二十二の使徒   作:海砂

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第三十六話

 基本的に、私は夕方五時には店を閉め、毎日家に帰っていた。

 ゲレゲレをそんな長時間ほっとくわけにはいかない。過保護万歳。

 

 試合は毎日組まれる。複数試合のこともある。

 基本受けや流しの修練をしていた私は十フロアずつ歩を進め、三日で七十階に到達した。

 そしてその三日の間に、店を訪れた原作キャラが現れた。

 独楽使いのギドだ。ゴンに破壊されたであろう一本足は綺麗に修復されている。

 

「……オレはこのままでいいのか、占ってほしい」

 

「このまま、というのは?」

 

「現状に限界を感じている。オレは二百階闘士だがフロアマスターには程遠い、そう実感する出来事があってな……。このままここでフロアマスターを目指すべきか、あるいは違う道を進むべきか、ずっと悩んでいる」

 

「……なるほど、では占います」

 

 いつも通りカードを引いてもらう。『力』の正位置。

 

「先ほど悩んでいるとおっしゃいましたが、カードには強い信念と決意が見受けられます。本当は諦める気などないのでしょう? ただ、今は少し自信を失っている……」

 

「確かに、そうかもしれないな」

 

「あきらめる必要はありません。あなたの戦闘を録画で拝見しましたが、『力』のカードが示すまま、すなわち己を強化する竜巻独楽はとてもあなたに向いた戦い方なので、それを続けてさらに磨き上げることをおすすめします。逆に戦闘円舞曲(戦いのワルツ)散弾独楽哀歌(ショットガンブルース)はあまりおすすめできない戦い方です、実際の独楽を使用するよりもむしろオーラを練り上げてそもそもの独楽自体のようなものを作り上げて放つ方が向いているんじゃないでしょうか」

 

 原作知識、久々に使ったな。

 原作とかけ離れたところに居るからなあ、時期的に。

 確かギド自体は強化系だったはずだ。

 メモリ的に、これ以上能力を作れるかどうかは微妙なところだが。

 多分ムリ。でもそれは言わない。

 

「……アンタはどうやら、信頼できる占い師みたいだ。オレも自分の戦い方をもう少し考えてみることにする。アンタ自身も選手なんだろう? もし二百階まで上がってくることがあれば、是非お相手願いたい」

 

「はい、そのときは是非」

 

 実際に信頼されているかどうかはともかく、対戦出来たら素敵かな。

 散弾独楽哀歌(ショットガンブルース)、ちょっと欲しい。

 操作系とは相性もいいから私ならうまく使いこなせるだろう。

 

 スマホに通知が届いた、今日二回目の試合だ。

 手を抜いてるのがバレ始めたかな。正確には抜いているのとは違うんだけど。

 テーブルの真ん中に『ただいま戦闘中』と書いたスケッチブックを立てて、私は会場へ向かった。

 

 八十階、九十階、問題なく勝ち上がる。

 翌日。百階、百十階、初めて心源流の人と戦った。勉強になった。ぶっ倒した。

 そしてさらに翌日、百二十階の試合。

 

「押忍!」

 

 ……またしても、原作キャラ。彼の背後にはメガネをかけた師匠もいる。

 

「よろしくおねがいします」

 

 私も頭を下げる。挨拶は、大事。

 そして私は垂れ流していたオーラを身に纏わせる。

 当然彼も、その師匠も気付いただろう。

 師匠から「ズシ! 纏のみ許可します!」という声が届いた。

 電光掲示板にオッズが表示される。

 ここまで無敗の私と、この辺りをウロウロしているであろうズシくん。

 私の方がほんの少しだけ倍率が優勢だった。

 

「それでは三分三ラウンドポイントアンドKO制、始め!」

 

 素早く彼に駆け寄り腹部に強い掌底を食らわせる。

 彼のガードは間に合わず後ろに数メートル吹き飛んだものの、ダメージはそれほどないようだ。

 やはり念能力者との対戦、そう簡単には終わらない。

 今度はズシくんの、正面からの正拳突き。

 纏のまま両腕を交差して受け止める。一メートルほど後方に飛ばされる。

 さすがに非念能力者の拳とは段違いに重い。

 とはいえ倒されるほどではない。

 ポイントは動かない。互いにダメージを与えていないと審判が判断しているのだろう。

 

「戦う占い師さん、すごいッス」

 

『戦う占い師さん』それは私がこの闘技場でつけられた二つ名。そのまんまじゃん。

 まあ、占い師としても選手としてもそこそこ有名になってきたってのは、悪くない。

 ズシくんの下段への正拳突き、をフェイントとした顎へのアッパー攻撃。

 位置距離ともに見切って頭部を背面へ逸らし、かわす。

 スピードはこれまで対戦した選手と同程度かむしろ遅いくらい。

 彼は片足を後ろに引いた。これは蹴りが来るな。

 引いた右足がそのまま浮いて横薙ぎに私の側頭部を目がけてくる。

 私は左腕一本でそれを受け止めた。今度は飛ばされることもなかった。

 

「さて、ズシくん。悪いけどそろそろ終わりにさせてもらうよ。占い師さんはそっちのお仕事もあるからね」

 

