響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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皆さんがくれる一つ一つの言葉が、作品を書くモチベーションになっています!


結果

 ホール練習当日。夏らしく、茹だる様な暑さだ。

 今日は貸切での練習ということもあり、ガランとしたホール内は、何処か違和感を覚えると同時に、変な特別感もある様に感じる。

 

 「楽器来ましたー!手の空いてる人は、手伝って下さーい!」

 

 そして、ホールに楽器を積んだトラックも到着し、1人の男子部員が声を掛けた。

 それを聞いた滝先生は、部員に声を掛ける。

 

 「はい、では、準備を始めましょう。中世古さん、高坂さん」

 

 「「はい」」

 

 「二人は準備は良いので、オーディションの用意を」

 

 「「……はい」」

 

 滝先生がそう言うと、部員たちは練習の準備に、高坂と中世古はトランペットケースを持って再オーディションの準備へと向かう。

 

 

 「……アッキー。行かなくて良いのか?」

 

 すると、一緒に練習の準備をしていた滝野が、忍に対してそう聞いて来た。

 

 「行くって、どこに?」

 

 そんな滝野に対して、忍は心底不思議そうにそう返す。

 

 「そりゃ、……あれ、この場合どっちに行った方が良いんだ?」

 

 恐らく滝野はどちらかを励ましに行った方が良いのでは無いかと提案したかった様だが、忍がどちらを応援しているのかが分からず、首を傾げてそう言った。

 

 「どっちかを激励しろって事?しないよ。そんなの」

 

 すると、意外にもドライな返答を忍はした。滝野もそれが意外だったのか、少々驚いた顔になっている。

 

 「しないって……二人とも同じパートメンバーだろ?アッキーは今回ソロ吹かないけど、実力はあるんだから励ましに行ったら嬉しいもんじゃねーの?」

 

 そして、少し不服そうに滝野はそう言い放った。

 

 「いらないよ。と言うか、寧ろそれはお節介。あの二人がこのオーディションに賭ける思いは知ってるし。今更行ったって意味ないでしょ?」

 

 それに、困った様に笑って忍がそう返す。その言葉に滝野は納得した様な表情になって、「……ああ、そうだな」と、一言だけ言い放った。

 

 

 「今はあの二人をそっと見守る事。それに、励ましなら頭にデカいリボン付けた奴と、低音の一年で面白い子がもう行ってるだろうしねー」

 

 

 そして、ケラケラと笑ってそう言うと、忍はせっせととパイプ椅子の準備を進めた。

 

 ______________

 

 

 

 「……どうですか?」

 

 「うん、大丈夫」

 

 一方こちらは、ホールの裏口。そこでは、中世古がオーディションの準備をする様子を吉川が聴いていた。

 

 「準備とかあるから、優子ちゃんはもう行って?」

 

 そして、中世古は柔らかく微笑んでそう言った。

 

 「……はい」

 

 一つ、吉川がそう呟くと、準備のためにホール内へと足を進めていく。

 

 「……あの」

 

 しかし、その足を一旦止めて、吉川はそう言って再び中世古の方を振り返った。

 

 「何?」

 

 それに少し首を傾げて、中世古は薄く笑ってそう聞く。そして、吉川はどこか寂しげな表情で口を開いた。

 

 「……香織先輩の音、アタシは好きです。……今回のオーディション、それを目一杯聴かせて下さい。……結果はどうであれ、香織先輩が全てを出し切れる様、アタシは応援してます」

 

 寂しげに、しかしどこか吹っ切れた表情で、吉川はそう言い放った。その言葉を聞いて、中世古は少し驚いた表情になる。

 

 「……ありがと、優子ちゃん。なんか、雰囲気変わったね?」

 

 「そ、そうですか?」

 

 「うん、ちょっと大人っぽくなった」

 

 そして満足そうに笑って、中世古はそう言い放った。

 今まで"香織先輩の吹いて欲しい"と言う一方的な感情から、"香織先輩が納得するなら"と言う感情に変わった。吉川のその心境の変化を、中世古も感じ取ったのだ。

 

 「……私も、悔いのない様にやるよ」

 

