響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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プールサイドヒストリー

 高校生の体力というのは、底なしのものがある。普段、早朝から陽が沈む時間になるまで部活漬けの毎日でも、遊ぶ元気があると言うのは若さ故の特権であろうか。

 

 「くらえ!水中ブロー!!」

 

 「甘い!!ウォーターウォール!!」

 

 「何っ!?」

 

 して、こちらは忍と滝野。滅多に来ないプールに来てテンションが上がっているのか、小学生の様なごっこ遊びをしている。

 男と言うのはいつまで経っても子供なのだ。

 

 「あはは、男子は元気だねぇー」

 

 「……反応するんじゃ無いわよ。知り合いと思われちゃ恥ずかしいでしょ……」

 

 そんな光景を、プールサイドの日陰で中川と吉川は見つめていた。

 中川はいつも通りへらりと。吉川は呆れた様な顔でそう言う。

 

 「……てか、何でアンタが居んのよ?友達居ないの?」

 

 いつの間にか同行していた中川に対し、吉川は鬱陶しそうにそう聞く。

 

 「余計なお世話。待ち合わせしてんのよ」

 

 中川はその待ち合わせている友達と連絡を取り合ってるのか、スマホを弄りながらそう返す。

 

 「待ち合わせ?誰と?」

 

 「……うっさいなぁ……」

 

 深く突っ込んで来る吉川に対し今度は中川が鬱陶しそうにする。そして何処か言いにくそうに、口を開いた。

 

 

 「希美だよ。傘木希美」

 

 

 「……希美………」

 

 中川の口から出た人物の名前に、吉川は少し表情を曇らせる。その表情を見て、案の定中川はバツの悪そうな顔になった。

 

 「だから言いたく無かったのに……アンタ、希美の事嫌いでしょ?」

 

 「……別に、嫌いじゃ無いけど……」

 

 確かに嫌いでは無い。しかし、色々思うところがあるのも事実だ。

 

 「ホント、アンタって顔に出やすいよね。……まあ、結果的にだけど、アッキーが一度部活に来なくなったのも、考え様によっては希美のせいだしね」

 

 「……………」

 

 中川に図星を突かれてしまったのか、少し眉を顰める吉川。

 

 「……別に、忍は関係無いわよ。それよりも……」

 

 無意識にその先を言おうとした事に気付き、吉川はハッとした様に口を抑える。

 

 「………何でもない。今の事は忘れなさい」

 

 「はぁ?そこまで言われて気にならない訳ないでしょ?」

 

 「うっさい。何でもないったら何でもないの」

 

 「……何それ……」

 

 意地でも言わないと言う風な吉川の態度に対し、不服そうにそう返す中川。

 

 「………アンタだって知ってるでしょ?アッキーが部活に来なくなった途端、糸がプツリと切れた様に反発してた部員が辞めて行った」

 

 そして、話を忍の話題に戻す。

 

 「……………」

 

 中川の独白の様な言葉に、吉川は黙って耳を傾ける。そんな事、知っている。何よりあの時一番ショックを受けたのは、紛れもなく吉川だったのだ。

 

 「……希美はその事を今でも後悔してるの。『アタシのせいでアッキーや皆が辞めて行った』って」

 

 そして中川も、吉川の忍に対する想いは知っている。忍が一度部活を去って、酷く落ち込んでいた姿を見ている。

 そんな状態になってしまったからこそ、傘木は責任を感じている。

 

 あの事件で一番罪悪感を感じているのは、当事者の傘木希美なのだ。

 

 

 「だから許してあげて、お願い」

 

 

 その両方の思いを知っているからこそだろう。中川は立ち上がり、吉川に対して深く頭を下げた。

 

 「……別に、アンタに頭を下げて貰わなくて良いわよ」

 

 「でも……」

 

 「確かに希美に関しては色々思うところがあるけど、もう終わった事よ」

 

 さっぱりと、何ともない様にそう言い放つ吉川。それを聞いて、中川はようやく頭を上げた。

 

 「……ありがと」

 

 「……だから、礼とかいらないから……」

 

 いつもなら絶対に出る事のない中川からの直接的な感謝の言葉に、むず痒そうな表情を浮かべる吉川。とことん素直ではない様だ。

 

 「………アッキーが復帰の許可を出してくれた時、すっごい救われたって希美は言ってた」

 

 「大袈裟じゃない?」

 

 中川の言葉に復帰の許可を出しただけでそれはどうなのかと、苦笑いになって吉川はそう返す。

 

 「"フルートが好きなら戻れば良いじゃん"って言われたのが凄い嬉しかったんだって。初めて吹いた時の事を思い出せたって」

 

 「……そんな事、考えたこともないわよ」

 

 「そう?初心って大事だと思うんだけど?……ある意味アタシは希美に憧れて吹奏楽始めたからね。"原点"って楽器を吹くモチベーションにならない?」

 

