二十二の使徒   作:海砂

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第三十七話

 ズシくんとの対戦以降、私はコンスタントに階を登っていく。

 百九十階も危なげなくクリアした。

 そして、二百階登録。声をかけてきたのはギドだった。

 

「二百階おめでとう。アンタの試合、あれからずっと見ていたよ。正直アンタに敵う気はしないが、是非手合わせ願いたい」

 

 初心者狩りではなく、相応の敬意を払ってくれている。

 ズシくんとの対戦で、私の顕在オーラ量を見せたからかな、多分。

 普通の人には何も見えなかっただろうけど、念能力者のギドには間違いなく見えただろうから。

 

「こちらこそ、そう言ってもらえて光栄です。私は九十日ギリギリまであけて登録する予定なので、そちらで合わせていただけると助かります」

 

「わかった、じゃあ六月の十八日だな。オレもその日に合わせて登録するとしよう」

 

 最低限のあいさつを交わして、ギドは去っていった。

 私は当初の約束通り六月十八日に希望日を設定して申請を終える。

 そして今度は二百階ロビーの露店の申請だ。

 必要金額は跳ね上がり、月百万ジェニープラス売り上げの二十パーセント。

 その代わり二百階全店共通のポイントカードがあり、ポイントで支払われた場合は一ポイントにつき一ジェニーで天空闘技場からバックされる仕組みだ。

 電子マネーなどを含めた支払いシステムはすべて向こうが用意してくれている。

 その使用料込みの値段というわけだ。

 特に問題はなく、そちらの登録手続きも終えた。明日から開店できる。

 四月いっぱいまでは一階の店もあるので、そちらには『二百階C-38地区に引っ越しました』という看板を置かせてもらうことにする。

 占いの代金は現在一回五千ジェニー、それでもお客様には困らない。

 二百階へのお引越しに合わせて六千ジェニーに値上げすることにした。

 占いってのはいいね、元手がほとんどかからない。

 飲食店なんかとは違って利益率ほぼ百パーセントの商売だ。ボロ儲け。

 

 使っていて気付いたのだが、オーラを纏った私のカードは通常よりも少しだけ傷みにくくなっているみたいだ。

 ここにきてずいぶんたくさんの人たちを占ったが、チャチでペラペラだったはずのカードなのに折れたり破れたりする気配がない。

 これはこれでありがたいことだ。

 このカード破れたら泣いちゃう。

 ……本当は操作系としてこのカードを操作したらずいぶんな力を手に入れることができるんだろうけどもそれは絶対にやらない。

 

 ところで、一階で占っていた時は毎日試合が組まれるので必然毎日占っていたのだが、二百階以降では少しのんびりゆったりすることにした。

 週休二日。休みの日は最近甘えたれになったゲレゲレをしっかりがっつりモフることにしよう。

 ちゃんといい子でお留守番しているのだが、私が帰宅した時はまとわりついて離れない。

 うっかり蹴飛ばしそうになったことも一度や二度じゃない。

 食事も一緒、トイレも一緒、お風呂まで一緒、寝るのも一緒。

 ただし濡れるの嫌いなゲレゲレは私がお風呂に入っている間は離れて眺めているだけなんだけれども。

 監視されている、そう感じる(笑)

 一度、お風呂のフタに飛び乗ったらフタが壊れて湯船にドボンしたこともある。

 ついでにシャンプーしたら死にそうな声でフミィアォウ言っていた。草。

 人間語に訳するときっと「ぼくいまころされそうですぅ~!」に違いない。大草原不可避。

 ドライヤーもかけて、ほのかにいい香りのするフカフカ猛獣、いっちょ上がりだ。

 

 あとはもう一つ、私は髪を切った。肩でばっさりと前髪無しボブヘアー。

 髪色は違うけれど、パクノダさんと同じ髪型だ。

 髪が長いと戦う時に色々と不便だ、掴まれたり、引っ張られたり。

 二百階まではそう困ることはなかったけれど、ここから先は魔境だとウイングさんも言っていた。

 これは私の、二百階闘士としての覚悟のしるし。

 あと頭洗うのがすごく楽になった。使うシャンプーの量も減った。

 心なしか身体も軽い。いいことづくめだ。

 占い師としての神秘的な雰囲気は少し損なわれる気がしないでもないけれど、まあそこはそれ。

 今の私はなんてったって『戦う占い師さん』

 この街ではそんじょそこらの占い師よりはるかに有名になっている。

 天空闘技場に興味がなくてもわざわざ占ってもらいにくるお客様も出てき始めた。

 一回テレビにも出た。

 

