私はここに居る。
私はここに在る。
ここは私の世界ではない。
失った故郷を求めてこの世界を歩む。
帰る方法は知っている。
知っている。
それがここでは何よりも強大な力。
ろくな力のない私でさえ、誰よりも先んじることが出来る。
危険な世界。
都合のいい世界。
HUNTER×HUNTERのせかい。
私の名前はエイラ、本名は捨てた。
故郷には敵しかいなかった。
この世界には敵も味方もいない、孤独なのには慣れている。
一人で本を読むのが好きだった。
誰にも邪魔されずに、自分の部屋で、自分だけの世界。
想像する。私が彼だったら。
想像する。私がこの世界にいたら。
想像が現実になったのが何故かはわからない。
けれど私はここに居る。
HUNTER×HUNTERのせかい。
私には力がない。
私には知恵もない。
足りない頭で考えよう。どうすれば前に進めるのか。
そうだ、無ければ奪えばいい。
嘘を現実に出来る世界。
覚悟と想像力がものをいう世界。
HUNTER×HUNTERのせかい。
世界は広い。文字も読めない私には、どうすればいいのかわからない。
だから手当たり次第に旅をしよう。
『知っている』人間に出会うために。
「……で? それで飢えてた、と」
「……はい」
「馬鹿?」
「はい」
「……知っていることを全部話したら、故郷にでも帰んなさい」
「それはどこですか?」
「あたしが知ったことじゃ無いわ」
「私にもわかりません」
「………………」
目の前の女性はため息をついた。
私がこの世界で初めて出会った『知っている』人間。
今はこうして食事を食べさせてもらっている。
私はどうしようもない。何の力も無い。だけど知っている。知恵はないけど知識ならある。
だからこの人についていこう。
私も力を得られるかもしれない。
私も仲間を得られるかもしれない。
食事に誘ってもらう前、私は彼女に向かって深々と頭を下げた。
「初めまして、マチさん。私は貴方を『知っています』」
彼女の眼が、光った。
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道に落ちていたから拾った。
拾ったというのは正しくない。勝手についてきた。
途中で気付いてはいたが別に害も無さそうなので放っておいたら、突然服を掴まれた。
うっとうしいとは思ったけれど、こんな人混みの中で目立つわけにもいかない。
あたしは振り上げようとした手は上げずに、尋ねた。
「何?」
「……おなか、すきました」
物乞いの類か、それにしては洋服が綺麗だけれど。
私は一枚の1000ジェニー札を取り出して彼女に渡す。
「すみません……使い方がわかりません」
言葉は通じている。なのにお金の使い方すらわからない。
少女は前髪を長く伸ばしていて表情は見えない。嘘をつく理由は? 特に無い。
けれどあたしはそんなに優しい方でもない。
誰かその辺の人間に聞けと突き放してその場を去ろうとした。
すると少女は、あたしに向かって頭を下げた。
「初めまして、マチさん。私は貴方を『知っています』」
名乗った覚えは無い。少なくともあたしはこの子を知らない。何かの能力者か?
掴まれている袖を振り払った。
凝……見えない、ただのどこにでもいるようなか弱い人間。
知っているのは偶然か? それとも何かの罠なのか?
少女は続けて口を開く。
「私は知っています。貴方のこと、仲間のこと、そして……貴方達が死ぬ理由。蜘蛛の足は間もなく欠けます。私はそれを救いたい。……助けて下さったら、恩返しはします」
少女の腹が大きく音を立てた。……何か食べさせろ、ということか?
そうだ、殺すのはいつでも出来る。
蜘蛛の存在を匂わせて、ただで帰れるとも思っていないだろう。
あたしは少女を連れて、手近なカフェに入った。
一通り食べて、満足した彼女は、一そろいのタロットカードを取り出した。
「私は占い師です。望んだ物を見ることは出来ませんが、見てはならないものならよく見ます。蜘蛛のことも、そのひとつ」
彼女は目の前でカードをシャッフルする。
「この中から一枚ひいてください。それは開かずに伏せたままでテーブルの上に」
言われるとおりに一枚選び、テーブルに置いた。
「まずこれは、貴方自身も含んだ、蜘蛛のことを占っています。シンプルに今後どうなるか。簡単な占いなのでおおよその傾向しかわかりません。念能力でもなければただの占いなので、気構えずに聞いてください」
そして少女はカードを表へと向ける。あたしから見て逆向きの、これは……塔?
「事故が起きます。軽い事故……蜘蛛でいう所の『軽い事故』ですから、足が1~2本もげる、せいぜいその程度でしょう。不吉ではありますが決して悪いカードではありません」
失う蜘蛛の足にもよるけど、大きな打撃を受けることはない……そんなところだろうか。
死ぬのはウボォーか、ノブナガか、多分そのあたり。
ウボォーは帰ってこないかもしれないな。
「塔の逆位置には改革……古いものが壊れて新しく生まれ変わるという意味もあります。私はこれを『頭の入れ替わり』と読み解きます。ただし頭が潰されるわけではない。『頭が使い物にならなくなる』……一時的なものだとは思いますが」
『頭の入れ替わり』と言われた瞬間に、あたしの頭に血が上りかけた。
そのことをすでに知っていたかのように、彼女は続けざまに己のリーディングを述べる。
「あるいはもっと単純に、失った足の代替品が蜘蛛のもとに訪れる、というだけのことかもしれません。こちらもそれほど深く考えなくていいと思います」
不快に思ったが反射的に殺さなくてよかった。
彼女は置いてあった塔のカードを手元に寄せると再びシャッフルし始める。
「今度はマチさん自身を占います」
先ほどと同様に一枚を抜き取り、テーブルに伏せ、そして開く。
赤い目をした悪魔の逆位置。
「多少盲目的になっている部分があるでしょう、情報のすべてを信じない方がいい。でも、これもさっきの塔のカードと同じで必ずしも悪い意味のカードではないです。現状が最低、ここが底で上昇の可能性も示唆しています」
表情を変えることもなく彼女は言葉を続ける。
「他の占い師がどうかは知りませんが、私はカードの『絵』にも注目することがあります。どうしても気になるんです、理由はわかりません。例えば先ほどの塔の逆位置、地面から雷が生えているように見えました。雷が蜘蛛に関わってくるかもしれません。そして今度の悪魔のカード。私がどうしても気になるのは『悪魔の背後に描かれている鎖でつながれた男性』です。先ほどの雷なんかよりはるかに気になります。意味は……わかりません」
今度は背筋が凍り付いた。この少女は何も知らない。ただの乞食の占い師。
ただの占い師が『鎖野郎』の存在を指摘する。
悪魔の背後には鎖に繋がれた男女の姿が描かれている。
にもかかわらず、少女は『男性』と断言した。
……ホンモノ、だ。
あるいは鎖野郎について何かを知っている? パクに探らせるべきか?
とてもそうは見えないが、あたしより数段上の実力を持った念能力者ならありえなくはない。
それほどの念能力者が何故こうもガリガリになるまで飢えている?
制約? 違う、目の前でガツガツとむさぼり食っていた。
念能力者なら飢えるなんてありえないだろう、いくらでも稼ぐ手段はある。
あたしを油断させるため?
必要ない、彼女のオーラは微小且つ垂れ流されている。
あたし相手だったら油断させるにはそれだけで十分だ。
『能力者かもしれないが、持っているのはただの占い師としての才能だけ、すなわちシロ』
あたしの感覚はそう結論付けた。
SS全体のテーマは『黒歴史』と『ポエム』と『占い』だったはず。
ネオンは関係ありません、多分。