあるアニメ映画のワンシーンで流れる、トランペットソロの曲だ。

 高らかなハイトーン気味のそのメロディは、主人公が街の人々を毎朝起こすために鳴らしていると言う設定のものだった。

 それに沿う様に、軽快に、そして伸び伸びと忍は音を奏でる。

 この音を聴いている人達全員が、気持ち良い朝を迎えられる様にと、そんな思いを込めて。

 

 そんな忍の姿を、吉川はジッと見つめる。

 その演奏を聴いて彼女が覚えたのは、懐かしさだった。

 

 だってその曲は、忍が初めて吉川に聴かせたソロの曲だったからだ。

 

 1分も経たずに終わる、短い曲。それを吹き終わると、再び子供たちから歓声が起こった。その光景を満足そうな顔で忍は見つめている。

 

 ……やっぱり、秋川は秋川だ。

 

 それが、この演奏を聴いて吉川が思った事。それが胸にスッと入って来ると、自然と足取りは忍の方へと向いて行った。

 そしてお互いに、目が合う。

 

 「あ、……吉川……」

 

 最初に話し掛けたのは、忍の方だった。吉川の姿を見て、ホッとした様に薄く微笑む。

 

 「やっと来た。とりあえず、あっち座ろっか?」

 

 そして、忍は公園のベンチを指差し、続けてそう言い放った。

 

 ___________

 

 

 「……なんで公園で吹いてんのよ?」

 

 公園のベンチ。隣同士で座り合う。しかし、吉川は俯き、忍は子供達を見つめていて、お互いに顔は合わせていない。ぶん殴られたのが昨日の今日なのだ。やはりと言うべきか、何処か吉川はやりにくそうにしてる。

 

 「吉川の通学路だから」

 

 対して忍は、いつも通りだった。あっけらかんと、吉川に対してそう返す。

 そんな忍に、何故か安心感を覚える吉川だった。

 

 「……アタシを、待ってたの?」

 

 「うん」

 

 吉川の問いかけに、素直にそう返す忍。それを聞いて、吉川の心臓が一つ、跳ねた。

 

 「なにそれ、ストーカーじゃない」

 

 「俺としてはストーカーした甲斐があったけどな」

 

 そして、軽口に軽口を返す。いつものやり取り。まだ互いに目は、合わせていない。

 

 「………部活停止なんでしょ?吹いていいの?」

 

 すると、俯いたまま、吉川は暗い声でそう聞く。

 

 「部活には出ちゃいけないだけだから。校外ならどこで吹いたって、俺の勝手でしょ?」

 

 「……ホント、アンタって相変わらず」

 

 忍がひょうきんにそう返すと、俯いたまま吉川は薄く笑う。そして、その俯いた顔を上げ、ようやく忍の顔を見た。

 

 「………ねえ、秋川。……まだ、怒ってる?」

 

 不安そうに、少し瞳を揺らしながら吉川は続けてそう聞く。それに対して忍は、すぐさま首を横に振った。

 

 「俺は怒ってないよ。って言うか、ホントなら殴られた吉川が怒るところじゃない?」

 

 尚もひょうきんに、忍はそう返す。それに吉川は確認する様に、忍に叩かれた右頬に自ら触れた。

 

 

 「……そうね、傷ものにされちゃったから、怒ってるってよりか、傷心してるって感じかも」

 

 

 そして、意地悪な笑みを浮かべて、吉川はそう言い放った。それを聞いて、忍は困った様に笑う。

 

 「……そっか、傷ついちゃったか。……じゃあ、ちゃんと謝んないとね」

 

 そして、忍はベンチから立ち上がり、吉川に向かって頭を下げた。

 

 「ごめん。昨日は叩いて。お詫びに2、3発殴っていいよ?」

 

 素直に忍が謝り、頭を下げて、自分の顔を吉川に突き出す様にして忍はそう言う。

 

