二十二の使徒   作:海砂

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第四十話

 そのまままっすぐ進むと、他の敵に出会うことなくフェイタンさんとザザンの戦っている場所へとたどり着くことができた。

 兵隊蟻の数は、意外と少ないのかもしれない。

 私達より先に、フィンクスさんとボノレノフさんがここに到着していたようだった。

 

「どうだった?」

 

 シャルナークさんがボノレノフさんに尋ねる。

 

「楽勝、そっちは?」

 

「エイラがほとんどやってくれたよ。僕は何もしてない」

 

「なんだよ、一人だけラクしやがって。他はどうしてるかね」

 

 フィンクスさんがボヤく。

 観戦しながらそんなくだらないことを話しているうちにカルトちゃんがやってきた。

 フェイタンさんの戦いを見て呆然としているようだ、可愛いねぇ可愛いねぇ。

 やがて服がボロボロになったシズクさんもやってきて、この場に全員が揃った。

 

 私もゲレゲレを撫でながら観戦する。

 フェイタンさんとザザンのスピードは目では追えているけれど、実際に追いつくのはまだ無理だろうな。

 身体能力が足りない。

 前言撤回、カルトちゃんよりは目で追える分だけちょっぴり私の方が上かもしれない。

 とはいえ念能力を使えばその序列は簡単にひっくり返るだろうけれど。

 

 フェイタンさんの仕込み銃によって傷付けられたザザンが自分の尻尾を引きちぎり、変形する。

 オーラ量も格段に増えたし、見るからに硬そうだ。

 

「全身スキだらけ、これ見逃す程ワタシお人好しないね」

 

 フェイタンさんが硬で放った渾身の刃は、ザザンのオーラの前に折れる。

 見た目だけじゃなく、オーラも硬いな。

 そして体勢を崩したフェイタンさんにザザンが腕を振るう。

 辛うじてかわしたが、手のひらから小さな念弾が飛び出して絶状態のフェイタンさんの胸部に直撃した。

 

「オーラを"硬"で一点集中させたのにノーダメージってのはフェイタンの想定外……! 計算違いで念のガードが一瞬遅れてる。オーラの使いどころをよく知ってやがるな」

 

「伊達に女王を名乗ってないね」

 

 あれでザザンが放出系だったら、おそらくフェイタンさんはノックアウトだっただろう。

 まあ、その前に放出系だったらフェイタンさんの刃から身を守ることなんてできなかったかもしれない。

 私ならザザンに勝てるか?

 ……多分ムリだな。具現化系でも特質系でも、あの装甲を破るのは不可能だろう。

 可能性があるとすれば『太陽』による燃焼。それも現在の私程度の力で焼き殺すことはできない。

 なんだかんだ、私の知る限りフェイタンさんの能力が彼女との相性が一番いいのだ。

 

 以降はフェイタンさんとザザンの殴り合い。見るからに強化系っぽいザザンに分がある。

 一定は防いでいたフェイタンさんの左腕に一撃が加わる。

 

「イッたな、左腕」

 

 そして……フェイタンさんが、キレる。

 見たいカルトちゃんの気持ち、今ならとてもよくわかるけど、それも命あっての物種。

 

「ヤベェ、逃げるぞ」

 

 みんなして射程範囲外まで逃げた。

 

 

 すべてが終わった頃に、再び合流する。ザザンは消し炭になっていた。

 その先は一本道。広間のような場所へ続いていた。

 そこには、元流星街住人と思われる、変形生物が数十体。

 あるものは呆然と座り込み、あるものは柱に体を打ち付けている。

 

「やはり女王が死んでも体はもう元には戻らねェようだな」

 

「女王の支配からは解放されてるみたいだけどね」

 

 フィンクスさんが最初に気付いた。

 離れたところからこちらに寄って来る、獣のような一つの影。

 

「ゴ……ボ」

 

 彼もまた、住人の慣れの果て。

 

「ゴロシ……デ……ク……デ……」

 

 タノム……オレ達ヲ……

 

 徐々に他の住人達も近付いてくる。

 人でなくなった今、生きているのも辛い。

 精神まで半分侵されつつある、それでも人間として死のうとする住人達。

 

「いやだね」

 

 笑いながら、フィンクスさんが応える。

 

「慈善で殺しなんざまっぴらだ。かかって来いよ、クソ共」

 

 そして、腕を回し始め、腕がオーラを纏ってゆく。廻天(リッパー・サイクロトロン)の発動。

 

「おめーら、腐っても流星街(ココ)の住人だろうが!! 最期まで根性見せやがれ!!!」

 

