二十二の使徒   作:海砂

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第五十話

 第五層と第四層は、雲泥の差だった。

 第五層はスラムに近かった。

 眠る場所もなく床に座り込んでいる人、石のようなカンパンをかじり続けている人。

 喧嘩も日常茶飯事。殺し合いも日常茶飯事。

 それをシャ=ア一家が、()()()()()()()()()()()()()()まとめているような状況。

 密航だったりあるいは莫大な借金・自分の内臓を質に入れたりして新大陸に最後の夢を見た人間たちの吹き溜まり。

 第四層は割と平穏。ただしそれは第五層と比べての話。

 人類の標準に比べればまだ少し下だろう。

 それでも最低限の衣・食には困っていないようだった。

 これはおそらく各フロアを束ねている一家にも関連してくる。

 第五層は主にエンジンルームと倉庫。よってシャ=ア一家は物資の融通が主な収入源となる。

 第四層を束ねているシュウ=ウ一家は第三層と第五層の両方と取引をしている。

 それは物資であったり、人材であったり、その両方であったり。

 それゆえ物資は割と豊富。金さえ払えばいいものも食える。

 おそらく面積的にもこの第四層が一番広い。

 それゆえ多人数がここに居る。人材となる人間も。

 第三層以下はわりと行き来が緩い制限であるために、このような形になるのかもしれない。

 それに、シュウ=ウ一家のケツモチであるチョウライ王子、彼は三つの一家のケツモチの中では表向き最も人道的だと言えるだろう。

 その考えが、意識的無意識的に、あるいは忖度的な意味で、シュウ=ウ一家の中にも入り込んでいるのかもしれない。

 まだ私たちは行ってはいないが、第三層はエイ=イ一家が仕切っている。

 原作で出てきたあの組長。とても私によく似ている。

 違った。()()()によく似ていた。

『私は私も含めてこの世の全てがどうでもいい』

 私には彼女(?)のようなカリスマはないから、ついて来る人間はいなかったけれど、考え方は確かに似ていた。

 この糞溜めみたいな世界を壊すために、頑張ろうとした。

 私の均衡(バランス)を保ってくれたのはタロットカード。彼女の場合は顔の傷。

 そして私は幸運にも、幻影旅団に出会うことができた。

 彼女はまだ、それに出会っていない。故に壊そうとする、なんとなくで。

 会ったこともない彼女に、わずかな親近感と決定的な差異を感じていた。

 

 私とマチさんとゲレゲレは階段を上る。第三層へ向かって。

 その途中で国王軍の兵士ともすれ違う。

 まだ準戒厳令にはなっていないようだった。特にチケットやIDの確認もされたりはしない。

 

「いったん休憩にしようか。このフロアに食堂があるらしい」

 

 別にそれほど疲れてはいないけれど、マチさんのすすめで食堂へと向かう。

 カウンターに一万ジェニー札を数枚出して、三食分(一食分は肉のみ味付け無し)を手に入れた。

 

「……あんた、一体いくら持ってきたのさ」

 

「多分電子マネーや振り込みは使えないと思ったので、それなりに。バッグの中、見ます?」

 

「いや、別にいい」

 

 私が持っていてもおかしくない程度。すなわち、ボストンバッグ一杯の紙幣。

 いくらになるかは私も数えていない。

 何もせずに済むのなら、お金で済むのならそれが一番いい。

 

「ゲレゲレ、ごはん足りる?」

 

「がぁう!」

 

 とりあえず足りるそうだ。……だんだん理解できて来たな、キャンプタイガー語。

 浅い紙皿に水を少しわけてもらう。ここでは水も有料、当然だ。

 猫には水がとても大事。泌尿器の病気にでもなったらお金が湯水のごとく流れていくからね。

 キャンプタイガーの治療なんて、それこそおいくら万円かかるか見当もつかない。

 ついでにペットボトルの水を追加で二本購入した。私とゲレゲレの分と、マチさんの分。

 中身はただの水道水。船ではそれも貴重な資源だ。

 

「あたしはいいよ」

 

「まあ、そう言わず。飲み食いは出来るときにしておかないと。今必要なくても後で喉が渇いたときにでも飲んでください」

 

 私のボストンの中身を見た輩に絡まれたりもしたけれど、何も問題はない。

 大事になる前に二人で片づけた。

 シュウ=ウ一家に付け入るスキを与えない、それも、重要なこと。

 

 私たちは階段を上る。特に何事も起こらない。

 大きな爆発でもあれば、団長さんや他のメンバーがヒソカと遭遇したかもしれないと考える。

 あるいは王位継承戦においての何かしら重要な出来事。

 ……それは、ないか。国王軍がまだ警戒していない。

 ということはおそらくまだ私の知っている原作の最後の、ほんの少し手前。

 これまで歩いて見た限り、下層に兵士はほとんどいない。

 

 考えながら階段を上っているとすぐに第四層の最上部に到達した気がした。

 入り口は第五層と第四層の間と同じ、正規と非正規の二つ。

 私は迷わず()()の入り口へと向かう。

 

「ちょっと?」

 

 マチさんの静止を意に介せず、私は交渉を開始した。

 

「第三層に行きたいのですが、IDとチケットはおいくらですか?」

 

「何を言っている。第三層のチケットを持たないものはここを通ることはできない!」

 

「はい。()()()聞いています。私たち二人と、この子が一匹。()()()()()()()?」

 

 カキンは、杜撰。裏金も横行する。

 私が欲しいのは通行手形ではない。そこに滞在するための手形。

 

「……耳を貸せ」

 

 言われるとおりに耳を貸す。耳打ちされた金額をボストンから取り出し、兵士に手渡す。

 私の分とマチさんの分の、チケットとIDがその場で発行された。

 

 

「……で、なんでわざわざ正規のチケットなんか手に入れたんだい? 別に非正規でも構わないだろうに」

 

 マチさんの分のチケット兼IDカードを手渡す。

 

「もうすぐ事件が起きます。最初は、小さな小さな火種。それが徐々に大きくなっていく。それによって乗っている国王軍とハンター協会が警戒する。私たちが安全に揉めることなく第三層にとどまるためには、IDとチケットは必須です」

 

 それも占いか? なんて無粋な質問は今更マチさんもしない。

 通れることには変わりない。黙認。

 私とマチさんとゲレゲレは、堂々とゲートを通過した。

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