響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

97 / 138
オーディション前日

 

 金曜日。北宇治高校に響く音は変わらない。運動部の声掛け、体育館で聞こえるシューズが擦れる音。雑談の声。

 

 「はい、そこまで」

 

 そして、楽器の音。

 滝先生が声を掛けると、一斉に音が止む。

 

 「今日はここまでにしましょう。明日は土曜日なので、机はそのままでいいです」

 

 「「「「はい!!!」」」」

 

 いつも通りの吹奏楽部の練習。しかし、何処か独特な緊張感も纏っていた。

 

 「明日は午前中、この教室でもう一度トランペットのソロオーディションを行います」

 

 その理由は、忍と高坂の再々オーディション。

 競い合う環境があれば、不思議と周りも自然と締まるものだ。

 

 「今回も皆さんで決めていただくので、欠席はしない様お願いします」

 

 「「「「はい!!!」」」」

 

 決め方は、中世古の時と同じく両者が吹いて全員で決定すると言う方法。しかし、今回は噂も陰口も無い。どちらが吹くのかと言う話題は出るが、前の様に根も歯もない噂が立つことは無かった。

 だからこそ、皆明日のオーディションに注目している。実力者と実力者の真っ向勝負。

 高坂麗奈と秋川忍。どちらが奏者として上か。

 

 「それでは、失礼します」

 

 そう言って、滝先生はいつも通り教室を出て、すぐさま片付けが始まる。

 皆、口には出さないが興味を隠しきれていない様子だった。

 

 

 _______________

 

 

 

 「どうなるんだろうねー?」

 

 「明日のオーディション?」

 

 「まさかこの時期にやるとはねー」

 

 そしてそれは、この3人も同じ。帰り道の道中、田中が他人事の様にそう言うと中世古が返し、その会話に小笠原も加わる。

 

 「ズバリ!一番2人を見てきた中世古さんはどう見るでしょうか!?」

 

 相変わらず面白がる様にそう言う田中に対し、困った様に中世古は笑み浮かべる。

 

 「うーん……正直分かんないかな?私もどっちが吹く事になるのか、分かんない」

 

 「えー?なにそれー?つまんなーい」

 

 曖昧な回答をする中世古に対し、ぶーぶーと田中は文句を垂れる。

 しかしその言葉通り、パートリーダーである中世古もどちらの音の方が良いのか分からなかった。

 

 「だって本当に分かんないんだもん。あすかはどうなの?」

 

 すると、今度は逆に中世古がそう聞く。

 

 「えー?アタシー?アタシは上手い方が吹くと思うけどなー?」

 

 「もー、またそれー?」

 

 前回の時と同じ様な事を言う田中に対し、困った様に中世古は返す。相変わらず本音は晒してくれない様だ。「もう」と、しょうがなさそうに中世古はそう言うと、今度は小笠原の方に視線を向けた。

 

 「晴香はどう?」

 

 「え!?わ、私!?」

 

 「そりゃそうよ。ペットのパーリーと副部長が言ったんだから、部長のお気持ちも聞かせなさいよー」

 

 驚く小笠原に対し、便乗する様に逃さないと言った風に横から小笠原の両肩を掴む田中

 そして「うーん……」とひとしきり考えた後……

 

 

 「……私は、アッキーの方がいいと思うなー」

 

 

 呟く様に、そう言い放った。それを聞いて、田中は意外そうな顔を見せる

 

 「へぇ、そりゃまた、何で?」

 

 「………何だろうなー、雰囲気っていうのかな?最近のアッキーって、前とはちょっと変わった気がして」

 

 「はあ?なにそれ?」

 

 難しそうにそう言う小笠原に対し、田中は首を傾げる。

 

 「私、滝先生が来るまで教壇に上がって指揮する事があるじゃん?」

 

 「それが?」

 

 「結構、見えるんだよね。あの人が何してるかとか、今日はあの子いつもより下向いてるから調子悪そうだなとか。……それでかな?最近のアッキーって、前とは違う気がして……」

