響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
周りを見渡せば、テレビやイベントで見たことのある強豪校の制服がゴロゴロいる。
関西大会の会場。その中に、北宇治の制服も堂々と映えていた。
「先輩!午前の結果、見てきました!」
一年のチームもなかの一人が、そう言って駆け寄ってくる。
「どうだった!?」
「東照を含めた3校が金でした。それから、立華は銀だったみたいです」
強豪校の一角である立華が銀だったという報告にちらほらと不安の声が上がる。
橋本先生がいつか言ったように、関西大会なんて周りを見ればどこも強豪校。それ即ち、どの高校も落ちる可能性があると言うことだ。
「ほらほら、私たちに、他の学校を気にしてる余裕なんて無いよ?今は、演奏の事に集中して」
すると、部長の小笠原からそんな声が掛けられる。彼女の言う通り、
今は自分の事に集中しなければならない。
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「どう?」
「ええ感じ。ウチのは?」
待機室。少しピリついた空気の中、最後の音出しをしているのは、明静工科だ。流石全国常連とだけあって、緊張していると言うよりかは、淡々と演奏に向けて準備をしている雰囲気だ。
「明静工科の皆さん、準備してください」
すると、係員がそう声をかける。
それを聞いて、明静の生徒達は一斉に演奏を止めた。そして、一人の少女が立ち上がって前に出る。
「はい。もうすぐ本番やけど、皆んな緊張しよるか?」
明静の部長さんだろうか?髪をポニーテールに纏めた少女が皆に聞こえるようにそう言う。
しかし緊張するどころか、明静のメンバーは誰もが挑戦的な笑みを浮かべる者ばかりだった。それを見て、少女は満足そうな笑みを浮かべる。
「うん、ええな。やけど、油断はせぇへんように!『ウチらは強豪校やから』って舐めてかかると、足元掬われるで!気合入れぇよ!」
「「「はい!!」」」
これが、王者たる風格と言うものであろうか。気合の入った返事をすると、明静の部員達は堂々と、待機室から舞台袖に移動する。
途中、待機室前で、明静の次の高校が待っているのが確認出来た。
「明静だ……」
「オーラやばっ……」
明静の次。北宇治高校の面々から、感嘆にも、緊張にも似たような声が出る。その横を堂々と、明静の生徒達は通り過ぎて行く。
途中、忍の目に、見知った顔の人物が映った。その人物も忍に気付き、近付いてくる。
「おー、忍。緊張しよるかー?」
気さくに忍に話し掛けたのは篠田正和。忍の従兄弟だ。
「ちょっとね。まさっちは?」
「しよる訳無いやろ?まだ関西大会や。こんなところで緊張しよったら話にならん」
篠田は言葉通り自信満々と言った感じで、忍にそう返す。
「ははっ、相変わらず自信家だねぇ。慢心したら足元掬われるよ?」
「はっ!慢心やない。自信や」
お互いに軽口を飛ばす2人。
「そういや、凛花がまさっちによろしくって言ってたよ」
「ホンマか?今日も来とんか?」
「うん、明静の演奏も聴きたいって言ってたから、もう席についてると思う」
「ははーっ!凛花ちゃんもええもん見れて幸運やなあ!」
カラカラと笑いながら会話を続ける篠田。本番直前だと言うのに、表情には緊張が全く感じられなかった。
「何しよんね!!まさっち!!」
すると、明らかに怒りを含んだ声が両者の耳に響く。声の方向に目を向けると、先ほどの部長さんがジトっと篠田を睨めつけていた。
「おー、怖……ほな、鬼ババにしばかれる前に行くわ」
イタズラっぽく笑って篠田がそう言うと、そそくさと明静の集団に消えて行く。対して忍は「頑張ってねー」と、どこか気の抜けたエールを送った。
「……知り合い?」
すると、真横でその会話を聞いていた吉川からそんなことを聞かれる。
