響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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忍が優子言ってるのに地の文だと吉川はややこしいので、これから地の文では吉川優子は下の名前で書くことにします。


覚醒の自由人
覚醒


 

 数日後。秋晴れの季節。少しは過ごし易い季節になって来ただろうか?

 そんな放課後の北宇治高校には様々な音が聞こえる。野球部の声出し。バスケ部がドリブルをする音。帰宅する生徒達が談笑する音。

 

 そして、楽器の音。

 

 

 「はい、そこまで」

 

 合奏練習。滝先生が演奏を止める。

 

 「トロンボーン、134小節からの繋ぎ、もう少し滑らかに出来ますか?」

 

 「「「はい!!!」」」

 

 「ホルン、もっと音を下さい。木管に負ける様では話しになりませんよ?」

 

 「「「「はい!!!」」」」

 

 滝先生の指導は、相変わらずだ。淡々と事実を。出来なければズバッと。忖度は無い。もう何ヶ月も同じ曲を吹いているが、まだまだ研ぎ澄ませる部分は多い。

 そして、次に滝先生の視線は、トランペットパートに向いた。

 

 

 「秋川君」

 

 「はい」

 

 名指しで、滝先生は忍を見つめる。

 

 

 

 「おかえりなさい。やっと戻って来ましたね」

 

 

 

 柔らかく微笑んで、安堵する様に滝先生はそう言う。

 一瞬、何を言われたのか分からず、忍は呆けたような表情になる。

 

 「……聞こえませんでしたか?今の音を常に心掛ける様に」

 

 「え?、あ……は、はい!!!」

 

 滝先生に再度聞かれ、ようやく言われた事を理解したのか、慌てて返事を返す忍。

 やっと、やっとここまで戻ってきた。

 自分のことでは無いのに、中川や吉沢などの数名はもう泣きそうな顔になっていた。

 

 「それでは合奏練習はここまでです。全国に行ったからと言って、情け無い演奏は出来ません。皆さん、気を引き締める様に」

 

 「「「「はい!!!!」」」」

 

 言葉通り締めるように滝先生が声を掛けると、すぐさま音楽室の整理が始まる。

 と、思いきや、

 

 「やったじゃん!アッキー!!」

 

 「ぐずっ……せんぱぁい……良かったですぅ………」

 

 「うおっ!ちょ、来過ぎ……」

 

 片付けもそのまま、忍は他の部員からもみくちゃにされる様囲まれてしまった。

 

 

 「…………」

 

 

 そしてその光景を、高坂は真剣な表情で見つめていた。

 

 

 

 ______________

 

 

 

 その後も、全国大会に向けての練習は続く。忍の演奏は、日を追うごとに良くなっていった。スランプに関しては、完全に克服したと言って良いだろう。

 そして、新たな視点も見えてきた。それは、一度どん底に落ちたからこそ、見えるものだった。

 

 「今日は個人練。自分の課題に取り組む様に」

 

 「「「はい!」」」

 

 パート練。中世古がそう言うと、各々自分の準備に取り掛かる。今日は一日個人練習。楽譜を確認する者、指運びを確認する者、もう音出しを始めてるものなど、教室は忙しなくなる。

 

 「…………」

 

 そんな中、忍はただ自分の持つトランペットを、じっと見つめていた。

 

 「……忍?」

 

 そんな様子に目敏く気付き、優子が声を掛ける。

 

 「ん、何?」

 

 「こっちのセリフよ。何ボーッとしてんの?」

 

 「あぁ、いや。……今なら違う音が出せるんじゃないかなって」

 

 「違う音?」

 

 一体忍が何を言いたいのか分からず、優子は首を傾げる。

 

 「……うん。今までとは違うやつ。……なんだろ?言葉じゃ説明できないや」

 

 また妙ちくりんなことを言い始めたと、優子は困った様に眉毛をハの字にさせる。

 

 しかし、忍が何かを掴みかけているのは、優子にも分かった。

 

 「……吹いてみれば?」

 

 「………なに吹こうか?」

 