 「良いわよ。アタシだって普段からアンタのケツ蹴ってんだから、おあいこって事で」

 

 それに吉川は困った様に笑ってそう返した。それを見て、忍もホッとした様な表情になる。

 

 「……そっか、良かった」

 

 忍がそう呟くと、少し無言の時間が流れる。どちらも、何か言いたそうにしているが、中々に言葉が口から出ない状態だった。

 

 

 「………吉川はさ、オーディション結果に納得してないんだよね?」

 

 

 そして、今まで伏せていたその話題に触れたのは、忍の方からだった。

 吉川は、一瞬目を見開く。

 

 「吉川はさ、誰がソロパート吹くべきだと思う?」

 

 そして、忍は視線を吉川に向け、しっかりと目を捉えて彼女にそう問いかけた。

 それに吉川も、真っ直ぐ見つめ返す。

 

 

 「……アタシは、香織先輩が吹くべきだと思う」

 

 

 忍の眼を真っ直ぐ見て、強い口調で吉川はそう言い放った。

 

 「それは、音だけを聞いての判断?」

 

 そんな吉川に対し、何かを試しているかの様な口調で、忍はそう聞く。しかし吉川という少女の頑固さは、しぶといものがあった。

 

 「違うわよ。アタシの個人的な感情。……でも、ソロパートを吹いても良いと思うぐらいの積み重ねを香織先輩はして来たって、アタシは思ってる」

 

 吉川は、真っ直ぐ忍を見つめてそう返した。

 吉川は、忍が誰よりも音に純粋な事を知っている。それを分かった上で、彼にそう言い放ったのだ。

 音だけではなく、今までの行動も含めて。中世古に吹いてほしいと、吉川は心の底から思っている。

 

 「………」

 

 そんな吉川の光景を見て、忍は腕を組んで考える。

 彼とて、1年の頃は中世古にお世話になった身。彼女の性格の良さを知っている。彼女がトランペットに真面目に打ち込んでいたのも知っている。

 でも、音は………

 

 

 「……俺は、高坂さんが吹くべきだと思ってるよ」

 

 

 音は、誤魔化せない。どれだけ中世古が性格が良くても、どれだけ後輩から慕われようとも、音の良し悪しは分かる。分かってしまう。

 そこに嘘をつく事は、忍には絶対に出来ない。

 忍のその発言に、吉川の瞳が揺れた。

 

 「吉川はさ、高坂さんの音って、どう思う?」

 

 そして、忍は続けて吉川にそんな質問をした。

 

 「……ずるいと思う」

 

 それは果たして答えなのか。吉川は、再び俯いてそう答えた。それを聞いて、忍は納得行った様な表情になる。

 

 「ずるい、か。……そっか、そうだよな。ずるいよな。1年であんだけ吹けて」

 

 「……うん、反則だと思う」

 

 突如現れたスーパー1年生。それが、あっという間にソロパートを掻っ攫って行った。

 それはとても格好良くて、とても美しくて、そして……

 

 「……なんで、今年なのよ……もう香織先輩は、今年で最後なのに……」

 

 とても、残酷な事だった。

 

 吉川は薄らと涙を浮かべて、恨めしそうにそう言い放った。

 

 「納得、してない?」

 

 「してない」

 

 忍がそう聞くと、吉川は即答する。彼女は納得していない。でも、ここで急に中世古にソロが変わったとしても、吉川にとって良くない事は、忍は直感的に理解していた。

 ……なら、納得させる為には、どうしたら良いのか?

 

 「……じゃあ、やり直してみよっか?」

 

 忍は、覚悟を決めた様に、吉川に対してそう言い放った。

 

 「……え?」

 

 吉川は忍が言った言葉の意味がわからず、そう聞き直す。

 

 

 「オーディション、もう一回。今度は皆が居る前で」

 

 

 忍のその提案は、ある意味現実を突き付ける様なものでもあった。

 

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