響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
「はい、革命ー!!」
「はぁー!?ちょっと待てアッキー!!タンマタンマ!」
夕食も終え、ここは男子の寝室。エネルギーの有り余った男どもの夜は終わる事なく、日中の合奏練習の熱気にも勝る勢いで、トランプゲームをしていた。
「はい、俺上がりー。タッキー、また大貧民ね」
「ざっけんなよ!もー!!」
今日何回目か数えるのも億劫な程、大貧民をこなしている滝野が哀しき雄叫びを上げる。
「あらあら、大貧民が何か戯言を言ってますわよー?」
「そうですわねー。無様ですわー」
忍が挑発する様にそう言うと、乗っかる様にパーカスのナックルこと田邊がそれに乗っかる。
それで神経を逆撫でされた滝野は、手元にあった枕を忍に向かって思い切り投げつける。
「うぶっ!!……ったなこの!!」
「ぶえっ!!」
そして忍がやり返しのために投げた枕は滝野には当たらず、3年とトロンボーンパートリーダの野口に当たった。
「こんの、お前!!」
そしてそれが皮切りとなり、大富豪そっちのけで今度は枕投げ大会が始まる。それに便乗する様に一年の塚本や瀧川も加わり、もう大騒ぎとなっていた。
_____ガチャリ!!!_____
すると、勢い良く入り口の扉が開く。
「貴様ら!!こんな時間に何をして……うぶっ!!」
「「「「「あ……」」」」」
誰が投げたか分からない枕。その軌道は、一番当たってはいけない人の顔に直撃した。
「………貴様ら、全員表へ出ろ」
それは枕が当たったからなのか、それとも怒りで染まっているのか。般若の様な表情を浮かべ、枕をぶつけられた松本先生が震える声でそう言い放った。
_______________
「………何してんの?」
「反省。あと30分」
廊下で正座している男どもを見て、吉川が軽蔑した様な目線を向けてそう言うと、忍が反省の色を一切見せずにそう返す。
「また何かやったの?」
「ちげーよ、今回はタッキーだよ」
「アッキーもだろ……」
全責任を滝野になすりつけようとする忍に対し、すぐさま滝野本人からツッコミが入った。
「なんで俺まで……」
そこには、絶対に巻き込まれただけであろう後藤の姿も見える。その状況を察し、吉川は「はぁ……」と一つ大きなため息をついた。
「相変わらず元気な事で。明日も明後日もあるんだから、程々にしときなさいよ?」
「徹夜したって動けるよ」
呆れた様に吉川がそう言うと、なんとも無い様に忍は生意気な返事を返した。
「少しは反省しなさいっての!」
「いだ!いででで!!足触んのは無しだって!!」
そんな忍に対し、吉川は揶揄う様に正座でダメージを負っている忍の足を突く。
やはり反省の色はあまり無い様だ。
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「あー……まだ痺れる……」
松本先生による正座から解放され、少しふらついたぎこちない歩き方をしながら、忍は自販機へと向かう。ジャンケンで負けたので、男子組の飲み物を買わなければならないのだ。
合宿所の自販機は休憩室にある。廊下から忍がその入り口の扉を開くと、そのテーブルの一角で、電話をしている少女の姿が確認出来た。
「うん、うん。……どうかな?」
その少女は電話で会話しながらも忍の存在に気付き、軽く手招きをする。忍もそれに従って、少女の方へと歩いて行った。
「うん、……そんな事ないよ。……分かった。じゃあね」
そしてそう言うと、少女は電話を切る。
「松本先生にこっ酷く怒られたんだって?アッキー?」
「えー?もうその話広まってんの?なつきちは耳が早いですなぁ」
揶揄う様にそう言う少女、中川に対し、忍は困った様に笑ってそう返す。
「相変わらずだねー。悪事も程々にしときなよ?」
「分かってますよー」
中川の忠告にそれだけ返すと、忍は自販機の前へと歩みを進める。
「……ねえ、アッキー」
すると、中川はどこか真剣な口調で、忍の事を呼ぶ。
「んー?何ー?」
中川の問いかけに対し、忍は自販機にお金を入れながら、気の抜けた返事を返す。
そして少しの間が空いた後、中川は思い詰めた様に口を開いた。
「………希美の事、どう思う?」
「え、希美って……かさみーの事?」
いきなり傘木の名前が出てきて困惑したのか、聞き返してしまう忍。
「うん。アッキー、希美の事恨んでないかなって思って……」
