響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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再びの

 

 なんだか、妙なことになってきた。

 

 「また再オーディション?」

 

 「ねー。しかもやりたいって言い出したの、高坂さんだって」

 

 「何で自分から不利になるような事するんだろ?」

 

 トランペットソロパートの再々オーディション。

 この時期で、トランペットソロが変わるかもしれない。

 もう全国大会に出場が決まった中での再オーディション。

 それは、再び部内を騒つかせるのには十分だった。話題はどれもこれも、忍と高坂の再オーディション。普通ならこのタイミングでの配置転換なんて言語道断。もし忍にソロパートが変われば、他パートの繋ぎなども変わってくるかも知れない。

 

 

 「いいでしょう。もう一度、再オーディションをしましょう」

 

 

 しかし滝先生自身は、このオーディションに前向きだった。

 それは、一体どの様な意味があるのか。全国大会直前でのその選択は、非常にリスキーな選択だ。

 意外な事に、言い出したのはもうソロパートに決まっている高坂からの申し出だと言うではないか。

 

 ______分からない。何故高坂麗奈自身が、忍に対して自らもう一度オーディションを申し込んだのか。

 

 「………久美子、聞いてる?」

 

 「え?、あ、うん。ごめん。ボーッとしてた」

 

 日も暮れた駅前のコンビニ。高坂の問い掛けで、ようやく我に返る黄前。

 高坂派、と言うわけでは無いが、黄前は彼女の事を特別視している。だからこそ高坂の方がソロパートを吹くべきだと思っているし、前回のオーディションでは結果そうなった。

 じゃあ、もうその勝負は終わったはずなのに……

 「オレンジジュースの果汁って、絶対100%の方が良いわよね?」

 

 「あはは……そう、なのかな?」

 

 が、目の前の少女はびっくりするぐらいいつも通りだ。そんな高坂に対し、黄前は少し顔を引き攣らせる。

 

 「………なに悩んでんの?」

 

 あからさまに顔に出ている黄前に対し、疑う様な口調で高坂はそう言う。

 

 「べ、別にそんなんじゃ……」

 

 「嘘。久美子って顔に出やすいから」

 

 そう言い切る高坂に対し、観念した様に黄前は一つため息をついた。

 

 「……麗奈には敵わないなぁ……」

 

 「………オーディションの事?」

 

 「……うん」

 

 ズバリ高坂に言い当てられ、素直に黄前は頷く。彼女だって、絶対にソロパートを吹きたい筈だ。では何故、わざわざ自分から不利になる様な状況にしたのか。

 

 「なんで、麗奈の方から申し込んだのかのかなーって」

 

 「………久美子なら、分かると思ったんだけどなー」

 

 勿体ぶる様に態とらしく残念がる高坂に対し、黄前も不服そうな顔を見せる。

 

 「……じゃあ、教えてよ」

 

 「ふふっ、しょうがないね」

 

 そう言う高坂は、本当に無邪気に、楽しくてしょうがないといった表情をしていた。

 

 

 「私、やっとアッキー先輩と戦えるんだなって」

 

 

 そしてその表情に、今度は闘志が加わった。高坂の表情を見て、黄前は息を呑む。

 

 「ずっと思ってたの。アッキー先輩、まだ全然本気じゃ無いなって。……多分、アッキー先輩自身はそれに気付いてないと思うけど」

 

 確信があるのか、自信満々という風に高坂はそう言い切る。しかし、黄前には忍が本気を出していないとは思えなかった。

 

 「……何で、麗奈はアッキー先輩が本気出してないって分かるの?」

 

 今の忍でも、相当な技量を持っている様に思える。そして、手を抜いてるとも思えない。

 それでもまだ本気を出せてないと、何故高坂は気付けたのだろう?

 

 

 「分かるよ。だってアッキー先輩、あんだけ技術があるのに、出す音は一緒だったもん」

 

 

 「………?」

 

 黄前は首を傾げる。出す音が一緒?技術を持ってるなら、それこそ多種多様な音が出せると思うのだが……

 

 「ふっ、久美子にはまだ早かったかもね」

 

 「む、なんかそれ、ムカつく」

 

 勝ち誇る様にそう言う高坂に対し、不服そうな表情で黄前は返す。

 

 それと同時に、解る者にしか解らない世界もあるんだなと、少し羨ましい気持ちになるのだった。

 

 

 _________________

 

 

 

 「やっぱ、オレンジジュースは果汁100%に限るわ」

 

 「そう?私はそんなに違い分からないから良いけど」

 

 そして、いつも通りなのはこの男もであった。

 こちらは駅のホーム。ペットボトルのラベルの成分表示を見つめてしみじみと言う忍に対し、ズズっとカフェオレを飲みながら心底どうでも良さそうに優子はそう返す。

 

 「分かってねーなー優子よ。ここに添加物があるか無いかで全然味が変わって来るのに」

 

 「ふーん。どんくらい変わるの?」

 

 「国産牛と外国牛くらいの差はある」

 

 「分かるようで分からない例えね………」

 

 相変わらず自由に、思った事がそのまま口から出る忍。

 そんな彼に一つ、優子は軽くため息をついた。

 

 「またオーディションするってのに、全く緊張感無いわねぇ」

 

 「別に、緊張なんか全くしてないしねー」

 

 言葉通り、ヘラリと笑って忍はそう返す。それに対し、優子は少し疑う様な表情を見せる。

 

 「ホントに?じゃあ高坂の事を打ち負かす自信があるって事?」

 

 確かに最近の忍はスランプを抜け出してから絶好調だ。だからこそ、そこまで気負う事も無いのだろうか?そう思う優子だったが、それに対して小馬鹿にする様に、忍は首を横に振る。

 

 「分かってないなー、優子よ」

 

 「………じゃあ、なによ?」

 

 勿体ぶる忍に対し、少し不満げな表情を浮かべる吉川。彼は、高坂の申し入れを受け入れた。そうでないなら、他の理由は何なのだろうか?

 

 「だって俺、高坂さんに勝とうなんて思ってもないし」

 

 彼がオーディションを受けるに至った本当の理由。それは高坂に勝とうとか、ソロパートをもう一度奪い取ろうとか、そんな理由では無い。

 

 

 「ただ単に、俺が今あのソロパートを吹いたら、どうなるか気になっただけだよ」

 

 

 純粋に、今の自分がソロパートを吹いたら、どんな音楽が完成するのかが気になっただけ。

 そこには競争意識なんて、忍の中には微塵も無かった。

 

 「………それだけ?」

 

 「うん、それだけ」

 

 優子の問いかけに、忍は即答する。

 それは疑いも何も無い、清廉潔白な"自分の音"だけを追求する1人の少年のワガママと言えば良いだろうか。

 そしてそのチャンスが、偶然にも転がり込んできただけなのだ。

 

 「……ホント、アンタって音楽だけには……」 

 

 優子は困った様に笑ってそう呟く。そもそも忍には、最初から高坂と勝負する気なんてさらさら無い。

 

 

 「素直過ぎるんだから」

 

 

 ただ、進化しつつある自分の音に、忍自身が好奇心を抑えられないだけなのだ。

 

スランプ脱出。この先忍はどう進むのか。ルート分岐ではありませんが、幕間として文化祭か駅ビルコンサートのどちらかを書こうと思います。回答して頂けると凄まじく嬉しい。

  • イチャイチャかそれとも喧嘩か。文化祭
  • 何の曲をやるのかな?駅ビルコンサート
  • 二つとも書けバカタレ
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