響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
「黄前ちゃんも鼻血?」
鼻を押さえて入って来た黄前を見て、忍は少し驚いた表情でそう尋ねる。
「え?、あ、はい!のぼせちゃって……」
尚も鼻を押さえながら、鼻声で黄前はそう返した。
「そっか。うっわ、制服汚れちゃってんじゃん。替えの着替えとか持ってる?」
「い、いえ。今日は持って来て無いです……」
忍が心配そうにそう聞くと、黄前は困った様にそう返す。吉川と違って黄前は鼻血が出ていた事に気付くのが遅かったのか、制服が少し血で汚れていた。
「うーん、そっちの2人は持ってる?」
「いえ、私は……葉月ちゃんは?」
「アタシも今日は持って来て無いです……」
忍が他の1年2人にそう聞くと、加藤と川島も首を振ってそう返す。忍はどうしたものかと首を捻って考える。流石に血が付いた制服のまま合奏練習と言うのは気が引ける。
「アタシの体操着、使って良いわよ」
すると、今度は吉川が鼻を押さえながらそう言う。
1年生の3人にはその言葉が意外だったのか、一様に目を丸くした。
「……なによ、そんなに嫌なわけ?」
そんな反応に、ぶすっとした顔で吉川は続けてそう言い放った。それに対し黄前が鼻を押さえながらあたふたする。
「え!?あ、いえいえ!嫌じゃないです!ただちょっと意外だったって言うか……あ゛!……」
慌てて取り繕う黄前だったが、最後の最後でボロが出た。
そんな光景を見て、忍が噴き出す。
「ぷっ、あっははは!あー、やっぱ黄前ちゃんは面白いねぇ。吉川、お前結構1年から怖がられてる感じなの?」
「うっさいわねぇ!好きで怖がられてるわけじゃないですぅー!」
おちょくる様に忍が吉川に向かってそう言うと、案の定立ち上がって忍に噛み付いて来た。その弾みで止まり掛けていた鼻血が、再び吉川の鼻から出て来る。
「こら、いきなり立つな。また出てきただろーが」
それを見て諭す様に忍が吉川の肩を掴むと、そのままベッドの上に座らせる。
「原因はアンタでしょーがっ!」
「いでっ!」
そして吉川は片手で再び鼻を押さえ、もう片方の手で忍にゲンコツを喰らわした。
「それで、どうすんの?そのまま合奏練習出ても良いけど、皆から変な目で見られるわよ?」
再びベッドに座り直すと、目線を黄前に向け直してそう言い放つ。
「あ、えーっと……じゃあ、借りても良いですかね?」
「最初からそう言いなさいよ」
「あはは……面目無いです……」
おずおずと言った感じでそう言う黄前に対し、吉川は太々しい態度でそう返す。
怖くはあるが案外面倒見の良い先輩だなと、黄前の中でイメージが変わりつつあった。
「じゃあ秋川。アタシの体操着持って来てくれる?」
「良いよー。5組だっけ?」
そして吉川がそう言うと、忍も快くそう返す。
「うん、窓際の席に袋が掛けてあると思うから、取って来て」
吉川がそうお願いすると、「あいよ」と一つだけ返し、保健室の扉へ向かう。
「あまり一年を怖がらせちゃダメだよー?」
「しつこい。早く行きなさいな」
保健室から出る直前。そんなやり取りをしながら、忍は吉川の体操着を取りに行くために、教室を出る。
その光景を、感心する様に1年の3人は見ていた。
「……なによ?」
なんだか生暖かい視線を感じた吉川は、忍が出て行くとその視線を向ける3人の方へ顔を向けて、居心地の悪そうにその一言だけ言い放つ。
「あー、いや、何て言うか……」
「お腹いっぱいって言うか……」
加藤と黄前。その2人は、なんとも言えない顔になって、そう言い放つ。
普通、異性に自分の体操着を持ってこさせるか?相変わらずの距離感の近さにどう反応して良いのか分からない様だ。
「あの!優子先輩って、アッキー先輩とどう言う関係なんですか!?」
すると1人、川島が興味津々と言った感じでそう聞いて来た。
「ちょっ!?」
「みどりちゃん!?」
いきなりの川島のぶっ込みに、加藤と黄前は少し慌てる。
「ど、どう言う関係って、……秋川と?」
いきなりそんな事を聞く川島に、吉川もたじたじと言った感じでそう返す。それに川島は大きく頷いた。
