響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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連続投稿です。


関西大会

 舞台袖、刻一刻と、北宇治の出番が近づく。

 

 「明静、俗謡だ……」

 

 「やばっ……」

 

 舞台袖からも、前の明静の演奏は聴こえてくる。曲の題名は、『大阪俗謡による幻想曲』。明静の十八番ともあり、やはり上手い。分かりきっていた事だが、圧を感じる様な堂々とした演奏だ。

 

 「やっぱり上手いなぁ……」

 

 「ああ、誰だよ。顧問変わって下手になってるとか言ってた奴!」

 

 篠田が言っていた『今年の明静は最高』と言う言葉は、どうやら嘘ではなかったらしい?じわじわと、その圧に飲まれる様に、弱音がちらほら出始める。

 全国を賭けた関西大会。

 そのプレッシャーに、北宇治はまだ慣れてないのだ。

 

 「……忍?」

 

 そんな中忍は、何処かボーッとしていた。変に感じた吉川が声を掛ける。

 

 「……ん、何?」

 

 吉川に声を掛けられて我に返ったのか、少し遅れて忍は返事を返す。

 

 「……アンタも緊張してる?」

 

 いつも通りには見えない忍の様子に、吉川は心配してそう尋ねる。

 

 「……緊張してるけど、変な感じ。……なんか、よくここまで来たなー。みたいな」

 

 「……何ここで終わりみたいな事言ってんのよ、私達は全国行くんでしょ?……アンタがそんなんじゃ、こっちまで調子が狂うじゃない」

 

 弱気になっているわけではなさそうだ。しかし柄にも無い事を言う忍に対し、吉川は檄を飛ばす様にそう返す。

 

 「………そうだね。うん、今日もいつも通り。観客にウチの演奏見せつけんべや」

 

 いつも通りのセリフ。しかし忍のその言葉は、自分自身に言い聞かせている様にも聞こえた。

 

 

 _______________

 

 

 

 『プログラムNo.16番、京都府代表、北宇治高等学校吹奏楽部』

 

 場内にアナウンスが鳴り響くと、拍手と同時に滝先生が一礼する。

 

 「……来た!」

 

 「あぁ、こっちまで緊張する……」

 

 観客席では、北宇治のメンバー以上に緊張の面持ちでステージを見つめる凛花とさやかの姿があった。

 

 「北宇治、全国いけるよね?」

 

 「大丈夫……兄ちゃんなら……」

 

 さやかの問いかけに対し、凛花は祈る様にそう返す。

 そして一瞬の間の後、滝先生は両手で構える。それに対し、北宇治のメンバーも楽器を構える。

 

 そして、滝先生の手が振り上げられると同時に、北宇治の全国へと向けた戦いが始まった。

 

 

 _____________

 

 

 「楽器は重いもんから運んでー!」

 

 「終わった人からホールの席に着いてなー!」

 

 一仕事終えた明静では、緊張から解放されたからか、リラックスしたムードが流れている。篠田も自分の仕事を終え。トランペットをケースに閉まっているところだった。

 

 「ええ演奏やったな。まさっち」

 

 すると、背後から声を掛けられる。篠田がそれにゆっくりと振り向くと、先程篠田に注意していたポニーテールに髪を纏めた少女が居た。

 

 「やろ?叶恵(かなえ)もクラリネット、ええ感じやったなあ」

 

 「おー、ウチのエース様に褒められるたあ、光栄やなー」

 

 篠田に話しかけているのは、明静工科吹奏楽部の部長である、八嶋叶恵(やしまかなえ)と言う少女だ。

 

 「まあ、あれだけの演奏やったら、全国は確実やろ。次の北宇治が崩れんとええけどな」

 

 ケラケラと笑いながら、篠田はそう言う。

 

 「そういや舞台袖行く前に北宇治の子となんやら話よったな。知り合い?」

 

 すると、思い出したかの様に八嶋がそんなことを聞く。

 

 「従兄弟や。北宇治でトランペットやっとるから、ちいと声掛けた」

 

 篠田がそう返すと、八嶋は納得した様な表情になる。

 

 「なるほど……ほいならもう席行っててええで。後はウチらがやっとくわ」

 

 「お?ええの?」

 

 「身内やろ?早よ行ってやりや」

 

 「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますわ」

 

 そう言うと、篠田はトランペットケースを八嶋に預け、足早に観客席へと向かって行った。

 

 

 ______________

 

 

 

 「お、もう課題曲終わる頃かいな」

 

 席に着きながら、誰にも聞こえない様小声でそう言う篠田。タイミングよく、自由曲が終わってこれから課題曲と言うところだった。

 

 

 「さあ、どんなもんや、北宇治」

 

 

 そして、篠田のその呟きと同時に、自由曲である『三日月の舞』の演奏が始まった。

 

 

 出だしは、好調。トランペットの主旋律は粒が揃っており、大きな乱れもない。

 序盤から中盤にかけて、連符の激しいパートが続くが、皆音が合っている。どこもかしこも散々練習した部分だ。

 そして、一旦曲が区切られると、エースの演奏が始まる。

 トランペットソロだ。

 府大会の時よりも、更に良くなっている。演奏の正確さが更に増したソロパートだった。

 トランペットソロの、ゆったりとしたリズム。次はそこに合わせる様に、クラリネットの旋律が入る。

 

 その後に来るのは、オーボエソロ。短くはあるが、色が付いた、優しい演奏。鎧塚の奏でる緩やかなメロディだ。

 

 舞台袖では、傘木が熱いものが込み上げるのを我慢するかの様にその音を聴いていた。

 

 中間部が終わり、曲は後半部分に入る。テンポは速さを増し、皆、一層演奏に気合が入る。ミスは許されない。

 一音一音、確実に。集中している。ここまで完璧だ。クライマックスに向けて、音はどんどん凄みを増して行く。ここまで来ればあと少し。

 

 

 

 

 _________だからだろうか、誰しもがミスをするなんて、考えもしなかった。

 

 

 

 

 一音、完全に音を外した、金管の音が聞こえる。

 

 

 トランペットは花形の楽器だ。その派手な音は、一度音を外すと途端に悪目立ちをする。

 もうクライマックス。そんな中聞こえて来たその飛んだ音は、紛れもなくトランペットから聴こえてきてしまった。

 その音に中世古も、滝野も、笠野も。そして吉川も、本番中ではあるが動揺を隠し切れていない。

 

 

 そう、その音を飛ばしてしまった張本人は、秋川忍だった。

 

 

 

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