響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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大変お待たせしました。
言い訳をするならば仕事が忙しかったと言う事ですが、実のところ話の展開が全く思い付かなかったと言うところがリアルです。
やはり行き当たりばったりで話を展開させるべきではありませんね。


帰宅

 

 病室に居る。

 もう何度も通った病室。

 

 家族が揃っている。

 

 誰もが悲しそうな表情を浮かべている。

 その人達が目を向けているのは、ベッドの上の女性。その内の一人。秋川忍も、その女性をボーッと見つめていた。

 女性は最期の力を振り絞るように一人一人に話し掛けている。凛花なんて、涙で顔がぐしゃぐしゃになっている。

 そんな中でも、忍は泣かなかった。いや、泣けなかったと言った方が正しいだろうか。

 あまりにも現実味が無さすぎて、茫然としているしか無かった。

 

 「……忍」

 

 弱々しい声。油断すれば聞き逃してしまいそうなほどの消え入りそうな声で、女性は忍の名前を呼ぶ。

 未だにボーッとしたまま、言われるがままに忍は女性の方へと近づく。

 

 恐らく、最後の言葉なんだろうな。

 

 頭が回らない中でも、それぐらいは忍にも分かった。

 だから、今は悲しみとか苦しみとかを捨てて、自分の母親の言葉に集中しよう。

 

 秋川忍は、母親からの最期の言葉に耳を傾けた。

 

 

 

 ____________________________

 

 

 

 雨が降っている。風もまだまだ強い。

 外はもう暗くなり始め、外を出歩く人なんて一人も見当たらない。

 こんな中、自分は傘も刺さずに歩いて来たんだなと、何処か他人事のように車の中から窓越しにそんな感想を忍は抱いていた。

 

 「ここは真っ直ぐで良いのかい?」

 

 「あ、これの次の信号で左に曲がって下さい」

 

 「はいよ」

 

 制服もある程度乾き、今は再び透さんの運転する車で、忍は家まで送って行ってもらっている。

 バスも電車も台風でストップしていたので、透さんが気を利かせてくれたのだ。

 

 自分がスランプに陥っている事を透さんに話した。

 

 しかし、帰って来た言葉は、『自分でなんとかするしかない』と言う言葉だった。当然と言えば当然なのだが、やはり向かい合って一歩ずつクリアしていくしか無いと。

 しかしそれよりも、もう一つ透さんに言われた言葉が忍には刺さった。

 

 

 『君が今抱えている悩みを、親でも兄弟でも恋人でも良い。一番信頼出来る人に全部さらけ出しなさい』

 

 

 秋川忍は、明るい人柄と良く言われる。元々そう言う性格と言うのもあるが、あまり弱みを他人に見せない一面がある。

 だからこそ、透さんのその言葉が忍の胸にストンと落ちた。

 

 _______一度だけ、弱みを見せた人間がいる。

 

 何故あの時彼女に弱音を吐いたのか。一番気を許しているから?それとも自分が彼女に対して好意を持っているから?今の忍にはその理由が分からない。

 ただ感覚的に、吉川優子になら弱音を吐いて大丈夫だろうと言う、根拠のない安心感のようなものを持っていたのかもしれない。

 そう思うと、忍自身もなんだか気が楽になるような気がした。

 

 「あ、ここです」

 

 そんな事を考えていると、自宅が見えて来た。透さんは玄関の前にゆっくりと車を止める。

 

 「すみません。送ってもらって」

 

 「構わないよ。何かあったら昇にでも相談しなさい」

 

 車の中で軽く一礼する忍に対し、激励する様に言葉を返す透さん。

 

 「……本当にありがとうございます。では」

 

 そう言って、忍は車のドアを開ける。そして雨に濡れないように玄関先まで来ると、車の方から「秋川君!」と、助手席のウィンドウを開けた透さんから名前を呼ばれる。

 

 「今度、君の演奏を聴かせてくれるかい?」

 

 そして、優しい笑顔で透さんはそう言って来た。

 

 「……はい!!」

 

 それに対して元気よく忍は返事を返した。

 

 

 _______________

 

 

 

 「………遅いなぁ、兄ちゃん」

 

