二十二の使徒   作:海砂

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第三十九話

 いつも通り毎日を修行とお店に通う日々。

 七月の初旬ごろ、唐突に変化は訪れた。

 

 電話の相手はシャルナークさん。

 団長さんが戻ってきたのかと思ったが違うようだった。

 

「強制ではないけど、もしよければ手伝ってほしいことがある」

 

 往復の貸切飛空船を出してもらうことを条件に、私は旅団の手伝いをすることにした。

 さすがにこのサイズのゲレゲレを公共交通機関で連れて行くことはできないから。

 

 どうやら流星街は、深刻な危機に見舞われているようだ。

 これは原作にもあった記述。

 流星街といってもとても広く、中心部にはたくさんの人が住んでいる。

 その中心部に、蟻が本拠地を構えて人間を攻撃・捕獲しているらしい。

 ……もう、原作はそこまで進んでしまったのか。

 ということは王は産まれたんだな。……あの界隈には関わりたくないなあ。

 

 団長さんと旅団員との再会はまだ果たされてないそうだ。

 旅団メンバーも全員集まっているわけではない。

 正式に流星街の議会から依頼されたわけでもないらしい。

 

 ただ、旧知の人間が苦境に立たされている。

 流星街に住み、流星街出身(全員ではないが)の幻影旅団が動くのに、理由はそれだけで充分だった。

 

 流星街に空港はない。離着陸できるような場所も存在しない。

 天空闘技場そばの空港から流星街最寄りの国の空港まで約一週間。そこから陸路で三日。

 以前にも、旅団の本拠地を訪れる際に使用したことがある空港へ私とゲレゲレは向かった。

 修行の成果が出てるのか、徒歩で二日で本拠地にたどり着いた。

 

「おかえり、エイラ。団員でもないのに協力してもらって感謝するよ」

 

「とんでもないです、詳細を聞かせていただけますか?」

 

 シャルナークさんの口から詳細を聞かされたが、おおむね原作準拠であるようだ。

 女王と名乗るキメラアントが流星街中心部の一角に巣を建設し、人間に繰り返し投降を呼びかけているらしい。

 捕獲された人間は女王の選別を経て、異形へと姿を変えられる。

 その際に大半の人間は死ぬが、一部は女王に忠誠を誓いその巣の周辺でさらなる人間確保の為に動いているらしい。

 

「バカバカしい話だよな。そいつらがどうであろうが全部ブッ潰せば話は終わりだろうがよ」

 

 フィンクスさんの言葉にも一理ある。根源を叩けばそれで終わりだ。

 

「それで、皆でアリ退治に行こうかと思ってね。一応全員に連絡は入れたんだけど、ノブナガとフランクリンは手が離せない用事があるらしいしマチは興味を示さなかった。コルトピは自分は戦いに向いてないと言って不参加」

 

「私でも倒せる相手なんでしょうか」

 

「女王格のキメラアントに関してはちょっとまずいかもしれないね、だから巣の中では誰かと一緒に行動した方がいいと思う」

 

 あるいは巣周辺の異形の者退治。それくらいなら私でも出来そうだ。

 ……流星街の報復対象になったらやだな、目立たないとこでやろう。

 

 そうして私たちはその場に居た全員で、流星街中心部を訪れた。

 中心部を訪れるのは初めてだが、瓦礫と廃墟のような建物が交互にあるいは順に並んでいる。

 中心部の中でもさらに中心部にある教会には異形の遺体が無数に並べられていた。

 これらのすべてが元住人であるらしい。

 

「つい先日まで、普通の人間だった」

 

「……アリの仕業か」

 

「だが"死者"には違いないだろ? 何が問題なんだ?」

 

 ガスマスクを付けた住民が返答する。

 

「生きて奴らに加担するものがいる……! このとおり異形の姿になってな。彼らを元通りにする術があるか否か……現在議会はその点を「死」の境とする意見が大勢となっている」

 

「報復しようにも仲間が死んだのか改造されただけかでもめてるってわけか」

 

