響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
「ホルン、Lの低音符、もう少しください」
「「はい!!」」
「トロンボーン、バッキングの縦、注意して下さいください」
「「はい!!」」
夏の暑さにも負けずに、練習は続く。
滝先生からの指示にも、一層熱が入る。やることは変わらない。
詰めて詰めて、最高の音を見つけるまで、音楽室に篭る。
「では、今の点に注意して、もう一度最初から行きます。本番を意識してください。もう一度言います。本番です」
関西大会は、もう明日にまで迫っている。
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練習が終わる。今日は明日への準備もあり、早めに切り上げる。これが終われば明日演奏するのは全国大会を賭けたホールでの演奏になる。
「良いですか?皆さん」
問い掛ける様に、滝先生がそう言う。明日は本番だ。皆、滝先生の話す言葉に耳を傾ける。
「明日の本番を、あまり難しく考えないで下さい。我々が明日するのは、練習でやってきたことをそのまま出す。それだけです」
「「「はい!!」」」
滝先生がそう言うと、元気のいい返事が返ってくる。
「……それから、夏休みの間コーチをお願いしていた、橋本先生と新山先生は、本日が最後になります」
「「ええー!?」」
突然の滝先生からの発表に、部員達から、落胆とも取れる驚きの声が上がる。
「最後に一言、お願いします」
滝先生の言葉に2人とも頷くと、最初に新山先生が教壇に立つ。
「約3週間、短い間でしたが、確実に皆さんの演奏は良くなったと思います」
こう言う場は、やはりしんみりすると言うもので、まだ言い終わってないのに木管パートの何人かは泣きそうな顔をしていた。
「その真面目な姿勢は、私自身見習うべきものが沢山ありました。明日の関西大会、胸を張って楽しんで来て下さい!」
新山先生がそう言い終えると、木管パートの方から啜り泣く声が聞こえた。
次は、橋本先生だ。
「えっと、僕はこんな性格なので、正直に言います。今の北宇治の演奏は、関西のどの高校にも劣っていません!自信を持って良い!!」
元来の明るさか、それともしんみりとした空気が苦手なのか、橋本先生は明るく語る。
「この3週間で表現が実に豊かになりました!特に、鎧塚さん!」
「はい?」
橋本先生に名指しで呼ばれ、困惑気味の返事を返す鎧塚。
「見違える程良くなった!……何か良いことあったのー?」
「………はい!」
「おー!いいねぇ!今の彼女の様に、明日は素直に自分達の演奏をやり切ってください!期待してるよー!!」
そう言って橋本先生が教壇から降りると、拍手が起こる。
パーカスでお世話になったであろう田邊が引くほど号泣していた。
「起立!ありがとうございました!!」
「ありがとうございました!!」
そして締めに小笠原から号令が掛かると、関西大会前最後の練習が終わった。
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「ただいまー」
誰も居ないと分かっていてもこうして口に出してしまうのは、癖になっているからだろうか。そう言って誰もいない家の中を、忍はパタパタと歩く。
明日は遂に関西大会。いつもなら凛花が話し相手になってくれるのだが、今日は忍が早く帰ったこともあり、家に1人きりだ。
バッグを自室に置き、忍はリビングに入る。そしてその一角、洋風の部屋にあまり似つかわしく無い仏壇の前に、忍は座った。
「………全国、行けるかもだって」
誰に話してる訳でも無い。独り言の様に、忍は仏壇の前に座って呟く。
「皆んな必死で練習してたよ。……去年とは人が変わったみたいに」
そう言いながら忍は慣れた手つきで蝋燭に火をつけ、線香を立てる。そこから合掌、手を合わせて数秒目を瞑る。
「………明日、結果が出たらまた報告するよ」
そして一言。それだけ言うと、忍は仏壇から立ち上がる。
「ただいまー」
すると、同時に玄関から声が聞こえる。凛花が帰って来た様だ。
「おかえりー」
忍がそのままリビングに入ってきた凛花に声を掛けると、少し驚いた様な表情になった。
「あれ?兄ちゃん今日早いね?」
「明日本番だしね。準備とかもあって早めに終わったよ」
「あ、そっか」
そう言いながら、凛花は颯爽とソファーに寝転びテレビのリモコンを握る。すると、何やら匂いを嗅ぐ様な仕草をした。
「あれ?兄ちゃん線香なんか立ててたの?」
線香の香りが鼻に付き、仏壇の方を見ながら凛花がそう言う。
「うん。明日本番だし、母さんに報告しようと思って」
「………そっか。じゃあ、あんまり下手な演奏出来ないね?」
なんとも無い様にそう言う忍に対し、少し寂しげな表情で、凛花がそう返す。
「そーだねぇ。……で、凛花は明日来るの?」
しんみりとした空気になるのを嫌ったのか、話題を変える様に忍がそう聞く。
「え?、うん。府大会と同じで、さやかちゃんと。午後からだよね?」
「うん、16番目だから、3時くらいかな?」
「あー、明静のまさっちの演奏も聴きたいから、ちょっと早めに行くかも」
「了解」
そんな会話をしながら、忍は自室へ戻ろうとリビングのドアへと向かう。
「……兄ちゃん」
すると、後ろから再び凛花から声を掛けられた。忍が振り向くと、ソファーに寝転がっている凛花も、忍の方へと顔を向ける。
「……全国、行ってよね」
そして忍の目を真っ直ぐ見据えて、凛花はそう言い放った。
「……もちろん」
そんな凛花に対し、片手を上げてガッツポーズを作る様にして、忍も激励に返事を返す。それを見て、凛花は満足そうに微笑んだ。
「よろしい。友達に兄が全国行ったって、自慢もしたいしねー」
「素直に応援してくれやい」
冗談ぽくそう言う凛花に対し、少し困った様な笑顔で忍はツッコミを入れた。