「知り合いって言うか、従兄弟。俺らと同じ2年生でトランペットの1stやってるよん」
「ふぅん、2年で明静の1stねぇ……」
何か考え込むように、少し俯いて吉川はポツリと呟く。少し表情が強張ってる様にも見えた。
「……緊張してる?」
「うん。結構してる」
忍がそう聞くと、包み隠さず吉川はそう答える。分かりきっていた事だが、そう言う意味では明静も実力主義の高校だ。
そしてその事実は、全国に行く為に全力で他校を潰しにかかって居ると言う事に他ならない。
「……優子は全国、行きたい?」
続けて忍がそう聞くと吉川はギュッと、トランペットを持つ手に力を入れる。
「……当たり前じゃない。放課後も夏休みも殆どの時間を費やしたんだから、それくらいの対価じゃないと」
練習、練習、また練習。ここ数ヶ月の記憶は、それで埋め尽くされて居る。ならば、今度はそれを自信に変換すれば良いだけだ。
「………そうだね。俺も行きたい」
忍も同じくトランペットを強く握り締め、そう返す。
大丈夫。練習でしたことをそのまま出せば良いだけだ。
「では北宇治高校の皆さん、今の高校の演奏が終わるまで中で音出しをして大丈夫です」
大会の係員がそう言うと、北宇治のメンバーは待機室へと入って行った。
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独特な緊張感が支配する中、待機室では音出しをして居る。何度もチューニングを確認し、直前まで指の運びや音の具合を確かめている。
「はい、止めて」
滝先生が皆にそう声を掛けると、音が止んだ。
「一回だけ、深呼吸をしましょうか」
どうやらこの重苦しい緊張感に滝先生も気付いているらしく、リラックスにとそんな提案をする。
「大きく息を吸ってー……」
掛け声と共に、メンバーは大きく、ゆっくりと息を吸う。
「吐いてー、吐いてー……吐いてー……気持ちを楽にしてー……笑顔で!」
促す様に滝先生はそう言うが、皆から返ってきたのは少しぎこちなさが残った可笑しな笑顔だった。
「私からは以上です」
満足そうに滝先生がそう言うと、「ですよねー」やら、「まぁ、らしいけど」などの小声が出る。
「部長、何かありますか?」
「え?」
いきなり滝先生から振られ、小笠原が素っ頓狂な声を上げる。
「先生!」
しかし、声を上げたのは副部長の田中の方だった。
「はい、田中さん」
「部長の前に、少しだけ」
そう言って田中は皆の注目を集める様に立ち上がった。
「去年の今頃、私達が今日この場に居ることを想像出来た人は、1人もいないと思う。2年と3年は色々あったから特にね」
田中の言葉に、皆真剣に耳を傾ける。
「それが、半年足らずでここまで来ることが出来た。これは紛れもなく滝先生の指導のお陰です。その先生に感謝の気持ちも込めて、今日の演奏は精一杯全員で楽しもう!」
「「「はい!」」」
田中が鼓舞する様にそう言うと、勢いのあるいい返事が返ってくる。
「……それから、今の私の気持ちを正直に言うと、私はここで負けたくない」
それは本音か、田中の雰囲気が少し変わった。
「関西に来られて良かった。で終わりにしたくない。ここまで来た以上、何としてでも次へ進んで、北宇治の音を全国に響かせたい!」
いつも飄々としている田中が、訴え掛ける様にそう言い放つ。本心を曝け出さない彼女のその言葉は、今だけは信じられる説得力があった。
「だから皆んな、これまでの練習の成果を今日、全部出し切って!」
「「「はい!!」」」
そんな言葉に充てられてか、もう一度皆からも気持ちの入った返事が返ってくる。
「じゃあ部長?例のヤツを」
そしていつも通りの口調に戻り、田中は小笠原に対してそう言う。
「え、あ、はい!では、皆さんご唱和ください!」
そう言って小笠原が一拍置くと、
「北宇治ファイトー……!!」
「「「「おーー!!!」」」