響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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ライバル心

 暑い。茹だる様な暑さだ。

 オーディション騒動も終わり、夏休みに入った。早朝から夕方まで練習、練習、練習。

 コンクールに向けて、たった12分の一瞬に向けて、何日も何ヶ月も掛けて死力を尽くす。空調が効いている音楽室であっても、その熱気は止まることを知らない。

 

 「トランペット。ここは大きく、ダイナミックにですが、雑に吹いては音が崩れて台無しになります」

 

 「「「はい!!」」」

 

 合奏練習、滝先生からの指摘が飛ぶ。トランペットだけでは無い。木管、ホルン、低音。全ての音を滝先生は一音も聴き逃さずに、次々と指摘を重ねる。

 

 「全員で、一つの旋律に音を合わせて。ここで崩れればその後の曲も台無しになります」

 

 「「「はい!!」」」

 

 コンクールに近づけば近づく程、長くなる練習が足りないと感じる様になって行った。

 

 

 ____________

 

 

 

 「……暑っつ……あー、もう水無くなった」

 

 そしてパート練、滝野が空になった水筒を飲み干して面倒臭そうにそう言う。

 

 「水汲みに行って来な。ほっとくと直ぐやられるよ」

 

 それに、うちわで顔を仰ぎながら忍がすぐさまそう返す。

 夏に楽器を吹けば、運動部と同じく水の摂取量がかなり増える。それ程にエネルギーを使うのに加え、暑さで水分を持っていかれるからだ。油断すると直ぐに熱中症になる。

 滝野もそれは充分承知なのか、忍の言う通りに水筒に水を入れに行こうと、席を立つ。

 

 「はーい!!差し入れでーす!!」

 

 すると加部と吉沢が、クーラーボックスを持ってきた。

 コンクールメンバーから外れた、チーム『もなか』と命名された彼女らは、本メンバーのサポートの様な仕事もしている。なので偶にこうして飲み物の差し入れをする事もあるのだ。

 

 「お、ラッキー!ちょうど無くなったところなんだよなー」

 

 滝野は手間が省けた幸運からか、嬉しそうにクーラーボックスに近寄る。

 そして加部がその蓋を開けると、氷水の中に入ったお茶やジュースなど、色とりどりの飲み物が入っていた。

 流石に炭酸飲料は無い。

 

 「おー、沢山。どれにしようかねー」

 

 中身を確認した忍が、悩む様にそう言い放つ。

 

 「私、ぶどうジュースで良いかな?」

 

まずは中世古がそう言ってぶどうジュースを。

 

 「じゃあ、俺はふつーにこれで」

 

 後で口をゆすぐのが面倒だと思ったのか、滝野はお茶を。

 

 「じゃあ、アタシはミルクティーにしちゃおー」

 

 そして吉川はミルクティーを。

 

 

 「「じゃあ、俺(私)は、オレンジジュースで」」

 

 

 2人の声がハモり、同時にそのペットボトルを取る。

 忍と高坂だ。

 2人が同じペットボトルを握ったのは、ほぼ同時。

 一瞬時が止まった様に見えたが、どちらかが手を離す様子は無い。

 

 「……高坂さんや、ここは一つ、先輩を立てるべきだとは思わんかえ?」

 

 諭す様な口調で、忍はそう言い放つ。笑顔であるのだが、目は笑っていない。

 

 「……アッキー先輩こそ、ここは先輩としての懐の深さを見せつけるところじゃないですか?」

 

 対して高坂は、憮然とした態度でそう返す。同じく笑顔だが、目が全く笑っていない。

 どちらも譲る気は無いらしく、互いに変な違和感がある笑みを浮かべながら、握っているペットボトルに力を入れる。

 そんな光景を、"またか"と言った風に、他のパートメンバーは見つめていた。

 

 コンクールに近づくにつれ、忍と高坂は燃え上がる様にしのぎを削るような関係になって行った。

 

 どちらも実力者。音の性質が違うとはいえ、基礎技術に関しては群を抜いている。

 そして、高坂も忍も、互いの演奏能力を高く評価している。

 互いに実力を認め合っているからこそ、ライバル心が生まれるのだ。

 夏休みに入り練習が多くなって来た今、2人の音がバチバチにぶつかり合う様になって来たのだ。

 

 その原因は、合奏練習での出来事にもあった。

 

 

 

 「はい、ではここのパートを1人ずつ。高坂さんから」

 

 「はい」

 

 ある日、合奏練習中に滝先生にそう言われ、高坂は高らかにそのパートを吹く。

 

 「良いですね。彼女の今の演奏の様に堂々と、強気に吹いてください」

 

 頑張って無表情を取り繕っているが、滝先生に褒められて頬がひくひくと緩んでいる高坂。

 

 「………」

 