 

 「……ははーん、なるほどー」

 

 どうも曖昧な小笠原に対し、納得した様に田中はそう言う。しかし小笠原には違和感を感じるだけで、その正体には気付いてなかった。

 

 

 「………考え方を、少し変えたんじゃないかな?」

 

 

しかし一人、忍の変化に気付いた者が居る。中世古だ。

 

 「考え方?」

 

 しみじみとそう言う中世古に対し、小笠原は首を傾げる。

 

 「うん。今までの秋川君って、楽しそうに吹いてたでしょ?」

 

 「……まあ、それがアッキーの代名詞って言うか……」

 

 小笠原の言う通り、それが忍の音楽だと誰しもが思っている。

 しかし中世古はどこか遠くを見つめるように、アンニュイな表情を見せた。

 

 

 「うん。でも、秋川君自身、無理してる部分もあったと思うんだ」

 

 

 中世古のその言葉に小笠原は意外そうな、対して田中は納得が行った様な表情を浮かべる。

 

 「多分、秋川君にとっては無意識なんだろうけど、音楽が嫌いにならない為に無理に明るく振る舞ってたんだと思う。……だって、去年上級生達からあんな仕打ちを受けたら、普通は音楽を嫌いになっても不思議じゃないでしょ?」

 

 「……まあ、そうだけど……」

 

 去年のことを思い出したのか、少し暗めな表情で小笠原がそう返す。

 忍が去年、上級生達から散々な目に遭わされても明るく立ち振る舞うその姿に、中世古はずっと違和感を覚えていたのだ。

 

 「秋川くんにとって、音楽は"楽しいものじゃないといけない"って言う気持ちが何処かにあったんだと思う。………憶測だけどね」

 

 「……じゃあ、楽しく吹かなくなったって事?」

 

 訝しむ様に小笠原がそう聞くと、中世古は首を振って否定する。

 

 「ちょっと違うかな?……上手く言えないんだけど……」

 

 「………?」

 

 何か考える様な仕草を見せる中世古に対し、小笠原は首を傾げる。

 

 「まぁ、それも明日わかるでしょ?」

 

 沈黙を破るように田中がどこか他人事の様にそう言うと、中世古も「そうだね」と、神妙な面持ちで返した。

 

 「……まあ、私としては問題さえ起こさないでくれるとありがたいんだけど」

 

 今までの忍の悪行を思い出しているのか、小笠原は少し顔を引き攣らせてそう言う。

 

 「そん時はまた大変だねー?部長殿?」

 

 「もー、また他人事なんだから……」

 

 相変わらずヘラヘラしながらそう言う田中に対し、困り顔を浮かべる小笠原。

 

 「でも」

 

 しかしそれも束の間、何処か遠くを見つめるように、田中は表情を変える。

 

 

 

 「あんだけ自由に吹けて、ちょっと羨ましいかなー?」

 

 

 

 何かを諦めた様にそう言う田中の表情は、少し寂しげだった。

 

 「………?、あすか?」

 

 それに目敏く気付き、中世古が心配そうに田中の顔を覗く。

 

 「ううん、いやー、それより明日のオーディション、みんなどっちに手を上げるんだろーねー?」

 

 だがそれも一瞬。誤魔化すように、いつもの何処か掴みどころのないヘラヘラとした笑みを浮かべて、田中はそう言う。

 

 今のは幻だったのだろうか?

 

 いつもとは明らかに違う表情を見せた田中に対し、中世古の少し胸がザワついた。

 

 

 

スランプ脱出。この先忍はどう進むのか。ルート分岐ではありませんが、幕間として文化祭か駅ビルコンサートのどちらかを書こうと思います。回答して頂けると凄まじく嬉しい。

  • イチャイチャかそれとも喧嘩か。文化祭
  • 何の曲をやるのかな?駅ビルコンサート
  • 二つとも書けバカタレ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。