響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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信用

 「今の感じで良いですが、この曲は、単純なbフラットメジャーが随所にある曲です。そこを綺麗に合わせる様、意識しましょう」

 

 「「「はい!」」」

 

 その後も合奏練習は続く。今度は通し練習では無く、滝先生が確認する様に要所要所のパートを繰り返し練習する様な形態となっていた。

 

 「あと、スネアが少し後ろに感じるよー。もっと前に!」

 

 「はい!!」

 

 橋本先生からも注意が入り、田邊が元気の良い返事を返す。

 

 「それと、ティンパニ!」

 

 「はい!」

 

 「今のところ、ワンテンポ早かったろ」

 

 「……はい!」

 

 「今そんな事やっててどうすんのー?罰金ものだよ?」

 

 「はい!」

 

 「では、もう一度頭から」

 

 滝先生に求められる音は、日に日にレベルが高くなって行く。次は関西大会。どこまで行ってもまだ足りないと思うのは、先生だけで無く部員もだ。

 

 「なぁ、滝君」

 

 すると、演奏の合間に、橋本先生が滝先生に声をかける。

 

 

 「オーボエのソロ、あれで良いの?」

 

 

 続けて橋本先生がそう言い放つと、滝先生は考え込む様に、新山先生は困った様に笑った。

 

 「いやー、音も綺麗だし、ピッチも安定してる。けどねー、一言で言うと……」

 

 そして橋本先生が頭を掻いて北宇治唯一のオーボエ奏者、鎧塚みぞれに視線を移すと、

 

 

 「ぶっちゃけつまらん。ロボットが吹いてるみたいなんだよ」

 

 

 「………ロボット?」

 

 橋本先生のその言葉に、鎧塚は首を傾げてそう返した。

 

 「楽譜通りに吹くだけだったら、機械でいい。鎧塚さん」

 

 「はい」

 

 「君はこのソロをどう吹きたいと思っている?何を感じながら演奏してる?」

 

 橋本先生の問いかけに少し鎧塚は俯くと、

 

 

 「………三日月」

 

 

 一言、それだけボソリと呟いた。

 

 「じゃあもっと三日月感出さないとー」

 

 「………善処します」

 

 「善処って言い方してる時点でダメなんじゃ無い?もっとこう、感情出せない?」

 

 「……すみません」

 

 橋本先生の問い掛けに対し、再び俯いてしまう鎧塚。そんな光景を吉川は不安そうに、忍は真っ直ぐ真剣に鎧塚を見つめていた。

 

 「謝る必要はないよ。クールな女の子って魅力的だと思うし」

 

 そんな鎧塚に対し橋本先生は慰める様にフォローを入れる。

 

 「でも、このソロはクールでは困る!!世界で一番上手いアタシの音を聴いて!!ぐらいじゃないと!」

 

 そして今度は感情のこもった口調でそう言い放った。

 

 「……誰かさんに似てるわね」

 

 「……俺って、あんな感じなの?」

 

 「良い機会だから自覚すれば?」

 

 そんな光景を見て、隣同士の吉川と忍が小声でそんなやり取りをしていた。

 そして橋本先生は言葉を続ける。

 

 「正直君たちの演奏はどんどん上手くなってる。強豪校にも引けを取らないくらいにね。でも表現力が足りない。それが彼らとの決定的な差だ。北宇治はどんな音楽を作りたいか、この合宿では、それに取り組んでほしい」

 

 「「「はい!!」」」

 

 橋本先生が最後に締める様にそう言うと、部員から返事が返ってくる。

 

 「橋本先生も、偶には良いこと言いますね」

 

 滝先生からも、感心した様な言葉が出て来た。

 

 「いや、偶にはは余計だろ?僕は歩く名言集だよ」

 

 いつも通りに軽口を飛ばす橋本先生に対し、部員からクスクスと笑い声が起こる。

 しかし、鎧塚は考え込む様な表情をして俯いたままだった。

 

 

 ______________

 

 

 

 「アッキー先輩、そろそろお風呂行きますよ」

 

 「えー?もうそんな時間ですかい」

 

 時刻は午後5時半。今日の練習も終わり、部屋でのんびりとしていると、塚本が忍に対してそう言う。

 

 「一応、一緒に入らなきゃいけない決まりですから。松本先生に見つかったらまた座らせられますよ?」

 

 「………ういー」

 

 松本先生の名前を出され、忍は渋々と起き上がってお風呂の準備をする。

 本来なら疲れを取るための入浴。しかしお風呂の時間であっても遊びたがると言うのは男子高校生の性みたいなもので……

 

 

 _______シャーーーー__________

 

 

 「………くくくくっ」

 

 イタズラの犠牲になっているのは、テナーサックスの1年の瀧川という少年。

 シャワーで頭を洗っているところ、その背後から気付かれないよう忍が追加のシャンプー攻撃を喰らわしている。

 使い古されたイタズラなのだが、どうもこの瀧川と言う男子生徒は鈍い性格の様で、何の疑問も持たずに永遠とシャンプーの泡を洗い流していた。

 そして他の男共も、その光景をニヤニヤしながら見つめている。

 