 それを忍は、面白く無い様な表情で見つめていた。

 

 

 

 

 ____そして、またある日。

 

 「では、前の小節から。秋川君、吹いてみてください」

 

 「はーい」

 

 今度は忍が滝先生にそう言われ、1人、トランペットの音色を優しく奏でる。

 

 「素晴らしいですね。彼みたいにここは優しく。寄り添う様に音色を奏でて下さい」

 

 滝先生に褒められ、得意げな顔を隠そうともしない忍。

 

 「………」

 

 その光景を見て、今度は高坂が少し眉間に皺を寄せる。これだけでも、2人の関係性が見て取れるだろう。

 

 

 要するに、2人とも負けず嫌いなのだ。

 

 

 目立ちたがり屋、気の図太さ、そして負けず嫌い。トランペットを吹くにあたっての必要な要素は、2人とも持ち合わせている。

 

 自分の音が1番。

 

 その自信は、プライドとも言うべきか。だからこそ、自分より上手いと他人が褒められると、良い顔をしない。

 ライバルと認め合っているなら尚更だ。

 

 

 

 「ここは公平に。勝負事で決めようじゃないか……」

 

 「良いですよ。何にします?」

 

 そして、遂にはトランペットだけで無く、こう言うしょうもない様な事でも争う様になって来た。

 と言っても、ギスギスした感じでは無いので、雰囲気は悪くない。忍の人柄のお陰もあるだろう。

 

 「……そうだね……"ハイトーン対決"とか、どう?」

 

 「……良いですよ」

 

 忍がそう提案すると、高坂もそれに乗っかる。この対決は、どこまで高い音を安定して出せるか。

 まあ、遊びみたいなものだ。

 しかし当の本人たちは真剣も真剣。普段クールで鉄仮面を貼り付けている高坂も、やる気に満ちた表情をしている。

 負けず嫌いもここまで来ると天晴れである。

 

 「5秒間安定して音を出せたら成功ね。はい、じゃあ高坂さんから」

 

 楽しそうに忍がそう言うと、高坂はトランペットを構えて音階を一つずつ上げていく。

 

 トランペットの高音の上限というのは、演奏者によって変わる。つまり、技量がある人間であればある程、高い音が出るのだ。

 

 _____♪ー♪ー♪ー♪ー♪〜〜______

 

 一つ一つ、高い音を綺麗に出していく高坂に、パートメンバーから「「おー……」」と感嘆の声が上がる。

 

 「……どうですか?」

 

 綺麗な高音を出した高坂が、得意げな笑みを浮かべて忍にそう言い放つ。

 

 「いいのー?まだ出そうだけど?」

 

 それに対し、挑発する様に忍はそう返した。

 

 「高い音が出せても音が安定してなかったらダメですから。……アッキー先輩が私より高い音を出したら、また出します」

 

 「うっわ、相変わらず生意気ー」

 

 不敵に笑ってそう言う高坂に対し、忍はケラケラと笑ってそう返した。

 しかし、そんな事を言われて北宇治1の目立ちたがり屋なこの男が黙っている筈がない。

 

 「おーっし、ここは一つ、先輩の威厳というものを見せつけなければ」

 

 「アッキー先輩!頑張ってください!!」

 

 続けて忍がそう言ってトランペットを構えると、吉沢から応援の声が飛ぶ。それに軽く応えると、忍は高坂と同じく、一音ずつ音階を上げていく。

 

 ____♪ー♪ー♪ー♪ーーー_______

 

 そして、高坂の吹いた4つ上の音階を忍は出した。

 

 「……どう?」

 

 勝ち誇った様な顔で、忍は高坂に対しそう聞く。

 

 「…………」

 そんな忍の顔が気に入らなかったのか、高坂は再びトランペットを構えた。

 

 _____♪ー、♪ー、♪ーー_____

 

 ブレそうになる音を抑えながら、高坂は捻り出す様に高音を出す。

 なんとかと言う感じで、忍より一つ高い音を出した。

 

 _____♪ーーーーー______

 

 しかし、それを嘲笑うかの様に、忍はもう一音高い音を出す。

 それを聴いて高坂はその美形な顔が崩れるほど、表情に皺が寄った。

 

 「じゃあ、オレンジジュース貰うよん」

 

 自慢げ、ドヤ顔。そんな言葉がぴったりの表情を浮かべ、オレンジジュースを手に取る忍。

  その光景に、高坂は一層眉間に皺を寄せて、険しい顔になる。

 

 「………次は、負けないし」

 

 そして、拗ねる様な口調で、高坂は吐き捨てるようにそう言い放つ。

 

 

 

 「………どっちも子供ね」

 

 

 

 そんな茶番を見て、吉川はボソリと、聞こえない声でそんな事を呟いた。

 

 

 

 

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