 一つ、中世古が覚悟した様にそう呟く。それを見て、吉川は彼女に向かって何も言わずに一礼だけする。そして、その後は振り返る事なく、建物内へと戻って行った。

 中世古の視界から見えなくなると、吉川は足を早める。まずは早歩きに。しかし、それでは足らないのか、今度は小走りに。それでも足らないのか、遂には走り出してしまった。

 

 すると吉川の目の前に、一人の男の背中が目に入った。

 

 

 

 「ホールって、デカイから何処にトイレがあるか分からんのよなー」

 

 パイプ椅子の準備を終え、その合間に行ったトイレから戻る途中で、忍はそんな独り言を呟く。

 これから楽器の準備と言うところで、それが終われば、まずはオーディションだ。

 

 「ステージって光がバチバチに当たって、結構暑いんよねー」

 

 少し顰めっ面になって、忍は悪態をつく様に、独り言を続ける。

 

 「いくらクーラー効いてるからって…おわっ!?」

 

 すると、背中に突然衝撃が走り、咄嗟に忍は振り向こうとする。誰かがぶつかって来た様だ。

 

 「振り向かないで。こっち向いたらタダじゃおかない」

 

 しかしそうする前に、そのぶつかって来た本人が、震えた声でそう言い放つ。

 忍もその声を聞いて、誰だか一瞬で理解する。

 背中にしがみつきながら、少し啜り泣く様な声が聞こえた。

 間違いない。吉川だ。

 

 「……………」

 

 忍は、何も言わなかった。何があったのかは、なんとなく彼にも察しがついた。だからこそ、何も言わない。しかし、それで正解だった。

 そして少し経った後、落ち着いたのか、吉川はゆっくりと忍の背中から離れる。

 

 「………準備、行くわよ」

 

 「そりゃ、こっちのセリフ。さっきまでサボった分、きっちり働いてもらうよん」

 

 吉川がそう言うと、忍はいつも通りひょうきんにそう返す。そんな彼の姿に安心した様に少し笑い、吉川は忍の隣に並んでホール内まで一緒に戻って行った。

 

 

 ____________

 

 

 「ではこれより、トランペットソロパートのオーディションを行います」

 

 滝先生がそう言うと、ピリッとした緊張感が張り詰める。

 今ステージ上に立っているのは、二人。中世古と高坂。他の生徒は、観客席からその光景を見つめている。

 

 「両者が吹き終わった後、全員の拍手によって決めましょう。……良いですね?中世古さん」

 

 「はい」

 

 滝先生がそう尋ねると、中世古の返事が返ってくる。

 

 「高坂さん」

 

 「はい」

 

 高坂も同様だ。

 

 「ではまず、中世古さん、お願いします」

 

 「……はい」

 

 先攻は中世古から。トランペットを構え、ピストンの確認をする。一息ついて、震える唇をなんとか抑える。そして、自分のタイミングで息を吸う。

 

 

 ______♪ーーーー、♪、♪♪ーーー……_____

 

 

 ホール内に響く、ソロの旋律。皆、真剣にそれを聴く。目を瞑り、音だけに集中する。忍も、滝先生も、小笠原も田中も。吉川は、祈る様に手を合わせてその音を聴いていた。

 

 

 「……ありがとうございました」

 

 

 ソロを吹き終えると、中世古はそう言って一礼する。

 良い演奏だったと、各々から拍手が起こった。それを見て中世古はホッとした様な表情を浮かべる。

 

 「では次に、高坂さん、お願いします」

 

 「はい」

 

 そして、後攻の高坂。滝先生の問い掛けに強気な返事を返すと、そのままトランペットを構える。すぐさまブレスを開始し、中世古と同じ場所の演奏を開始した。

 

 ______♪ーーーー♪♪♪ーーー……_____

 

 最初の1フレーズ。いや、最初の一音。

 それだけでも十分だった。目を瞑っていた他の部員たちが、一様に目を見開く。

 音が、違いすぎる。

 同じソロパートでも、こんなに違うものかと。

 確かに、中世古のソロは上手かった。そのままソロパートを彼女が吹きますと言われても、誰しもが納得するだろう。

 しかし、それ以上に高坂は……

 

