二十二の使徒   作:海砂

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第十五話

 どれだけ期間がかかるかわからないので、塩水を真水にろ過する装置も購入した。

 これですべてが準備完了。

 

「出港!」

 

 舟を漕ぐのは腕を中心に全身の筋肉を使う。

 足で踏ん張らなければいけないし、力を無駄にすることなく腕に伝えるために体幹の筋肉も必須。

 団長さんが潮の流れを読んで的確な指示を出してくれるので、漕ぐ方向などについては考えなくても指示通りにただただ漕ぐだけでよかった。

 およそ八時間、私は舟を漕ぎ続けた。

 念の修行は同時進行で行われた。

 常時纏。それだけと言ってしまえばそれまでだが、これがなかなか難しい。

 体を動かしながら、舳先に集中しながら、かといって周をするわけでもなくひたすらに纏。

 慣れるまでに数日ほどかかってしまった。

 慣れてからは練や周、堅、流なども試してみた。

 駄目だマトモに念能力使うと八時間もたない。死ぬ。

 

「こんなところか。じゃあ次は食料調達の時間だ」

 

 錨を下ろし、団長さんと並んで釣り竿を振る。おそらくこれは休憩時間にあたるのだろう。

 波が穏やかな時は常時絶をするようにと言われたので、その通りにしている。

 荒れている時は身体の危険があるので絶は使用しない方がいいそうだ。

 

 釣りをしている間は暇なので、色々な話をした。

 念能力の鍛え方、団長さんの出身地のこと、私の母親のこと、旅団員のこと。

 お互いの『核心』には触れない。それは暗黙の了解。

 

 魚はそれなりに釣れた。すでに日は傾いていた。

 団長さんは袋ラーメンを食べるのを嫌がって、釣った魚を軽く半身にさばいて鋼鉄製のオールにのせて炙って食べていた。内臓やあらは海に捨てた。

 私も食べさせられた。筋肉を鍛えるのに良質なタンパク質は必要不可欠。

 ラーメンより魚を優先的に食べるように、そう言われた。

 

 それからは睡眠時間。購入した寝袋にくるまって舟床に転がる。

 柔らかな毛布に包み込まれているようで意外と寝心地は良かった。

 疲労もあり、私はすぐに眠りにつく。

 朝に団長さんに起こされるまで、ぐっすりと眠った。

 

 ほぼ変わらない毎日。およそ三週間ほど経っただろうか。

 私は絶でもオールを漕げるようになり、また、周だけで八時間漕げるようになってもいた。

(練や堅だとまだまだ無理っぽい)

 団長さんが言っていた、海流が複雑に渦巻いている一帯。

 それは見るだけで十分に理解できた。右から左に流れているそのほんの数m先では逆方向に潮が流れている。

 ところどころに渦ができ、ぶつかり合って白い波を立てる。

 眼前に広がる海原のすべてが、そんな海域だった。

 

「今日からはちゃんとした念の修行にも入る。一日四時間オールを漕いで、四時間を念のみの修行に充てる。特質系の修行方法は一概にこれとは言えない、個人差があるからな。なので最初は各系統の初歩的な修行から入ってもらおう。二時間は水見式による練の修行、二時間は各系統の修行だ、やり方は教えるがオレは結果を見ることはできないので、お前自身で己の能力がどの系統に適しているかを見定めろ」

 

 己の特質系能力以外に全く適性のない能力者もたまにはいるが、おおよそいずれかの系統にそれなりの適性を持つ能力者が多いと団長さんに教えてもらった。

 特に多いのは具現化系と操作系だが、それ以外の系統に適性が抜きんでる者も特質系に限ってはそれなりにいるらしい。

 

 水見式。私の能力は明らかに特質。

 水で戻したドライベジタブルを水に浮かせて練を行う。

 それは千切れながら分裂し、小さな二十二枚の野菜の切れ端となった。

 切れ端を取り除き、改めて練を行う。それをただひたすらに繰り返す。

 団長さんが、荒れた海の上でも水見式の邪魔にならないよう出来る限り揺らさないように舟を漕いでくれているのが分かった。

 

 残りの二時間は系統別の修行。

 

「お前は初めてオーラを見たとき、何を想像した?……蒸気。湯気。大体はそう感じる人間が多いが」

 

「私もそうでした……蒸気が立ち上っていると、そう感じました」

 

「その感覚が大事だ。オーラを変化させるにあたって多くの人間が最も変化させやすいもの、それは蒸気だ。お前が新たに変化系の発を得たいと願うなら話は別になるが、特にそういったことが無いのであれば、己のオーラを蒸気に変化させるよう念じろ、それが初歩的な変化系の修行になる。これだけはオレが目視で確認できる唯一の修行法だな」

 

 なるほど。

 変化させることに成功すればオーラの見えない団長さんでも蒸気を確認することができる。

 ……具現化系の場合はどうなんだろう?

 

「具現化系は修行そのものにリスクが大きいし、限られた時間の中では具現化することすら不可能だろう。よって他の四種類の修行を優先する。いずれにも効果がさほど見られない場合には試す価値もあるだろうがな」

 

 そもそも私はすでにカードを具現化できている。

 ……余計なことはしない方がいいということか。

 

「お前の場合はタロットカードを扱うことがそのまま具現化系の修行になると考えていいだろう。念を纏ったお前のカード……最初はそのせいで、オレはお前が占い自体を能力としているのだろうと誤解した」

 

 長く使い込んでいた間に、私のタロット自体がオーラを帯びてしまったのだろう。

 一番最初の都市に居た頃も、よく当たる占いの出来る嬢としてご指名をいただきまくったものだ。

 占ってるだけで時間が過ぎるから延長料金でウハウハになったりもしていたが、それもまた別の話。

 

「誤解とはまたちょっと違いますけどね、占いが能力なのには違いないですし」

 

「確かにそうだがな、そのカード自体が具現あるいは操作された能力かと思ったというわけだ」

 

「なるほど」

 

 なので即奪うことを考えた、そう言って団長さんは笑う。私も笑った。

 私たちの能力はとても良く似ている。必要な手順は違えど、ともに奪う能力。

 

「オレたちはどこか似ているのかもしれない」

 

 そんな団長さんの言葉が、私は嬉しかった。

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