響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
やっぱり皆んなデカリボン先輩が好きなんすね。自分も好きです。
麗奈と票数が僅差だったので、気が向けば麗奈のショートストーリーも描こうと思います。
ついでに、低音パートの自己紹介的なものも、ここでやっておこうかと思います。
全部書け?ちょっとなんの事言ってるのか分かんないっす。
北宇治高校吹奏楽部。女子部員の多い部活らしく、練習をしっかりしているとはいえ、無駄話や雑談などをする事も多い。
その中には、もちろん恋愛話も盛り込まれている。ホルンパートのあの子は、あの先輩の事を好きだとか、サックス隊のあの子は、同じクラスメイトのサッカー部の男子が好きだとか。そんな話題で盛り沢山だ。
しかし、その中でも特に話題に上がりやすい人物達が、トランペットパートに居る。
「秋川、ここの出だしなんだけど……」
「ん?、……ああ、62小節の出だし?」
互いの頬が引っ付きそうなほどの距離感で、同じ楽譜を見合う二人。
この秋川忍と吉川優子は、部内で話題になる事が1番多い。
距離感の近さ。遠慮の無さ。普段からのじゃれ合い。あの二人が会話を始めると、途端に彼らだけの世界を作り出すのだ。
「アッキー先輩と優子先輩って、付き合ってんのかな?」
だからこそ、恋バナに飢えた女子高生達の餌食になる。2、3年生はその光景を見慣れたものだが、1年生には新鮮に、魅力的に映る。
低音パート一年。黒髪のショートカットが特徴な、チューバ担当の加藤葉月と言う少女が、パート練の途中でそんな事を言い出す。
「絶対そうだと思います!あの二人、仲良いですもん!」
そんな加藤の呟きに興奮気味に返す少女が一人。同じく低音パート1年。明るいショートカットにウェーブのかかった髪型をした、コンバス担当の川島緑輝と言う少女だ。
緑輝と書いてサファイアと読む。
「先輩達は、何か知ってますか?」
同じく興味津々と言った感じで、加藤は先輩のチューバ担当の二人に対してそう聞く。
「うーん、どうだろうねぇ……お互い気があるのは確かみたいだけど……」
その一人、おっとりとした雰囲気の少女、2年の長瀬梨子は頬に手を当てて考える様にそう言う。
「……今のところは付き合ったとか、そう言う話は聞いてないな」
もう一人、少し無愛想な顔をした大きな体格が特徴の、同じく2年の後藤卓也もそう返した。
「えー!?あれでですか!?」
衝撃の事実に、加藤が驚きの声を上げる。他パートの人間から見ても、あの二人は特別な関係だと思わせるような会話を普段からしているのだ。
加藤の反応に同意する様に、長瀬は少し笑って頷く。
「あの二人って去年からあんな感じだったからねぇー。"トランペットパートにいっつもケンカしてるカップルがいる"って。だからアッキーが部活に復帰した時は、優子ちゃんもすっごい嬉しかったと思うよ?」
思い出す様にしみじみとそう語る長瀬。
「へー。じゃあ、優子先輩は大変だなぁ……」
すると、その長瀬の言葉に反応したのは、同じ低音パートの黄前だった。何処か他人事の様にそう呟く。
「え?なんで?」
そんな黄前の言葉の意味が分からず、加藤が首を傾げる。
「んー、なんって言うか、アッキー先輩ってモテるタイプだと思うんだよね。あの性格だし、あがた祭りでも一年の子に誘われてるところ見たし」
「確かに、見てるだけでも楽しい先輩ですよねー」
黄前が持論を述べると、川島がそれに同意してきた。確かに忍はモテる。あの気さくでひょうきんな性格は、人に好かれやすい。
「うん、だから、アッキー先輩がフリーだって分かると、アタックする子も増えるんじゃないかな?」
続けて黄前はそう言う。彼女の言う通り、忍はまだフリーだ。その性格に惚れて、吉川以外に告白する者が現れるかもしれないと言うのが、黄前が大変だと言う理由だった。
「大丈夫だと思うけどなー。アタシは」
すると、今度は中川がヘラヘラと笑ってそう返す。
「まあ、そうだと思いますけど、もしもって事が……」
そんなお気楽そうな中川に対し、川島が少し心配そうな顔つきでそう言う。
「あの二人って、いつもあんな感じだけど、二人きりになるともっと凄いんだよー?」
そして、さらに面白がる様に、ニヤついた顔で中川はそう言い放った。
「そ、そんなにですか?」
一つ、ゴクリと生唾を呑み込み、川島が興味を隠さずそう聞く。自分達が居る場所でさえ胃もたれしそうなやり取りをしているのだ。
二人きりだと、どんな感じなのだろう?