 私たちもそれぞれに戦闘態勢を取る。

 私も二十一枚のカードを具現化した。

 獣のような元住人が、にやりと笑ったような気がした。

 

 派手に、逝けや……

 

 

 

 私たちは、流星街の中心部へと戻った。

 今度は議会で報復対象を本当の女王蟻の方にまで広げるかどうかで揉めているらしい。

 つくづく、馬鹿らしい。

 

「ったく、つきあいきれねェバカ共だな。テーブル囲んで出来もしねェことばっかピーチクパーチク囀りやがって」

 

「それでもここに残るんでしょ?」

 

 シズクさんがフィンクスさんに尋ねる。

 

「だって他にやることねーしよ」

 

 どうせやることがないのなら、天空闘技場に誘ってみようかな。

 でも上の方ならともかく二百階以下は馬鹿らしくてやってられなさそうだな。やめとこう。

 

「今度アリが来たらソッコー始末してやる。二度とあんな後味のワリー殺しはしねェ」

 

 その時、シャルナークさんのケータイが鳴った。

 

「団長か!?」「団長さん!?」

 

 フィンクスさんと私が同時に反応する。

 

「……いや、ノブナガだった。こっちの仕事手伝わないかってさ」

 

「ちっ、なんだよ。誰がやるかバーカ!!」

 

 そういや原作にもあったな、こんなシーン。反応してしまった自分がちょっと恥ずかしい。

 

「あーあ、ウゼェ。ただ待つ身はつれーな」

 

 さあ、皆のおちょくりがスタートするぞ。ワクワク。

 

「フィンクスてば、何か片思いの女のコみたい」

 

「乙女ちくね」

 

「なっ、なんだとテメェら、もっぺん言ってみろ!!」

 

 フィンクスさんはその辺に落ちてるガレキだのゴミだのを片っ端から拾い上げて二人に投げつける。

 原作と違い怪我をしていないシャルナークさんは負けじと投げ返していた。

 ああ、面白い。やっぱり旅団はこういった、わちゃわちゃとじゃれ合う展開が一番好き。

 私もその中に混じれている。それが何より一番うれしい。

 

「がぁう?」

 

 ゲレゲレが不思議そうに私の顔を見上げていた。

 私たちもここで少しゆっくりしていこうかね。

 ゲレゲレにとっては久しぶりの外。

 念能力者の私たちには、纏をしていればこの場所程度の毒ガスは効果がないのだ。

 そして猛獣もここではそう珍しくないらしく、一緒に歩いていても変な目で見られない。

 何でも飼いきれなくなった猛獣を捨てる人も意外といるらしい。

 ライオンやワニ、ゾウを飼っている人なんかもいるそうだ。

 意外と居心地がいい、流星街。

 私たちもリードを外して一緒に走り回ることにした。楽しいねぇ、嬉しいねぇ。

 

 

 旅団メンバーさんたちと別れ一週間ほど流星街中心部に滞在し、私たちは家へと戻った。

 七月末、青い空に太陽が照り付ける真夏の景色。

 一つ分かったことがある。

 ゲレゲレは、セミが好きだ。食べ物的な意味で。

 庭にセミがやってくると、何を差し置いてでも飛んで行って捕まえて頭から足まで残さずボリボリと食べる。

 セミは樹液を吸うから、甘いのかもしれないな。想像したくないけど。

 なのでゲレゲレは食事や水を飲むときを除き、ここ最近お天気の日はほとんど毎日を庭で暮らしている。

 セミの他にも、夏は虫が増える。他の生物も活発になる。

 ゲレゲレにとって、やっぱり外の方が居心地がいいようだ。

 ……ここに連れてきたのは間違いだったかも、そう思わなくもない。

 

「ゲレゲレ、カキンに戻る?」

 

「ぐみぃ!?」

 

 私に捨てられると思ったらしい、彼は全身で拒絶の意を示した。

 庭石にしがみついている。これはこれでけっこう可愛い。

 

「いや違うよ、捨てるわけじゃない。次の私の試合まで、カキンじゃないにしてもどこか自然の多い場所に行こうかなと思ってさ」

 

 その間お店は閉めることになる。期間限定ならまあ問題はないだろう。

 試合まではまだあと一か月強ある。久しぶりの山籠もり修行もいいかもしれない。

 ただし今度は準備を万端にして。スマホの充電池とか。

 日付を間違えでもしたら致命的だ。カレンダー持っていくかな。

 

「ぐるぅ」

 

 ゲレゲレは、どっちでもいいようだ。私の杞憂だったかな。

 まあ、何日か考えてみることにしよう。出来るならお店は続けたいからね。

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