 なんて面倒な……フィンクスさんじゃないけど、今そんなごちゃごちゃしたことを考えるよりも、少しでも早く大元の全てを断ってから考えればいいだろうに。

 

「ホント、変わらねェな。ずれたとこで迷走してやがる。オレたちは勝手にやるぜ、邪魔する奴は倒すだけだ」

 

 流星街において、幻影旅団はそれなりの地位を確立しているらしい。

 まあ単純に持っている力が大きいってのもあるかな。

 フィンクスさんのその言葉に文句を言う人間は一人もいなかった。

 そして私たちは巣へと向かう。

 

「正面突破で」

 

「異議なーし」

 

 そして私たちは正面から堂々と中へ入る。

 女王はおろか、そこには人っ子一人ありんこ一匹いなかった。

 

「……ご自由にお入りくださいってか」

 

「それじゃ、わたしはこっち」

 

「じゃ、ワタシこちね」

 

 旅団各自、バラける。

 

「……みんなバラバラ?」

 

 とまどうカルトちゃん可愛いですハァハァ。お人形さんにして愛でたい。

 

「当然ね、誰が女王を殺るか、競争」

 

「お前だってオレたちに知られたくない能力とかあるだろ? 向かってくる奴は全部始末しろ。もしも女王を倒せたらお前が団長代理でいいぜ」

 

「……了解」

 

 さて、私はどうすべきか……シャルナークさんは誰かと一緒に居ろと言ってたな。

 

「エイラ、僕と行く?」

 

 そのシャルナークさんから、誘いの声がかかった。

 

「お邪魔になるかもしれませんが、よろしければ」

 

「何言ってるの、帰ってきてからのエイラのオーラ、なかなかのもんだと思うよ。もうマトモにやったら僕よりエイラの方が強いんじゃないかな」

 

 何をご冗談を。

 私の力は未だ旅団メンバーに遠く及ばない、カルトちゃんを含めてもだ。

 とはいえせっかくのお誘い。断る理由はない。

 私はシャルナークさんと一緒に行くことにした。

 

「あ、もうみんな行っちゃったね。……じゃあ、あっちに行ってみようか」

 

 二人と一匹で進んで割とすぐ。巨大なカナブンのような敵が現れた。

 私は知っている、奴は操作されたモンスター。

 

「シャルナークさん、『早い者勝ちに注意してください』」

 

「それも占い? 了解」

 

 それだけで、彼には伝わる。

 

「ゲレゲレも、警戒!」

 

「がぁう!」

 

 私は二十二枚のタロットカードを左手に具現化した。

 

「何それ新しい能力? どんなの?」

 

「今からお見せしますよ、あいつは私が倒します。シャルナークさんは『私とゲレゲレを含めてお気をつけて』」

 

 私自身が戦っている隙に敵に操作される恐れがある。

 それを防ぐための目。彼とゲレゲレにはそれになってもらう。

 

 敵が襲い掛かってきた。私はそれを紙一重でかわす。

 切れ味が鋭そうだ。爪先だけではなく腕にも刃状の突起が見える。

 纏っているオーラもそれに合わせて刃状に変化している。

 本来は変化系なのかな。それとも強化系?

 一枚のただのカードにオーラを纏わせて関節を狙う。

 ちょっとだけ突き刺さる。カルトちゃんの紙切れみたいに。

 特にダメージはなし。すぐにはじき返されて地に落ちた。

 このカードがダメなら、強化系はもっとダメだ。近接格闘になったら勝ち目はない。

 私は敵から距離を取りつつ、一枚のカードを右手で取り出した。『死神(デス)』のカード。

 天空闘技場での休戦期間に、私は新たなカードの能力を発現することに成功していた。

 

「私は魂を刈り取る死神」

 

死神(デス)』のカードが消えて、私の右手には大鎌が具現化されていた。

 

「わお!」

 

 シャルナークさんが感嘆の声を上げている。照れる。

 

