響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
夏休み。世間はお盆休みに入り、北宇治高校もほとんどの部活動が休みになっている。
しかし、校舎にはそんなものは関係ないとばかりに、合奏の音が響き渡る。
「……はい、Lからのフォルテッシモ、音が濁らない様にして下さい」
「「「はい!!」」」
通しの合奏が終わり、滝先生から注意が入る。
「スネアは、ロールだらしなくならない様に」
「はい!」
滝先生の隣に居た臨時コーチの橋本先生からも、パーカスに注意が飛ぶ。
「では、本日の練習はここまでにします。明日からはお盆休みに入りますが、その後、すぐ合宿です。体調管理にはくれぐれも注意して、風邪などひかない様にして下さい」
「「「はい!!」」」
滝先生がそう締めると、今日の練習が終わる。明日からの二日間は吹奏楽部もお盆休み。
この日だけは、学校を閉めると言う事で練習が出来ないのだ。
そしてそれが明けると、すぐさま合宿に入る。
「では、合宿の予定確認するから、パートリーダーは集まって下さーい!」
小笠原が立ち上がりそう言うと、パートリーダーは集まり、その他の部員は片付けを始める。
「プール?」
「うん、プール。一緒に行かない?」
そんな中、いつもの様に忍がトランペットの手入れをしていると、吉川が遊びに誘って来た。
「何人か誘ってんのよ。友恵と秋子ちゃんと……あとみぞれも誘ったんだけど、多分来ないと思う」
しかし、デートのお誘いではない様だ。吉川は指を折って誘った人物を確かめる。
「えー、絶対人多いじゃん」
しかし、忍は少々面倒くさそうにそう言う。だがそれは天邪鬼の様なもので、本心は行かない気など全く無かった。
「何ワガママ言ってんのよ。せっかくの休みなんだから、アンタも来なさいよ」
吉川は引く気は無いらしい。少し呆れた様な顔でそう言い放つ。忍の本心を吉川も見抜いているのだろう。
「まあ、暇だし良いけど。他に誘った人とか居る?」
この様に口では素直ではないが、行く気は満々だ。
「居ないけど?」
そんな忍に対し、首を傾げて吉川はそう返す。
「じゃあ、タッキーも誘って良い?」
「滝野?………まあ、良いけど」
忍の提案に吉川は少し間を置いて、了承の返事を返した。
最近は滝野と遊ぶ機会が少なかったので、デートじゃないなら丁度いいと言う感じだった。
「オーケー。行くの明日?」
「うん。時間決まったら、連絡するわ」
「はいよー」
何とも気の抜けたやり取りだ。しかし、プールに行くと言う事は水着姿が見れると言う事だ。忍だって健全なる男子高校生。好きな人の水着姿は見たいと言う気持ちはある。
「水着、着てくんの?」
努めて冷静に、忍はいつも通りにそう聞く。
「当たり前じゃない。なーに?そんなに見たいわけ?私の水着姿?」
対して吉川は、少し小馬鹿にする様にへらりと笑ってそう聞き返す。花火大会の時と同じだ。
「アホ。似合ってんのか確かめてやんの。明日の為に今日の夜ご飯は少なめにしといた方がいいんじゃないのー?」
「よ・け・い・なお世話だっつーの!!」
「いだっ!!!」
相変わらずデリカシーの欠片もない忍の発言に、吉川のパンチが炸裂した。
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「人多い……」
「お盆だからな」
当日、水着に着替えた忍がそう呟くと、同じく水着姿の隣に居た滝野から至極当たり前の返事が返って来る。
プールは案の定人だらけで、活気に溢れていた。
「……アッキー、あの子はどうだ?」
「……ちょっと痩せすぎ」
そしてやはりと言うべきであろうか、こんな所に来れば健全なる男子高校生は下世話な話もする。
女性陣の登場を待つ間、遠目で水着の女の子を眺めながら、楽しそうに談義を交わす。
「ほぅ。じゃあ、あっちの子は?」
「良いねー。ちょっと性格がキツそうなのも良い。うわっ、隣の人めっちゃ美人さんじゃね?」
「うわっ、本当だ。大人なお姉さんって感じじゃん」
「タッキー、思い切ってナンパしてみれば?」
「子供扱いされて終わりだろ」
段々と談義に熱が入り、あれやこれやと話の盛り上がる二人。女子の多い吹奏楽部に所属していると、こう言う話もし辛い。
今日はその鬱憤を晴らすかの様に、二人とも水着の女の子達に釘付けになる。
しかしそれに熱中し過ぎて、背後から忍び寄る殺気を纏った鬼に、二人とも気付けなかった。
_______ドカッ!!________
「いっで!!!!!」
後ろからの衝撃と共に、断末魔を上げて勢い良くうつ伏せに倒れる忍。いきなりの出来事に滝野が咄嗟に振り向くと、右足裏を忍に向けて、額に青筋を浮かべている吉川の姿があった。
どうやら思い切り忍の事を蹴飛ばしたらしい。
「アタシ達を差し置いて別の女に視線を向けるなんて、良い度胸じゃない?し・の・ぶ!」
そして、そのまま前に倒れた忍の背中をサンダルで踏んづけ、挑発する様にそう言う吉川。
「痛い痛い!!ごめん!ごめんて優子!!」
やはりと言うべきか怒っている。忍は必死に吉川の足をタップしていた。
「……全く、最初からこんなんじゃ、先が思いやられるわ」
呆れた口調で吉川がそう呟くと、ようやく忍の背中から足を離す。ようやく立ち上がることの出来た忍は、ゆっくりと吉川の方へと振り返った。
「……おー、水着……」
感心した様に水着姿の吉川を見つめてそう呟く忍。今日の吉川はいつもなら降ろしている髪を両サイドでまとめ、どこか開放的な雰囲気だった。
そして黄色を基調とした水着。上にTシャツを着ているのが少し勿体無いが、それも良いアクセントとなっている。
「……なにジロジロ見てんのよ?」
忍にじっと見つめられ、少し照れ臭そうにそう言う吉川。しばらく見つめると、納得した様に忍は頷いた。
「案外似合ってる」
「最初の2文字が余計よ」
少し微妙な忍の褒め言葉に対し、すぐさまツッコミを入れる吉川。いつも通りのやり取りに、吉川の背後に居た加部が苦笑いになっている。その隣に居た吉沢は、顔を赤くしてなんだかニヤついた表情を浮かべていた。いつも通りである。
「あれ?なんだ、アンタ達も来たたんだ」
すると、聞き慣れた声が聞こえ、一同その方向に顔を向ける。そこには、吉川と同じスタイルの水着姿の中川が居た。
「おー、なつきちも来てたんだ」
意外そうな表情をして、最初に忍が話し掛ける。
「うん、友達とね。アンタらは何?デート?」
そしていつもの様にへらりと笑って、揶揄う様に中川はそう言う。初手でこのおちょくり。吉川が反応しないわけがない。
「……どう見たらデートに見えんのよ」
心底不服そうな表情で、吉川が突っ掛かる。
「あれ?……じゃあアッキーとはお遊びだったんだ?なら、アタシが貰っちゃおうかなー?」
「勝手に変なイメージ付けてんじゃないわよ!!」
「イメージってか、事実でしょー?」
「何が事実よ!?」
まだプールに来たばかりだと言うのに、すぐさま口論を始める二人。せっかくのお盆休みだと言うのに、そこで見られる光景は部活の時と同じだった。