響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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花火大会

 「大分遊んだわね」

 

 「飯もいっぱい食ったしな」

 

 一通り遊び、一通り食い、花火が打ち上がる時間が近づくにつれ、祭りも盛り上がりを見せる。人通りも増え、河川敷には少しでも良い場所で花火を見ようと、場所取りをしている人で溢れかえっていた。

 

 「うっわ、人多い……どこで見よっか?」

 

 キョロキョロと辺りを見回し、吉川がそう言う。

 

 「大吉山でも登る?」

 

 冗談めいてそんな提案をする忍に、吉川は少し顔を顰めた。

 

 「真夏に浴衣で登山なんて、正気の沙汰じゃ無いわよ」

 

 「確かに。でも、こんな人多い河川敷で見るのもなぁ……」

 

 これだけ人が多いとなると、雰囲気もへったくれもあったものではない。せっかくのデートなのだ。どこか2人きりになれる特別な場所は無いかと忍は考えを巡らせていた。

 しかし、そんな考えが一瞬で吹き飛ぶ様な言葉が聞こえる。

 

 

 

 「……アタシんちはどう?」

 

 

 

 忍の横から緊張した声色でそんな言葉が聞こえる。忍も一瞬その言葉が理解出来ず、「え?」と素っ頓狂な返事を返してしまう。

 

 「だ、だから、アタシんちはどうって言ってんの!」

 

 忍が吉川の方向へと顔を向けると、その声の主は真っ赤に顔を染め上げていた。

 どうやら相当勇気を出しての発言だったらしい。

 

 「……う、ウチ、少し高台に家があるから、2階のベランダから良く花火が見えるの。こ、こんだけ人が多かったら、花火なんて楽しめないでしょ?」

 

 所々声を上擦らせながら、吉川は何とも無いよう努めてそう言う。

 しかし、それが逆に違和感を持たせていた。

 

 「そ、そりゃあ、良いけど……いきなり来て大丈夫なの?」

 

 忍もそんな提案をされるとは露ほども思っていなかった。

 心の準備もできてないまだ17にもなってない少年は、しどろもどろにそう返す。

 

 

 

 「……うん、お母さんとお父さん、今日遅いから」

 

 

 

 心臓が止まる。一瞬、頭の中が真っ白になる。まさか漫画やアニメでありがちなセリフを自分が言われることとなるとは、忍にとっても完全に予想外だった。

 期待であるか、不安であるか、それとも、また別の感情か。

 忍の心の中は、そんな言い表すことのできない初めての感情に振り回されていた。

 

 「よ、よ、よ、吉川。お、お前、そ、それって」

 

 今まで誰にも見せたことがないくらい動揺する忍。いつも通り、飄々と。そんな忍のイメージが一瞬で崩れる程、秋川忍と言う男は普段とはかけ離れた顔を見せている。

 

 そう。この男、恋愛において攻められるのには滅法弱いのだ。

 

 そんな初めて見る忍の様相を見て、吉川はしめたとばかりにほくそ笑む。

 

 「な、何緊張してんのよ?へ、変なことでも考えてんじゃないんじゃないでしょーね!?」

 

 しかし、吉川もオーバーヒート寸前だった。平静を装おうに必死だが、全く形になっていない。

 吉川が忍を花火大会に誘った時にそこまで緊張してなかったのは、ここにある。

 

 何故ならば忍を花火大会に誘えたら、その流れで彼を自宅に誘うと吉川は決めていたからだ。

 

 吉川にとっては、祭りに誘う事よりも自宅に誘う方が何倍もハードルが高い。自分のパーソナルスペースに異性を入れる事なんて初めての経験、それは祭りで一緒に遊ぶ事より重要な事だった。

 

 つまり祭りは建前で、本命は自分の家で忍と2人きりになる事だったのだ。

 

 それを祭りの熱に充てられた中、勢いで誘う。吉川の作戦はこれだ。

 しかし、予想よりも緊張感や恥ずかしさはあった。はしたない女と思われてないだろうか?それで忍に引かれたりしてないだろうか?

 そんな葛藤もありながら、勇気を振り絞って吉川は忍を自宅に誘った。

 

 「考えてねーよ!……よ、吉川がいいって言うなら、行くけど……」

 

 普段見せることのない真っ赤な顔を見せながら、忍はそう返す。

 忍は吉川優子のことが好きだ。異性として、1人の女性として。そんな彼女から自宅に来ないかと誘われた。行かない理由なんてない。

 しかしこんな素直ではない言い方をするのは、吉川に対する捻くれた恋愛感情があるからと言ったところであろうか。

 だがそんな情け無い回答で十分だったのか、吉川は頬を赤らめながらも満面の笑みを返した。

 

 「そう、じゃあ行くわよ。あと30分もしたら花火が上がり始めるんだから、着いて来なさい」

 

 上機嫌な声色を隠そうともせず、吉川は忍の手を取って河川敷とは反対の方向へと歩みを進める。

 

 繋がれている手は互いに温度が上がりすぎていて、2人ともその異変に気付かなかった。

 

 

 ________________

 

 

 

 「ど、どうぞ?」

 

 「お、お邪魔します……」

 

 吉川に入る様促され、忍は少し遠慮がちに吉川家へと入って行く。山腹の斜面に建てられた洋風の一軒家。2階からは良い景色が見れそうだ。

 しかし、今の忍にはそんなことを考える余裕なんて無い。自宅とは違う雰囲気。匂い。心が休まる筈がない。

 