 暗くなってきた外を見ながら、凛花はそう呟く。

 心当たりのある家には片っ端から電話したし、忍の携帯にも繋がらない。

 

 「……帰ってきたら、ちゃんと叱んないと……」

 

 風でガタガタと揺れる窓を見ながら、少し怒るような表情を見せる凛花。

 台風の中連絡が取れないと言う不安もあるが、それ以上に吉川に心配を掛けた事に対して、凛花は少し怒っていた。

 

 忍がスランプな事は凛花も知っている。

 

 しかし、それとこれとは話が別だ。

 だから忍が帰ってきたら、まずは……

 

 ________ガチャリ_______

 

 そんな事を考えていると、玄関の扉が開く音が凛花の耳に入る。すぐさまリビングの椅子から立ち上がり、玄関へ向かって行った。

 やっと忍が帰ってきたのだ。

 

 

 「……おかえり。……どこ行ってたの?」

 

 心配そうな表情で、凛花は忍を迎える。

 

 「……どこにも行けなかったよ」

 

 

 そう返す忍は、やや自虐的に見えた。

 

 「……部活、行かなかったの?」

 

 「うん、行かなかった」

 

 探るように凛花が問い掛けると、包み隠さず忍はそう返す。

 やはりそうだ。この兄はなんの連絡もせずに部活をサボったのだ。

 

 「………優子さんには連絡したの?」

 

 少し低い声で凛花が責めるような口調でそう聞く。

 

 「…………」

 

 しかし、忍は顔を逸らし、無言を返した。

 それを見て、凛花は忍の方へと近付いて行く。

 

 「……兄ちゃん、こっち見て」

 

 「何を……」

 

 _______パンッ!________

 

 凛花に顔を向けると同時に、忍の頬に衝撃が走る。

 

 凛花が忍の頬を叩いたのだ。

 

 しかし痛くはない。全力で叩かなかったのだろう。だが、忍の心の中では拳で殴られるよりキツいものがあった。

 

 「……痛いなぁ……」

 

 「心配させたんだから、当然」

 

 「…………」

 

 叩かれた頬を右手で触りながら、忍はまたしても無言になる。そしてその沈黙を破るように、凛花は口を開いた。

 

 「……兄ちゃんが最近上手く行ってないのは私も知ってるよ?……でも、周りに迷惑はかけちゃダメ」

 

 「………別に、今日一日サボっただけじゃん」

 

 諭すような凛花の説教に、不貞腐れたように忍はそう返す。

 

 「今日サボっただけで何人がお兄ちゃんの心配をしたと思う?優子さん、中世古さん、さやかのお兄ちゃん。………顧問の滝先生だって、心配だってさっき家に電話が掛かって来たんだよ?」

 

 「…………」

 

 畳み掛けるような凛花の言葉に、再び忍は黙ってしまう。

 

 「……こんなにも兄ちゃんを気に掛けてくれる人が居るんだから、それを裏切るような事しちゃダメ。サボるんなら『今日サボります』って連絡してからサボってよね」

 

 「……サボる事自体はいいんかい」

 

 なんだか的外れな事を言ってる気がするが、それでも凛花の言葉は忍の心に大きく響いた。

 

 「じゃあ、説教終わり!濡れたでしょ?お風呂沸かしてるから入ってきな?」

 

 そして、ひとしきり言いたい事を言い終えると、凛花は普段通りの口調に戻る。

 

 「うん、ありがと」

 

 「それと、今日はハンバーグだから」

 

 そして、なぜか自信満々に凛花は胸を張って続けてそう言う。気を遣ってわざわざ忍の好物を晩飯にしてくれたのだろうか?だとしたらこれはもう妹と言うよりかは……

 

 「……なんか今日の凛花、お母さんみたいだな」

 

 妙な懐かしさを覚えながら、忍は苦笑いでポツリとそう言い放つ。

 

 

 「馬鹿な事言わないの。ってあれ?兄ちゃん、トランペットケースは?」

 

 すると、凛花は忍が手持ち無沙汰なのに違和感を持ち、そんな事を聞く。

 

 「………あ」

 

 

 凛花に言われて思い出したのか、今更忍はトランペットケースを持ってない事に気づいた。

 

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