響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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お礼

 今日も練習。ここ最近は皆口数も少ない。何故なら話している暇があれば吹き続けると言う選択肢を取るからだ。

 合奏練習はもちろんの事、パート練習も各々出来ないところ、足りないところを必死に補おうと楽器の音だけが響き渡る。

 

 ____♪ー♪、♪ーー♪、♪♪______

 

 「どう?」

 

 「いい感じ。音も出る様になってる」

 

 「……いよしっ!」

 

 そしてトランペットパート。吉川の演奏に忍がそう評価を下すと、気持ちのいいガッツポーズを決める吉川。

 朝から夕方までのぶっ続けの練習により、吉川のレベルアップは相当なものになっていた。

 

 「本当に上手くなったねー、優子ちゃん」

 

 「香織先輩!ありがとうございます!」

 

 すると、中世古も吉川の音を聴いていたのか、笑顔でそう感想を述べて来た。

 

 「最近、優子ちゃん凄い頑張ってるから当然かな?このままじゃ私より上手くなっちゃうかもね?」

 

 「そ、そんな事無いですよ!香織先輩に敵う人間なんて居ません!もう、マジ!エン!ジェル!ですから!!」

 

 褒められた嬉しさからか、過剰に中世古を持ち上げる吉川。いつも通りに戻った彼女に、中世古も安心した様に微笑んだ。

  

 「あははっ、良かった。最近優子ちゃん、なんだか思い詰めた様な演奏してたからね。心配してたんだよ?」

 

 「そ、そうですか?あんまりそんな自覚無かったですけど……」

 

 口ではそう言ってるが心当たりがあるのか、少し目線を逸らして吉川はそう返した。

 

 「コンクールまであと10日、この調子で頑張ろうね!」

 

 「っ!!はい!!香織せんぱぁい!!」

 

 中世古が笑顔でそう言うと、後ろの方にハートマークが付いてそうなほど甘えた声を出して、吉川は返事をした。

 

 

 ___________

 

 

 

 そして、合奏練習。

 

 「テナー、バリトン、ユーフォ。ここ重要です」

 

 「「「はい!」」」

 

 

 「7小節前からもう一度。ここのバリトン、もっとクリアに」

 

 「はい!」

 

 

 「前にも言いましたよ、この曲はホルンがカッコいい曲です。分かってますか?」

 

 矢継ぎ早に滝先生からの注意、指摘が飛ぶ。その殆どが良い物では無い。まだ求められる音に届いてないと言う事なのだろうか。

 そして、今度はトランペットパートの方向に顔を向ける。

 

 「トランペット吉川さん」

 

 「はい!」

 

 滝先生に名指しで呼ばれた吉川は、少し強張った声で返事をする。

 

 「今のを常に吹ける様に」

 

 いきなりの滝先生の褒め言葉。褒められるとは露ほども思っていなかった吉川は、一瞬呆けたような顔になる。

 

 「返事は?」

 

 「あ、は、はい!!」

 

 滝先生に再度そう問われ、勢い良く返事を返す吉川。それは、ここ最近ずっと練習していた部分だった。

 腰の辺りで、誰にも見えない様に小さくガッツポーズをする。しかし、隣で吹いていた忍はそれを見ていた。

 吉川の肩を叩いて、何も言わず一つ拳を突き出す。それに気付いた吉川が一瞬驚いた顔になるも、突き出した忍の拳に軽く小突いて返した。

 

 「では、154小節から」

 

 その後も、合奏練習は続く。

 

 

 _____________

 

 

 

 「秋川、この後空いてるでしょ?」

 

 「空いてる事もう決定なの?」

 

 今日の練習も終わり、楽器の片付けをしていると、吉川が忍に向かってそう言う。もっとこう、ロマンチックな放課後の誘い方とかもあるのではないだろうか?

 

 「何?、先約でもあるの?」

 

 「一応、タッキーと帰る予定なんだけど……」

 

 

 「どうせ一緒に帰るだけでしょ?滝野にはアタシから言っとくから、今日は付き合って」

 

 

 何やらいつもよりグイグイ来る吉川に、片付けをする手を一瞬止めて少し驚いた様な表情になる忍。

 

 「……何よ?」

 

 そんな忍の表情に、微妙な顔をしてそう言い放つ吉川。

 

 「いや、珍しいなーって思って。いいよ。タッキーには俺から言っとくから」

 

 「りょーかい。さんきゅ!」

 

 いつもより上機嫌な様子でそう返す吉川。まあ、機嫌のいい理由は忍もわかっている。今日の合奏練習で滝先生に褒められたからだろう。なんとも分かりやすいなと思いながら、忍は片付けを続行した。

 

 

 

 「で、どこ行くの?」

 

 「決めてない」

 

 「はぁ?」

 

 そして帰り道。どこに行くのかと忍がそう聞くと、吉川から即答で返事が返ってくる。

 あっちから誘っておいて、何も予定を決めてないとはどういう了見だろうか?

