響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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傘木希美

 「……どう?」

 

 「どうって、何が?」

 

 屋上、朝早くから個人練のための準備をしていると、吉川がそんな事を聞いてくる。

 

 「みぞれよ、みぞれ。アンタにはどう見える?」

 

 「どう見えるって……いつも通りに見えたけど?」

 

 何を言いたいのか分からない吉川に対し、首を傾げながら忍はそう返した。

 

 「……ホントに?」

 

 繰り返し吉川がそう聞くと、忍は少し怪しむ様な顔になる。いつもなら物事をハッキリと伝えるのだが、今の吉川は何やら迷っている様に忍には映った。

 

 「……何がどう見えるのか言わないと分かんない。どしたの吉川?ここ最近なんか考えてる事多いけど」

 

 そしてここ最近、吉川は鎧塚を気に掛ける事が多くなっていた。確かに吉川と鎧塚は同じ南中出身であるし、仲が良い事も忍は知っている。

 しかし、それに輪を掛けるように、最近は鎧塚の事を過剰とも言えるほど気に掛けている。

 

 「………案外鈍いのね。良いわ。どうせバレるし、教えてあげる」

 

 そして、複雑そうな面持ちで吉川は忍の方を見ると、言いにくそうに口を開いた。

 

 

 「………希美が、部活に戻りたがってるらしいわ」

 

 

 「希美?……って、"かさみー"の事?」

 

 忍がそう聞き返すと、吉川はコクリと一つ頷く。

 

 「おー、いいじゃん。かさみー、フルート好きだったし」

 

 忍は少し嬉しそうにそう言う。それに反比例する様に、吉川はさらに表情を曇らせた。

 

 

 『お願い!!アッキーが説得すれば、あの先輩達も変わると思うの!!!』

 

 

 吉川は、思い出していた。去年、3年生とは別の教室で練習していた自分達に何度も何度も来ては、その度に忍に頭を下げて必死にそう懇願していた傘木の姿を。

 本人に他意はない事は吉川もはっきりと分かってるが、それでも忍が一度部活から離れる一因を作ったのは、紛れもなく彼女だ。

 

 だからこそ、複雑な心境にもなる。

 

 

 「……アンタは、希美に対して何も思わないの?」

 

 

 吉川は、暗い声で忍に対しそう聞く。

 

 「思わないのって、何が?」

 

 しかし、忍は尚も首を傾げてそう聞き返した。忍自身、傘木に対して何か恨みがある訳でもない。戻りたければ戻ればいいじゃないか。そんな楽天的な考えであった。

 そんな能天気な忍に対し、吉川は軽くため息をつく。

 

 「………何でもない。希美、みぞれと仲良かったでしょ?」

 

 そして、話題を鎧塚の方へと戻した。

 

 「あー、確かに。どっちかって言うと、よろみーの方がかさみーにベッタリだった気が……」

 

 対して忍も、思い出したかの様にそう言う。

 

 「そこは分かるのね。……まあ、それが関係あるって感じよ」

 

 「……ますます分かんなくなってきたんだけど」

 

 深刻そうな表情でそう言う吉川に対し、忍は怪訝そうな表情に変わり、そう言い放った。

 

 

 「……皆んな、アンタみたいに強い人間じゃ無いの。……とにかく、この事、みぞれに言っちゃ絶対ダメだからね?」

 

 「そりゃ、またなんで……」

 

 「何でも。分かった?」

 

 忍の疑問を被せる様に、吉川は圧をかける様にそう言う。何だか只事ではない雰囲気を感じ取った忍は、黙って頷く事しか出来なかった。

 

 

 _______________

 

 

 

 「では、今日も練習を始めていきますが、今日は皆さんに1人、紹介したい人がいます」

 

 いつもの様に合奏練習が始まる前、滝先生は唐突にそう言う。とある部員から「おー、まさか、婚約者?」などと小声で冷やかしの聞こえて来る。

 

 「どうぞ」

 

 滝先生がそう言うと、音楽室の扉が勢い良く開いた。

 

 「失礼しまーす!」

 

 入って来たのは、滝先生と同じぐらいの年齢に見える男性。短パンにに派手目のシャツと、随分とラフな格好だ。

 

 「彼はこの学校のOBで、パーカッションのプロです」

 

 「プロ!?」

 

 「マジで!?」

 

 滝先生がそう説明すると、案の定パーカスから興奮気味の声が上がる。

 

 「夏休みの間、指導してもらう事になりました」

 