 『天空闘技場面白選手大特集』

 

 イロモノ扱いだった。

 取材の時はそんなこと一言も言わなかったくせに。ちっ。

 

 九十日。まだまだ時間はたくさんある。

 この間、午前中は感謝の正拳突きと念の修行、午後は具現化系修行兼占いショップ、天空闘技場からの帰り道に買い物をして帰宅。

 主にそのルーティンで毎日を過ごしていた。

 あ、ゲレゲレのために大型の業務用冷凍冷蔵庫も購入した。

 キャットフードだと一日二キロ近く食べるので、他にも色々食べさせるために。

 牛や豚を一頭全部買い付けて解体して持ってきてもらったり、ブリを丸ごと買ってきたり。

 普通のお肉は常に冷凍して保存してある。

 いざとなったらこの中にお肉が入ってるからね、そう言い聞かせるとゲレゲレは器用に冷蔵庫の扉を開けた。

 勝手に食べたらお仕置きだからね、そう言うと「ふにゃん」とかわいい声を出して凹んでいた。

 ああもう可愛いなこの野郎。食べちゃいたいくらい可愛いな。

 ちなみにゲレゲレはガスの点火もマスターした。相変わらずのこの賢さよ。

 これでいつでも自分で火を出して焼いて食べることができる。

 私に万一のことがあっても、しばらくは食いつなぐことができるだろう。

 二百階登録にあたって、私は公正証書で遺言も残してある。

 当然、おもにゲレゲレのことについてだ。

 私が死んだ場合、すみやかにこの家に居るゲレゲレを保護してカキン帝国の奥地に放つようにとの指示が書いてある。

 資産はその費用として費やし、もし残ったらハンター協会へ寄付するようにと。

 そしてその公正証書を、役所ではなくハンター協会に預けた。

 ハンターは命を落とすこともまれではない職業のため、そういうシステムが事前に準備されていたのだ。

 これでひとまず一安心。

 そうそう簡単に負ける気はないけれど、ヒソカみたいなのが出てきたら勝てる気もしないからね。

 死にたくはないけど、念の為。

 ゲレゲレにもちゃんと言い聞かせた。硬のネコパンチが飛んできた。

 これはきっと彼なりの励まし。死ぬんじゃねーぞと。

 そう簡単に死んでなるもんですかい! 何てったって今が一番楽しいんだ!

 

 

 そうして楽しい九十日はあっという間に過ぎ去った。

 六月十八日、天空闘技場二百階初戦。相手はギド。

 ギドはすでに一度フロアマスターに挑戦してコテンパンにのされたそうだ。

 そして挑戦権を失い、改めて二百階闘士として再スタートを切ったらしい。

 そんな彼の現在の星は三勝一敗。

 原作での描かれ方はアレだったけど、なんだかんだここではそう弱くはない方なのだ、彼も。

 一方私は上がってきて初めての試合。オッズは圧倒的にギド有利。当然だろう。

 とはいえ、ファン第一号のおっちゃんを試合最前列に招待している手前、私もそう簡単に負けるわけにはいかないのだ。

 金銭的にそう裕福ではないと言っていたおっちゃんは、試合を観戦するだけでなく度重なる値上げにもめげずに毎日店まで来てくれた。

 それは、占いのためではない。純粋に私を応援してくれていたとわかった。

 そんな彼が今、私の試合を観ている。しかも最前列で。

 応援は、間違いなく選手の力にもなるのだ。絶対に負けられない。

 

「よろしくお願いします、押忍!」

 

「こちらこそ、よろしく頼む」

 

 互いに頭を下げる。これは殺し合いではなく、手合わせ。

 

「ここまで無敗で勝ち上がってきた『戦う占い師さん』ことエイラ選手、能力は未だ未知数です! 一方の、皆さまご存じギド選手、十勝三敗でフロアマスターへと挑戦したこともある猛者『人間独楽』、現在は三勝一敗、一敗は前回の試合に来なかったための不戦敗となっています! さあ、この試合どうするどうなる!!」

 

「では、始め!」

 

 二百階最初の試合が、スタートした。

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