二十二の使徒   作:海砂

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第十三話

 マッセッチュという名の大きな漁港。

 それがグリードアイランドから真西にあるヨルビアン大陸の港町の名前。

 漁港であるがゆえに観光客は少なく、宿泊できるのは民宿が2~3軒だけだった。

 私はそのうちの一つに宿を取った。

 民宿を切り盛りしているおばちゃんは海の女と言った風情で貫禄があり気風が良く、食費を節約したい私に快くガスコンロを貸してくれた。

 毎日三食、袋ラーメン。

 私にすれば、なんて御馳走。

 見かねたおばちゃんが時々魚のあらをくれた。

 酒と砂糖と醤油で炊いて、皆にふるまったりもした。

 

 一時間に一回、私は地図アプリを確認した。

 団長さんは緩やかなスピードで東へ向かってきた。おそらくは飛空船。

 それ以外の時間は、私は纏と練、そして筋肉増強。

 漁船に乗って仕事の手伝いなどもした。

 民宿で出す牡蠣の殻を剥く仕事なども手伝ったりした。

 そのお礼にといくつかもらった牡蠣を焼いて食べた、初めての経験。

 美味しい。それしか言葉がなかった。

 

 どうも私は甘いものよりしょっぱいものの方が個人的に好きらしい。

 わずかに垣間見えた海辺の食生活は私にとても合うものだった。

 保存のために塩漬けにして干した魚、三枚におろして皮をはいだサバのような魚。

 細長い殻からにゅっと足? が飛び出している不思議な形の貝も、焼いて食べると美味だった。

 民宿のおばちゃんは、私にいろんなものを食べさせてくれた。感謝。

 

 感謝の正拳突きでも始めようかと思った頃に、団長さんが最寄りの空港へと到着する。

 その空港からこの町へ、車を使えば二時間半、徒歩なら一日はかかるかな?

 団長さんが町に入らない可能性を考慮しておかなければいけないだろう。

 私はお世話になった皆さんにお礼を言って、民宿を後にする。

 あとは纏や練をしながらアプリとにらめっこだ。

 光の点に合わせて、私は自分の位置を調整する。

 やがて光が町の中に入る。速度的に団長さんはおそらく徒歩でここに来た。

 もう、大丈夫。私は携帯をしまい込んで、最後に見た光の方向へと向かった。

 

「ダンチョーさん、おひさしぶりです」

 

「えっあれ? エイラ?」

 

 アジトで会った時の団長さんは、少し張り詰めた表情をしていた。

 今の団長さんは柔らかい雰囲気の、どこにでもいる青年の姿に擬態している。

 

 私は団員からのメッセージを団長さんに伝える。

 一方通行のそれは、団員との接触にカウントされなかった。

 そして、私の能力の説明をする。

 パクノダさんの能力を、意図せず奪ってしまったこと、そして彼女の死。

 私は自分が鍛えたいこと、出来るなら団長さんに手ほどきを受けたいことを願い出た。

 

「でもオレ、人に教えたことなんてないよ」

 

 天才は人に教えることを得意としない。

 何故なら彼らは詳しい説明なしに全てをやってのけるから。

 だから教わるならできれば秀才の方がいい。彼らは努力でその場にいるのだから。

 

 それも踏まえたうえで、私は団長さんにお願いする。

 私は一足飛びにでも強さを身に着けたい。パクノダさんの念を有効活用するために。

 それともう一つ……私がパクノダさんの能力を利用できなかった場合。

 団長さんが能力を取り戻してすぐに『能力を盗んでもらうため』に。

 私は団長さんの傍に居たかった。

 そのことも伝えた。団長さんは少しだけ考えこんだ。

 

「エイラ……一か月経ってはいないが、オレの状況は大きく変化した。これでもまだ、今占ってその的中率は下がるのか? ……というより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ……一か月以内に占うと的中率が下がる。これは、『前の世界』での私の占いだ。

 この世界において私は未来を知っている。

 なので正直、占った時に出るカードは()()()()()()()

 カードの意味と知っている内容を結び付けるだけでいい。こじつけでかまわないのだ。

 そもそも私は、占い師は一種のカウンセラーであると思っている。

 相手を観察し、相談内容を吟味し、相手が欲しがっている言葉があればそれを提供する。

 特になければカードの指し示す方向を提示する。

 

「……的中率は、下がります。けれど()()()()()()()()()()()()

 

 ここが、私に譲れる最大の、嘘のない言葉。

 団長さんはこの言葉を信じてくれるのか、それとも……

 

「……OK、エイラ、今からオレを占ってくれ。内容がどうであろうとオレはお前を信じる。そしてその代償に、オレがお前を鍛えよう。多少スパルタにはなるだろうが」

 

 念能力に関しては使えないし見えないので何の役にも立たないがな。

 団長さんはそう付け加えた。

 私の理想通りの展開だ。願ってもない言葉が返ってきた。

 

「一つ気になることがある……お前は今日、『愚者』のカードを使ったんだな。なら、明日だ。明日、『女教皇』のカードを使ってみてくれ。まだ、使ったことはないんだろう?」

 

 旅団メンバーと別れてからずっと団長さんを追っていたから、『女教皇』のカードを使ってみる余裕はなかった。確かに、一度も使っていない。

 

「これはあくまでオレの予想だが……お前は現状でもパクノダの能力を使うことができるかもしれない」

 

 ……!

 私の能力は相手の命を奪うことなく能力だけを奪い取る。

 けれどパクノダさんは()()()。……すなわちそれは、死者の念!

 パクノダさんが死んだ後、私はカードを具現化できていた。

 つまり能力を使用することができる。

 団長さんの能力とは違い、死者の能力もそのまま使用することができるのか、それとも死者の念としてここに留まってくれたのか。

 どちらかはわからない。けれど私にも使えるかもしれない!

 

 私がその可能性にようやく思い至り団長さんの顔を見ると、とても優しい笑顔をしていた。

 まるで最初に会った時のような。

 いや、あの時のような貼り付けた笑顔じゃない、本物の笑顔。

 

「ありがとう、エイラ。お前の存在が、パクの無念を救ってくれた」

 

 きっと団長さんは、心の底からそう思ってくれている。

 だからこそ、私を鍛え上げようという気にもなってくれたんだろう。

 

 ……期待に、応えなければいけない。絶対に。

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