「はい!優子先輩、アッキー先輩とあんなに仲が良いので気になります!!」
これでもかと言うくらい目を輝かせながら、グイグイと行く川島。それに吉川も困った様な苦笑いになる。
「な、仲良いって……そんな風に見えないでしょ?いっつも言い合いしてばっかじゃない」
「違います!違うんです!!そーじゃ無いんですー!!」
合奏中の吉川と忍のやり取りと関係をどう言葉で表して良いのか分からないのか、もどかしそうな仕草をする川島。
「久美子ちゃんと葉月ちゃんも分かりますよね!?」
「えぇ!?」
「私たち!?」
そしていきなり川島にそう振られ、2人ともびっくりした様な表情を浮かべる。
なんとか答えを出そうと、2人して頭をフル回転させる。
「え、えーっと、何て言うか……言い合ってるんですけど、見てて悪い気分にならないって言いますか……」
黄前は当たり障りのない様にそう言う。
「そ、そーだねー、アタシも同じ気分です!」
それに同調する様に、加藤もそう言い放った。
「だそうです!優子先輩!実際のところどうなんですか!?」
なんだか変なテンションになって来た川島が、吉川に詰め寄って興奮気味にそう聞く。
同じトランペットパートの1年にも、こう言う子が居たなと、吉川は漠然と頭の片隅で思い出していた。
「……それって、付き合ってるとか付き合って無いとかの話?」
「はい!」
念の為にと吉川がそう聞くと、川島が即答する。それに対し吉川は観念しましたと言う風に、一つため息をついた。
「なら、付き合って無いわよ?残念だったわね?期待してた答えと違うみたいで」
どこか投げやりに、少し早口で吉川はそう言い放つ。口調は涼しいものだが、さっきより顔が赤くなっているのを、川島は見逃さなかった。
「そうですか。……じゃあ、アッキー先輩の事、どう思ってますか?」
続けての川島の問いかけに、吉川は一瞬固まる。そして、少し考え込む様な仕草をした後、川島らをを見据えた。
「……そうね。質問に質問を返すようで悪いけど、アンタ達にはどう見える?」
正に見事なカウンターパンチ。吉川優子は、頭が回る方の人間だ。ここでそう言えば、自分を怖がっている1年は解答に困る。付き合っている様に見えると言えば良いのか、それともそれ以外の答えがあるのか、言葉に迷う。
それを見越して、彼女はそんな事を言ったのだ。中々に良い性格をしている。
現に、黄前と加藤は言葉が出てこない。
「私は優子先輩とアッキー先輩、お似合いだと思いますよ?」
しかし、通用しない相手も居る。川島が躊躇無くそう言い放つと、それが予想外だったのか吉川は少々驚いた表情になった。
「……そう?アンタにはそう見えるんだ」
「はい!だって、お二人ともすっごい仲が良いですもん!」
吉川の問いかけに川島は純粋にそう答える。
この3人の中で唯一、川島だけが吉川に対して怖いと言うイメージを抱いて無い。だからこそ、この様にズケズケと踏み込んで行けるのだ。
話した事もない人に対して、マイナスなイメージを絶対持たない。そんな川島の人柄に触れたからか、吉川は薄く微笑む。
「そうねぇ……ぶっちゃけ言うと、アタシは好きよ?」
そして白状する様に、吉川は遂に言葉でそう言い切った。あっけらかんと、さも当然であるかの様に。
その言葉に川島だけでなく、黄前と加藤もどこか興奮を隠し切れていない様子だ。
「や、やっぱり!い、いつから好きなんですか!?」
ここからはもう川島の独壇場。こんな活きの良いエサに、恋バナが大好きな女子高生達が食い付かない訳がない。
黄前と加藤も興味津々と言った感じで耳を傾ける。
「い、いつからとかはあんま覚えてないかなー?いつの間にかって感じ」
「そうですか!じゃあ、今すぐにでも付き合いたいですか!?」
「も、もう!そんなガツガツ来ないの!」
恋の暴走機関車と化した川島に対し、軽くチョップを加えて吉川はそう返す。
そして、少し考え込む様な仕草をすると、意地悪そうに微笑んで3人を見やる。
「そうね……あっちから告白して来たなら、考えない事も無いわよ?」
自分から絶対に告白しないと言う子供じみたプライドでもあるのか、吉川はそんな少し捻くれた返しをした。