響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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再度

 「ゔあ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ー!!あ゛っぎーぜん゛ばい゛!!よがっだでずー!!」

 

 「どうどうどう、ヨッシー。泣きすぎだって」

 

 部活復帰初日。パート練の教室で、吉沢が号泣しながら言葉になってない声を出す。滝の様に涙を流すそのあまりの号泣っぷりに、忍も少し引き気味だった。

 しかし、それは号泣される程に忍が慕われていると言う裏付けでもある。それが忍にも分かってるのか、そんな吉沢を宥める様に頭を軽くポンポンと叩いた。

 

 「なんか、いつも通りって感じだな」

 

 相変わらずひょうきんな忍の姿に、滝野は困った様に笑ってそう言う。

 とりあえずは、忍が復帰出来たことに皆安心していた。やっぱり彼がいると、パート内が明るくなる。

 

 「……それで、コンクールには出れそうなの?」

 

 すると、今度は加部が心配そうにそう聞いて来た。部活に復帰出来たは良いが、問題はここだ。

 加部のその言葉に、皆生唾を呑む。

 

 

 「コンクールは出て良いって。滝先生も松もっさんも、そう言ってくれたよ」

 

 

 忍のその言葉に、皆安堵のため息を漏らす。とりあえずは最悪の事態は避けられた様だ。

 

 「よ、良かったー。滝先生の前で優子ちゃん引っ叩いたから、どうなることかと思ったよー」

 

 そして、笠野が一安心という風にホッと一息つく。それを聞いた当事者の吉川は、忍に叩かれた右頬を触る。

 

 「……そう、アタシは秋川に傷付けられちゃったの……だから、もうお嫁に行けないわ……」

 

 そして、わざとらしく落ち込んでそう言い放った。完全に揶揄っている。

 

 「あ、アッキー先輩!こ、これは責任を取らなきゃいけないんじゃ……!!」

 

 「なんでヨッシーが嬉しそうなんだよ」

 

 そんな光景を見て、目を輝かせて吉沢は興奮気味にそう言う。それに忍はすぐさまツッコミを返した。

 雰囲気は、大分良くなっていた。忍としては最悪も覚悟していたのだが、意外にもギスギスしている感じはない様に思えた。

 

 「はいはい、じゃあ、もう練習始めるよ?」

 

 そして、中世古が締めるようにそう言い放つ。一同、「はい」と返事すると、パート練習に移る。すると、いつもと違う光景が忍の目に入った。

 

 「お?、高坂さん。今日はパート練出るんだねー?」

 

 興味津々に、高坂に対して忍はそう聞く。いつもなら個人練に行ってる彼女がパート練習に出ている事が、忍には新鮮に映った。

 

 「……はい。……吹奏楽は、周りの音も聴かないといけないですから」

 

 そして、楽譜の準備をしながら高坂は何処か照れ臭そうにそう答える。それを見て、忍は意外そうな表情に、中世古は満足そうに微笑んだ。

 

 「はい。じゃあ、この後の合奏練習まで、音合わせをやろっか?」

 

 「「「はい」」」

 

 久々に復帰したトランペットパートが何か変わっている事は、忍も感じていた。

 

 

 ______________

 

 

 

 そして、部活後半からの合奏練習。忍たちトランペットパートが音楽室に入ると、少々騒めきが起こった。

 やっぱりか、と言う風に忍は苦笑いになって、席に着く。

 

 (もしかして、想像以上にヤバい?)

 

 そして、隣に座った滝野に対し、小声でそう聞く。

 

 (ああ、ここ最近はまともに合奏練習が出来てない。皆んな集中力が切れてる)

 

 (……自分の事じゃ無いのに、どうしてこうも過敏に反応するのかねぇ……)

 

 少し呆れも混ざった声色で、忍は小声でそう言い放った。皆、トランペットパートの方をジロジロ見ている。

 ヒソヒソと、話し声が聞こえる。会話の内容なんて、大体想像できる。

 こんな中でトランペットのパートメンバーは合奏練習をしてたのかと思うと、忍の中で少し苛立ちの感情が湧いた。

 そして、全員が集まったのを確認すると、部長である小笠原が、教壇に上がる。そして、パンパンと2回手を叩き、みんなの注目を集める。

 

