響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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少し間が空いて申し訳ありません。
私用で遅れてしまいました。



 ………別にポケモンやってたとかじゃないよ?


恋愛観

 「うっわ、暑くないの?」

 

 「女の子の浴衣を見た第一声がそれ?」

 

 待ち合わせの駅、合流するや否や忍がそう言うと、吉川が不服そうにそう返す。

 

 「うそうそ、カワイイカワイイ」

 

 「もっと感情込めなさいよ」

 

 「……すっげー可愛い……」

 

 「やっぱウソくさいわね」

 

 「どう言ってもダメじゃん」

 

 いつも通りのコントを展開する2人。

 祭り仕様の吉川は、少し大人びて見える。浴衣のせいだろうか、それともいつも下ろしている髪を上でまとめ上げていて、うなじが見えるからだろうか。

 トレードマークのリボンは今日は外しているので、それも大人っぽく見える一因となっていた。

 

 「吉川、ポーズ取って?」

 

 「え、こう?」

 

 すると、忍から唐突にそんな事を言われ、言われるがままに吉川は顔の前でピースサインを作る。

 

 _____パシャッ______

 

 「何勝手に撮ってんのよ」

 

 そして、許可も取らずに、忍はスマホを取り出して吉川の浴衣姿を写真に収めた。

 

 「文句言われる前に一枚。……ほー、よう似合っとりますなー」

 

 「え、ホント?、見せて見せて」

 

 撮った写真確認しながら忍がそう言うと、スマホの画面を覗き込むように吉川も覗き込む。

 

 「えー、もっと可愛く撮ってよー」

 

 「じゃあ、もう一回」

 

 しかし写り方が不服だったのか、もう一枚とねだる吉川。

 写真を撮らせないと言うのはなんだったのか。再びもう一枚、今度はバッチリとポーズを決める。

 

 「どう?」

 

 「あんま変わんねーな」

 

 写真を撮られた吉川がそう聞くと、スマホの画面を見ながら首を傾げてそう呟く。

 

 「お世辞でも可愛いって、言いなさいっよ!」

 

 「いでっ!!」

 

 そんな気配りのかけらもない忍に対し、肩にパンチを喰らわす吉川。

 

 「まあ、アンタらしいけど」

 

 しかし、ここでお世辞を言われても、それはそれで不服だ。こうして忍が裏表無く本音で話してくれるのは、吉川にとって何より心地の良いものだった。

 

 

 ____________

 

 

 

 「何する?」

 

 「まずは遊ぶべや」

 

 屋台通りまで来ると、人は多めだが、あがた祭りの時よりかは少ないように思えた。8月のど真ん中である。暑さで来ない人も居るのだろう。

 

 「いいわねー。じゃあ勝負しない?あれで」

 

 忍の提案に吉川も乗り、とある屋台に向けて指をさす。そこには、屋台の屋根の下でしゃがみ込み、何やら夢中になっている人達が確認出来た。

 

 「おー、"かたぬき"かー。やった事ないなー」

 

 「アタシ、あれ得意なの。とりあえず行きましょ?」

 

 そう言って、吉川は忍の手を取り、その屋台の方向へと歩いて行く。なんだかんだ言って、吉川はこの祭りをとことん楽しむ様だ。

 

 

 「おじさん!、2枚下さい!」

 

 「あいよー」

 

 吉川がそう言うと、溝が彫られた白色の2枚の板と、それを抜くための画鋲が手渡される。

 

 「結構簡単そうじゃない?」

 

 「これがそうも行かないのよねー」

 

 渡された板は縦横2センチほどの小さいもの。その中に、何やら絵の様なものが彫られている。それを画鋲を使って、上手く型を抜けという事だろう。

 

 「とりあえず、アタシが見本見せるから、見てて頂戴」

 

 そうして吉川はやる気満々と言う風に浴衣の袖を捲ると、しゃがみ込んで町内会用の長机の上で、型抜きを始めた。

 

 カッカッカッカ………

 

 何というか、凄まじく地味な絵面だ。

 

 一心不乱に彫られた線に沿って、画鋲を打ち付けて行く。この型抜き、一瞬でも気を抜くと力加減を誤って中の絵まで折ってしまう事がある。吉川はそうならないためにも、無言で型を抜くことに全集中を注いでいた。

 浴衣と言う派手な衣装を着て、しゃがみ込み丸まって一心不乱に画鋲を打ち付けるという地味な絵面は、側から見たらなんともシュールなものとなっていた。

 

 「………吉川……」

 

 「……話し掛けないで……」

 

 セリフだけ見ればまるでケンカ中のカップルの様だが、彼らは今、型抜きをしているだけである。

 

 「あー!割れた!!」

 

 しかし、そんな集中も虚しく、パッキリと中の絵を割ってしまう吉川。

 

 「あーあ。あとちょっとだったのに」

 

 忍がそう言うと、プルプルと肩を震わせる吉川。全身全霊を掛けた数分。それが一瞬にして真っ二つ。これが型抜きの恐ろしいところだ。割ってしまった時の喪失感は半端じゃ無い。

 そして吉川の性格的に、これで諦められる筈が無かった。

 

 「おじさん!もう一枚!!」

 

 「あいよー」

 

 ヤケクソ気味に100円を屋台のおっさんに渡し板を受け取ると、すぐさま先ほどの様にしゃがみ込む。

 

 「アンタも。ほら、やんなさい!」

 

 「ぶきっちょやなー、吉川は。俺がお手本を見せてやるべよ……」

 

 吉川にそう促されると、忍は吉川の隣に同じ体勢でしゃがみ込む。

 祭りは、まだ始まったばかりだ。

 

 

 _________________

 

 

 

