二十二の使徒   作:海砂

35 / 87
第三十五話

 一週間を、主にわくわくふわふわもふもふと過ごし、私は最初の試合の日を迎えた。

 

「じゃ行ってくるから、ゲレゲレいい子でお留守番よろしくねー! 夜には帰ってくるから!」

 

「ぐるぅ!」

 

 最近ゲレゲレはミィだけじゃなくなって、表現方法が増えてきた。

 だんだんと低音になってきているし、これも一種の声変わり?

 こうやってどんどん成長していくのだろう、ちょっと寂しい。

 大きなボウル一杯てんこもりにキャットフードと新鮮な水を置いて、私は家を出る。

 

 占い師稼業に関しては、ライセンスを使わずともあっさりオーケーをもらえた。

 一階ロビーには客に向けた露店的な店がたくさん出ている。

 月十万ジェニープラス売り上げの十五%を納めることによって出店が許可されるそうだ。

 そっちもきっちり登録申請をする。

 場所の空きもあり、最初の十万ジェニーさえ支払えば今日から出店可能らしい。

 もちろんすぐに支払った。

 

 そして第一試合目。私の選手番号は1158、イイコヤ。

 相手は力自慢っぽい巨漢の大男。

 原作に出てきたトードーって人に似てる。

 髪型は違うけど。全体的に少し長めに刈ったキンパツを重力に逆らうように立てている。

 

「なんだあ、こんなお嬢ちゃんが天空闘技場に来るなんて、オレぁ一試合目からラッキーだったなあ!」

 

 やめようよ、そういう弱者ムーブ。無駄にフラグを立てているよ。

 観客からも私に対してヤジが飛ぶ。

 うるさいなぁ、全員まとめて黙らせたい。

 でもそんな無駄なことはやらない。私にとって大切なのは強くなること。

 

「ここ一階のリングでは入場者のレベルを判断します。制限時間三分以内に自らの力を発揮してください」

 

 了解。目の前の男は打撃系より投げや締め技を使ってきそうだな、勘だけど。

 

「では、始め!」

 

 男は私の服を掴もうとしてきた、やっぱり。

 柔道とかそういった格闘技の使い手さんなのかな?

 

 スピードはそうでもないので、手の甲を使って近付く相手の腕の手首から二の腕あたりを狙って跳ね飛ばす。

 それを数回繰り返す。

 

「チョコマカうぜぇガキだな」

 

 男は急に私の顔面に向かって拳打を繰り出してきた。

 それも相手の手首を弾き軌道を変える。

 拳は私の右横をすり抜けて空を切った。

 

「何だよ、お嬢ちゃん相手に手加減してるのかー!」

 

 外野からのヤジにイライラしているのが手に取るようにわかる。

 まずはその感情の乱れを落ち着かせることから始めた方がいいと思うよ、お兄さん。

 

 男は大きく足を振り上げる、ストンプか。

 私はあえて避けず、その足を両腕でただ受け止める。

 微動だにしない。後ずさることもない。

 その場で力を全て受け止め、文字通りしっかり足止めできている。

 

「こッの‥‥」

 

 おそらく今度は全力全速で私を掴みにかかる。遅い。

 私は伸ばされた彼の腕を片方掴んで、投げ飛ばす。

 軽々と放り投げられて男は場外へと吹っ飛んでいった。

 目を白黒させている。草生える。

 

「そこまで! 1158番、君は三十階まで行きなさい」

 

「押忍!」

 

 心源流の真似をして、構えを取る。

 運悪く強者に出会わない限り、二百階まではこうやって受ける修行をしていこうと思っている。

 

 次の試合が組まれたら、その時点でスマホに通知が入ることになっている。

 私は闘技場近くのホームセンターで店を構えるにあたって必要な材料を買いそろえると、自分の店に向かった。

 そういえば初めて持つ自分のお店だな。出店とはいえなんだか嬉しい。

 事前に買っておいたスケッチブックに『タロット占いはじめました、一回五百ジェニー』とマジックで書いてテーブルの端に立てて置く。

 テーブルには薄紫色の布をかけてテーブルクロス代わりにした。

 テーブルをはさんで向かい合わせに椅子を一つずつ置く。自分用とお客様用だ。

 作業をしている間も、そのあと椅子に座った後も、チラチラと横目で見ながら人が通り過ぎてゆく。

 まあ、そう簡単に客はつかないか……。最初は仕方ない。

 