 私は全力の練を開放する。彼もそのオーラを受けて反射的に練をしたようだが師匠からのストップはかからない。

 彼の背後に回ってその首筋に手刀一閃。ズシくんはその場に倒れ込んだ。

 試合は私のKO勝ちとなった。

 手加減したからすぐに気が付くとは思うんだけれど、ちょっと心配。

 拳を握って身体の左右に置いた腕に力をこめる。

 

「押忍! ありがとうございました!」

 

 いい勉強になりました。いやマジで。

 

 

 そして試合を終えた私はすぐにお店に戻った。すでに数名の行列ができている。

 今は占い一回三千ジェニー。それでも行列が途切れることはない。ありがたやー。

 昨日あたりからちらほらと、占いではなく選手としての私自身目当てのお客様も出てき始めた。

 戦う占い師さんのサインが欲しいんだとか。サインは占いのサービスにお付けした。

 

「今日も危なげない勝利だったな、戦う占い師さんよ!」

 

「これで三日連続ですよ、正直これ以上占いが当たる気がしないんですが」

 

「はっはっは、そう言うなって。オレはあんたのファン第一号を自認してるんだからよ!」

 

 ここ三日、毎日店を訪れてくれるお客さんだ。名前は知らない。

 気乗りしないが商売なので、当たる気のしない占いを始める。

 カードを引いてもらう間に彼の着ているシャツにサインを書いた。

 

「『隠者』のカードの正位置ですね。落ち着いて孤独に己の行状を見直してください。悪いカードではないですが……」

 

「なんだいそれはイヤミかい? まあ気にするな! オレの唯一の趣味みたいなもんだ。オレの稼ぎじゃめったに二百階以上の試合なんて見られないからな、先行き有望な選手にツバつけといて、将来自慢するんだからよ! アンタもオレが見たところ、もうすぐ二百階闘士サマだろうからな! 期待してるぜ!」

 

 言いたいことだけ言って、お客さんは帰っていった。

 次のお客様は……と。見覚えのある寝ぐせにメガネのお師匠さんだ。

 

「初めまして、あなたが今日対戦したズシの師匠にあたるウイングと申します」

 

「はい、存じ上げています。心源流の方ですよね」

 

 ウイングさんは椅子に腰かける。話をしに来たのか、占いをしに来たのか。

 答えは両方だった。

 ズシくんはあの後すぐに目覚めて、特に後遺症もなかったらしい、一安心。

 

「ズシの育成に関して、現状のままでいいかどうかを占ってほしいのですが」

 

「わかりました……カードを引く前に、ちょっと手をお借りしてもいいですか?」

 

 手相を見るように、ウイングさんの手を取る。

 これは私が一昨日気付き昨日から実践している()()()()()()()だ。

 私は昨日からあらかじめ『女教皇』を使用している。

 

「ウイングさんは、彼をどのように育てたいとお考えですか?」

 

 手を取ったお客様の記憶を読む。

 それによって、お客様の隠された望みを認識する。

 その内容とカードの占いを組み合わせた結果を、お客様に提供する。

 ひとつ占い師としての情報源が増えたといった感じかな。

 そしてこの方法を取り入れることによって、私に知られていないことまで当たると感じるお客様が増える。

 客が客を呼び、都度値上げしてもこの行列だ。ウハウハ。

 

「そうですね、彼はたぐいまれな才能を秘めた子供です。だからこそ、丁寧に堅実に育てていきたいと考えています」

 

 彼のその言葉に嘘はない。時間をかけてゆっくりと、才能の花を開かせたいと考えているようだ。

 

「ではシャッフルしたカードの中から一枚を選んで手元に引き寄せてください」

 

 手を離し、カードを引かせる。出たカードは『法王』の正位置。

 

「基本的にこのカードは保守的なカードです。それは別の言い方をすると、現状維持が最もよい道だということです。逆位置の場合は現状のままだとよくないという意味なのですが、正位置の場合は維持が何より最善です。迷うことなく今のまま突き進んでください」

 

 カードを集め、番号順に並べ、箱に仕舞う。

 このルーティンはたとえ客が並んでいようとも時間がかかろうとも、絶対に崩すことのない私の中の制約。

 特に意味はないんだけれど。

 そのまま次の人を占うとなんか前の人の運命を引きずってしまうような気がするのよね、なんとなく。

 

「なるほど、安心しました。私の育て方は間違っていないということがわかって……ところで、あなたはプロハンターですよね?」

 

「はい。ご存じでしたか」

 

「私もそうですから。ネテロ会長からあなたのことはうかがっていましたよ」

 

 なん……だと……。まあ暴れまわったからな。主にキルアとゲレゲレが。

 

「あなたであれば二百階以上に行ってもひとまずの問題はないかと思われます。ですがあそこは魔境、とんでもない強者も控えていますので、くれぐれもお気をつけて」

 

「はい、ご忠告ありがとうございます」

 

 これにてウイングさんの占いタイム、終了。

 あっ、もう五時過ぎてる、帰らなきゃ!

 残っている並んでた皆さんに日付を書いた番号札を手渡してから、片付けに入る。

 エイラ印のこの番号札を持ってくれば、優先的に占ってもらえるのです、翌日のみ有効。

 さあ今日も帰ってゲレゲレをモフモフしよう。

 最近ちょっと毛がゴワゴワし始めたけど。一回シャンプーしとくかね。

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