 

 「秋川はどこ行きたい?」

 

 「いや、まあどこでも良いけど……」

 

 吉川の問い掛けに、しどろもどろにそう返す忍。なんだか妙に優しい。絶対何かあるなと忍は勘繰る。

 

 「うーん、どこ行こっか?」

 

 しかし、それにしては吉川は自然体に見える。彼女があまり演技が得意で無い事は忍も知っているので、吉川が何を考えているのかますます分からなくなっていた。

 

 「どこでも良いなら、ちょっと腹減った」

 

 なので、忍は一つ探りを入れてみる。本来ならここで突っ掛かったりする筈なのだが……

 

 「お、良いわねー。じゃあ、近くのハンバーガー屋さんにでも寄ろっか?」

 

 「お、おう……」

 

 やっぱりなんだか吉川の様子がおかしい。今日みたいに上機嫌でも、いつもなら忍が喋る度に突っ掛かって来るのが道理なのだが、今はやけに丸い。そんな彼女にやりにくさを覚えながら、忍は言われるがままについて行った。

 

 

 ____________

 

 

 「何頼む?」

 

 「え?、じゃあ、ポテトとシェイクを……」

 

 近所のファーストフード店。順番待ちの間、吉川が忍に対してそう聞く。それに遠慮気味に忍はそう答えた。

 

 「りょーかい。じゃあ、アタシが奢ってあげる」

 

 「え!?いいの!?!?」

 

 吉川の口から出た衝撃の発言に、心底驚く忍。

 

 「何よ?、アタシだって、奢ることぐらいあるわよ」

 

 そんな忍に対し、困った様に笑ってそう返す吉川。……この少女、本当に吉川優子だろうか?

 

 「はい、ポテト二つと、シェイクが一つ、ドリンクが一つですねー」

 

 そんな事を考えていたら、吉川はさっさと注文を済ませて会計を終わらしてしまった。

 

 

 

 「………吉川お前、熱でもあるのか?」

 

 テーブル席に対面になる様に座ると、忍が吉川のおかしさにそれとなく触れる。

 

 「はぁ?、いきなり何よ?」

 

 少し深刻そうな表情でそう言う忍に対し、吉川は不思議そうな顔をしてそう返した。

 

 「いや、だって今日の吉川、妙に優しいから……」

 

 そして、遂に忍は直接的にそう言う。それに対し吉川は軽くチョップを忍に食らわせた。

 

 「いてっ」

 

 「変な事考えてんじゃ無いの。今日のはお礼よ」

 

 薄く笑って、吉川はそう言い放った。彼女のお礼と言う言葉に、忍は首を傾げた。

 それを見て、吉川は言葉を続ける。

 

 「アンタにはここ最近アタシの演奏をよく聴いてもらったからね。そのお礼。……何?アタシが何か企んでるとでも思った?」

 

 「うん。だってそうでもなきゃ、吉川がこんな優しいはずないし」

 

 「ほんっと失礼ね、アンタ」

 

 互いに頼んだポテトを頬張りながら、忍の直接的な発言に苦笑いになってそう返す吉川。

 

 「でも、そう言う事なら、別にお礼なんかしなくても良かったのに」

 

 忍はシェイクを飲みながら、遠慮がちにそう言う。

 

 「アタシがやらなきゃ気が済まないの。せっかく奢ってんだから。黙って奢られときなさいよ」

 

 こう言うところは、吉川の人柄だろうか。普段は粗暴で感情的になりやすい彼女だが、それ故に情に深く、義理堅い。

 

 そんな彼女の気遣いに、忍も嬉しくならない訳がない。

 

 「ほほー、そっかそっか。じゃあもっと贅沢しとけば良かったかなー」

 

 口ではそう言ってるが、表情は喜びの色を隠そうともしていない。そんな忍の表情を見て、吉川もニッコリと笑顔を返す。

 

 「もう、調子に乗らないの。いいから早く食べちゃいなさいよ」

 

 その言葉は照れ隠しか、笑いながらも少し頬を赤く染めて吉川もそう返した。

 

 

 「………ねえ、秋川」

 

 すると、そんな表情から一変、どこか真剣な表情で、吉川は忍に対してそう言う。

 

 「……何?」

 

 そんな吉川に忍も真剣な顔つきで、吉川の言葉に耳を傾ける。

 

 

 「……コンクール、絶対決めるわよ」

 

 そして、覚悟を持った表情で、吉川はそう言い放った。それに忍も薄く笑う。

 

 「……当たり前じゃん」

 

 コンクールまであと10日。吉川も忍も、この為に死に物狂いで練習をして来たのだ。

 忍のその笑顔は、挑戦的な笑みの様にも映った。

 

 

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