 すると、ドカッという派手な音を立てて、いかついピンクモヒカンのオッサンが椅子に座った。椅子壊れなくてよかった。

 

「嬢ちゃん、占いは当たるのかい?」

 

「さすがに100%とはいきませんが、それなりには当たると自負しています」

 

「にしては随分と金額が安いな」

 

 見た目と違い、案外気さくなオッサンのようだ。

 

「これで稼ごうとは思っていないので。私は選手登録しているので、試合がない時の暇つぶし兼タロット修行です」

 

「なるほどな、じゃあいっちょ占ってもらおうかい。俺はマジリクだ」

 

 マジリクと名乗ったオッサンは五百ジェニー硬貨をテーブルに置いた。

 

「わかりました、マジリクさんは何か占ってほしい事柄などはありますか?」

 

「おう、俺も選手登録してこの闘技場に居るんだがよ。この先俺はどこまで行けるのか占ってほしいかな」

 

「わかりました」

 

 私は箱からタロットカードを取り出してシャッフルする。

 重ならないようにカードを広げて、一枚をマジリクさんに選んでもらった。

 そして彼自身に開いてもらう。

 

「『星』の正位置ですね。このカードは"希望"を表していて、明確に明るい兆しが見えています。鍛錬を怠らなければ目指す場所へ向かうことも可能でしょう。恐らく、二百階まではそれほど問題なく進むことができるかと思います」

 

 多分だけどこの人、強い。凝もせずに見ただけなのではっきりと断言はできないが、垂れ流されているオーラが普通の人よりはるかに多い。

 

「二百階以上は?」

 

 私はわざとらしく顔を曇らせる。

 

「あまり良い感じはしません。二百階を目安に戦いをあきらめるか、あるいは自身がもう一段階先へと進む必要があります。現状だけでは二百階で手痛い洗礼を受けることになるでしょう」

 

「なるほど……じゃあ、これならどうだい?」

 

 するとマジリクさんは、その場で()()()()。くそ、騙されたか。

 纏をしたマジリクさんのオーラは私の纏より多い。かなりの手練れなんだろう。

 

「……問題ありませんね。わかってて私を試したんですか?」

 

「なに、占いってのがどうやっているのか知りたかっただけさ。本当に普通に占っているのか、それとも『能力』なのか、あるいは人を見ているのか、とかね」

 

「占い師はそれらを複合して診断を下しますからね、尤も能力は私の場合は使用していませんが」

 

「そいつは見てりゃわかる。ところで俺は今百五十階にいるんだがな。嬢ちゃん、俺が二百階を過ぎてからも占ってくれるかい?」

 

「一か月以内の占いだと的中率が下がりますが、それでもよろしければ。私自身が二百階に到達したら店は二百階ロビー周辺に引っ越しする予定なのでお気をつけて」

 

 ガハハと豪快に笑いながら了解と告げて、マジリクさんは去っていった。

 すると数人の人たちが私のテーブルに集まってきた。

 

「あんた、あのマジリクの知り合いなのかい?」

 

「いえ、ただのお客様ですが。有名な方なんですか?」

 

 集まってきた人たちによると、マジリクさんは指一本・一試合三秒以内で百五十階まで上がっていった猛者なんだそうだ。

 まあ当然だわね、あのオーラ量と筋肉なら念能力を使わずともそのくらいやれるだろう。

 彼が常連になってくれると言っていたことを告げると、占ってほしいという客が急増した。しめしめ。

 それからしばらくの間『あのマジリクが信頼している占い師』という噂がガンガン広まって、少々値上げをしてもお客様に困ることはなかった。ウハウハ。

 無名の占い師にハクをつけてくれたマジリクさんにも感謝の正拳突きを捧げよう、そうしよう。

 

 ノーダメージだった私はこの日もう一試合組まされて、四十階まで上ることができた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。