二十二の使徒   作:海砂

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第一話

 私はここに居る。

 私はここに在る。

 

 ここは私の世界ではない。

 失った故郷を求めてこの世界を歩む。

 帰る方法は知っている。

 

 知っている。

 それがここでは何よりも強大な力。

 ろくな力のない私でさえ、誰よりも先んじることが出来る。

 

 危険な世界。

 都合のいい世界。

 

 HUNTER×HUNTERのせかい。

 

 

 私の名前はエイラ、本名は捨てた。

 故郷には敵しかいなかった。

 この世界には敵も味方もいない、孤独なのには慣れている。

 

 一人で本を読むのが好きだった。

 誰にも邪魔されずに、自分の部屋で、自分だけの世界。

 想像する。私が彼だったら。

 想像する。私がこの世界にいたら。

 

 想像が現実になったのが何故かはわからない。

 けれど私はここに居る。

 

 HUNTER×HUNTERのせかい。

 

 

 私には力がない。

 私には知恵もない。

 足りない頭で考えよう。どうすれば前に進めるのか。

 

 そうだ、無ければ奪えばいい。

 

 嘘を現実に出来る世界。

 覚悟と想像力がものをいう世界。

 

 HUNTER×HUNTERのせかい。

 

 

 世界は広い。文字も読めない私には、どうすればいいのかわからない。

 だから手当たり次第に旅をしよう。

 『知っている』人間に出会うために。

 

 

「……で? それで飢えてた、と」

 

「……はい」

 

「馬鹿?」

 

「はい」

 

「……知っていることを全部話したら、故郷にでも帰んなさい」

 

「それはどこですか?」

 

「あたしが知ったことじゃ無いわ」

 

「私にもわかりません」

 

「………………」

 

 目の前の女性はため息をついた。

 私がこの世界で初めて出会った『知っている』人間。

 今はこうして食事を食べさせてもらっている。

 

 

 私はどうしようもない。何の力も無い。だけど知っている。知恵はないけど知識ならある。

 だからこの人についていこう。

 私も力を得られるかもしれない。

 私も仲間を得られるかもしれない。

 

 

 食事に誘ってもらう前、私は彼女に向かって深々と頭を下げた。

 

「初めまして、マチさん。私は貴方を『知っています』」

 

 彼女の眼が、光った。

 

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 道に落ちていたから拾った。

 拾ったというのは正しくない。勝手についてきた。

 

 途中で気付いてはいたが別に害も無さそうなので放っておいたら、突然服を掴まれた。

 うっとうしいとは思ったけれど、こんな人混みの中で目立つわけにもいかない。

 あたしは振り上げようとした手は上げずに、尋ねた。

 

「何?」

 

「……おなか、すきました」

 

 物乞いの類か、それにしては洋服が綺麗だけれど。

 私は一枚の1000ジェニー札を取り出して彼女に渡す。

 

「すみません……使い方がわかりません」

 

 言葉は通じている。なのにお金の使い方すらわからない。

 少女は前髪を長く伸ばしていて表情は見えない。嘘をつく理由は? 特に無い。

 けれどあたしはそんなに優しい方でもない。

 誰かその辺の人間に聞けと突き放してその場を去ろうとした。

 

 すると少女は、あたしに向かって頭を下げた。

 

「初めまして、マチさん。私は貴方を『知っています』」

 

 名乗った覚えは無い。少なくともあたしはこの子を知らない。何かの能力者か?

 掴まれている袖を振り払った。

 凝……見えない、ただのどこにでもいるようなか弱い人間。

 知っているのは偶然か? それとも何かの罠なのか?

 

 少女は続けて口を開く。

 

「私は知っています。貴方のこと、仲間のこと、そして……貴方達が死ぬ理由。蜘蛛の足は間もなく欠けます。私はそれを救いたい。……助けて下さったら、恩返しはします」

 

 少女の腹が大きく音を立てた。……何か食べさせろ、ということか?