 

 ____________キュっ________

 

 

 しかし30秒以上も泡まみれのままだと流石に気づいたのか、瀧川は一旦シャワーの元栓を閉める。そして温度調整のノズルを最低温度まで回すと……

 

 「だー!!冷たい冷たっ!!!」

 

 後ろに立っているであろう忍に向かって、再びシャワーの元栓を開けた。

 

 「だはははは!!因果応報アッキー先輩!!バチが当たったんすよ!!」

 

 尚も泡まみれの頭のまま、瀧川は冷水シャワー攻撃を忍に浴びせる。子供の遊びの様な光景だが、彼らはもう高校生である。少しぐらいは落ち着いて欲しいものだ。

 

 

 __________

 

 

 「ふいー………やっぱ疲れた身体には湯船に浸かるのが一番ですなぁ……」

 

 「さっきまでちかおと元気に遊んでたじゃねーか」

 

 それから少しして、湯船に浸かりながらおっさんの様な言葉を口にする忍に対し、隣に居た滝野からそんな言葉が返ってくる。

 本来なら学年で入浴時間が分けられるのだが、男子は人数が少ないのでお風呂の時間が長く取れる。

 1〜3年まで合同で入っている男子組は、のんびりと施設のお風呂を楽しんでいた。

 

 「明日で最後かー、なんか早かったねぇー」

 

 「本当な。……まあ、思い出したくない事ばっかだけどな」

 

 日中の練習の苛烈さを思い出したのか、苦笑いになって滝野はそう返す。

 

 「そう?俺は楽しかったけど」

 

 「アッキーはトランペット吹ければ何処でも楽しいだろ?」

 

 「まあ、そうだけど。……でも、いろんな経験は出来たと思うよ?普段部活してると、こうやって他パートの人達とあんまり話す機会なんて無いし、環境が変わった事で演奏にも一層身が入ったからねぇ」

 

 忍がしみじみとそう言うと、滝野も納得した様に頷く。

 

 「……レベルアップしてるのは感じるよ。考える間もなくただひたすら演奏してたからな。もう楽譜でいちいち確認しなくても身体が覚えちまってる」

 

 冗談めいて滝野がそう言うと、忍も同意する様に軽く笑った。

 

 

 「……それでアッキー。少し聞きたい事があるんだが……」

 

 すると、滝野はなんだか面白がる様な表情になり、小声で忍に対してそう聞く。

 

 「?、何?」

 

 対して忍は首を傾げる。女子高生程では無いが、彼らも同じ思春期の男子高校生。

 色恋沙汰の一つや二つ、話をするものだ。

 

 

 

 「お前、吉川とどこまでいったんだ?」

 

 

 

 ニヤついた顔で滝野がそう聞くと、忍は少し顰めっ面になる。

 

 「冷やかしで聞くんなら、教えてやんない」

 

 「そー言うなよ。もう部員の中では周知の事実みたいなもんなんだから。もう付き合ってんだろ?」

 

 続けて滝野がそう言うと、忍は一つため息をついた。

 

 

 「付き合ってないよ。告白もしてないし、されてもない」

 

 

 忍のその言葉に、滝野は心底驚いた様な表情に変わる。

 

 「マジかよ。もうとっくに付き合ってると思ったんだけどな。なんか付き合わない理由でもあんのか?」

 

 滝野がそう聞くと、忍は少し考えるような素振りを見せる。

 

 「………いや、なんて言うか、このままで良いんじゃないかなって。無理に付き合って関係壊れるのも嫌だし。優子だってそんな感じだし」

 

 「………なんじゃそれ、変なの。好きなんだから付き合えば良いじゃん」

 

 忍が吉川の事を好いている事なんて、滝野はもうずっと前から知っている。

 しかし、忍の性格上、ヘタレて告白に踏み切れないと言う感じでもない様に思えた。

 

 

 「違うんだよタッキー。……なんて言うのかな?付き合うって、何か響きが嫌じゃない?」

 

 

  「はぁ?何で?」

 

 忍がそう聞くと、滝野は心底困った様な表情を浮かべて首を傾げる。

 

 「付き合うって、他の男女に目移りしない様に、互いに縛り付けようって事でしょ?……それって、相手を信用してない事と同じじゃない?」

 

 「………考えすぎだろ」

 

 好きなら付き合えば良いじゃないか。

 そんな固定概念を持っている滝野からしたら、この2人の奇妙な関係性は理解できないものなのかも知れない。

 

 他の男に目移りする筈が無いんだから、わざわざ"付き合う"と言う契約を交わさなくても良い。寧ろ、それをすると相手に失礼。

 そんな、吉川に対する絶対的な信頼。

 

 なので忍にとって付き合うと言う事は、"吉川優子を信用していない"事と同義なのだ。

 

 

 「……多分優子も、同じ感覚なんだと思う。言葉にはしづらいけどねー」

 

 「……俺には、その感覚は分かんねーな」

 

 考え方によっては、少し歪とも言える忍と吉川の関係。

 理解はできるが納得は出来ないと言うのが、滝野の答えだった。

 

 

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