 「とりあえず、何か飲む?」

 

 2人してリビングに入ると、吉川が台所の冷蔵庫を開けながら、忍に対してそう聞く。

 

 「お、お構いなく……」

 

 そんな忍は、リビングのソファの上で縮こまる様に座っていた。

 

 「何遠慮しちゃってんのよ。アンタらしくも無いわね」

 

 吉川は自宅に帰ったと言う安心感からか、祭りの時ほど緊張していなかった。寧ろリラックスしている様に見える。

 

 「初めて来る家なんだから、こんなもんでしょ」

 

 「アンタにそんな態度取られると、どうも気色悪いのよ」

 いつものキレが無い忍に対し、吉川はストレートにそんなことを言う。

 

 「……吉川のせいなのに」

 

 「何か言った?」

 

 「何でも」

 

 ボソッと言った忍のその言葉は、どうやら吉川の耳には届いて無かった様だ。

 

 「……まあ良いわ。はぁー……今日は遊んだわねー」

 

 2つのコップに麦茶を入れると、吉川はそれをリビングまで持って行き、忍の隣に座る。

 

 「ここ最近練習しかしてなかったから、良い息抜きになったわ。……秋川もそうでしょ?」

 

 「ま、まあ……」

 

 吉川の問い掛けに対し、ぎこちなくそう返す忍。どうやらこの雰囲気にまだ慣れない様だ。

 

 「あんな子供みたいにはしゃいじゃって、少し恥ずかしかったんだから」

 

 麦茶を一口飲むと、吉川は困った様に笑ってそう言う。それに対し忍は少しムッとした様な顔になった。

 

 「良いじゃん。楽しかったんだし。吉川も楽しかったでしょ?」

 

 「そりゃ、楽しかったけど……」

 

 やり返す様に忍がそう聞くと、今度は吉川が少し素直では無い反応をする。

 

 「………」

 

 「………」

 

 そして、少しの無言。

 いつもいつ会話が途切れるのかと思うほど喋っているこの2人だが、今日はやはりと言うべきか、会話が続かない。

 意識しているからだろうか、それともいつもとは違う雰囲気に困惑しているからだろうか?

 そして無言になると、やっぱり意識してしまう。

 忍が吉川を見やる。今日は浴衣を着て髪を団子に纏めているからか、ヤケに大人っぽく見える。

 祭りの会場で見た時よりも、ずっと緊張する。

 

 「……何よ?」

 

 そんな忍の視線に気付いたのか、吉川は怪訝そうな顔を忍に向けた。

 

 「……何でもない」

 

 よそよそしくそう言って視線を外す忍。祭りの会場ではあんなに自然体で接していたのに、吉川の家に来た途端にこれだ。

 祭りの雰囲気に加え、誰にも邪魔されず2人きりになれた。

 まさに理想的な展開だが、そうなったらなったで2人とも何をしていいのか分からないと言うのが、このムズムズする雰囲気の正体だった。

 

 

 「……秋川はさ、なんで今日の誘いに乗ってくれたの?」

 

 

 口を開いたのは、吉川の方だった。相当勇気を振り絞って言った言葉なのか、顔は真っ赤で忍の顔をまともに見れてない。

 

 「な、なんでって、吉川が誘ってきたから……」

 

 いきなり核心を突くような吉川の言葉に、忍も動揺を隠せていない。

 

 「他の子達からも誘われたでしょ?……アンタ、なんでか知らないけどモテるし」

 

 「………別に、それは吉川が最初に誘ったから……」

 

 照れを隠す様に、忍は目を逸らしながらそう言う。

 

 「本当に、それだけ?」

 

 しかし、それを逃すまいと、吉川は忍を見つめてそう聞く。

 真っ直ぐな瞳、吸い込まれそうなほどの綺麗な水色の瞳で吉川は忍を見据える。

 少し頬を赤らめたその表情は期待なのか、不安なのか、それともまた別の感情なのか。よく分からない顔をしている。

 そんな瞳で見つめられ、忍はその顔から一切目線を逸らすことが出来ない。

 

 何故ならそれ程に魅力的な表情だったからだ。こんなものを見せられて、本心を隠し通せる訳がない。

 

 

 「………嘘。吉川としか行かないって決めてた」

 

 

 するりと、自然とその言葉は出て来た。気障ったらしく、全身が痒くなるほどの言葉であるが、言い切ってみれば照れはあるがどこか心地良い。達成感にも似た感情が忍の中にあった。

 それを聞いて、吉川の瞳が揺れる。

 

 「……ふふっ、そう……そっか……」

 

 そして、嬉しそうに、本性を暴いてみせたと、達成感丸出しの表情で吉川はクツクツと笑う。

 ようやく秋川忍の自分に対する本音が聞き出せた。

 感覚ではなんとなく分かっていたが、こうして言葉で聞くと何もかもかなぐり捨てたくなるほど嬉しい。

 

 

 ________ドンっ_________

 

 

 

 すると、腹の底に響く様な重低音が聞こえて来る。馴染み深いその破裂音は、紛れもなく花火の音だ。

 

 「あ、始まったみたいね」

 

 「う、うん」

 

 どこか吹っ切れた様な清々しい表情で言う吉川に対し、忍はまだ心の整理がついてないままだった。

 しかし、それに追い討ちをかける様な言葉が、吉川の口から出る。

 

 

 「2階、行きましょ?アタシの部屋からなら、花火が綺麗に見えるわ」

 

 

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