響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
もうすぐ始まる。
暗転したステージ上。楽譜の準備をし、演奏に向けて皆席に座る。
ステージ上からは、観客の顔が良く見える。今日は休日も相まってか、かなりの人数がいる様だ。
ここにいる皆が、北宇治の演奏を聞く。
そう思うだけでも、忍の心臓が高鳴る。緊張と、興奮と、仄かな切なさ。その切なさは、今までやって来たものをここで全て出すと言う一瞬、たった12分間で全てを曝け出すと言う健気さから来るものだろうか。
恐らく、ここにいる全員がそう言う気持ちなのだろう。地に足はついている。しかし、どこか現実離れした様な、不思議な気持ち。
絶対良い演奏になる。
そんな確信が、忍の中にあった。
すると照明が、眩しいくらいにステージを照りつける。空調が効いている筈なのに、照明の光によってとてつもなく暑く感じる。しかし、今はその暑ささえもエネルギーに変えられる。
今この瞬間、主役は自分達だ。
北宇治の演奏で、この観客達は度肝を抜かれる事になる。
『プログラム5番、北宇治高等学校吹奏楽部。課題曲4番に続きまして、自由曲、堀川奈美恵作曲、三日月の舞。指揮は、滝昇です』
淡々と流れる、場内アナウンス。滝先生がそれに一礼すると、場内から軽く拍手が起きた。
そして、滝先生はゆっくりと、壇上に登る。どこからでも、滝先生の姿がはっきりと見える。それだけでも、北宇治のメンバーは少し安心する。
壇上から周りを見回して準備が出来ている事を確認すると、滝先生は両腕を上げる。それを見て、皆一斉に楽器を構える。
________プログラム4番。課題曲、プロヴァンスの風。一定のリズムで、音を奏でる。皆、自分の出す一音一音に、魂を込める。たった12分。されど12分。
全国への切符を掴む為、この一瞬に全てを賭ける。"全国へ行けたら良いな"から、"絶対に全国へ行く"へ。
皆、滝先生に乗せられた。吉川も、中世古も、高坂も。あまつさえ忍でさえも。しかし、嫌々やらされた訳ではない。
最初は楽しく吹ければ良いやから、あの先生を見返してやるへ。そして、見返してやるから、もっと上手くなりたいへ。
いつしか、部員全員が自ら全国へ行くにはどうしたら良いのかと考える様になった。
音のズレは無い。滝先生の指揮に合わせて、全員完璧な演奏を奏でる。
演奏が始まってから2分少々。短い課題曲が終わる。ここからが本番だ。滝先生が楽譜のページを一枚捲ると、題名欄に"三日月の舞"と書かれた文字が見える。
そして、再び手を振り上げると……
______♪ー、♪ー♪、♪ーー♪♪______
自由曲、三日月の舞。その出だしを飾るのは、トランペットの主旋律だ。吉川が最初に苦戦した部分。しかし今は全員、音の粒が揃っている。高らかに。大きく、綺麗に。
続いて木管による連符。トロンボーン、ホルンの息のあった掛け合い。その後に来る、主旋律が目まぐるしく変わるパート。
何度も、何度も何度も何度も練習した部分。
ズレは無い。緊張も無い。皆、北宇治の演奏に聴き惚れている。
「うっわ、すっご………」
「うん、すごい………」
ポツリと一言、凛花とさやかもそう呟く。北宇治の演奏に、圧倒されている。
「……………」
そしてそれは2人の隣に座る少女、傘木も同じだった。
演奏も中盤。100小節から、110、120小節へ。再び冒頭のファンファーレを繰り返し、一旦曲を区切る。
そして、ソロパート。ここからは、エースの出番だ。
滝先生が手を送り合図をすると、高坂が高らかに演奏を奏でる。孤高な音。しかし、独りよがりでは無い。
孤高でありながら、優しく包み込む様な、そんな音。あれから、さらに磨きが掛かった。
隣でそれを聴く中世古も、そんな音に微笑みを見せる。忍は、聞き惚れる様に目を瞑ってその音に耳を傾ける。
「………綺麗……」
「………うん」
そんな音に、ため息混じりの声を凛花とさやかも出す。
「………いいなぁ………」
ポツリと横の席で、そんな声が出たのを、凛花は聴き逃さなかった。
