響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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本気

 

 「秋川、あきかわしのぶです。あ、因みに秋川の川は"がわ"じゃ無くて"かわ"ね。アッキーって呼ぶ人も居るから、それで呼んでも良いよー」

 

 そんな気の抜けた自己紹介を終え、秋川は持って来ていた細長のケースを開ける。

 中から取り出したのは、自前のトランペットだ。

 

 「担当はトランペット。と言うわけで自己紹介にここで一曲……」

 

 「コラコラ、隙あらば目立とうとしないの」

 

 すると、秋川がマウスピースに口を付けて演奏しようとしたところに、とある女子生徒からツッコミが入った。

 

 「えー?良いじゃんー、あすか先輩ー」

 

 ブーブーと、わざとらしく膨れ面になる秋川。この黒髪を腰まで伸ばし、メガネを掛けた女性の名は田中あすか。低音のユーフォニアム担当で、この吹奏楽部の副部長だ。

 

 「ダーメ。特に君は問題児だからねえー。……それに、何で戻る事をアタシや晴香に言わなかったのかなー?」

 

 そして、田中はゆらりと立ち上がって薄らと笑みを浮かべて秋川に近づく。しかし目は笑っておらず、こんなにも怖い笑顔は見た事がない。

 

「いやー、何せ急に戻りたくなったものでして、それなら先に来ちゃって事後報告で良いかと……」

 

 「良いわけないでしょーがー!」

 

 「あででで!!」

 

 反省の色を見せない秋川に対し、田中はヘッドロックを喰らわす。しかし、それはじゃれ合いみたいなもので、何処かほのぼのとした雰囲気だった。

 そして秋川が苦しそうに田中の腕を2、3度タップすると、ようやく腕を離した。

 

 「ふぅー……とりあえず、今ってトランペットパートって空いてるんですか?」

 

 部活に復帰したは良いがトランペットを吹けないとなると秋川も困る。田中に向かってそう聞くと、彼女は少し考える素振りをした。

 

 「うーん、編成上は問題無い筈だけど、晴香はどう?」

 

 そして、田中は顔をバリトンサックスを持っている少女に向かってそう尋ねる。

 

 「……だ、大丈夫だと思う。一応、全パート埋まってるし」

 

 少々困惑気味にそう返したのは、小笠原晴香と言う少女。ふたつ結びのおさげの髪型に、少し気弱そうな雰囲気を纏った、吹奏楽部の部長だ。

 

 「香織は?」

 

 「こっちは大丈夫だよ?秋川君の実力は折り紙付きだし」

 

 そして、トランペットのパートリーダーである中世古にも、了承を得る。

 

 「よし!じゃあOK!、これからこの部活の為に干からびるまで奉仕しなさいな!」

 

 問題無しと確認すると、田中はそう言ってバシっと秋川の背中を叩く。その勢いのまま、秋川はスタスタとトランペットパートの前に歩いて行った。

 すると、こちらを見てニヤニヤしているある少女が秋川の目に入った。

 

 「………何だよ?」

 

 「別っつにー?、なに?アタシ達の演奏、そんなに面白かったの?」

 

 ニヤついた顔で、少し小馬鹿にした様にそう言ったのは、吉川だった。

 

 「もちろん。まあ、技術で言ったら全然だけどねー」

 

 「相変わらず一言多いのよ、バカ」

 

 そして、小突く様に吉川は触ったまま秋川の太腿を軽くパンチする。それは、"おかえり"と、暗に言っている様にも秋川には感じた。

 

 

 「はい、では秋川君の自己紹介も終わった事ですし、小笠原さん、これを皆さんに配っていただけますか?」

 

 秋川が席に着いたのを確認すると、そう言って滝先生はプリントの束を部長の小笠原に渡す。そして、そのプリントが全員に渡った事を確認すると、

 

 「それでは皆さん、お待たせしました。サンフェスに向けての練習メニューです」

 

 そう宣言し、皆、配られたプリントを注視する。そこにはサンフェスまでの予定がビッシリと詰め込まれていた。

 平日はおろか、土曜日曜も練習メニューで埋め尽くされている。

 

 「さて、残された日数はそう多くはありません」

 

 そしてポンと、1回手を叩き、滝先生は部員の注目を集めさせる。

 

 「しかし皆さんが若さにかまけて、ドブに捨ててる時間をかき集めればこのくらいの練習量は余裕でしょう」

 

 何食わぬ顔で、えげつない事を言う滝先生。「やっぱムカつく」と、小声で呟く声が聞こえた。

 

 「サンフェスは楽しいお祭りですが、コンクール以外で、有力校が一堂に集まる大変貴重な場でもあります」

 

 続けて、滝先生はサンフェスの説明をする。つまりそれは、有力校を見に来た観客が大勢いると言う事だ。

 

 「この場を利用して、今年の北宇治はひと味違うと思わせるのです」

 

 最後に滝先生がそう宣言すると、秋川の心臓が高鳴る。彼が言ってるのは、伏兵である自分達があっと驚く様な演奏を見せて、"北宇治はダメだ"という認識を改めさせてやろうと言うものだった。

 こんなに面白い事はない。

 

 「でも、今からじゃ……」

 

 そんな弱気な発言をしたのは、部長の小笠原だった。確かにサンフェスまで時間は無い。そう思ってもおかしく無い。 

 

 「出来ないと思いますか?」

 

 滝先生の問い掛けに、小笠原は俯く。

 

 「そうですね。秋川君はどうですか?」

 

 すると、復帰したばかりの秋川に向かって、滝先生は聞いて来た。

 

 「うーん、出来るかどうかより……」

 

 秋川は滝先生の言う通りになった時のことを想像する。周りから、『今年の北宇治は違うじゃん』、『何だよ、良い演奏するじゃん』などの、称賛の声が浴びせられる。そんな演奏を、もし自分達が出来たとしたら……

 

 

 「そうなったら、最高に面白いなって思います」

 

 

 屈託のない笑顔で、秋川はそう言い放つ。やはり彼の中にあるのはこの感情。面白いか、面白くないか。

 秋川のその一言は、弱気な音楽室の空気を一変させた。誰しもがその光景を想像したのだろう。

 武者震いをしてる者までいる。

 そして、滝先生もその言葉に対し、挑戦的な笑みを浮かべた。

 

 「彼の言う通りです。我々は挑戦者。出来るか出来ないかと言うよりやるかやらないかです。それに、私は出来ると思っています」

 

 すると真っ直ぐ、どこか遠くを見つめる様にして、滝先生はそう言う。彼の見つめる先は何なのか?そしてその答えは、直ぐに彼の口から出る事となる。

 

 

 「何故なら私達は、全国を目指しているのですから」

 

 

 この中で一番本気なのは、紛れもなく滝先生なのだ。

 

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