二十二の使徒   作:海砂

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第四十一話

 山籠もりするかどうかをうだうだと悩んでるあいだに、原作は途中の展開を随分スッ飛ばしてしまったらしい。

 鳩がスコーンと私の額に突き刺さったのだ、おろろー。

 その鳩が持ってきたのは、第十三代会長総選挙の通知書。

 八月八日。

 ゲレゲレにはお留守番してもらって、ネテロ会長のお別れ会兼選挙に行くことにする。

 長くなりそうなので、出発前にペットシッターさんを雇っておいた。

 やることは、毎日ウチの庭に新鮮な豚の死骸を一頭丸ごと放り投げるだけ。時々鶏も。

 その際ゲレゲレには姿を現さないよう念を押しておいた。

 ビビられるのはよくないからね。途中でキャンセルされても困るし。

 もしそれで足りない時には冷凍庫の中のものを食べるように言い含めておいた。

 契約は私が帰宅するまでの間。恐らく一か月にも満たないだろうとは思う。

 お店はその間休業だ。

 スケッチブックに「しばらく休業します」と書いてテーブルの真ん中に立てて置いた。

 

 行かないという手もあったけど、私としては行く一択。

 それほどは危険もないだろうし、十二支んや、なによりジンをこの目で見てみたい。

 お会いしたことはなかったけれど、ネテロ会長にも会って話をしてみたかった。

 アルカとナニカにも特に触れない。あっちはあっちで何とかしてくれるだろう。

 シャルナークさんが来ていたら、伝え忘れていたことを伝えようかとも思っていたんだけど、彼は来ていなかった。

 正直、今の私の気分は単なる物見遊山だ。

 

 

 油断していたんだろうね。

 私は忘れていた……『十二支ん』が、どんな存在なのかということを。

 

「初めまして、あなたがエイラさんですね?」

 

「は、はい」

 

 献花と投票を終えた私の目の前にいるのは、貼り付けたスマイルがとてもよく似合う伊達男。

 パリストン=ヒル。

 ハンターにもなりたてで、大した活動もしていない私のことを知っているなんて予想外だった。

 

「第288期合格の新人ハンターであるにもかかわらず、キャンプタイガー飼育の成功、グリード・アイランドでの活動、A級首の集団である幻影旅団との共同行動……いやー、すごいですね、とても新人ハンターとは思えませんよ」

 

「私のこと、よくご存じですね」

 

「もちろん! おっと、天空闘技場でのご活躍も忘れちゃいけませんよね! 『戦う占い師さん』といえば、もはや世界中の格闘ファンを虜にする美人占い師なんですから!」

 

 パリストンが何を考えて私に接触してきたのか、さっぱりわからない……原作でチードルが彼に感じていた得体の知れなさ、それを今私は眼前にして全力で混乱している。

 そんな私の心中を知ってか知らずか、パリストンは笑顔のまま言葉を続けた。

 

「僕も占いには興味がありましてね、一度は占ってもらいたいものです!」

 

 とても本気とは思えない言葉を並べ立てる。だが私に対して興味を持っているというのは嘘でもないようだ。

 ……なんで? まさか本当に私が美人だからじゃないだろうし。そもそも美人じゃないし。

 なんか嫌な予感しかしないぞ……。

 私がそう思うほど、パリストンの笑顔はひたすらに不気味だった。

 

 思わず身構える。

 警戒する私を見て、パリストンはさらに笑みを深めた。

 そして、一歩距離を詰めてくる。

 反射的に、一歩下がる。

 

「嫌だなあ、怖がらないで下さいよ。別にとって食いやしませんし。選挙はもう終えたんでしょう? おそらく今回の投票は無効になるでしょうが、別に今後ボクに入れてほしいとも言いません」

 

 何故、私に接触してくる。

 幻影旅団が目的か? それなら私よりシャルナークさんに近付くだろう。

 彼の口ぶりからすると、特にそういうわけでもないようだった。

 マジでパリストンの目的が読めない。

 こいつは何なんだ。何を考えてるんだ。

 少なくとも、友好的な関係を築きたいと思ってはいないことは確かだけれど。

 パリストンは相変わらずの笑顔で、私との距離をまた一歩詰めた。

 私の背中が壁に当たる。これ以上は後ろに下がれそうもない。

 何か言おうとして口を開けば、その瞬間に喉元にナイフを突き立てられそうな気がした。

 そう感じていたのは私だけかもしれないが、そんな息苦しいほどの緊張感の中、パリストンは言った。

 

「ボクはですね、良し悪し強弱関係なく、全てのハンターそれぞれに影響力を持っていたいんですよ……それは単に、すごく面白そうだから。あなたの存在もまた、とても面白そう。ただそれだけなんですよ。もしご興味がおありなら協専ハンターへの登録もオススメしておきますよ、それじゃ」

 

 それだけを言うと、パリストンは踵を返して去っていった。

 ……なんだったんだ、あれ。この世界に来て今までで一番緊張したかもしれない。

 ある意味、ヒソカと同類の変態だな。私の中ではそう結論づいた。

 自分の興味やシュミの為には他者を玩具にすることを屁とも思わない人種。

 他の十二支んは、きっともっとまともな人たちだろう。

 投票の時に見たカンザイやギンタ、ピヨンにこんな不気味さや底の知れない嫌悪感は覚えなかった。

 ……背中を、一筋の冷や汗が流れ落ちた。

 

 

 第一回の選挙は条件不達成により、再投票が決定された。

 再投票は数日中に行われる予定だ。私はその間、この街にホテルを取ることにした。

 選挙は繰り返すけれどそう長くは続かない。

 パリストンが十二支んの直接の演説を提案するから。私はそれを知っている。

 選挙の結果をひっくり返そうとは思わないし、できるとも思えない。

 私にできるのはただ自分の一票を誰かに入れることだけ。

 パリストンだけはありえない。今日、私はそれを実感した。

 あ、ヒソカもありえないです。快楽殺人鬼いくない。

 旅団とお近づきになっている私が言えた義理じゃないか。

 

 ホテルを出て、適当な居酒屋に入る。

 ホテルにもレストランはあるし、ハンター協会が本拠地を構えているだけあってとても栄えている街なので、飲食店には困らない。

 メニューを見たけれどよくわからないので、適当にお任せで注文した。それと、ビール。

 未成年なんじゃないかって? オレの国は十六からアルコールOKだぞ(嘘)

 私に呑ませてくれる父もいたので問題はない。ビールおいしいれす。

 テーブルに届いたのは十本ほどの焼き鳥と軟骨のフライ南蛮漬け風、それにピクルスの盛り合わせ。アテにぴったり❤

 私は美味しくそれらをいただき、ビールも三杯ほど飲んだ。はー満足。

 豚バラでも焼き鳥っていうのはなんでなんだろね? まあいいか。

 

 そしてホテルに戻る。部屋はシングル、小さなデスクに鏡とテレビが備え付けてある程度の狭くてシンプルな部屋だ。

 小さな冷蔵庫も設備にあったので、酒を含む飲み物をいくらか購入して持ち込んでいた。

 ゲレゲレが一緒なわけじゃないし、私にはこの程度で充分。

 窓からは街が一望できる。ハンター協会の建物もここから見える。

 特に問題が起こることもなく、私は次の選挙の日を待った。

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