 「橋本正博と言います。どうぞ、よろしく!」

 

 そして、橋本と名乗った男性が一礼する。

 

 「あだ名は橋もっちゃん。こう見えても滝君とは大学で同期です!滝君のことで知りたい事があれば、どんどん聞きに来てねー!!」

 

 なんともキャラの濃い人物の登場に、部員達は少々面を喰らう。しかし、明るい人柄で取っ付き易そうではあった。

 

 「あれ、反応薄いなー」

 

 「余計な事言わなくていいですよ」

 

 そんな自由な橋本先生に、滝先生から注意が入る。しかし、そんな事は御構い無しにと、橋本先生は喋り続ける。

 

 「滝君モテるでしょー。女子にキャーキャー言われてんじゃないの?」

 

 「はい、吹奏楽部以外の女子には」

 

 明るくそう聞く橋本先生に対し、部員の1人が苦笑いでそう返すと。音楽室に笑いが起こった。

 

 「あっはは!吹部女子には人気無いかー!ごめんなー、滝君が口悪いのは昔から___っ痛っだ!!」

 

 「余計な事は言わなくて良いと言いましたよ」

 

 他人の個人情報をベラベラと喋る橋本先生に対し、滝先生は橋本先生の足を踏んづけて口を塞ぐ。

 それにまた、笑いが起こった。

 

 

 ____________

 

 

 

 「良いね、橋もっちゃん」

 

 「何でもうあだ名で呼んでんのよ」

 

 パート練習。忍が嬉しそうにそう言うと、すぐさま吉川からツッコミが入る。

 どうやら忍はあの先生の事が大層気に入ったらしい。

 

 「なんか、パーカス!って感じの人じゃない?ナックル先輩をそのまんま大人にした様な……」

 

 「あー、それは分かるかも」

 

 忍がそう言うと、今度は中世古が同意して来る。正に打楽器担当のイメージ通りと言うのが、橋本先生への第一印象だった。

 あの格好でドラムを叩かれても、なんら違和感は無い。

 

 「それにー、あの先生と仲良くしたら、滝先生の隠された情報も手に入るかもよー?」

 

 「それ手に入れて、アッキーはどうすんだよ」

 

 面白がる様にそう言う忍に対し、またまた滝野がツッコミを入れる。

 

 「んなもん、面白そうだから。滝先生の好きな食べ物とかー。滝先生の趣味とかー。滝先生の好きな女の子のタイプとかまで聞けちゃったりして」

 

 忍のその言葉に、高坂が一瞬反応した。

 

 「うっわ、まるで恋する乙女じゃん。……アッキー、もしかしてそう言う趣味?」

 

 「あぁ……バレてしまったか……!!……因みに、タッキーもターゲットよん」

 

 そして、いやらしい目線をわざと滝野に送ると、「キモっ!」と、滝野からそれだけ返ってきた。

 

 

 「アッキー、ちょっと良い?」

 

 

 するとドア付近、教室の外からそんな声が聞こえた。忍もゆっくりとその声の方向へ顔を向けると、そこに居たのは中川だった。

 

 「お、なつきちじゃん。どしたの?」

 

 何だか妙に真剣な顔つきだ。しかし、忍はいつも通りにひょうきんにそう返す。

 

 「ちょっと相談があるんだけど、今いい?」

 

 「長くなりそう?」

 

 「それは……アッキー次第……かな?」

 

 忍の問い掛けに対し、何だか曖昧な回答をする中川。いつもへらりとしている彼女が真剣な顔つきになっているのを見て、忍も少し考える。そしてパートリーダーである中世古にアイコンタクトを送ると、彼女も一つ頷いた。

 

 「まあ、良いよ?……で、何の用でさ?」

 

 そして、薄く笑って、忍はそう言う。

 「ありがと。じゃあ……」

 

 それに軽く礼を言うと、中川はその場を譲る様に少しズレる。

 そしてそこに来る様にそのドアの死角から現れたのは……

 

「傘木……!」

 

 「希美ちゃん!?」

 

 黒髪を後ろでまとめた少女。上履きの色から、2年生だと言うことが分かる。

 その少女の登場に、皆驚いていた。中世古も、笠野も、滝野も。

 

 「何で希美が……!!」

 

 そして、その中で一番衝撃を受けていたのは、吉川だった。

 

 

 「ありゃ、かさみーじゃん。久しぶりー」

 

 

 しかし、忍はいつも通りだ。どこか気の抜ける声を出してその少女、傘木希美に対して、軽く挨拶をした。

 

 

 

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