 「………アタシは、何となしに中学から始めただけだから」

 

 少し目を伏せる様にして、中川の問いかけにそう返す吉川。自分がトランペットを吹き始めた理由は、一体何なのだろうか?そんな事、とうの昔に忘れてしまっていた。

 

 「……そう」

 

 少し寂しそうな表情を見せる吉川に対し、中川はそれだけ返す。まあ経験が長ければ長いほど、始めたキッカケなんて忘れてしまうものなのだろう。

 

 「じゃあ、アタシ行くわ。希美待たせちゃうし」

 

 そして、そのまま荷物を持ち上げると、中川はその場から去って行く。対して吉川は、何か考え込む様な表情をしていた。

 

 

 

 ____________

 

 

 

 「あー、やっぱ久々にプール入ると楽しいわ」

 

 「部活で行く暇なんて殆どないからな」

 

 しばらくすると、プールから上がった忍と滝野が、喋りながら戻って来た。

 随分と遊んできた様で、もうすでに薄らと日に焼けている。

 

 「俺、ちょっとジュース買ってくるわ」

 

 「おー、いってらー」

 

 そんなやり取りをすると、そのまま滝野は自販機の方へと向かって行く。そして忍1人、吉川の元へ戻って行った。

 

 「ただいまー。あれ?、なつきちどっか行ったの?」

 

 「うん。友達と会うんだって」

 

 忍がそう聞くと、簡単に吉川はそう返す。しかし、忍は吉川の異変にすぐさま気付いた。

 

 「……なに難しい顔してんの?優子?」

 

 「……してない」

 

 「お前って本当に顔に出やすいな」

 

 中川と同じ様な事を忍に言われ、今度はぶすっとした様な表情になる吉川。やっぱり顔に出やすい様だ。

 

 「……忍は、何でトランペット吹き始めたの?」

 

 「はぁ?」

 

 突然真面目な話をして来た吉川に対し、素っ頓狂な声を返す忍。

 

 「そう言う話をアイツとしてたの。アンタは覚えてる?自分がトランペット吹くようになったキッカケ」

 

 そして何か期待するような、それでいて不安も混ざったような目で吉川はそう聞く。

 

 「まー、覚えてるよ。母さんが市民楽団でトランペットやってたからね。その影響」

 

 プールで濡れた髪やら体やらをバスタオルで拭きながら、そう答える忍。

 

 「てか、何でそんなこと聞くのさ?」

 

 至極真っ当な忍の質問に、吉川は考え込む様な表情になる。

 

 「アタシは始めたキッカケが曖昧だから、ちょっと気になったのよ。アタシがトランペットを吹いている理由はなんなのかなーって」

 

 悩みが表れている様な吉川の発言に、忍は心底不思議そうな表情に変わる。

 

 

 「別に、キッカケなんて忘れても良いんじゃない?今は吹いてて楽しいんでしょ?」

 

 

 そして当たり前かのように忍がそう言い放つと、それは盲点だったのか、吉川は目を丸くする。

 

 「そう言うものなのかな?」

 

 「そう言うもんでしょ」

 

 トランペットを吹くのが楽しければそれで充分。そこには過去も未来も関係無い。それが秋川忍の考え。

 

 "今"、この瞬間に自分が音に対しどう向き合っているか。

 

 それは、忍が昔から肝に銘じている事でもあった。

 

 「……アンタって、ホント音楽だけにはストイックと言うか……」

 

 「だけって余計じゃない?」

 

 忍の良さは、ここにある。普段はおちゃらけ、やりたい放題の彼だが、ひとたび音楽の事となると誰よりも真摯に向き合い、誰よりも真剣に取り組むのだ。

 

 「それで、忍はお母さんの影響でトランペット始めたって言ってたわよね?やっぱり上手いの?」

 

 続いて吉川は忍の母について聞く。この忍の音楽に対する考え方を教えたであろう母親は、どんな人物なのかと気になったのだ。

 

 「もちろん。何でプロじゃ無いのかって思うくらい上手かったよ。今でも目標は母さんだし」

 

 「へぇー、アンタがそう言うほどの実力者ねぇ。確か市民楽団に居るんだっけ?今度聴いても良いかしら?」

 

 吉川が興味津々にそう言うと、忍は少し困った様に笑った。

 

 「え?、あー、うーん……そういや言ってなかったか……」

 

 まずったと言う風に忍がそう言うと、吉川は首を傾げる。

 そして、少し言いにくそうに忍は口を開いた。

 

 

 

 「俺の母さん、もう死んじゃってるんだよね」

 

 

 

 「……………え?」

 

 

 今までの話が全て消え去ってしまう様な、忍の発言に、吉川の頭は真っ白になってしまった。

 

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