響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
「関西大会での演奏の順番が決まった」
合宿も終わり、ここは音楽室。松本先生の声が響き渡る。それを聞いて、部員から「来た……!」やら、「どうか一番じゃありませんように……」などの騒めきが起きる。
「静かにしろ!……それで、北宇治高校は……」
松本先生の言葉に、皆真剣に耳を傾ける。
「16番目の演奏になる」
松本先生がそう宣言すると、再び教室が騒つく。23番中16番目。コンクールでは後の順番の方が印象に残りやすいと言われる為、悪くない順番だ。
「あの、他の高校は……」
すると、1人の部員からそんな質問がなされる。それを聞いて松本先生は『余計な事は考えるな』と言わんばかりにその部員をキッと並んだ。
しかし、滝先生は関係無いとばかりに口を開く。
「主な強豪校ですが、大阪東照は前半の3番目。秀大附属は12番目、そして明静工科は私たちの前、15番目になります」
「「「えぇ!?」」」
滝先生がそう述べると、部員から驚愕の声が上がる。全国レベルの次に演奏なんて、プレッシャーどころでは無い。
「何ー?強豪校の次だからってビビってんのー?」
すると、揶揄うように橋本先生からそんな言葉が掛けられる。それに同意する様に「そりゃあ、まあ……」と、部員の誰かが弱音をこぼした。
「関係ない関係ない。関西大会と言ったらどこ向いても強豪校ばかりなんだから!」
「橋本先生の言う通りです」
軽い口調で橋本先生がそう言うと、滝先生も同意して来る。
「気にする必要なんてありません。私たちはただいつもと同じ様に、演奏するだけです」
「「「「「はい!!」」」」」
締める様に滝先生がそう言うと、部員達から元気の良い返事が返ってくる。
関西大会まで、後10日を切っていた。
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「ただいまー」
「あ、兄ちゃんお帰りー」
今日も日が暮れるまで練習し、忍が家に帰ると、凛花がエプロン姿で出迎えた。
「今日の夜ご飯なにー?」
そんな凛花に対し、忍は靴を脱ぎながら献立を聞く。今日は凛花が夕飯の当番だ。
「生姜焼き。お米はいっぱいいる?」
「うん、よろしくー」
「あいよー」
そんなやり取りをして、自室にバッグを置き、一息つく様にベッドに座る忍。関西大会が近づくにつれて、日に日に練習時間が伸びて来ていた。それでも練習が足りないと思うのは、今日発表された関西大会の演奏順が関係していると言ったところだろうか。
_____ヴーー、ヴーー________
すると、ズボンの右ポケットから振動を感じる。誰かが電話を掛けて来た様だ。スマホの画面を確認すると、その発信主は忍も良く知っている人間だった。すぐさま通話ボタンを押す。
「もしもし?"まさっち"?」
『おー、繋がった。久しぶりやなあ忍。元気しよるかあ?」
スピーカーから聞こえて来たのは、元気そうな関西弁の男の声。
「久しぶりって、この前電話したばっかじゃん」
それに対して忍は慣れた様にそう返す。
『あら、そうやったっけ?まあええわ。ほいでな、関西大会の順番決まったんやけど』
「うん、俺も今日聞いた」
『ホンマか!なら話も早いわ。北宇治、ウチの次やってんな』
どうやらせっかちな性格の様で、電話越しの男は矢継ぎ早に会話を進める。
「うん、皆んなビビってたよ。『明静の次なんてー』ってね」
『あっははは!!なんやそれ、しょうもない事でビビりよんなー』
「なんせ初めての関西大会ですから」
快活に笑い飛ばす男に対し、忍も冗談を返す。
「で、明静はどうなの?今年も大丈夫そう?」
『当たり前や。従兄弟のよしみとして教えたる。今年の明静は最高。後に演奏する連中が可哀想で仕方ないわ』
挑発的な声が電話越しから聞こえる。それに対し、忍もニヤリと笑った。
「ほーん、大した自信ですなあ、……でもそれより良い演奏したら、明静の演奏なんて霞んじゃうかもねー」
『はっ!抜かせ!今年は自由曲で『俗謡』やるんや。
男は相当な自信家の様で、電話越しだがその自信満々な表情が思い浮かぶ様な口調でそう言い放つ。
