響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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 音楽室には、独特の緊張感が漂っている。

 

 普段と変わらないいつもの音楽室の光景。しかし、今日は否が応でも緊張感が張り詰める。

 

 「では、これから再オーディションを行います」

 

 淡々と、滝先生はそう言う。

 今日は、トランペットソロパートの再オーディション。前回のホールでのオーディションに比べれば派手さは無いが、それでも皆内心気が気でない。高坂は忍に勝てるのか?はたまた忍が勝つのか?二人してどのような音を奏でるのか?

 

 「それでは皆さん、後ろを向いてください」

 

 滝先生がそう言うと、少し教室内が騒つく。

 

 「え、演奏を見ないんですか?」

 

 一人の女子生徒が困惑気味にそう尋ねると、滝先生はコクリと頷いた。

 

 「ええ。今回は音だけを聴いて、皆さんに判断して貰います。順番もどちらが先に吹くかは教えません。"音のみ"を聴いて、良いと思った方に手を挙げてください」

 

 滝先生の言葉に、部員達の顔が一層張り詰める。

 

 "自分達で、決めろ"

 

 言葉ではそう言うが、それを実際にしろと言われると案外酷でもある。それも実力が拮抗している者同士。

 

 「さあ、皆さん。後ろを向いて目を瞑って下さい」

 

 滝先生に促され、大半の部員が困惑しながら指示に従う。

 そして全員が後ろを向いたのを確認すると、滝先生は今日の主役を呼ぶ。

 

 「それでは前半の方、どうぞ」

 

 その言葉と同時にガラリと扉が開く音が聞こえ、スタスタと歩く音が聞こえる。どちらなのか、足音だけでは分からない。

 

 「では、始めて下さい」

 

 合図を送ると、少し静寂が包む。自分のタイミングを測っているのだろう。そして仄かにブレスの音が聞こえると、トランペット特有の乾いた音が、耳に響いてくる。

 

 

 

 強気な音だ。

 

 

 

 この三日月の舞のソロパートは、三日月の照りつける草原で月へと旅立つ主人公へとヒロインが優雅に、そして孤高に踊っているシーンと忍は例えた。

 

 ならば、今奏でているこの踊りは、気丈に振る舞う強い女性の舞と言えばいいだろうか。

 

 "私は大丈夫だから、貴方も月で頑張っておいで"

 

 そんな声が聞こえてきそうな踊り。もう離れ離れになるのに一つの涙も見せずに、悲しみを抑えて美しい自分だけを見せる健気な女性の踊り。

 

 その音はとても美しくて、とても強かった。

 

 弱気なんて一切見せない、ただただ自分の想い人の為に最高の自分を見せる強い女性。

 目を瞑っても、その光景が浮き上がる様な演奏だった。

 

 

 ソロパートは1分弱。演奏が終わると、何とも言えない余韻が教室を支配する。

 

 

 「…………ありがとうございました。それでは、後半の方」

 

 

 滝先生がそう言うと、足音がまた一つ増える。次は後攻。

 埃を飛ばしているのか、楽器に息を吹きかける音が聞こえる。

 

 「では、どうぞ」

 

 同じ様に滝先生が合図を送ると、前半と同じくブレスの音が微かに聞こえる。ここまでは前半と同じ。しかし、次に聞こえてきた音は、前半とは全く違うものだった。

 

 

 

 切ない音だ。

 

 

 

 それは、前半に奏でたヒロインとは全く違うもの。

 離れ離れになる想い人に対し、哀しさや切なさが堪え切れていない。

 

 あの人はもう行ってしまう。

 

 どうしようもないものだと分かっていて、自分はそれを受け入れている筈なのに、どうにも心の整理が付かない。そんな少しの矛盾を含んだ切なさ。

 

 そんな、哀しさを含んだ涙の踊り。

 

 でも、行かないでとは言えない。だから、せめて最後に見てもらうこの踊りで、あの人の心に残って貰おう。

 

 少しのイジらしさも含んだ、なんともやるせ無く、なんとも心苦しい踊り。

 

 だがその踊りは、何よりも美しく聴こえた。

 

 

 「…………………」

 

 演奏が終わり、シンと、教室が静まり返る。

 来るのはまたしても余韻。明らかに違う二つの音。そしてその二つの中から、"自分達"で選ばないといけない。

 

 「……ありがとうございました。それでは、目を開けて下さい」

 

 滝先生がそう言うと、ゆっくりと目を開く。さあ、これはどちらに手を上げれば良いのか。

 

 

 「それでは、挙手で決めていきましょう」

 

 

皆さんは、どちらの方がいいと思いますか?

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