響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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朝の一幕

 

 週明け、月曜日の朝。再びの合奏まであと3日。春も後半、暖かくて過ごしやすい陽気は、中々目覚めるのに苦労する。それは秋川も例外では無く、未だ寝ぼけ眼の顔を晒して、昇降口で靴を履き替えていた。

 

「ふぁああ………」

 

 大きなあくびを一つして、上履きを出し、靴を下駄箱に入れる。すると、彼が来るのを待っていたかの様に、一人の女子生徒が近づいて来た。

 

「!、居た!……来て、秋川」

 

 上履きに履き替えたばかりの秋川にそう声を掛けたのは、吉川だった。偶に廊下ですれ違った時などは軽く喋る事もあるが、今日は待ち構えていたかの様だった。

 

「おっすー、吉川。何?」

 

 なんだか雰囲気がおかしい。しかし、それに気付く事なく、秋川は気の抜けた挨拶を返す。

 彼は低血圧で朝は弱いため、ボーッとしていて吉川の様子が少し変な事に気付いて無かった。

 

「良いから、来なさい!」

 

 そして、少々無理矢理に、未だに寝ぼけ気味の秋川の手を目を覚まさせるかの様に引っ張って、吉川は人気のない場所へと移動した。

 

 

「何?、吉川。大事な話?」

 

「そう、大事な話」

 

 無理矢理手を引っ張られ、少し目が覚めて来た秋川がそう聞くと、吉川は頷いてそう返して来た。こう言うところは、周りくどく無くて助かる。

 

「……アンタ、この前の金曜、どっかで吹いてた?」

 

 そして、どこか真剣な表情で吉川はそんな確認をして来る。早速本題に入る様だ。

 

「金曜?、……あ、屋上で一曲」

 

 まだ完全に起ききって無い頭を回し、思い出したかの様に秋川はそう言う。その日は、秋川がムーンリバーを屋上で演奏した日だった。

 

「……やっぱり。あれ、アンタだったのね?」

 

「おう、どうだった?俺のムーンリバー。良かったべや?」

 

 その時の事を思い出したのか、秋川は期待の眼差しで吉川に感想を求める。

 

「今はそんな事いいの。と言うか、なんであの時演奏したのよ?」

 

 しかし、吉川にそんな事を言われ、秋川はシュンと落ち込む。どうやら期待した答えでは無かった様だ。

 

「最近、校舎内で楽器の音が増えたから、俺も吹きたくなったんだよ。なんだよ?いけなかったか?」

 

 そして、拗ねる様に秋川はそう吐き捨てた。自身の演奏に感想を貰えなかった事に、ご不満の様だ。

 

「そんな事で拗ねないの。でも、そっか……」

 

 秋川の口からその事実を確認した吉川は、考え込む様に腕を組む。何やら言いにくそうにしている雰囲気だ。

 

「……なんだよ?用件があるんじゃ無いの?」

 

 いつもなら思った事がそのまま口に出る彼女が言い淀む姿に、秋川も違和感を感じてそんな事を聞く。

 そして、しばらく経った後、意を決した様に吉川は口を開いた。

 

 

「アンタ、吹奏楽部に戻る気?」

 

 

 真っ直ぐ、秋川の目を見据えて、吉川はそんな事を聞いてくる。冗談でも冷やかしでも無い事は、秋川にも分かった。

 気の抜けた顔から一転、彼も吉川を真剣に見つめ返す。

 

「どうかな?、滝先生が言うにはまだ籍はあるらしいけど、俺自身、ちょっと面白そうだなって思ってるかな?」

 

「面白そう?」

 

 秋川の口から出た予想外の言葉に、吉川は疑問の声を上げる。

 

「うん、去年よりもずっと面白そうな部活になってるなって。ここ最近、雰囲気が変わって来てるから」

 

 そう言って、秋川は楽しそうに笑う。裏も何も無い、屈託の無い表情だった。それを見て、吉川も困った様にクスッと笑った。

 

「アンタのその性格、相変わらずなようね。じゃあ何?近いうち戻って来んの?」

 

「……いや、それは水曜の合奏を聞いてから決めるよ」

 

 真剣な表情に戻った秋川がそう言うと、吉川が少し目を見開く。

 

「……なんでアンタが合奏の事知ってんのよ?」

 

「タッキーと滝先生本人に聞いた」

 

「……あんのバカ……」

 

 相変わらず口の軽い滝野に対し、恨み節を呟く吉川。身内の恥をどうしてこうもベラベラ喋るのか。

 

「……まあ良いわ。でもそれってつまり、アタシ達を試すって事?」

 

 すると、真剣な表情で吉川はそう聞く。

 言い方は悪いが、概ね合っている。

 今、彼女達は試されているのだ。それは滝先生に、部活に戻ろうとしている秋川に。

 

 

 そして、ぬるま湯に浸かり続けて来た自分自身に。

 

 

「試すじゃ無いけど、そこで"面白いな"って感じたら、戻るよ」

 

 秋川もそれが分かっているのか、何処か挑戦的な笑みを浮かべて、そう言い放った。

 

「……なるほど、上等じゃない。……本番で去年の比じゃないところ、見せてやるわよ」

 

 喧嘩を売られた吉川は、少し不機嫌な表情ながらもそう返す。しかし、不貞腐れている訳ではなく、その中には闘争心がある様に秋川には見えた。

 

「お、良いねぇー、その心意気。期待しておるぞー?」

 

「上から言ってんじゃないわよ!」

 

 冗談めいて秋川がそう言うと、吉川のツッコミと共に秋川のケツに蹴りが入る。

 なんともハードなツッコミだ。

 

「痛ってー!……相変わらず容赦無いじゃん」

 

「アンタが舐めた口きくからよ」

 

 吉川は悪びれる様子も無く、「ふんっ」と鼻を鳴らし、不遜な態度でそう言い放った。

 

 

「ははっ、そりゃ失敬。……でも、期待してんのは本当だよ?」

 

 

 そして、そんな吉川に対し、秋川は真っ直ぐ彼女を見据えてそう返した。

 

「……うるさい、バーカ」

 

「ありゃ?、褒められて照れてる?」

 

「そう言うところよ!馬鹿!!」

 

「痛って!!!」

 

 口の減らない秋川に対して、再び吉川のタイキックが炸裂する。……中々彼も勉強しないタイプな様だ。

 

 「じゃあ、アタシ行くから。明後日、ちゃんと聴きに来なさいよ?」

 

 「もちろん」

 

 釘を刺す様に吉川がそう言うと、ケツをさすりながら秋川がそう返す。そして、恥ずかしさからか、目も合わせず秋川の横を抜けて、足早にその場を去ろうとする。

 

「……あー、それともう一つ」

 

 が、何かを思い出したかの様に吉川はそう呟き、一瞬足を止める。

 

 

 

「……あの時の演奏、良かったわよ」

 

 

 

 

 そして、振り返らずにポツリと、秋川に向かってそれだけ言い放った。

 

「……え?」

 

 いきなりのその褒め言葉を秋川は飲み込めず、もう一度聞き返してしまう。

 

「っ!!じゃあ!もう行くから!!!」

 

 しかしそれに返す事はなく、吉川はさっきより早いスピードでその場を去って行った。

 その光景を、秋川はポカンと見つめている。

 

 

「……何だよ、急に可愛くなっちゃって」

 

 

 不意を突かれた形になった秋川の頬は、少し赤くなっていた。

 




 と言うわけで、皆んなもデカリボン先輩を崇めましょうね。
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