そして終盤。全員で、音を合わせる。クライマックスに相応しく、フォルテッシモをふんだんに使ったダイナミックな演奏。
あと少し。もうちょっと。全てを出し切れ。そんな思いから、皆一層演奏に気合が入る。
ひとつに重なった管楽器がクレッシェンドの最高点を目指して全速で突き進み、重厚な音圧と共に終わりを告げる。
終幕。滝先生が最後に手を振り下げると、演奏が終わった。
そして、一瞬間を置き、滝先生が立つ様に促す仕草をすると、メンバーが立ち上がると同時に拍手が湧いた。
終わった。全て出し切った。
どこか夢見心地。そんな中、北宇治に満遍なく拍手が送られた。
___________
そして、結果発表。
正直この瞬間の方が、演奏前より緊張してると言っても良いだろう。
「秋川」
対して忍は、未だに演奏の余韻に浸る様に、呆けた表情をしていた。吉川の問いかけにも、反応を示さない。
「ちょっと秋川!、聞いてる?」
「え?、……ああ、吉川……」
再度、吉川に肩を揺さぶられ、ようやく反応を示す忍。
「何ボーッとしてんのよ?もう発表始まるわよ?」
「うん、そっか」
緊張気味の吉川に対し、忍は何とも気の抜けた返事を返した。
「……アタシ達、金賞取れるわよね?」
「大丈夫じゃない?」
「もう、何でそんなに他人事なのよ!」
なんだか発言に身が入ってない忍に対し、吉川は頬を膨らませながらもう一度忍の肩を揺らしてそう言う。
「んー、なんって言うか、本当に渾身の演奏だったからね。そんな心配する事も無いんじゃない?」
「それでも!心配なのは心配なの!」
「もー、吉川は心配性だなぁ」
「アンタが図太過ぎるだけよ……」
この期に及んでマイペースな忍に対し、困った様な顔になって、吉川はそう返す。
『それではこれより、吹奏楽コンクール。結果発表を行います』
「来た!」
ホール内に響いたアナウンス。それに、場内から騒めきが起こる。
皆、緊張の面持ちで発表を待つ。発表は、目の前の"吹奏楽コンクール"と大きく書かれた看板の上から、それより大きい紙を垂らして発表される。
吉川は今にも泣きそうな顔で。中世古は祈る様に手を合わせて。そして忍は、一瞬も目を離さずその光景を見ている。
_______わああああ!!!!!!_________
結果発表の紙が垂らされると、すぐさま歓声が湧く。北宇治はどこだ?忍は目線を泳がせ、どこに北宇治の名前があるかを探す。
「やった!!やったよ!!!秋川!!!」
横で、吉川が涙声でそんな事を言うのが聞こえる。それに反応した後、忍が再び結果発表の方へと目を向けると……
「………金だ……」
金賞 北宇治高校
そう書いてあった。それを見て、忍はようやく笑顔を見せる。
「おい!見たか吉川!!金!!金だってよ!!!」
「さっきから何回も言ってんじゃない!!アタシ達金賞よ!!金賞!!」
忍が吉川の肩を揺らして興奮気味にそう言うと、吉川も忍の肩を掴み返して、それよりもっと興奮した様子でそう返す。
「なんだよ!やっぱり最高の演奏だったんじゃん!!」
「当たり前でしょ!!何の為にあんだけ練習したと思ってんのよ!!」
何だか変なテンションになって来た忍に対し、それに引き摺られる様に吉川も声を張り上げてそう返す。
結果発表前の気丈な態度は何処へ行ったのか、忍は感情を全面に押し出して喜んでいた。
『えー、この中より、関西大会に行く学校は……』
そして、ここからだ。大会関係者のアナウンスがホール内に響き渡る。
それに、吉川も中世古もまた祈る様に手を合わせた。忍もこの時ばかりは、緊張の面持ちでいる。
金賞を取ったのは良いが、関西大会に出れる学校はたった3校。そして最初の代表校が発表されると_______
_______わぁああああ!!!!!______
再びの大歓声。その歓声の中心は、北宇治からだった。
やっとここまで書けました……。ここまで書き切れたのも、感想や評価をくれる皆さんのお陰です。本当に作品を書く上でのモチベーションになっています。
さて、ここからはアニメ2期。もちろんフルート吹きのあの子とオーボエ吹きのあの子も出て来ますので、期待していただけると幸いです!
あと、遅くなったけどあけおめ。