申し訳なさそうな顔で、そんな事を聞く中川。それに対し、リクエストされた飲み物のボタンを押しながら、忍は大きくため息をついた。
「はぁーー………なつきちはさ、俺がかさみーの事恨んでると思ってるの?」
「……恨まれてもおかしく無い事を、希美はしたと思ってるよ」
缶ジュースを取り出しながらそう言う忍の問い掛けに対し、中川は目を逸らしながらそう答える。その言葉を聞いて、忍は再び一つ、大きなため息をついた。
「あれは結果論じゃん。確かに結果的には当時の3年生と対立が深まる事になったけど、かさみーのせいじゃ無いでしょ?」
こんな話、パート練習で傘木が忍の元へ謝りに来た時に解決した筈だ。当時の事を忍はもうどうとも思って無いと、本人の前で言った筈なのだが……
「………じゃあ、なんであすか先輩は……」
「……どう言う事?」
ポロッと、中川の口から意外な人物の名前が出る。自販機から飲み物を取る手を止め、顔を中川の方へ向けて忍が突っ込む様にそう聞くと、まずったと言う風に中川は口を塞ぐ。
しかしもう後の祭り。中川は観念した様に口を開いた。
「……あすか先輩が希美に復帰の許可を出さないのは、アッキーも知ってるでしょ?」
「うん。……って言うか、何であすか先輩?戻りたいなら勝手に戻ればいいじゃん」
これは傘木が忍の元に謝りに来た時もそうだが、忍にとっては何故傘木が副部長である田中あすかに拘るのか、全く分からなかった。
「……あの子、部活を辞める時にね、あすか先輩に相当キツイ事言われたんだ」
「……キツイって、何言われたのさ?」
悲痛な表情でそう言う中川に対し、忍はそう聞く。そして言おうか言わまいか少し悩んだ後、中川は腹を決めたように口を開いた。
「『アッキーを辞めさせておいて、自分だけ逃げるつもり?』ってね。それが相当堪えたみたい」
「………」
当事者である忍は、何も言えなかった。確かに自分自身はもうあの事については水に流している。しかし第三者がそれを許すかどうかは、また別問題。
忍の頭に浮かんでいたのは、傘木が謝りに来た時、何とも言えない複雑な表情をしていた吉川の姿だった。
「……それが、かさみーがあすか先輩にこだわる理由?」
「……うん。でもね、同時に引き留めてくれたのも、あすか先輩なの。『今希美ちゃんが辞めたら、アッキーに対して顔向け出来なくなるよ』って。……でも、希美は自分だけ部活をやり続ける罪悪感に耐えきれなくなって、辞めて行った」
「………」
そんな理由があったと知って、再び言葉を失ってしまう忍。
たらればだが、忍は後悔していた。もしあの時勢いに任せて自分が部活を去らなければ、傘木も部活を辞める事は無かったのでは無いかと。
「……実はね、希美に部活に戻らないかって言ったの、アタシなんだ」
そして、中川はカミングアウトする様にそう言う。対して忍は、意外そうな顔になった。
「え、そうなの?……てっきりかさみーが自分から戻るって言い出したのかと……」
「……ううん、むしろ逆。アタシが誘った時、最初は断られたんだ。『アッキーに見せる顔がない』って」
中川にそう言われ、バツの悪そうな顔になる忍。
「そんな事思わなくても……」
「そういう子なの。希美は。アッキーも知ってるでしょ?」
中川にそう言われ、口籠もってしまう忍。
傘木希美と言う少女は、常に人の中心に居れる程、リーダーシップの強い人間だ。
そしてそれに応じるように責任感も持ち合わせている。
あの事件での秋川忍に対する"罪悪感"。それを一番感じているのは、紛れもなく傘木だったのだ。
「でもね、それじゃダメだって思ったんだ。そのままだと希美が一生後悔すると思ったから」
「……だから、なつきちはかさみーを部活に戻そうと?」
「うん。それから何回も何回も説得して、ようやく希美も部活に復帰するって言ってくれた。……でも、あすか先輩は……」
「……復帰の許可を出してくれないと……」
その先を読んだように忍がそう言うと、中川は一つ、大きなため息をついて空を仰いだ。
「なぁんでだろーなー?『アッキーの事ですか?』って聞いたら、そうじゃないって言うし……」
寧ろそれ以外に理由は無いと思っていたのだが、そうでは無いとすると、何が原因で田中が傘木の部活復帰に許可を出さないのか、中川には見当も付かなかった。
最近、作中の人間関係が予想以上に複雑になってきて、頭を悩ませている作者でございます。