響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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本心

 

 今日もパート練習。

 合奏で集中出来る状態では無い。滝先生が無言を貫いているが故、部内の不信感はかなり溜まっていた。

 しかし、変わった事が一つある。

 トランペットパートの雰囲気だ。正に騒動の渦中にいるこのパートなのだが、意外にも雰囲気は良かった。

 何故ならば、中世古がチームを立て直そうと奔走してくれたからだ。オーディション前でも何処かまとまりの無かったトランペットパートだが、最近は全員で集まって意見を交換したり、互いの欠点などを指摘し合ったりしている。

 そう言う話し合いの場を、中世古が設けたのが大きかった。

 個人練が多かった高坂が、パート練に顔を出す様になって来た。あまり高坂と反りが合わなかった吉川が、自ら高坂に話しかける様になった。

 吹奏楽は、一人では出来ない。

 そんな意識が、トランペットパートの中で生まれてきたのだ。

 しかしそれとは別に、不安もまだ残っている。

 

 一つは、秋川忍はコンクールに出れるのか?

 

 吉川に対する暴力。理由があったとはいえ、滝先生が居る目の前で叩いたのだ。

 皆、口には出さないがそれを心配している。実力者である忍がコンクールに出ないのは、実に痛い。早く部活に復帰してくれと言うのが、パートメンバーの総意だった。

 

 そしてもう一つは、オーディションの結果。

 

 吉川は納得していない。忍と話して心のどこかではそうではないと分かっているが、未だに滝先生が贔屓したのでは無いかと言う疑問も拭い切れていない。

 そして、納得してないのはもう一人。

 

 ______♪ーーー、♪♪、♪♪ーー__________

 

 三日月の舞のソロパートを、個人練で吹く少女が一人、中世古香織だ。もう終わったはずのオーディションなのに、ソロは高坂で決まった筈なのに、彼女はまだこうしてソロパートの練習をしている。

 それは何より、彼女が納得していない一番の証拠でもあった。

 

 「おー、音、良くなったですねー」

 

 すると、中世古の後ろから声が聞こえた。聞き覚えのある声に一瞬肩を震わせ、中世古は声の方向へと振り向いた。

 

 「……秋川君……」

 

 いつも通り、ひょうきんに。そこには、笑顔で中世古に話しかける忍が居た。

 

 「高坂さんとはまた違うんですよねー。こう、なんて言うか、包むと言うか、柔らかい感じの。香織先輩らしいって言うか」

 

 身振り手振りをして、忍は中世古の音に対してそう感想を述べる。相変わらずな彼の姿に、中世古は少し噴き出してしまった。

 

 「あははっ、ありがと。でも良いの?部活停止中でしょ?こんなところ先生に見つかったら……」

 

 「大丈夫、大丈夫。部活には出てませんから。今は一生徒として親交のある先輩に話し掛けてるだけです」

 

 少し心配そうに中世古がそう尋ねると、ケラケラと笑って忍はそう返した。物は言い様、反省はあまりしてない様である。それに対して中世古は困った様に笑った。

 

 「そっか。じゃあ、私も吹奏楽部員としてじゃなくて、一人の可愛い後輩として、秋川君を見れば良いんだねー」

 

 「可愛いじゃなくてカッコいいですよー」

 

 中世古が揶揄う様にそう言うと、ひょうきんに忍もそう返す。やはり前と変わらずいつも通りの忍だ。

 そして、一歩、忍は中世古の方へと近付いて行き、何処か真剣な表情で中世古を見やる。

 

 

 「納得、してないですか?」

 

 

 あまりにもあっけらかんと、忍はそう言い放った。

 いきなりの彼の発言に、中世古の瞳が少し揺れる。

 

 「……してるよ。今は全国を目指さなきゃだもん。だから皆んなを一つにまとめなきゃ」

 

 「そうじゃなくて」

 

 すると、中世古の言葉を遮る様に、忍は言葉を被せた。

 

 「香織先輩自身がです。あのオーディション、本当に全部出し切って、高坂さんがソロで良いやって、納得しましたか?」

 

 真っ直ぐ、中世古の目を見て、忍はそう尋ねる。それに耐えられなかったのか、中世古は一瞬目を逸らしてしまった。

 

 「……秋川君は、納得してるの?」

 

 そして、苦し紛れの様に中世古はそう返す。

 

 「してますよ。俺は高坂さんの演奏を聴いて、納得しました。今、この三日月の舞を1番理解してるのは、彼女だって。だから不満も不信感も全くないです」

 

 忍は尚も中世古を真っ直ぐ見据えてそう言い放つ。それが嘘ではない事は、彼の性格を良く知っている中世古も分かった。

 

 「……本当に秋川君は真っ直ぐだね」

 

 「どーも。それが取り柄なので」

 

 中世古は困った様に笑ってそう言う。それに、忍も軽く笑ってそう返した。

 やっぱり、彼は不思議な人だ。

 中世古も忍とは付き合いが長いが、ここまで純粋で真っ直ぐな人は見た事がない。だからこそ、自分の本音を言いたくなると言うものなのだろう。

 

 

 「……私、今年で最後なんだよね……」

 

 

 真剣な顔つきで忍を見つめ、そう言い放つ中世古。雰囲気が変わった事を忍も察し、中世古の言葉に耳を傾ける。

 

 「まだ出し切ってない。まだ納得してない。今年で最後なんだから、悔いが残らない様にやりたい」

 

 ポロポロと、化けの皮が剥がれる様に、代わりに感情が剥き出しになっていくかの様に、中世古は独白する。

 それを、忍は真剣に見つめている。

 

 「だって最後だもん。ここで終わりたくないんだもん!ここで終わったら、後悔しちゃう!だから!!」

 

 口調が、激しくなって来た。いつも柔らかな笑顔を浮かべて、先頭に立って皆をまとめ上げる彼女が見せる本心。

 

 やっぱり、彼女もソロパートが吹きたいのだ。

 

 

 「もう一回やり直せないかなって、どこかで思ってる……」

 

 

 そして、最後は萎れる様になって、そう呟いた。中世古の右手を見ると、震えながら強くトランペットを握りしめている。

 それを見て、忍の心が決まった。

 

 「……香織先輩。もしオーディション、やり直せるとしたら、また挑戦したいって思いますか?」

 

 そして、俯き気味の中世古に、優しい口調で忍はそう問いかける。それに彼女は、無言で頷いた。

 

 

 「……もしそれが、残酷でさらに傷付く結果になったとしても?」

 

 

 「……うん、したいよ」

 

 

 忍が確かめる様にそう聞くと、中世古は顔を上げ、忍の目をしっかりと見つめてそう返した。

 彼女は、本気だ。それがわかる様な、真っ直ぐな瞳。

 それを見て、忍は満足そうに笑った。

 

 「そっかそっかー。良いですねー、正に燃えたぎる闘志って感じです。……分かりました。部活停止が明けたら、滝先生に言ってみますよ」

 

 「言うって、何を?」

 

 忍がしようとしてる事がまだ分からないのか、首を傾げてそう聞き返す中世古。

 そして忍の次の発言に、中世古の心臓は一つ、大きく跳ねる事になる。

 

 

 「もう一回、"みんなの前"で再オーディションをやってくれないかって、聞いてみます」

 

 

 例えそれが、さらに残酷な結果を招く事になったとしても。

 




 一応、凛花の設定も描いてたりしますが、見たい人とか居ますかね?
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