 祭りに限らずイベントの日は、同じ学校、同じ部活の人間を目撃する事が多い。

 

 「花火って何時からだっけ?」

 

 「19時過ぎくらいから」

 

 浴衣を着たこの少女2人。黄前と高坂も、この祭りで知り合いと何度か顔を合わせていた。

 

 「はい、久美子」

 

 両手に持ったかき氷を片方、黄前に渡す高坂。それを受け取ると、何か目ぼしい屋台は無いかと2人して歩き始める。

 

 「やーっぱ、カップルが多いなぁ……」

 

 「別に、私は塚本と一緒でも良かったけど」

 

 なんとなしにそう呟く黄前に対し、揶揄う様な言葉を返す高坂。それに黄前は困った様に苦笑いになった。

 

 「あはは、そう言う事じゃ無いよー」

 

 「何それ、適当……」

 

 期待していた反応とは違ったのか、不服そうにそう呟く高坂。

 低音の黄前とトロンボーンの塚本は幼馴染同士。

 お互いに気があるのは高坂も気付いていたので、この様に揶揄うのである。

 

 「久美子は、その……どうなの?」

 

 「んー?どうなのってー?」

 

 「塚本。私、ハッキリしないのは嫌いなんだけど」

 

 ピシャリとそう言い放つ高坂に対し、黄前はへらりとした笑顔を崩さない。

 

 「んー、そこまでハッキリさせる事もないんじゃないかなって、アタシは思ってるよ」

 

 「はぁ?、何よそれ?」

 

 曖昧な黄前の回答に、少し呆れた様な表情になる高坂。

 

 「何て言うか、今そうするのは焦り過ぎって言うか、まだなんだよねー」

 

 「?、変なの」

 

 尚も曖昧な言葉を続ける黄前に対し、それだけ返す高坂。

 高坂は、真っ直ぐな人間だ。一度コレと決めたら、そこまで一直線。それは音楽も、勉強も。

 

 ______そして恋すらもだ。

 

 「あ」

 

 すると、何かを見つけたのか、黄前がある屋台に視線を向けてそんな声を上げる。

 

 「何?」

 

 つられて高坂もその方向へと顔を向ける。

 

 「……優子先輩とアッキー先輩だ」

 

 "射的"と書かれた屋台の下、吉川と忍が楽しそうに射的用の銃にコルクを詰めている様子が確認出来た。

 

 「やっぱ、あの2人だね」

 

 「そうね」

 

 そんな光景を見て羨ましがる様な、納得した様な温かい視線を送る2人。

 

 「……麗奈はさ、ハッキリしないのは嫌いって言ってたよね?」

 

 すると、黄前が高坂に対し突然そんな事を聞いてくる。

 

 「……うん、そうだけど?」

 

 「アタシ、優子先輩とアッキー先輩の関係性、好きなんだよね。麗奈が言う様にどうにもハッキリしない関係なんだけどさ、それがどうにも自然体って言うか、"ああ、この2人はこのままで良いんだろうな"って思えるくらい互いに信頼し合ってて……」

 

 黄前がそう言うと、高坂も少し考える様な表情になる。

 

 「……少し、分かるかも。あの2人、パート練でも遠慮とか建前が無いって言うか、優子先輩がアッキー先輩に見せる顔は、アタシたちに見せる顔とは絶対違うし、アッキー先輩が優子先輩に取る態度は、絶対私たちには取らないものだから」

 

 それは、付き合っている言う事実が無くとも、お互いに"特別な存在"だと認識している事に他ならなかった。

 忍は吉川に対して過度に絡んだり、過剰に距離が近かったりするが、それを他の女性にする事は絶対に無い。

 そして吉川もキツい態度を忍に取り続けているが、忍が話し掛ける度に、他の誰から話し掛けられる時よりも声が明るくなる。

 

 そんな光景を、高坂も毎日の様に見続けているのだ。

 

 高坂麗奈は、真っ直ぐだ。だからこそ、ハッキリとさせたがる。しかしこの2人の関係性を見て、嫌悪感を抱く事は全く無かった。

 

 「あの2人にしか分からない世界があるんだろうね。曖昧だからこそ、出来る関係性ってのがあるのかな?」

 

 「………分かんない」

 

 高坂は互いにじゃれ合いながら射的で遊ぶ2人を見て、そう呟く。

 ハッキリさせたがるのは、悪いことでは無い。しかし恋愛においては、高坂の中でそれが変わりつつあった。

 

 

 何故なら彼女の中で、自分が思いを寄せる滝先生と"あんな感じになれれば良いな"と、そんな気持ちが芽生えていたからだ。

 

 

 

 「それに、あの2人、お互いの好意にもう気付いてると思うよ?」

 

 

 

 すると、意地の悪そうな笑顔で、黄前がそう言い放つ。

 

 「そうなの?」

 

 その言葉が意外だったのか、高坂は少し目を丸くする。

 

 「うん、なんて言うか、あの2人って、鈍感な訳じゃないと思うんだよね。……でも、今の関係性が心地良いから、"わざと"そう言う関係にならないんだと思う」

 

 黄前のその言葉に、高坂は納得した様な顔つきに変わった。

 なんだか胸の奥につっかえていた違和感が、スッキリ取れたような気分だった。

 色恋沙汰に関しては捻くれた者同士の恋愛事情。あの2人は、この曖昧な関係性を"楽しんでいる"のだろうと。

 

 

 「……久美子って、そう言うところ、よく見てるよね」

 

 

 「そうかなー?」

 

 

 感心したようにそう言う高坂に対し、へらりと笑って謙遜の言葉を返す黄前。

 

 そう考えると、あの吉川優子と秋川忍の関係性は、ベストと言っても良いのかもしれない。

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