「まー、頑張るとするよ。まさっちだってトランペット、明静の1stなんでしょ?恥ずかしい演奏しないでよ?」
『そりゃお互い様。北宇治の演奏ん時は忍がミスせんか見張っといたるわ』
「明静は北宇治の前で演奏するんだから、そんな事出来ないっつーの」
『あっははは!そりゃそうやな!!まあええわ。取り敢えず話はそれだけな。凛花ちゃんと修介叔父さんにもよろしく言うといてな?』
「うん、わかったー」
嵐の様な会話を終え、忍は通話の終了ボタンを押す。そしてベッドから立ち上がり、リビングの方へと向かって行った。
「先風呂入るー?」
「いや、先に食べるよ」
リビングに来るともうすぐ晩飯と言ったタイミングだったので、忍は凛花にそう返し、食器やら何やらを出して晩飯の準備を手伝う。
リビングには、生姜焼きの良い匂いが漂っていた。
「いただきまーす」
「いただきます」
秋川家の食卓は、基本凛花と忍で2人きりな事が多い。母はもう他界してるし、父親はいつも帰ってくるのが20時過ぎなので、時間が合わないのだ。
「あ、関西大会、順番決まったよ」
「お、やっと?で、北宇治何番目?」
付け添えのサラダにドレッシングを掛けながら忍が思い出した様にそう言うと、興味津々に凛花が聞いてくる。
「23番中、16番目」
「んー、結構良い順番だね」
一口、生姜焼きを口にしながら、明るい表情でそう返す凛花。
「で、俺らの前が明静」
「うっわ、プレッシャー」
続けて忍がそう言うと、今度は困った様に笑う凛花。
「オマケに今年の明静、十八番の『俗謡』やるからねぇ。さっきもまさっちに変な煽られ方したし」
「え?、さっきの電話って、まさっちだったの?」
「うん」
先程、忍が電話していたのは分かっていたがそれが従兄弟だと分かって、予想外の表情を見せる。
『それでは、全国常連、明静工科の部員さんにインタビューをしてみましょう!』
すると、良いタイミングと言うべきか、点けていたテレビから吹奏楽の特集番組でもしているのだろう、女性アナウンサーの声が聞こえて来た。
『まずは、木管楽器!やっぱり綺麗な音ですねー』
アナウンサーはそう言いながら、部員達にインタビューをして行く。
「……北宇治にはこんなの来なかったんだけどなぁ……」
それを見ながら、忍はわざとらしく口を窄めて文句を言う。
「明静だからインタビューも来るんじゃない?北宇治も全国常連になれば、テレビの取材とかも来るでしょ?」
「一体何年後にそうなるかねぇ……」
他人事の様にそう言う凛花に対し、憂う様に忍はそう返す。
『おー、なるほど……では、この明静工科で、エースみたいな人って居ますか?』
そして再びテレビの方へと顔を向けると、アナウンサーが明静の部員に対してそんな質問をしていた。
『あー、まさっちですかね?』
『やね。やっぱ篠田くんやろか?』
木管楽器を持っていた部員がそう言うと、カットが切り替わる。
『こんにちはー、君が篠田くんですか?』
画面が切り替わり、アナウンサーがそう聞くと、質問された男子生徒はニコリと笑ってカメラに向かって軽く手を振る。
短髪に少し日焼けした肌は、明るい印象の好青年と言った感じで、片手にはトランペットを握っている。
『彼、篠田正和くんはなんと、2年生でありながら明静のトランペットの1stを務めているんです!』
仰々しく紹介するアナウンサーに対し、照れ臭そうな表情を浮かべるまさっちこと、篠田正和。
「いいなぁ、まさっち。俺もあんな綺麗な人にインタビューされたい……」
「やめてよ、デレデレした顔でインタビュー受ける兄ちゃんなんて見たくないし」
そんなまさっちを見て羨ましがる忍に対し、凛花は冷静にそう返した。
このテレビに映っている篠田正和と言う男は、忍と凛花の従兄弟に当たる。忍の母親の兄の息子で、奇しくもこの兄妹と同じトランペット吹きだ。
そして、強豪校で2年生ながら1stを担当している通り、実力は相当なものであった。
「あ、そういやまさっちが凛花と親父によろしくって言ってたよ」
「そうなの?今度会ったらこっちもよろしくって言っといて」
「うん、まー、次会うのは関西大会の会場だろうねー」
その後は夜ご飯を食べながら、他愛も無い話をする。
しかしこの篠田正和と言う男が、今後忍の前に大きな壁となって立ちはだかる事となる。