二十二の使徒   作:海砂

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第四十七話

 私は左胸の上部中央よりの位置に刺青(タトゥー)を入れた。

 心臓に最も近く、人に見せるにもそこまで面倒ではない位置。

 ナンバーナイン。今度こそ、パクノダさんの遺志を継ぐ。

 

 旅団のメンバーさんたちに伝えに行った。

 着ていたTシャツの胸元を広げて左胸を少し見せる。

 そこには五センチほどの、九の数字を抱え込んだ蜘蛛の刺青。

 誰も驚くことはなかった。

 

「ようこそ、旅団へ」

 

「逆に今更って気もするな、結構一緒にいたからなオレら」

 

「エイラはこの街に家を持ってるんだろ? あたしは今日からそこに泊めてもらうよ。……今日からエイラも旅団のメンバーだ、単独行動は許されない」

 

 私もそこはどうしようかと思っていたが、マチさんが先に名乗り出てくれた。

 

「何でお前なんだよ、別に他の人間でもいいだろ」

 

「お前はバカか。女一人の家にヤローなんか泊められるわけないだろ。必然的にあたしかシズクの二択になるんだよ」

 

「あ、じゃあ私もそっちに泊まろうかな」

 

「是非そうしてください、なんか女子会みたいで楽しそうです」

 

 キャッキャしている女子三人を横目に、フィンクスさんがふてくされている。

 

「あーあーあー、どうせオレらは信用ならないよ。いいさ、オレたちもこっちで野郎だけの男子会しよーぜ」

 

「フィンクス、それ自分で言っててむなしくならない?」

 

 シャルナークさんのツッコミが冴えわたる。

 

「ゲレゲレ用に買った牛肉からとったフィレ肉があるからそれを焼いて、私用にフォアグラもいくつか冷凍してあるんで、それで豪勢にディナーしましょう!」

 

「いいね、野菜はある? ニンジンとジャガイモ、それにインゲンでもあればあたしが付け合わせを作るよ」

 

「あ、ニンジンは切らしてますね、バターも残り少ないです。じゃあ帰りに買っていきましょう」

 

「みんなでお買い物、スーパーでも楽しそうだよね」

 

「酒も忘れないようにしないとね。そのメニューならワインかな」

 

 女子三人キャッキャ。すごく楽しい。

 

「おい、オレたちもビール買いに行くぞ」

 

 フィンクスさんが負けじとメンツを集めに走り、皆から呆れられている。

 

「フィンクスさん、この闘技場は露店の飲食が充実してますから各フロアを巡るのも楽しいと思いますよ、もちろんビールも売ってます」

 

「おっ、そいつはなによりだ」

 

 ようやくフィンクスさんの機嫌も直ったようだ。

 

「じゃあ、私は一旦自分の店に戻ります」

 

「あたしも行くよ。単独行動禁止」

 

 え、でも人を占ってるのを見るだけって……つまらなくないかな。

 それに、お客さんの中には自分の相談事を聞かれたくない人もいるだろう。

 

「アンタの弟子の占い師で勉強させてるとでもいえばいいさ。もちろん口は挟まないし、興味はないこともない。アンタが他人にどんな占いをするのかってのがね」

 

 マチさんが構わないのであれば私に断る理由はない。

 私たちは連れ立って、二百階ロビーへと向かった。

 

 

 行列が、天空闘技場を一周している。

 最後尾の人が『戦う占い師さん最後尾はこちら』と書かれてある看板を持っている、誰だあんなの作ったのは。

『ただいま休業中』って書いて出してるのに、何でこんなことになるんだろう。

 

「それだけアンタの占いかアンタ自身が人気なんだってことだろうね、『戦う占い師さん』」

 

 笑いを含んだ口調で、そんなことを言われる。

 二つ名って、何でこう、こんなに恥ずかしいんだろう。

 黒歴史をほじくり返されてるみたいな。

 本人の前ではその名前で呼ばないでもらいたい、切にそう願う。

 

 行列を辿って、店にたどり着く。

 その最前列に居たのは、私たちがよく知る人物だった。

 

「やあ❤」

 

「何でアンタがここに居るんだバカピエロ」

 

 最前列に居たのは、ヒソカだった。

 

「やだなぁ、そんなにつれなくしないでよ♣ 今流行の『戦う占い師さん』に占ってもらいに来ただけだよ、他意はない♦」

 

 そして彼は、私を見る。

 