 「はい、えっと、もう少ししたら先生が来ると思うけど、その前に皆んなに話があります」

 

 小笠原の真剣な表情を、部員も感じ取ったのか、全員耳を傾ける。

 

 「最近先生について、根も歯もない噂をあちこちで聞きます。……そのせいで集中力が切れてる。コンクール前なのに、このままじゃ金はおろか、銀だって怪しいと私は思っています」

 

 小笠原のその言葉は図星なのか、目を逸らす者、少し俯く者、バツの悪そうな顔をする者など、反応は様々だ。

 

 「一部の生徒と知り合いだったからと言って、オーディションに不正があった事にはなりません。それでも不満があるなら、裏でコソコソ話さず、ここで手を挙げて下さい。私が先生に伝えます」

 

 そして、小笠原は全体を見回し

 

 「オーディションに不満がある人」

 

 部員に対して、そう聞く。

 この話は、忍が部活に復帰したら、小笠原がやると決めていた事だった。不信感を皆に、公の場で聞き、是非を問う。

 中世古との約束を反故にする程、小笠原はへっぽこでは無い。

 そして、少し間が空いた後、最初に手を挙げたのは、吉川だった。

 それを皮切りに、部員の何名かが続けるように手を挙げる。それを確認して、小笠原は「……はい」と、一言呟く。

 

 _______ガラッ_______

 

 その時、音楽室の扉が開いた。

 

 「先生……!」

 

 良いと言うべきか、悪いタイミングと言うべきか、滝先生が入ってきたのだ。

 

 「今日はまた、ずいぶん静かですね。……この手は?」

 

 そして、いつもと違う音楽室の雰囲気を感じ取ったのか、滝先生がそう聞く。

 

 「オーディションの結果に不満が……んぐっ!何すんのよ!秋川!!」

 

 吉川が皆まで言う前に、忍が片手で吉川の口を一瞬押さえる。

 

 「学習しろ。バーカ」

 

 噛み付く吉川に対し、小馬鹿にするように忍は吉川に対しそう言い放った。しかし、それで言いたい事は伝わったのか、薄く微笑んで滝先生は入り口の扉を閉める。

 

 「なるほど。……今日は、最初にお知らせがあります」

 

 そして、そう言いながら滝先生は皆んなが見える位置まで移動するように、教壇の方へ近づく。

 

 「来週ホールを借りて練習する事は、皆さんに伝えてますよね。そこで時間を取って、希望者には再オーディションを行いたいと考えています」

 

 滝先生がそう言い放つと、音楽室が騒めき出す。吉川も、高坂も、その他のパートの人でさえ驚いている。

 しかし、中世古香織、ただ一人だけは、真剣にその言葉に耳を傾けていた。

 

 「前回のオーディションの結果に納得が行かず、もう一度やり直して欲しい人は、ここで挙手して下さい。来週"全員"の前で演奏し、"全員"の挙手によって、合格を決定します。……"全員"で聞いて決定する。これなら異論は無いでしょう。……良いですね?」

 

 全員と言う部分を強調するかのように、滝先生はそう説明する。

 全員が聴いてる場での再オーディション。

 

 「では、聞きます。再オーディションを希望する人」

 

 続けて滝先生が、そう問い掛ける。もし落ちれば、自分の実力の無さをまざまざと見せつけられる結果になる。心が折れるかもしれない。その後も立ち直れないかも知れない。

 ……でも、それでも、中世古は……

 

 

 「ソロパートのオーディションを、もう一度やらせて下さい」

 

 

 椅子から立ち上がり、手を真っ直ぐに挙げて、目を真っ直ぐ滝先生に向けて、中世古はそう言い放った。

 その光景を見て、吉川は泣きそうに、高坂は気の強そうな表情で、小笠原は何処か心配そうに。

 

 そして忍は、悲しげな、それでいて慈愛の籠った、なんとも言えない笑みを浮かべていた。

 

 それを確認して、滝先生は一つ頷く。

 

 

 「……分かりました。では、今ソロパートに決定している高坂さんと二人。どちらがソロに相応しいか、再オーディションを行います」

 

 

 こうして、トランペットソロの再オーディションが行われる事が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

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