 私は鎌を振り回す。自分で具現化したものはしっくりと手になじむ。

 大鎌のサイズは私の身長より大きい。

 棒の中央部分より少し刃から離れた位置を握りしめて、私は敵に駆け寄った。

『周』を鎌の刃部分に纏わせて、敵の片足付け根の関節を刈る。成功。

 大鎌のリーチがあれば、相手が強化系あるいは変化系ならば私が攻撃を受ける可能性は少ない。

 鎌、直接手に持っていればそれは放出系ではなくあくまで特質系と具現化系。

 あと、ちょっぴりスパイス程度の強化系。

 鎌一振りにつき敵の足を一本ずつもいでゆく。二度で敵は動けなくなった。

 油断は大敵。残った足で移動が可能かもしれない。

 続けざまに残りの足も刈ってゆく。ダルマ状になった甲虫がそこには残された。

 最後にとどめを刺す前に。私たちはもう一匹を逃がさない。

 

「シャルナークさん!」

 

「はいよ!」

 

 シャルナークさんはとある箇所に向けてアンテナを投げる。

 それは私が戦っていた敵とは全くの別方向。

 逃げようと羽を羽ばたかせていた別の敵の背中にアンテナは突き刺さり、そいつはシャルナークさんの支配下に落ちた。

 そして私は甲虫の腹にとどめを刺す。

 

「ありがとうございます。これでひとまず問題はないと思われます」

 

「エイラの占い、さすがだね。これもう百パーセント当たると言ってもいいんじゃない?」

 

「いえいえ、たまには外しますよ。さて、コイツどうします?」

 

 私は鎌を持ったまま、アンテナを刺された巨大ゴキブリのような敵を指さした。

 

「先ほどのようにロボット的なものを操作しない限り、コイツ自体は弱いと思われますが」

 

「うーん、そうだよね。だったら回収しておいた方が得策かな。いいよ、壊しちゃって」

 

 大鎌一閃。ゴキブリの頭と胴は泣き別れになり、私は鎌とタロットを消す。

 そしてシャルナークさんも自分のアンテナを回収した。

 

「エイラのカード、もしかして奪った能力で全部揃えたの?」

 

「まさか。そんなにその辺に念能力者は落ちてませんし、奪うのも簡単じゃないですから。これは別の能力で乱れ飛ぶ二十二の使徒(シューティング メジャー アルカナ)と言います。カードの一枚一枚に特殊能力を付与することができますが、今のところまだ付与できてるのは三枚だけですね」

 

「ふーん、具現化系と特質系のコンボか……エイラに合ってると思うし、いい能力だね。もし僕一人だったらアイツが操作されてるなんて気づけなかっただろうし、助かったよ」

 

「いえ、こちらこそ。私一人だったら私自身が操作されていた可能性がありましたから」

 

 念能力の相性、ほんとに不思議。運の要素も合わせたら、よほどの差がない限り実際の強さなんてほとんど関係なくなる。

 

「全部のカードに能力が付与されたら、団長が欲しがるだろうなー。……エイラ、もし君が良ければだけどさ、ウボォーとパクの抜け番がまだ空いてる。興味があれば、メンバーになることも考えておいて欲しいな」

 

 その言葉は、すごくうれしい。けれど私にはまだ能力が足りない、そう思う。

 

「……団長さんが戻ってきたら、その時に考えます。私は彼の一番弟子ですから」

 

「なるほど、了解」

 

 

 私たちはバラバラになった二匹の死骸をそのままに、先に進むことにした。

 

 

 

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乱れ飛ぶ二十二の使徒(シューティング メジャー アルカナ)

 

・タロットカードの大アルカナ二十二枚を具現化する

・タロット一枚につき、一つの能力を付与することができる

・現在能力付与されているカードは『太陽』『世界』『死神』の三枚のみ

・能力を付与されたカードは一枚につき一日一回しか使えない

・現在のエイラのオーラ量では、全てのカードに能力を付与するのは不可能

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