「エイラ……だったよね、たしか? あれから二百階クラスで勝てるレベルにまでなるなんて、だいぶ修行したんだろうね♦」

 

「修行はしましたね。さあ、後ろに待っている人も多いことですし、さっさと占いましょうか。ヒソカさんは何を占いたいですか?」

 

「そうだね、次に戦う相手との勝敗……かな♠ 念願だったからねえ♥」

 

 次の試合、すなわち、団長さんとの戦い。

 

「わかりました」

 

 私はTシャツの上から、占い師用の衣装を羽織る。

 サテンで作ったマント。

 それと、ウィンプルやヒジャブのような形の、頭からかぶるベールのような半透明の布。

 その上からシンプルなティアラみたいな頭飾りをつけて布を固定する。

 これで、準備完了。

 テーブルの上にシャッフルしたカードを広げる。

 

「……じゃあ、この中から一枚のカードを引いてください」

 

 奇術師が一枚を選び、私が伝える間もなくそれを開いた。

 

「これは……『愚者』の逆位置だね♣ エイラ、キミはこれをどう解釈する?」

 

「愚行、気まぐれ、独りよがり。愚者は正逆ともに楽観的な状態を意味します。あなたは団長と戦うにあたって、非常に、楽観的。ただしそれは、とても独りよがり」

 

 ヒソカのニヤケ顔が気持ち悪い、早くこの占いを終わらせたい。

 

「うーん、当たってるねえ❤ それで、戦いの行方はどうなる?」

 

「愚行。あなたに勝ちの目は一つもありません」

 

 ニヤケ顔がさらに笑みを増す。

 

「なるほどなるほど……それは、団長を信頼するキミ自身の言葉なのか、それとも」

 

「馬鹿にしないでください。お金をいただいている以上私はプロフェッショナル。占いに出たことをそのまま口に出しているだけです」

 

 占いに関して嘘は言わない。それが私のプライドであり誇り。

 そこを曲げてしまったら、私は私ではなくなる。

 

「わかったよ、そこは信じよう♣ キミの占いには、団長が勝つと出ているんだね♦」

 

「正確には『あなたの愚行による敗北』です。団長に喧嘩を売ること自体が、あなたの愚行」

 

「うーん、なるほど♦ よくわかったよ、ありがとう❤」

 

 すぐにヒソカは席を立った。

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

「なに?」

 

「……最前列に並んでいた人はどうなりました?」

 

「快く譲ってもらったよ❤ ボクの顔を知ってたみたいでね❤」

 

「……会場外での殺しは、店の存続に関わりますから。そうじゃなくてよかったです、それでは」

 

 私は視線でヒソカを追い払う。彼も素直にそれに従った。

 二人目。三人目。マチさんはじっと私の占いを聞いていた。

 そして午後五時を迎える。

 

「マチさん、手伝ってください。この紙に番号と今日の日付を記入していきます」

 

 私の印はすでに押してある紙切れ。それに手分けして数字と日付を記入していった。

 本日の、占えなかったお客様、三百八名。

 ……そろそろ、また値上げを考えた方がいいかもしれない。

 値上げをすれば、客は減る。

 でも最近は、多少値上げしたくらいじゃ客は減らなくなってきている気がする。

 飲食店なんかと違ってフランチャイズってわけにもいかない。

 店の、閉じ時かもしれないな。

 以降はオンラインでのみ受け付ける。

 費用も一億とまではいかないにしてもそれなりに値上げして。

 

 私はテーブル隅に置いてあるスケッチブックを手に取り、マジックでこう書いた。

 

『ただいま時間外 なお当店は、十月一杯を持って、閉店させていただきます』

 

 そして次のページにはこう書いた。

 

『一回一万ジェニー なお当店は、十月一杯をもって、閉店させていただきます』

 

 そのスケッチブックを中央に据えて、私たちはシズクさんを迎えに行った。

 そして合流し、買い物をしてから家へと向かう。

 

 ゲレゲレの堅での突撃(おかえり)が、今日は私ではなくシズクさんに向かった。

 久しぶりだもんね。そりゃ私よりシズクさんに向かうよね。

 いや別に、すねてなんかないですから!

 

 そしてみんなで料理して、みんなで食べて飲んで、みんなで就寝。

 使う予定のなかった寝具にも出番が来てよかったよかった。

 楽しいひと時。そう長くは続かないことがわかっていても。

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