 

 「あぁ、残酷だなぁ………」

 

 

 誰にも聞こえない声で、忍はそう呟く。ステージ上の高坂を真っ直ぐ見据えながら、悲しげに、しかしどこか喜色も混ざった、なんとも言えない表情を浮かべていた。

 そして吉川は、そんな高坂の演奏を聴いて、再び目を瞑ってしまう。

 

 

 「……ありがとうございました」

 

 そして、中世古と同じく吹き終わって一礼をする。

 拍手は、起きなかった。それ以上に、皆圧倒された。そんな演奏だった。

 

 「では、これよりソロを決定したいと思います」

 

 遂に結果が決まる。

 

 「中世古さんが良いと思う人」

 

 滝先生が、そう問い掛ける。

 

 _____パチパチパチ_______

 

 真っ先に席を立って拍手をしたのは、吉川だった。それを見て、中世古は柔らかく微笑む。

 同じく小笠原も座ったままだが、拍手をしていた。

 

 「……はい、では、高坂さんが良いと思う人」

 

 次に、高坂。

 

 ____パチパチパチ______

 

 最初に立って拍手をしたのは、黄前だった。真っ直ぐ高坂を見据え、強い意志を持って拍手を送っている。

 

 

 _____パチパチパチ……_____

 

 

 そして、次に拍手を送ったのは、忍だった。

 

 それを見て、中世古は少し驚いた後、"やっぱりか"と言う風に微笑む。高坂も少々驚きながら会釈を返し、吉川はその光景から視線を逸らす様に俯く。

 

 「はい、………中世古さん」

 

 そして、滝先生は一つ間を置いた後、中世古の名前を呼ぶ。それに「……はい」と、彼女も返す。

 

 

 「あなたが、ソロを吹きますか?」

 

 

 その言葉に、部員は一様に驚く。最後の決断。それを滝先生は中世古本人に聞いたのだ。

 沈黙。立ち尽くしたまま、中世古は少し俯く。そして、答えが決まったのか、意を決した様に顔を上げると____

 

 

 「吹かないです。………吹けないです」

 

 何処か吹っ切れた表情で、そう言い放った。

 

 「……先輩?」

 

 その言葉に、吉川が悲しげな表情になる。彼女も理解したのだろう。

 今、この瞬間。中世古香織は納得したのだろうと。

 

 「ソロは、高坂さんが吹くべきだと思います」

 

 そして、中世古は薄く笑って、高坂に対してそう言い放った。

 

 「グスっ……先輩ぃ………」

 

 その言葉に、吉川から涙が溢れる。

 

 

 『先輩は、トランペットが上手なんですね』

 

 『上手じゃ無くて……好きなの!』

 

 

 いつしか、吉川が見た光景。中世古に心底惚れ込む事となった、その光景。

 それを思い出してしまったのか、吉川は大粒の涙を流し始める。

 

 

 「………ぅぁああん…!うぁああああん!!!」

 

 

 人目も憚らず、大声を上げて吉川は泣き出した。

 

 

 「………高坂さん」

 

 「はい」

 

 そして、滝先生は高坂に、確認する様に問い掛ける。

 

 

 「あなたがソロです。……中世古さんでは無く、あなたがソロを吹く。……良いですか?」

 

 

 「……はい!」

 

 

 滝先生の問い掛けに、高坂は力強く返事を返す。

 

 その返事は、ソロオーディションに落ちた中世古の思いも背負っている様にも聞こえた。

 

とりあえず、ソロパート事件まで書き終えましたので、初めてのアンケートを取ろうかと思います。キャラクター個別の話を書こうと思うのですが、どれが良いか回答していただけると、すっごい嬉しい。

  • マドンナとの優雅なやり取り。中世古香織
  • 忍と通じる部分があるかも?高坂麗奈
  • 変態の片鱗を見せつけろ。吉沢秋子
  • まだまだ絡み少なし、加部友恵
  • そんな事より吉川優子
  • 他パート(低音など)
  • 全部書けダラズ
  • それより本編進めて
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