「……聞きたい?」
「「是非!!」」
わざとらしく勿体ぶる様に中川がそう聞き返すと、すぐさま加藤と川島が飛び付いてきた。
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それはいつ頃か。中川夏紀がそれを目撃したのは、個人練から楽器室に向かって帰る途中の事だった。
「なー吉川」
「んー?、何ー?」
とある教室。そこから、男女の会話が聞こえる。聞き覚えのある声だったので、気付かれない様にしてその教室を覗き込むと、そこに居たのは忍と吉川だった。
教室には、その2人しかいない。
「壁ドンってさ、やられた事ある?」
「はぁ?何よいきなり」
いきなりの忍の問い掛けに対し、怪訝そうな顔で吉川はそう返す。
「いや、言われたんだよ。壁ドンをすると征服感を感じて自分に自信が持てるようになって、何をするにも上手く行く様になるって」
「何それ?言われたって、誰に?」
「タッキー」
「今すぐ忘れたほうがいいわよ。そんな世迷言」
忍から話の出元を聞いて、吉川は吐き捨てる様にそう言い放つ。机を挟む様に互いに座っており、忍は楽しそうに吉川に話しかけ、吉川はうんざりしながらも満更でも無さそうにしている。相変わらず距離感が近い。
中川はそんな光景を面白がる様に、隠れて様子を伺う。
「えー?でもなんか気になるじゃん。吉川は気になんない?」
「別に。ってか、なんで壁ドン?」
興味津々にそう聞く忍に対し、吉川は冷めた様子でそう返す。
「壁ドンされた女の子は皆んなしおらしくなるから、それで自信が付くらしいよ?」
忍のその言葉を聞いて、吉川は挑発的に笑う。
「馬っ鹿ねぇ。アンタなんかの壁ドンでアタシが堕ちる訳ないでしょ?」
言葉通り馬鹿にする様に吉川がそう言うと、案の定忍はその挑発に乗った。
「お、言ったねー。じゃあやってみる?」
「良いわよ。来てみなさいな」
なんだかんだ言って、吉川もノリノリな様だ。互いに席を立って、壁の方へと歩く。意図的に壁ドンする為に。
「ってか、壁ドンってどうやんの?」
「フツーに片手を壁に当てれば良いんじゃない?」
ムードもへったくれもあったものでは無いが、とりあえず吉川は壁に背をくっ付け、忍はそれに対面する様に立つ。
「じゃあ、どうぞ?」
「うい、じゃあやるよー」
吉川の合図に、気の抜けた返事を忍は返す。
そしてドンっと、音を鳴らす様にして右腕を肘まで壁に付け、壁ドンを実行。お互いの目をじっと見つめる。
近い近い。と、中川は心の中でツッコミを入れた。
「………」
「………なんか、違うわね」
微妙そうな顔でそう言ったのは、吉川だった。その言葉に忍も考える様な仕草をする。壁に手をつけたまま。
「なにが違うんかな?」
忍も思ったものとは違ったのか、首を傾げてそう返した。お互いの鼻先が触れそうなぐらい近い距離感なのに、恥ずかしがっている様子が全く無い。
なんだこれ?と、中川はさらに心の中でツッコミを入れる。
「あ、セリフが無いからじゃない?」
すると、吉川が閃いた様な顔になってそう言ってきた。それに忍も納得した様な顔になる。
「なるほど……じゃあ、何のセリフがいいかな?」
「それはアンタが考えなさいよ」
吉川にそう返され、その状態のまま忍は左手を顎に当てて再び考える仕草をする。右手は壁ドンしたままだ。
そして、言うセリフが決まったのか、忍は吉川の耳元まで口を持って行き、耳打ちをする。
教室の外からそれを見ていた中川には、忍が何を言ったのかは分からない。
しかし少しだけ、吉川の耳が赤くなっているのが確認できた。
「……まあ、合格」
「おっしゃー」
ようやく忍が顔を離して壁ドンをやめると、吉川は満足そうに微笑んでそれだけ言う。
それに忍も満足そうにガッツポーズを返した。
「どうだった?壁ドン」
そして、その笑顔のまま忍は感想を聞く。
「アンタだったから、あんまドキドキしなかった」
「うっわ、ひっど」
その後は何事も無かったかの様に、いつも通りの会話に戻って行った。
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「………本当に付き合ってないんですか?その二人」
話を聞き終えた加藤が、少し頬を赤らめてそう聞く。他のメンバーも同じ気持ちなのか、何とも言えない表情をしている。
「だよねー。はよくっ付けってーの」
ただ一人、中川だけは、へらりと笑ってそう言い放った。