 そうだ、殺すのはいつでも出来る。

 蜘蛛の存在を匂わせて、ただで帰れるとも思っていないだろう。

 あたしは少女を連れて、手近なカフェに入った。

 

 

 一通り食べて、満足した彼女は、一そろいのタロットカードを取り出した。

 

「私は占い師です。望んだ物を見ることは出来ませんが、見てはならないものならよく見ます。蜘蛛のことも、そのひとつ」

 

 彼女は目の前でカードをシャッフルする。

 

「この中から一枚ひいてください。それは開かずに伏せたままでテーブルの上に」

 

 言われるとおりに一枚選び、テーブルに置いた。

 

「まずこれは、貴方自身も含んだ、蜘蛛のことを占っています。シンプルに今後どうなるか。簡単な占いなのでおおよその傾向しかわかりません。念能力でもなければただの占いなので、気構えずに聞いてください」

 

 そして少女はカードを表へと向ける。あたしから見て逆向きの、これは……塔?

 

「事故が起きます。軽い事故……蜘蛛でいう所の『軽い事故』ですから、足が1~2本もげる、せいぜいその程度でしょう。不吉ではありますが決して悪いカードではありません」

 

 失う蜘蛛の足にもよるけど、大きな打撃を受けることはない……そんなところだろうか。

 死ぬのはウボォーか、ノブナガか、多分そのあたり。

 ウボォーは帰ってこないかもしれないな。

 

「塔の逆位置には改革……古いものが壊れて新しく生まれ変わるという意味もあります。私はこれを『頭の入れ替わり』と読み解きます。ただし頭が潰されるわけではない。『頭が使い物にならなくなる』……一時的なものだとは思いますが」

 

『頭の入れ替わり』と言われた瞬間に、あたしの頭に血が上りかけた。

 そのことをすでに知っていたかのように、彼女は続けざまに己のリーディングを述べる。

 

「あるいはもっと単純に、失った足の代替品が蜘蛛のもとに訪れる、というだけのことかもしれません。こちらもそれほど深く考えなくていいと思います」

 

 不快に思ったが反射的に殺さなくてよかった。

 彼女は置いてあった塔のカードを手元に寄せると再びシャッフルし始める。

 

「今度はマチさん自身を占います」

 

 先ほどと同様に一枚を抜き取り、テーブルに伏せ、そして開く。

 赤い目をした悪魔の逆位置。

 

「多少盲目的になっている部分があるでしょう、情報のすべてを信じない方がいい。でも、これもさっきの塔のカードと同じで必ずしも悪い意味のカードではないです。現状が最低、ここが底で上昇の可能性も示唆しています」

 

 表情を変えることもなく彼女は言葉を続ける。

 

「他の占い師がどうかは知りませんが、私はカードの『絵』にも注目することがあります。どうしても気になるんです、理由はわかりません。例えば先ほどの塔の逆位置、地面から雷が生えているように見えました。雷が蜘蛛に関わってくるかもしれません。そして今度の悪魔のカード。私がどうしても気になるのは『悪魔の背後に描かれている鎖でつながれた男性』です。先ほどの雷なんかよりはるかに気になります。意味は……わかりません」

 

 今度は背筋が凍り付いた。この少女は何も知らない。ただの乞食の占い師。

 ただの占い師が『鎖野郎』の存在を指摘する。

 悪魔の背後には鎖に繋がれた男女の姿が描かれている。

 にもかかわらず、少女は『男性』と断言した。

 ……ホンモノ、だ。

 あるいは鎖野郎について何かを知っている? パクに探らせるべきか?

 とてもそうは見えないが、あたしより数段上の実力を持った念能力者ならありえなくはない。

 それほどの念能力者が何故こうもガリガリになるまで飢えている?

 制約? 違う、目の前でガツガツとむさぼり食っていた。

 念能力者なら飢えるなんてありえないだろう、いくらでも稼ぐ手段はある。

 あたしを油断させるため?

 必要ない、彼女のオーラは微小且つ垂れ流されている。

 あたし相手だったら油断させるにはそれだけで十分だ。

 

『能力者かもしれないが、持っているのはただの占い師としての才能だけ、すなわちシロ』

 

 あたしの感覚はそう結論付けた。




SS全体のテーマは『黒歴史』と『ポエム』と『占い』だったはず。
ネオンは関係ありません、多分。
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