 「うーん、そうねぇ………」

 

 腕を組んで、優子は考える。別に何でも良いが、忍の音の性質的に超絶技巧の難題曲というよりかは、情に訴えかける様なゆったりとした曲の方がいいだろう。しかし、それを聞かれてパッと浮かぶなど……

 

 「………あ……」

 

 一つ、あった。と言うよりかは、優子自身がもう一度その曲を聴きたかった。

 忍の耳に顔を近付け、耳打ちをする。

 

 「……うん。良いね」

 

 納得した様に忍も頷くと、すぐさまトランペットを構える。

 そして、確かめる様に一音出すと、すぐさま演奏に入る。

 

 

 ______♪ーー♪ーーー♪♪ー、♪♪♪ーーー………_____

 

 

 奏でるのは、"見上げてごらん夜の星を"。

 

 河川敷で吹いた曲。忍が、初めて覚えた曲だ。

 そのメロディが聞こえてきた瞬間、パートメンバーの全員が一斉に忍の方向へと顔を向ける。

 

 初めて聴く音だ。

 

 中世古も、高坂も、滝野も。あまつさえ優子でさえも、忍からこんな音を聴いたことは無い。

 

 寂しげな音だった。

 

 それでいて、なんだかあったかい音。

 

 一言で表すなら、"哀愁"。哀しさと、切なさと、少しの懐かしさ。

 

 忍のトランペットは、"情"のトランペット。感情を音に乗せるのが抜群に上手い。

 

 でも、今までの忍の音は、"楽しむ"と言う形での"情"でしかなかった。

 だって音楽は楽しむものだから。

 怒ったり悲しんで吹いたりしたら、勿体無い。

 

 でも、それだけじゃ足りない。

 

 それは、喜怒哀楽の"楽"の部分でしか無い。

 

 悲しい音楽もあれば、怒りを感じる様な激しい音楽だってある。

 技術では無い。

 喜怒哀楽。自分の感情全てを、音に変換できるか。

 

 

 

 そして秋川忍は今、その一歩を踏み出したのだ。

 

 

 

 __________吹き終わると共に、静寂が訪れる。

 

 人は、本当に感動すると言葉を失うと言う。

 パートメンバーの7人。その全てが作業を止め、言葉を失い、釘付けになる様に忍を見つめていた。

 

 「……秋川君、今のって………」

 

 演奏の余韻が残る中。なんとか絞り出す様に、中世古が今の演奏について触れる。

 

 「……どうでしたか?」

 

 マウスピースから口を離し、満足そうに笑って、忍は感想を聞く。いつもの、ひょうきんな彼だった。

 

 「うぅ……ぐずっ………凄がっだでずぅ……」

 

 号泣してそんな感想を言ってきたのは、吉沢だった。

 

 「どうどうヨッシー。そんな泣くことないっしよ」

 

 あまりにも泣いているので、演奏の余韻などどっかに消え去ってしまい、ようやくいつものパート練習の雰囲気に戻る。

 しかしその中でも、高坂だけは何か考える様に忍の方を見つめていた。

 

 

 _________________

 

 

 

 「おつかれー、アッキー」

 

 「おつー」

 

 最後の部員が出て行き、忍は音楽室に一人残される。朝に強くない彼は、こうして下校時間ギリギリまで残ることが多い。

 それでも吹き足りない時は、河川敷で吹いたりするのだが。

 

 「帰るわよ忍」

 

 「はいよー、待ってー」

 

 しかし最近は、優子も一緒に残る事がほとんどだ。

 まだ荷物をまとめている忍を、横で待っている。

 

 「なんだ?貴様らまだ残っていたのか?もう閉めるぞ」

 

 すると、ドア付近から声が聞こえて来た。二人ともその方向へ顔を向けると、鍵を持って腕を組む松本先生が居た。

 

 「おー、松もっさん。今退きますんで少々お待ちを……」

 

 「松本先生だ!馬鹿者!!」

 

 相変わらずな忍に対し、松本先生のカミナリが落ちる。しかし忍にはノーダメージの様だ。

 

 「あははっ、すんません。では」

 

 「お疲れ様です」

 

 学生バッグとトランペットケースを担ぎ、それだけ言い残すと忍と優子は音楽室を出ようとする。

 

 「……ちょっと待て」

 

 すると、脇を通り過ぎようとする忍を、松本先生は呼び止めた。

 

 「?、なんですか?」

 

 珍しいこともあるものだと、忍は少し驚いた表情を見せる。

 対照的に、松本先生はなんだか言いにくそうにしている。そして意を決したように、口を開いた。

 

 「………あー、なんだ。お前はよく頑張ってると思うよ」

 

 「……はい?」

 

 松本先生から出てきたいきなりの褒め言葉に、忍は怪訝な表情を浮かべる。

 

 「………なんでもない」

 

 もう一度言う胆力は無かったのか、頬を赤らめてしな垂れるようそれだけ言う松本先生に対し、忍はニンマリと笑顔になる。

 

 「………ツンデレですかぁ?」

 

 挑発的なその言葉に、案の定松本先生は乗ってしまった。

 

 「バカモノ!!!いいからさっさと帰れ!!!!」

 

 「あはは!!じゃあ、お疲れ様ですー!!」

 

 尚も楽しそうな忍に対し、追い払うかのように二人を帰らせる松本先生。

 しかし口調とは裏腹に、その口元は緩むのを我慢出来ていなかった。

 

 

 

 「やー、ツンデレだったね」

 

 「あんな松本先生、初めて見たわよ」

 

 昇降口に向かう途中も、二人の話題は先程の松本先生で持ちきりだった。

 まるで武士のようなあの先生があんな姿を見せるとは誰も思わないだろう。

 

 「明日また最後まで残ろうかねぇー?」

 

 「もうあんな態度取らないと思うわよー?って、あれ?」

 

 そんな会話をしながら、昇降口に着くと、一人の少女が待ち構えていたかのようにそこに立っていた。

 

 「あれ?高坂さん?」

 

 もう下校時間なんてとっくに過ぎている。しかし目当ては貴方だと言わんばかりに、高坂はジッと忍の事を見つめていた。

 

 「……やっと来ましたね。アッキー先輩」

 

 「んー、待たせたつもりもないけど……」

 

 飄々と忍はそう返すも、高坂は真剣な空気を崩さない。

 そして、まずはと高坂は優子の方を見やる。

 

 「……優子先輩、ちょっとアッキー先輩、借りていいですか?」

 

 「良いわよ。後でちゃんと返してね」

 

 「俺の意見は?」

 

 なんだかレンタル用品みたいになっているが、優子からそれを聞いて高坂は再び忍の事を真剣に見つめる。

 

 「じゃあ、アッキー先輩。……少し良いですか?」

 

 「……分かった。手短にね?」

 

 忍も只事では無い雰囲気を感じ取ったのか、少し真剣な面持ちでそう返す。

 こうして、忍と高坂は校舎裏の方へと進んで行った。

 

 

 ____________

 

 

 秋らしく、ひぐらしの声が聞こえる。

 日が暮れるのも夏場より早くなり、西日の当たらない校舎裏は結構な暗さとなっていた。

 そこに対面する、男女二人。

 

 「……アッキー先輩、面倒臭いので端的に言います」

 

 わざわざ二人きりになって、高坂が伝えたい事。

 

 「………なにかな?」

 

 そしてそれは、忍自身も全く予期していないものだった。

 一つ深呼吸をして、高坂は口を開く。

 

 

 

 「ソロパートのオーディション。私ともう一度受けてくれませんか?」

 

 

スランプ脱出。この先忍はどう進むのか。ルート分岐ではありませんが、幕間として文化祭か駅ビルコンサートのどちらかを書こうと思います。回答して頂けると凄まじく嬉しい。

  • イチャイチャかそれとも喧嘩か。文化祭
  • 何の曲をやるのかな?駅ビルコンサート
  • 二つとも書けバカタレ
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